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【15000PV感謝!】楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
Interlude Ⅲ

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4-22 問いかけと不安

 静也(せいや)能徒(のと)と出かけて月乃(つきの)が家に一人になった。

 念のためにと静也は月乃に合鍵を渡していたために月乃は静也が戻るまでは出かけようと家にいようと自由である。

 それにより一旦自分の家に帰った月乃はペット達に餌をあげてから買い物に出て夕食の買い出しを済ませたのだった。


 ということで再び静也の家に戻ってきた月乃は軽く掃除をして久しぶりに何もない休日を過ごしていた。

 そこでふと静也の部屋の掃除をしていないことを思い出して向かうと、一緒に寝ていたベッドを直したり静也が着ていた寝間着を整え、最後に掃除機をかけた。


「よし」


 全部終わった。そう思って部屋を出ようとした時に月乃の頭にあることが過った。


「静也の寝間着……」


 月乃はさっき整えたばかりの静也の寝間着を取ると、自分の服を脱いでそれに着替えた。素肌にそのまま伝わる服の感じと全身のいたるところから香る静也の匂いを感じたのだった。

 今なら静也が自分の匂いがいい匂いだと言う気持ちが分かる。そう思った月乃はそのままベッドの中に入り、静也が使っていた枕に顔を埋めた。


「……いい匂い。この匂い、好き」


 一緒に寝ている時に感じるものとはまた違った匂いに月乃はうっとりとし、顔や全身に静也の匂いを染みこませるように枕を抱いたり寝間着に体を擦り付けた。また、毛布の中にくるまって熟成された静也の匂いに包まれた。


 こんなこと誰も出来ないし、絶対にさせない。自分だけの特権なんだと思って身も心も静也の香りに包まれたのだった。

 その時だった。月乃のスマホがバイブした。その画面を開くと静也からで、家に戻るとのことだった。


「今日はここまでだね」


 しぶしぶその中から出た月乃は今一度ベッドを整え、寝間着から着替えて整えた。それから自分の寝間着を整えていると、そこで念のためにとその匂いを嗅いでみたのだった。


「うーん……分からない」


 やはり静也はこの匂いの何がいいのか分からなかった。だから月乃は首を傾げながら静也の寝間着の隣に置いたのだった。それで口元をにこっとさせたのだった。


***


「どうだった?」


 能徒に連れられて戻ってきた静也とリビングのソファーに座った途端に問いかける月乃。

 ちなみに家まで送り届けた能徒は役目を終えて帰っていった。


「なんかこう……大変な仕事だったんだなって思ったよ」

「それだけ?」

「月乃が行きたがらない理由とかみんなのトラウマになっている理由も分かったよ。あれは人によってはキツイよな」

「その感じだと、静也は全部見たんだね」

「うん。アスファルトにするところまでちゃんと。あれが能徒の仕事だし、俺らの後始末をちゃんとやってくれている工程は把握しておくのも大事だと思って全部見せてもらったよ」

「そう。静也は平気?」


 その()()の意味はトラウマになっていないかという意味である。

 それを察した静也は


「大丈夫だよ。色々と勉強になったし。それでもどうしてあそこまでするのかは聞けなかったけどな」

「そっか。ちなみに理由は完全な消滅を図るためだよ」

「それは聞いたんだけど、別にそのまま山に埋めたりそれこそコンクリに詰めて海やら土に埋めるでもいいと思ったんだよな」

「それは私も聞いたよ。答えとしては駄目なんだって」

「どうして?」

「まずそのまま埋めると野生動物が掘り起こしたりして見つかる可能性があるからだって。で、コンクリに詰めると、そのコンクリが見つかったってなったら破壊されて中身が出たりとか、死体から出たガスでコンクリ自体にヒビが入るからバレるんだって」

「破壊は分かるけど、ヒビ程度で分かるのか?」

「うん、そうらしい。私も実際に見たことはないんだけど、そのヒビの入り方が独特みたいで見る人が見たら一瞬で気付くみたい。だからそういう隠蔽をしているのは素人なんだって」

「へぇ。漫画やアニメとは違うんだな」

「うん。()()はそうやって巧妙に消すんだよ」


 傍から見たら恐ろしい会話をしている二人。でも静也はまた一つ勉強になったと思って感心していた。


「それで、他にはどこか寄ってきたの?」

「ファミレスに寄ったよ。それでハンバーグ食べた」

「あれを見た後でよく食べれたね」

「それは能徒にも言われた。なんか俺は大丈夫みたいなんだ。それこそ、あれはあれ、これはこれみたいに無意識に区別出来ているみたいなんだよね」

「にしてもハンバーグって。あの悟利(さとり)でもそれはすぐに食べる気にならないよ」

「でも能徒も食べてたぞ、サンドイッチ」

「肉は入ってないやつでしょ?」

「うん」

「それが普通なんだよ。静也は特殊なのかもね。でもユッケじゃないだけマシかな」

「まぁ、それはな」


 とはいえハンバーグって。きっと誰も食べられないし、自分でも食べる気にはなれない。だってあのミンチになる工程を見たのだから。

 そう思った月乃は、それとは別に気にかけていたことを問いかけた。


「能徒()()平気だった?」

「うん。問題なかったよ。途中で滑って落ちそうになってたけどどうにか支えたし」

「そういうことじゃなくて」

「どういうこと?」


 本来、能徒の様子を訊ねる場合の質問は『能徒()大丈夫だった?』である。しかしさっきの問いかけは異なっており、その真意は


「能徒とは何か変わったことはなかった?」


 という意味になる。その意味を理解出来なかったがゆえに真っ直ぐに問うしかなくなった月乃は不安に感じている様子をどうにか隠した。

 もちろん静也はそんなことにも気付いていないので


「特に何もないよ。さっき言ったみたいに落ちそうになったけど助けたし、それ以外でも淡々と仕事を説明しながらちゃんとやってたし。ファミレスでも普通に食事をしていたし」


 と平然と答えた。

 そうじゃないんだけどなぁ。そう思う月乃だったが、これ以上の深追いがやめておいた方がいいと思って追加で聞かなかった。


「そっか。何にしても無事に帰ってこれて良かった」

「一歩間違えたら自分もアスファルトの仲間入りだからな。でもさ、今後もしも大量の死体を処理するってなったら、能徒一人だと大変そうだからその時は俺が手伝うようにするよ」

「その時はみんなで相談だね。静也だけに負担はかけられないよ」


 月乃は口元をにこっとさせた。

 一見するとその言葉通りの気遣いにも感じられるが、実際のところは能徒と二人きりにさせる時間を増やしたくないのだ。だからもし今後そんなことがあったり、もしくは頻発した場合は女子会にて予め誰が付き添いで行くかを審議する必要があると思ったのだった。


「そっか。心配してくれてありがとうな」

「いいんだよ。静也も大変だからね」

「別に大変じゃないよ。今回は俺が行きたいって頼んだだけだし。むしろ能徒のほうが大変なんじゃないかな。俺達の後処理を毎回やってくれているわけだし、その度に危険な目とかグロテスクなものを見ているわけだし」

「実際そうだね。でもあそこまで完璧に出来て耐性がある人はそうそういないから仕方ないと言えば仕方ないんだよね」

「なら、これからは俺が手伝おうか。死体が多い時は二人でやれば―」

「それは駄目だよ」


 と静也の言葉を遮った月乃。

 それに少し驚いた顔になった静也を見た月乃は、思わずはっとしてしまった。そしてすぐに平静を装ううように口元をにこっとして見せた。しかし晴れない静也の疑問の空気感が月乃の口を開かせた。


「えっと……その、ね。あれは能徒の仕事だから取ったら駄目だよ」

「でも現に今日は危なかったし、二人いれば何かあった時に助けられるだろ? 仕事は取らないにしてもさ」

「そうなんだけど、静也は駄目だよ。狩人(かぶと)ならいいよ」

「入口の鍵が開けられるから?」

「そう。静也は出来ないでしょ? だから下手したら死んじゃうよ?」

「なら金錠(きんじょう)か能徒に頼んで認証を追加してもらうよ。もしくはその度にどっちかに開けてもらうから大丈夫だよ」

「でも静也は……」


 月乃は黙って俯いてしまった。

 完全に言い訳を失ってしまった月乃はどうしようかと悩んでしまった。それでそれ以上に考えるよりも前に行動に出ていた。それは


「月乃?」


 静也に抱き付いたのだった。それで顔を胸に埋めて


「静也は駄目」


 と言ったのだった。その様子はまるで子供が親に縋り付いているというか、どこにも行かないでと言っているかのようだった。また、それは静也が頷かない限り絶対に離さないという雰囲気が滲み出していた。


「……分かったよ。確かに危険だもんな。毎回は行かないよ。でも、能徒が本当に困るようだったら行っていいか?」


 その問いに月乃は少し考えた。もちろん静也の胸に顔を埋めたまま。それで考えがまとまると


「本当にそんなことがあったらね。でも頻繁には駄目」


 と言って抱き付く力を強くしたのだった。


「分かった。心配してくれてありがとうな」

「うん」


 静也は自分の安全を心配してくれているのだと思って完全に勘違いをしている。それを月乃は理解していた。でも今は何でもいいから能徒と二人きりになる機会を増やしてはならない。そう思ったのだった。

 静也はそんな勘違いをしたまま月乃の頭を優しく撫でたのだった。


「静也は絶対に渡さない……」

「何か言った?」

「何でもないよ」


 月乃は確固たる決意のもとしがみつくようにして抱き付き続けたのだった。

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