4-18 興味と出発
月乃は目を覚ました。
周囲を見るといつもの自分の部屋ではないことに気がつくと、そう言えば昨日は静也の家に泊まったのだと思い出したのだった。
ベッドから起きあがろうとした時、その体が動くことはなかった。なぜなら
「月……」
隣で寝ている静也がまるで抱き枕のようにして抱きつきながら寝ていたからだ。
なんとも無防備で心地よさそうな顔だなぁ。
そう思った月乃はにこっと口角を上げて再び眠りに入ろうとした。しかし
「!?」
不意に月乃がビクッと反応を示した。そして静也の方を見ると未だに寝ているのでそれがわざとではないと理解したのだった。それでもまたビクッと反応を示した。
「どんな夢を見てるの? 寝てても駄目だよ?」
と小声で言うと静也の悪戯好きな手を自分の上からどけた。
実は静也の手は月乃の胸に置かれていてどうしてか掌全体でその調度良い丸みのある膨らみを揉んでいたのだ。
唯ほど大きくはない、むしろ少し控えめなサイズ感のそれは静也の手に程よく収まって全体を揉むにはその手は調度良い大きさだった。
「やわらか…」
「起きてるんじゃないの?」
その問いに帰ってきたのは寝息だった。
月乃は少しだけむっと口元を強張らせると、やれやれといった様子でにこっとした。
さて今日は休日だから今度こそ二度寝をしよう。そう思った矢先、また月乃はビクッとした。それはさっきのように触られた時のような感覚ではなく、突然表れた感触に驚いたものだった。
「これは……仕方ないこと…だよね」
静也は今も変わらず月乃を抱き枕のようにして寝ている。ゆえに横向きで寝ており、脚まで絡められて全身が密着している状態だ。だからこそ月乃の腰の辺りには何やら自分にはないというか、自分では表すことの出来ない存在感と感触が与えられていた。
「静也も朝はこうなんだ……」
月乃は頬を赤くした。
その感触の正体は所謂男子特有の現象だった。それが今まさに月乃に確かな存在感を与えているのである。
お互いのパジャマの生地は薄い。ゆえにその感触や形までもが生々しく伝わり、時折脈動していることにも気付くほどだった。
その時、月乃の心に探究心というか興味というか欲のようなものがじわりと生まれた。もちろん、いいのだろうかという迷いもあった。でも、静也だって寝ているとはいえ自分の胸を揉んだのだからおあいこだと強引な論理のもとで欲が勝った。
「少しだけ……」
月乃は恐る恐る手を伸ばしていき、まさに雄雄しい感触を与えているそこへ近付けていった。
ベッドの中で月乃の心音が昂っていく。そして体温も上昇していき、静かに息を乱し始めていた。
セブンスターズの誰も触れたことのない場所を今まさに触ろうとしている。唯だって、かつてここに泊まりにきたという能徒でさえも触れたことがない未知の領域。そこにゆっくりと伸びていく手には緊張と触れたいという気持ちが少しずつ高まっていき、もう間もなくそこに到達するところだった。
「―っ!」
その時、突如として静也のスマホのアラームが鳴った。そしてそれに対して大きく驚いた月乃は慌てて手を引っ込めた。するとまもなくして静也が寝ぼけ眼でスマホを取るとアラームを解除した。
「月乃……?」
「お、おはよう」
月乃は必死に平静を装ってにこっと口角を上げた。幸いなのは、長い前髪のおかげで慌てている表情が見られなかったことと静也がまだ半覚醒状態で物事の分別がついていなかったことだった。
「学校…休みだったな……」
「そうだよ」
「うん……いい匂い……」
それからまた静也は月乃に抱き付いて眠りに落ちた。
危なかった。もし触れてしまった瞬間にアラームが鳴っていたらどうなっていたことだろう。そう思った月乃は、今は自分の腹の辺りに置かれている静也の手を握ってお互いに他のどこにも触れてしまわないようにしたのだった。
もちろん、未だに月乃の腰の辺りには確かな感触と存在感があった。
「私だから許してるんだからね?」
当然その言葉に返ってくるのは寝顔と寝息だけだった。
それから月乃はその感覚を腰に感じ続けて悶々としながらも気が付いたら再び眠りに落ちていた。
***
「本当にご一緒しなくてよろしいのですか?」
「うん。私はいいよ。人数が多くてもあれだし」
結局昼前に起きた二人はそこから静也の家にあったものを適当に食べて朝食兼昼食を済ませた。
それから少しして能徒がやってきた。その理由は、先日の遺体の処理を見てみたいという静也からの要望に答えるものであり、迎えに行くと約束したからだった。
もちろん、静也の家を訪れた能徒は月乃がいることに多少は驚いていたが、まぁよくあることだということで特に触れなかった。
「静也。雨合羽を持っていったほうがいいよ。服が汚れる可能性もあるから」
「分かった。能徒、もう少し待っててな」
「はい。ごゆっくりで大丈夫です」
ということで静也が雨合羽を取りに別室に消えていった。それにより玄関には月乃と能徒だけとなった。
「本当にあれを見せるの?」
「はい。私の仕事が見たいという無波様のご要望ですので包み隠さずしっかりとお見せしようと思います」
「そう。でもなるべく控えめにね? でないと悟利みたいにトラウマになりかねないから」
「はい。出来る限り程々にします。しかし無波様がご所望されれば深いところもお見せします。もしくはお伝えするつもりです」
「分かった。くれぐれも気を付けてね。―でも、一つだけ確認していいかな?」
ここまで普通の会話をしていたはずの月乃が急にじっとりとした雰囲気を放ち始めて能徒をじっと見た。無論、その異様な圧を感じた能徒は思わずたじろいだ。
「仕事を見せるだけで他には何も変なことは考えてないよね……?」
変なこと。それが示す意味は明白だった。
先日の女子会で能徒の静也に対する気持ちが主である月乃や他の女子達にも知られてしまった。ゆえに、今回のこの二人だけの外出では自分を一人の女として魅力的に見せたりアピールするには絶好のタイミグなのだ。
月乃も唯もいないうえに愛枷だっていない。本当に二人きりの外出だから誰にも邪魔をされないのである。
それらを理解しているがゆえに月乃はまるで釘を刺すように問いかけた。
「もちろんです。仕事をお見せしてご自宅まで無事に送り届けます。それだけです」
「ちゃんと分かってるならいいよ。まぁ、軽食くらいなら許すよ。でも万が一があったら、分かってるよね?」
「はい。しっかりと」
「ならいいよ」
そんな話が終わったタイミングで静也が準備を整え終えて玄関に戻ってきた。
「待たせたな。それじゃ行こう」
「はい。では星見様、行ってまいります」
「うん、気を付けてね」
そうして二人は家を出たのだった。
能徒は扉が閉まる直前に見えた月乃の怪しく口角を上げる様子が記憶に残り、下手なことは絶対に出来ないと理解したのだった。
「こちらにお乗りください」
少し歩いて人通りのない路地に入ったところに一般的なタクシーが停まっていた。それに乗りこむと静也は途端に何とも言えない異様な雰囲気を悟った。それを察した能徒は後部座席の静也の隣に座ると
「ご安心ください。こちらの運転手様は私達の事情を知っています。なんなら欲祓師が抱えている運び屋の方です」
「そうか。ちなみに死体は?」
「トランクの中に詰め込みました。万が一に備えたカモフラージュも完璧ですのでご心配なさらず」
「分かった」
ということでタクシーが走りだし、どこを走っても人通りが無い道を進んでいった。あまりに人がいないので今日が休日であることを忘れそうになった静也だった。




