4-16 意見と提案と約束と
「私が意見することは一つです。生徒会人員の再編成選挙を行うべきだということです」
生徒会長である月乃が担当する議題、校内の諸問題について生徒側の発言台にて女生徒が意見を述べた。
その言葉に全校生徒がざわついた。それは肯定から否定、また困惑といったものまで様々だった。
生徒会は予め生徒達から意見や質問書を貰っている。ゆえに予定された質問であればしっかりと準備をしていた。この質問はその中の一つで、今回最も大きな意見の一つだった。
ちなみに、これこそが静也から不安な雰囲気や抑えていながらも殺気が漏れ出してしまっている原因だった。また、これは生徒会へ突きつけられた不信任案とも取れるものであるため、他の面々も穏やかではなかった。
「そう。詳しく聞かせてもらおうかな」
それでも月乃は一切乱れない声音と雰囲気のままで発言台にいる女生徒をその長い前髪の奥から見ていた。
「無波様。今はどうか抑えてください。星見様は理由や背景を聞こうとされています。星見様のお気持ちを何卒尊重ください」
「そうだ、無波。理由を聞かずに消そうとするのはGreedと一緒だ。それとも僕に排除されたいか?」
「……分かった。今は耐える。でも、ふざけた理由なら即排除だ」
放っておいたら内に秘める排除欲求で女生徒を排除してしまいかねない静也に能徒が宥めるように言い、さらに狩人がいつもの調子で追加した。すると静也の殺気が僅かに弱まって少しだけ落ち着きを取り戻した。
「詳しくも何も、どの高校も毎年生徒会選挙をやっているのにウチの高校だけやっていないからです。それに、同じ人が続くと考え方や方針が一辺倒になって良くないからです」
「どうして一辺倒が良くないの? 別に高校は会社とかそういうのじゃないから変革とかは求めなくていいと思うんだけど?」
「時代の流れがあるんです。流行ってやつですよ」
「つまり、今の生徒会のやり方は古くて良くないからメンバーを変えるべきだってこと?」
「はい。さっきの議題ではありませんが、新しい考えややり方を入れていかないと今後受験してくれる人が減ると思いますよ」
「それは一生徒であるあなたが考えることなのかな? 来年もその次もこの星条院高校を受ける人は受けるし、受けない人は受けない。あなたの周りにもいると思うけど、ここの生徒達は日本全国から来ている人達だよ? 知っている限りでも北は北海道から南は沖縄までいる、私立高校にしてはバリュエーション豊かな方だと思うから新しい風は吹き続けていると思うんだよね」
「その人達は推薦だったり所謂確約で入った人です。一般受験で入った人は全国区という話では豊富ではありません」
「とはいえ、仮に生徒会が変わったとしてもすぐに特色が変わるなんてことはないよ? まぁ、私立高校だから公立に比べたらその辺のスピード感はあると思うけど、それでも運営している人達の納得も必要なわけだし。一生徒がどうこう言っても変わらないものは変わらないよ?」
「ですが、やはりこのままというのは良くないと思います。刷新した方がいいと思います。なので、まずは生徒会長から辞任を。それから皆さんを解任いただき再び選挙をしましょう。それがいいと思います」
月乃は一切乱れない抑揚のない大人し気な声で回答していた。だが、彼女は気持ちが昂っていってまるで糾弾者のように声を荒らげ始めた。
きっと何を言ったところで、どんな回答をしたところで聞く耳を持たないだろう。そう判断した月乃は半ば諦め気味に、いや、まるでクレーマーを相手にするような雰囲気になっていっていた。しかしそこでついに
「お、お待ちください」
「あらあら」
「まずいです」
「止まれ、落ち着け」
「……あ」
月乃が立っている発言台にもう一人が立った。それは明らかに物々しい雰囲気を纏わせていた。かろうじて瞳は輝かせていなかったものの、少なくとも周囲の人達に重圧を与えるには十分なオーラを放出していた。
「静也……」
「代わる」
それは静也だった。
静也は有無を言わさずに月乃からマイクを取り、月乃を自分の後ろに隠した。そして生徒側の発言台に鋭い視線を向けた。
「あなたは庶務の無波さんでしたか。今は生徒会長が答えているところです。下がってください」
「それは出来ないな。その意見は生徒会全員に関わることだ。つまり、生徒会長以外が答えてもいいだろ。それともなんだ? 人によって意見を変えたり気分を変えたりするのか?」
「そうではありませんが……」
「ならいいだろ。再開しようか」
この状態の静也を止めることはもう無理だと判断せざるを得なかった月乃を始め生徒会の面々は、それぞれで呆れた顔をしたり焦っていたり心配している様子だった。そんな中でも能徒はいつ何が起きてもいいように結界を張る準備だけは整えていた。
「ちなみに聞くが、仮に俺らが解散になったらお前はその気に生徒会に入ろうって思っている。そうだな?」
「はい。なんなら私が生徒会長としてこの学校を新しい方向に導いてみせます」
「一人でやるのか?」
「いえ、私が手づからメンバーを集めてその人達で運営します。絶対にいい方向に行くと確信しています」
「俺はそうは思わないんだがな。そうやって何も知らない状態で意気込んで成功した奴は見たことがない。どうせどっかで挫折するか計画自体が頓挫するんだ。そうなれば学校全体だけじゃなく、生徒側や運営側にも迷惑がかかる。そういうリスクを考えたうえでの発言なのか?」
「はい。ですが、私はそんなことはしません。絶対に上手くいきます。だからこうして意見しているのです」
「なら聞こう。お前は俺達が生徒会としてこの学校で何をしているのか知っているのか?」
「ちょっと静也。あっちのことは話しちゃ駄目だからね?」
静也の問いに対してマイクに声が入らない小さな声で月乃が静也に言った。もちろんその意図は理解している静也は
「大丈夫だ。肝心なところは話さない。月乃が嫌がるようなことは言わないから安心しろ」
「……分かった」
月乃はやっぱり少し不安な様子を示したが、もう静也に任せることにしたのだった。だが、万が一口を滑らせてしまいそうになったならばすぐに気絶させる準備はしていた。
月乃が言うあっちのこととはもちろんセブンスターズとしての欲祓師の活動のことである。生徒会は時折生徒会活動と称して日中でもGreedの討伐に行ったり、学校で出現したGreedを始末して日々多くの人々の安全を守っていた。でも、実際その活動は所謂合法的な殺人と大して変わらず、一般人に見られてしまったり知られてしまえば立場的に危うくなってしまうのだ。
「もちろん知っています。日々生徒達の学校生活を守り、今日の生徒総会のようなイベントを滞りなく進行する段取りですよね。あとは事務作業。そんなことは正直誰でも出来ることなんですよ。だから私が生徒会長で他の面々も私が決めたら次の日からでも安定的に遂行出来るんです。それで合間の時間を最大限に使って新しい風を吹かせます。絶対に今よりも楽しい学校生活になると思います」
「そうか。それは知ってるんだな」
「それは、とはどういう意味です?」
するとそこで生徒達が見えない位置で月乃が静也の手を握って次の言葉を止めようとした。しかし静也が次に言った言葉は
「管理と事務だけだと思うな。人がいる以上は毎日が同じなんてことはない。それは知らない、でもさっき言ったそれは知っている。そういう意味だ」
能徒も結界を張る寸前まで準備をしていた。だが、その言葉により一安心して少しだけ緊張を解いた。
「何が起きても大丈夫ですよ。私が選抜したメンバーなら絶対に」
「その根拠のない自信は信用出来ないな。それでもしものことがあればどうするつもりだ?」
「その時は責任をとってどんな処罰でも受けますよ。まぁ、絶対に受けることはありませんけど」
その時だった。今まで静也の後ろにいた月乃が前に出てきて再びマイクを取った。
「そこまで言うなら実際にやってみる?」
「月乃!」
「いいよ。そこまで自信満々に言うなら少し気になるよ。でもね、学校行事のスケジュールはもう決まってるの。だから選挙なんて大々的なことは出来ないよ。だから、試しに一ヶ月間だけあなたとあなたが決めた人達に生徒会の立場を貸してあげるよ。それで本当に問題なくやり通すことが出来たらそのまま移譲してあげる。でも、私達がどうにもならないって判断したり明らかに学校が荒れたら返してもらうよ? それでどう?」
「分かりました。明日からでいいですか?」
「準備があるし、明日は休日だから来週からね。それで、返してもらうってなったら責任はちゃんととってもらうからね? その約束は今ここにいる全校生徒達の前でしてもらうよ。それが出来ないならやっぱり駄目だよ」
何度も静也が月乃の言葉を止めようとしていた。もちろん他の面々も驚きとともにどう止めに入ろうかタイミングを見計らっていた。もちろんステージ上では派手には動けないので何も出来ず、そわそわしている間に話しが進んでいってついに
「分かりました。ではこの場で約束します。私は来週より生徒会長として私が集めたメンバーで生徒会を運営し、学校全体を平和に管理します。また、新しい風と流行を取り入れたより良い学校にします。そして一か月後、荒れるようなことがあれば生徒会としてどんな罰則でも受けることを約束し、大人しく立場を返還します。これでいいですか?」
「うん。ここにいる全校生徒と先生達、それから私達が証人だからね。私達も忘れないしみんなも忘れないから、ちゃんと守ってもらうよ?」
「はい。あなた達もちゃんと守ってもらいますから。一か月間しっかりと運営出来た暁には立場を正式に移譲すると」
「うん、いいよ。現生徒会長としてこの場で約束するよ」
と月乃がその名のもとに約束を締結してしまった。
そんな前代未聞な出来事を前に生徒会の面々は言葉を失い、司会進行の人も役目を忘れて唖然としてしまった。
「そういうことだから、ちゃんと納得したみたいだしこれでいいよね?」
「はい。ではさがります。しっかりと準備を整えておいてください」
ということで女生徒が発言台から下りていった。そして月乃が司会者に目を向けて終わりを告げた。
「で、ではこの議題は以上とします」
そうして月乃と静也が自分の席に戻ると再び休憩に入った。




