4-17 その考え
「無波。いい加減落ち着いたらどうだ?」
「そうよ? 月乃ちゃんが決めたんだからそういうことよ?」
「そうです。きっと考えがあってのことなのです」
「うん……そう…だよ……考え無しで……言うことじゃ…ないと…思うから……」
「お気持ちはお察しします。ですが、今はご意向を鑑みる時です」
休憩を終えた後は静也が回答する議題だった。もちろん静也は発言台に立ったのだが、その物々しい雰囲気と滲み出しては隠しきれていない異様な気配を前にした生徒達は特に意見や質問をすることなく去ってしまったり、それこそ予定されていた意見を言う人が立たなかったりですぐに終了してしまった。
ということで今回の生徒総会が終了し、生徒達はそのまま下校、生徒会一行は生徒会室に集まっていた。
「俺は納得出来ない。このメンバーだって月乃が集めたんだろ? それを何も知らないあんな奴に立場を任せるなんて。正直あの場で排除してやろうかと思ったくらいだ」
「ですが無波様、あの感じの星見様はきっと何か考えがある様子でした。ですので、まずはそれをお聞きするのが納得への近道なのではないでしょうか」
と能徒がお茶を持って静也の机に置いた。
無論、能徒だって本気で納得はしていなかった。だからこそその真意が知りたいと思い、静也にそう提案したのだった。
そんな時、月乃がお手洗いから戻ってきた。
「月乃。どうしてあんなことを言ったんだ?」
静也は月乃が自分の席に着く前にその行先を塞ぐようにして立ちはだかった。すると月乃は一度周囲を見てから答えた。
「あのまま議論をしていても意味がないと思ったから。それに、実際にやらせて分からせた方が早いかなって思ってね」
「それでもし一ヶ月で何も無かったらどうするんだ? 本当に生徒会は解散であんな奴が生徒会長になるんだぞ? それでいいのか?」
月乃はあの女生徒に一ヶ月の体験期間を与えた。そしてその期間中に何もなく平和に学校生活が運営出来たならそのまま生徒会長を続投し、独自に揃えた面々で継続していいと約束したのだ。
静也はいくら月乃相手でも納得を示さず、じりじりと歩み寄っていってついに月乃の背中が壁に付いた。そして静也はそんな月乃がどこかに逃げないように両手を壁に付いた。
「無波様」
「静也くん」
「静也…くん……おちつい…て……」
能徒に唯、それから愛枷がそんな静也を引きはがそうとし始めた。だが月乃が制止させた。
「静也。あの人の言葉じゃないけど、これは絶対に大丈夫だから。この世の中で絶対はほとんどない。でもね、こればかりは本当に大丈夫だよ。だってよく考えてみて? 今まで私達がやってきたことをあの人達が完璧に出来ると思う?」
「それは……」
「無理だよ。だって生徒会はセブンスターズでもあるんだよ? なら、欲祓師としての活動もしてるでしょ? 現に、今まで学校でも何人かGreedが出てたしその度に処理をして本人は転校だとか上手い理由を付けて全校生徒に怪しまれないようにしてきたし。まぁ、もしかしたら怪しんでいる人はいたかもしれないけど。でも大した問題になってないよ。それもこれも、このメンバーだから出来たことなの。もう一回聞くね。あの人達が完璧に出来ると思う?」
その問いに静也はもちろん、他の仲間達の答えが一致した。
「絶対に無理だ」
「そうだよね。まぁ、一ヶ月あげたのはそれだけの期間があれば何も起きないなんてことはないからだし、あとはそうだね。最近の私達は生徒総会だったり、少し前には減田や千取との戦闘もあったでしょ? だから休息期間が欲しかったの。だからいい機会だからあの人達に全部丸投げして私達は休もうって。あっちは要望が通ったって思うのと同時に、本当に生徒会になれるって思って仕事が出来るし、私達は私達で好きなことが出来るしでWin-Winだよ」
そこで月乃の口角がにこっと上がった。それでも静也はやはり少しだけ不安だった。だから壁に当てた手は下げなかった。
「もしも、本当にもしもがあったら?」
「まぁ、やり方はいくらでもあるよ。もちろん私としてもこの立場は譲れないし、そもそもこれは誰にだって出来る仕事じゃない。それこそGreedが絡んでいるから平和云々にも関わることだし。それにね、一か月後にはきっとあの人達はいないと思うよ」
「転校させるのか?」
「そういうんじゃなくて、この世界からいなくなると思うよ」
「……なるほど。そういうことか」
「そう。ちゃんと理解したみたいだね。静也もちゃんと成長してるね」
全てを理解し納得した静也はやっと手を下げた。それは他のみんなも同じで同様に納得を示した。
「そういうことだから、来週には一旦貸し出すから私物は持って帰るよ。残しておいて壊されたり盗まれたら嫌だからね」
その一声によってそれぞれが自分達の机周りを整理し始めた。だが、唯は月乃に一言あるようでじっと見ていた。
「どうかした?」
「別に。ただ、静也くんは本気で心配してたわよ。お姉さんが月乃ちゃんの立場なら静也くんをそんな気持ちにさせないわ。予め意見が寄せられていた時にせめて静也くんには一言通しておくとかしたわよ。だからちゃんと謝ることね」
「……そうだね。今回は悪いことをしたよ。反省するね」
「まぁ、本音を言えば仲間内で先に言っておいてほしかったけどね」
「うん。ごめんね」
それを聞いた唯もまた片付けを始めたのだった。
月乃が静也を見た。静也は今はもう落ち着いて机周りの片付けに専念していた。
***
「それでは私はここで。あ、無波様。あの件はいつにいたしましょうか」
いつもの帰り道を揃って下校し、それぞれの帰路についていく一行。そんな中で最後の三人になるまで残っていた能徒が静也に問いかけた。
「そうだな。置いたままにしておくのは問題だから明日にしよう。午後に行こう」
「承知しました。ではお迎えにあがります」
「分かった。気を付けてな」
「ありがとうございます。お二人もどうかお気をつけて」
ということで能徒も自分の家に帰って行った。
「あの件って?」
「金錠が始末した先生の件だ。その死体の処理だよ。前にいつかは同行したいって言っておいたんだ。それを明日にしようって」
「そう。本当に行くんだね」
「一回は見ておきたいし」
「分かった。気を付けて行くんだよ? それこそ気を抜かず平常心を保ってね」
「なんか意味深な言い方だな」
いつも通り最後まで残った静也と月乃が夜道を歩きながら話していた。ちなみに、その死体処理の話題になった途端に月乃の様子が嫌そうな感じになったので静也はそれ以上話を続けなかった。
「静也、さっきはごめんね。あの意見をどうするかって最初に言っておかなくて」
「いいよ。まぁ、心配はしたけどな。でもそういうことなら納得だってなったからもう平気だよ」
「でもやっぱり反省しないとね。それこそこれから先は独断で動いたら不味いこともあるだろうし。だから、これからは重要なこととかみんなが心配に思うようなことがあったら先に話しておくからね」
「分かった」
それからも歩き続けていると静也の家の前に到着した。だが月乃はそこから帰ろうとしなかった。静也も同じく帰ろうとしなかった。
「……静也。今日泊まってもいい?」
「いいけど、もちろん―」
「パジャマはしいたけだし、洗濯を忘れちゃったんだよね」
「許す。まずは物を取りに行こうか」
「単純だね。本当、あれの何がいいのやら」
「月乃の匂いがいいんだ。熟成されたあの感じが何ともいえなくてな」
「うーん……やっぱり私には分からないよ」
ということで月乃の家の前に到着すると、毎度のように月乃が家に入ってしばらくすると出てきた。その手には宿泊の鞄があった。
「明日は学校が休みだからその分の服もあるからいっぱいかな」
「少なくてもいいんじゃないか? 足りなければ貸すし。もしくは月乃の匂いを熟成させるために数日同じものを着るでもいいし」
「後者のはしないかな」
「でもパジャマは―」
「仕方ないから同じのにするよ。そっちの方が嬉しいんでしょ?」
「話が早くて助かる。それじゃ行こう」
やれやれ。そんな様子の月乃。
鞄を持ってくれた静也の横を歩く月乃はそんな静也をじっと見ていた。そして少しだけにこっと口角を上げた。
「どうかしたか?」
「ううん、何でもないよ」
そうして二人は静也の家に帰っていった。




