4-20 完璧な隠蔽工作
「お疲れ様でした。到着です。お荷物を運ぶのをお手伝いしましょう」
静也と能徒がタクシーで揺られること数十分。到着したのは人気のない路地に佇んだこじんまりとした工場だった。
そこからは煙突が伸びてもくもくと煙を出していた。
二人がタクシーから降りると、運転手が後ろのトランクを開けて大きなスーツケースを外に出した。
「ありがとうございます。あとはこちらでやりますので、いつもの所でお待ちください」
「はい。ではまた後ほど」
運転手が能徒に深々と頭を下げると、タクシーで路地の中に消えた。
「では行きましょう」
「あぁ。なんか想像出来た。つまりあれだろ? ゴミと一緒に捨てるんだろ?」
今日二人がここにやってきたのは、先日の生徒総会でGreedと化したある教師の死体を処理するためだった。
静也は目の前の工場を目にしてそう言ったが、能徒はいいえと答えた。
「捨てるのではありません。混ぜるのです」
「ゴミと?」
「いえ。まぁ、実際にご覧になったほうがご理解出来ると思いますので、ひとまずは中へどうぞ」
「そうか。ならスーツケースは俺が持つよ。中身的に重いと思うし」
「お気遣いなさらず。私はメイドですので皆様のお手を煩わせてはいけませんので」
「いいから。そもそも今日は俺が頼んだんだし、手伝いくらいするよ。それに、女の子にこれは重いだろ」
ということで静也が能徒からスーツケースを取ると、ゴロゴロと転がし始めた。
「あ、ありがとうございます」
能徒は思わず頬を赤らめた。何せ能徒は、メイドとしてみんなの役に立ちお世話をするのが常だと思っていたために今までこんなふうに扱われたことがなかったのだから。
静也のそれにうっとりとしていると
「どこから入ればいいんだ?」
と聞かれて我に返ったのだった。
「は、はい。こちらです」
能徒は何事もなかったかのように平静を繕って先導し、工場の入り口へと案内した。
それからその裏手の目立たない場所に扉とは到底思えないような板があり、ギィィ…という音を響かせて奥に押すと向こう側に階段があった。
「地下になります」
「地上階でも何かしてるような気配がするんだけどなんなんだ?」
「カモフラージュです。念には念を入れて地上階は普通の工場として稼働しています。もしもガサ入れがきた時のための対策です。これからおこなう工程の一部でも稼働しますが、隠蔽性には問題ございませんのでご安心ください」
「なるほど」
「では参りましょう。最終確認ですが、本当にご覧になられるのですか? 引き返すならまだ間に合います」
幾度となく問われたその確認は、能徒の表情が表情だったために冗談やふざけて言っているのではないと静也は悟った。ゆえに静也も
「能徒の仕事を把握せずに死体を任せるだけ任せて能天気に仕事は出来ない。だから俺にもちゃんと見せてくれ。能徒の仕事が知りたいんだ」
「分かりました。では、こちらにどうぞ。スーツケースはそちらにお願いします」
ということでスーツケースを扉の隣に空いている窪みに置くと、その窪みが開いてスーツケースが下に落ちた。
それから静也は能徒の先導で地下への階段を下りていった。すると、その最下層の踊り場にはいかにも頑丈な鉄扉があり、その脇には操作盤のようなものがあった。
「万全を期すためにセキュリティも厳重です。これは静脈と眼球の生体認証で開錠されます。もしも未登録の方が利用したならば、即死トラップが周囲から浴びせられて確実に死にます。ですので、無波様は絶対に使用しないでください」
「ちなみにこれを開けられる人は他にもいるのか?」
「セブンスターズでは私と金錠様だけです。しかし、ご希望でしたら金錠様を通じて登録することも出来ます」
「どうして金錠?」
「この先の機器のメンテナンスや有事の際の記録抹消といった機械的なことが出来るのが金錠様だけだからです」
「なるほど。金錠はIT企業の社長だもんな。本人もスキルが高いし」
「そういうことです。では開けますのでお待ちください」
すると能徒が専用の認証機器に目を近付けて眼球の認証を終え、その後は別の機器に指を置いて静脈を認証した。直後、目の前の鉄扉が開錠された音が二人の耳に入った。
「お待たせしました。では参りましょう。あ、鉄扉には触れないでください。これも万が一認証セキュリティを突破された時のために密かに指紋認証をしています」
「これも能徒と金錠以外が触ると死ぬと?」
「さようです。先程聞こえた開錠の音もある意味最終トラップでもあるのです」
「なるほど。死体の処理も大変なんだな」
「バレたら社会的に死にますので」
能徒が鉄扉のノブに手をかけた。そしていかにも重そうなそれを手前に開けると、その先からは既に稼働している大きな機械の音が鳴っていた。また、なんとも言えない化学薬品のような臭いが二人の鼻腔を刺激し、静也は思わず表情を険しくした。
「無波様。こちらをどうぞ。ここの臭いは無害ではありますが、スーツケースを開けますので死臭に備えてください」
能徒が静也にマスクを手渡した。
彼の死体は丸一日経過している。また、スーツケースという密閉空間に押し込められている。ゆえに独特な臭いがその中に充満しており、それが開けた瞬間に二人の嗅覚を刺激するのだ。
能徒もマスクをしている。だから静也もマスクを着けた。
それから二人は、ゴウン…ゴウンと稼働音を響かせている機械の間を通って奥にある一角に到着した。そこにはさっき上から落としたスーツケースがクッションの上で横たわっていた。
「持つよ」
静也は能徒が持つ前にスーツケースを取ると、それをゴロゴロと転がし始めた。
「あ、ありがとうございます」
二人はさっきの道を戻ると、今度は途中で道を折れてエレベーターに乗り込んで上に上った。
扉が開くと、そこは大型機械の上だった。それから二人は柵で保護された道を歩いていくとその先端で止まった。
「お疲れ様でした。ここが処理をする目的地でございます」
「一見すると何も無いように見えるんだが」
「はい。ですが、下をご覧ください」
そう言われて下を見ると、そこにはシュレッダーの歯のような巨大な歯車が噛み合うようにして機械音を立てて回っていた。
そこで静也がようやく理解した。
「つまり、あそこに投げ込むと?」
「おっしゃる通りです。あれは二軸破砕機といいまして工事現場等で使われる大型のシュレッダーです。鉄や機械ですらも砕くことが出来る代物となっておりまして、人間が巻き込まれれば両側の歯車により押し潰されながら破壊されてしまいます。しかし、これだけでは死体の処理としては不十分です」
「だよな。万能そうに見えてまだ色々と残りそうだもんな」
「はい。ですので、砕かれた肉や骨はさらに下層にある別の機械で入念に加工します」
「なるほど。まぁ、実際に見た方が早いと思うから投げ込んでいいか?」
そのあっさりとした反応に能徒は驚いた。なにせ悟利や唯はこの段階でわりと顔を引き攣らせていたからだ。
「構いませんが、その前に命綱を付けていただきます。でないと死体を投げ込んだ拍子にご自分も落ちかねませんので。そうなったら引き上げようがありません」
「だよな。ミイラ取りがミイラになるなんてのは嫌だしな」
ということで静也は受け取った命綱を柵に括り付けると、スーツケースを開けて中に入っている死体を出した。
死んでから一日が経過していることもあって独特な死臭が漂い、狩人が刺した場所にはウジが涌いていた。
「それじゃ」
そして静也は死体を無骨な音を立てて回り続けるその中へ放り込んだ。すると直後、肉体は骨が折れる音や肉が裂ける音を小気味よく響かせては人力を超えた力によりたったの数分でただのミンチに変わり果てたのだった。
「そこまでまじまじとご覧になってご気分は大丈夫ですか?」
「案外ね。なぜか俺ってこういうのは平気みたいなんだ。今知ったんだけど」
「そ、そうですか。ちなみにこの段階で星見様と深見様が目を背けられました。その後すぐに帰ろうと言って引き返し始めました」
「そうか。逆に能徒は大丈夫なのか?」
「はい。私も無波様と同じくこのようなものには耐性があるようでして」
「だよな。じゃないとこの光景を何回も見るのはキツイだろうし、これをやっているのが自分って考えると心がやられそうだもんな」
「はい。ですが、私は皆様のメイドですので仮に滅入りそうになっても仕事は完遂します」
真面目に言った能徒。それを見た静也はそうやって言っていられる内は平気だろうと思って何も言わなかった。
そんなこんなで死体の原型が無くなったので、能徒がある液体を放り込んだ。
「それは?」
「機械に付着した肉片や脂を綺麗に取る化学薬品です。洗浄液だと思っていただいて結構です」
「どうしてそれを入れたんだ?」
「この機械に死体の一部を残しておくのは悪臭の原因になるからです。それは時間が経てばひょっとすると地上階にまで届く可能性があります。そうなった場合はガサ入れに乗り込まれるリスクがあります」
「なるほど。それで、次はどうするんだ?」
「はい。ここでミンチになった肉片は機械の下部にある専用の受け皿に溜まります。それはこの機械を停止したタイミングで自動で上階に送られるようになっています」
ということで能徒は洗浄を終えた機械の稼働を停止させた。すると、その言葉通りに下にあった受け皿が専用のリフトで上階へと上がっていった。
「地下での作業は以上です。お次は地上階にある機械で最終的な処理をします。こちらへどうぞ」
それから静也は再び能徒の先導で地下を歩き、さっき入ってきた頑丈な鉄扉を出て地上階を目指した。




