4-21 消滅処理の完了
死体の処理に来ている静也と能徒は地下での工程を終えて地上階に戻ってきた。
「能徒様。こちらの準備は整っています。いつでもどうぞ」
セブンスターズのメイドである彼女に様という敬称を付けた作業服の男が何かの完了を告げた。また、その男の後ろには同じく作業着の男が数人立っており、能徒の次の言葉を待っている様子だった。
「ありがとうございます。皆さんに紹介します。私の隣にいらっしゃるこちらの方は無波静也様です。私がお仕えするセブンスターズの一員です。無波様、こちらの方々はみな陰陽院専属の職人さん達で、ここであるものを作っています。ですので私達やGreedのことは全てご存じです」
と能徒が双方を紹介したところでお互いに軽く自己紹介をした。
それが済むと、さらに奥からアラームのような音が響いた。
「到着したようです。では行きましょう。皆様は機械の最終確認と終わり次第すぐに清掃が出来るように準備をお願いします」
そうして静也は能徒に案内されてアラームが鳴った場所へ向かい、職人達はそれぞれで準備や確認に入ったのだった。
「無波様。この先にあるのは原型を無くしたミンチです。今一度確認ですが、見られますか?」
「見る。俺は能徒の仕事を全部見ると決めて来たからな」
「分かりました。ではあらためてご案内します」
それから辿り着いた場所にあったのは地下で微塵になった死体のミンチだった。それは特殊な容器に収まっており、静かに冷たく置かれていた。
それを台車に乗せて運び始める能徒。こればかりはと静也が申し出た運ぶ役目を譲らなかった。万が一手や服が汚れてしまったら申し訳がないからである。
ゴロゴロと転がして進んで行くと、何かをコンベアで上に運んでいる機械の前で止まった。
「お疲れ様でした。あとはこれをこの中に入れて終了です」
「これは何を上に運んでるんだ?」
「高温で熱せられて溶けたアスファルトです。これに入れると中で撹拌されて何もかもが溶けて無くなります」
「でもアスファルトってことは街の道とかに使われるんだよな? それこそ万が一DNA情報が出てきたらまずいんじゃないのか?」
「はい。しかし、これに関してはその万が一すらないのです。生物のDNAや個人を特定する情報は超高温かつ化学物質との混合により完全に消滅します。ましてや地下であそこまでミンチにしたのです。本当に何も残りません。それに、このアスファルトは国内の多くの場所で使われます。各地のアスファルト全てを検査するのは至難の業であり、途方もない時間と労力が発生します。そんなことは誰もやりません。ですので、このような工程を踏んで死体を処理すると絶対にバレない死体の隠蔽が出来るのです」
「説得力は強いけど、えげつないことをやってんだな」
「全ては皆様の未来を安泰させ、何不自由なく生活が出来るようにするためです。これはメイドとして当然の仕事です。―そろそろ入れましょう。アスファルトの熱も十分ですので」
ということで能徒が台車をそのまま傾けて容器ごと中へ滑り込ませるようにして入れた。だが―
「あ」
その重さに体のバランスをとられて能徒自身もその入れる穴に引っ張られてしまった。それをいち早く察知した静也が
「危ない」
「あっ」
能徒の腕を掴んで自分のところへ引き寄せると、まるで後ろから抱きしめるような体勢で能徒を助けた。
二人の目線の先ではさっきの容器が灼熱と独特な臭いを纏ったアスファルトに吸い込まれていって容赦なく混ぜ合わされては運ばれていっていた。それにより、さっきまで確認出来た赤黒いミンチは視認出来なくなってしまった。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
静也は片手を能徒の腕、もう片方を腹に置いて支えていた。また、否応なしに密着したために静也の声が近くなり、それを耳元で聞いた能徒はびくりと反応した。だがどうにか平静を装ってお礼を言ったのだった。
そこから数歩後ろにさがって距離を取ったところで静也が手を離した。
「急に引っ張って悪かったな。痛くなかったか?」
「はい、大丈夫です。助けがなければ死んでいました。ありがとうございました。あとその……引っ張っていただいた時、重くなかったですか?」
「軽かった。ちゃんと食べてるか?ってくらい軽かった」
「そうですか」
能徒は女として安心した。また、腹に手を当てられた時にこの時ばかりは無駄な肉がなくて本当に良かったと安堵したのだった。
「ではこれにて終了です。見ていて良い気分のものではなかったと思いますが、私の仕事はご理解いただけたでしょうか」
「十分。それこそ下手したら自分も死ぬってくらい大変だって分かったよ。いつもありがとうな、能徒」
「い、いえ。当然のことですので。……ですが、その一つだけお願いをしてもいいでしょうか?」
「俺が出来ることなら」
すると能徒は少しだけ迷ったような顔になって俯き、少ししてまるでねだるような目で静也を見た。
「……頭を撫でてもらえますか?」
「そんなのでいいのか?」
「はい。是非」
ということで静也はその頭を優しく撫でてやったのだった。その間、能徒はとても幸せそうにじっとしていた。
本当は抱きしめてもらいながら頭を撫でてほしい。そう言おうと思っていた。でもそれは変な目で見られる可能性があるからとしぶしぶ遠慮したのだった。
「そんなに心地いいのか?」
「はい。落ち着きます」
「そうか。なら、もしも何かしてくれた時とか疲れてる時はしてやるよ」
「それは申し訳ないです。今日のこれだけで十分です」
「メイドにも労いは必要だろ? してほしい時はいつでも言っていいからな?」
「……はい。ありがとうございます」
またしてほしいからもっと頑張ろう。そう思った能徒だった。
するとそこに職人の人の足音が遠くから響いたため能徒はいつもの様子に戻って静也の手を取って撫でるのを中止させた。直後にはその職人が二人のところにやってきた。
「こちらは完了しました。アスファルトは発送の準備まで整えましたので、明日どこかの街の道路に撒かれます。重機の清掃も終わっておりますので、一切の証拠は残っておりません」
「ありがとうございます。では、私達は帰りますので、またよろしくお願いします」
「はい。いつもご贔屓にありがとうございます」
ということで深々と頭を下げた職人が去って行ったので二人も工場から出たのだった。
***
「お連れした私が言うのもあれですが、あの後でよくハンバーグを食べられますね」
「ん? これはこれ。あれはあれだからな」
能徒は月乃から食事までは許されていたので静也と一緒にファミレスに来ていた。
行きに送迎をお願いしていたタクシーに関してはこのファミレスまでということにして先に引き上げてもらったのである。
いつもはみんなの世話をするために気配りを忘れない能徒だが、今回は静也が普通に食事を一緒にしてほしいとのことなのでいつもよりは控えめにしていた。
対面に座った能徒は静也の注文したものを見て静かに驚いていた。普通ならあれの後に肉を食べたいなんて思わないからだ。現にセブンスターズの他の面々、あの悟利でさえも数日肉が食べられなかったほどだ。
ちなみに能徒は野菜のサンドイッチである。
周囲には他の一般人や店員もいるため言葉を選んで会話をしている二人。
するとそこで静也がふと思ったことを言った。
「最初に会った時よりも仕草とか言葉遣いが大分柔らかくなったな」
「そうでしょうか?」
「うん。当時はよりかしこまっているというか、壁を作って他人行儀すぎたからな。でも今は距離が近いって感じで仲間になったんだって実感出来るよ。あとはそうだな、呼び方くらいだな」
「敬称は外せません。私は皆様のメイドですので」
「そこじゃなくて、まぁ別に敬称はいらないって思うけどさ。俺が言ってるのは苗字呼びのところだよ。金錠は別として能徒以外はみんな名前だろ? だから能徒もそれでいいのにって思うんだよね」
「なぜ金錠様は別なのでしょう」
「男に名前呼びされるのはなんか気持ち悪い。小学生とかその頃から名前呼びならまだしも、高校に入ってから会ったのに名前呼びされるのはちょっとなって思うんだ。金錠に対して壁を作っているわけじゃないんだけど、金錠からそう呼ばれるのは想像出来ないというか、何とも言えない寒気が走るんだ」
「そういうものでしょうか」
「そうなんだよ。だから金錠は別だ。能徒も気にせず名前で呼んでいいぞ。なんなら様も何も付けなくていいし」
「様は付けます」
「それは譲れないのね」
すると能徒が少しだけ考えた素振りを見せた。そして少ししてから若干緊張しているのか、目を泳がせて頬も赤くして口を開いた。
「……では、静也様でどうでしょうか」
「もちろんいいぞ。より仲間って感じになったな。これからはその呼び方で頼むな」
「はい。その…静也様」
伏目がちにそう言った能徒は照れながら言った。
すると静也は今まで苗字呼びの敬称付きから距離感を近くしてくれたお礼に頭を撫でてやったのだった。
「静也様……静也様…か……」
小声で嬉しそうに言う能徒。もちろんその声は静也には聞こえていなかった。




