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【15000PV感謝!】楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
Interlude Ⅲ

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4-15 難しい意見

「結局助けはいらなかったね」


 次の議題の担当は月乃(つきの)だ。

 彼女は今までステージ上でほとんどだんまりで時折頷くだけの地味極まりない様子で座っていたのだが、ついに生徒会長が担当することになる。

 その前、休憩が終わる直前にステージ袖で月乃が唯にそう言った。


「そうね。残念と言うべきかラッキーと言うべきか。月乃ちゃんの方はどうかしらね」

「うん。多分私が何かしなくてもきっと静也(せいや)なら勝手に何かしてくれると思うよ。だって予め目を通してあるでしょ? 生徒からの意見」

「ええ、もちろん。まぁ確かにそうね。場合によっては静也くんが出てくる―ううん、何かやるに違いないわ」

「度が過ぎなければ私は止めないよ。それはきっと静也も分かっていると思うし」

「どうかしらね。悔しいけど静也くんは月乃ちゃんのことになると容赦がないから」

「まぁ、万が一のことがあれば―能徒(のと)


 そこで月乃が少し離れたところに立っていた能徒に目を向けた。


「はい」

「何かあったら上手くやってね」

「はい。お任せください」


 そう言った能徒を見た月乃はにこっと口角を上げた。

 実は能徒もまたさっきの唯と月乃の会話を聞いていた。ゆえに静也が月乃のことになると容赦がないと言ったことに対して羨望の気持ちを抱いていた。

 それから休憩時間が終了となったので生徒会一行はステージ上のそれぞれの席に戻り、生徒達はまた自分達の席に着席した。


「では生徒総会の議題も残り二つとなりました。次の生徒会側の回答者は会長の星見月乃さんです。議題は校内における諸問題です。よろしくお願いします」


 ということで月乃が生徒会側の発言台に立った。


「それじゃよろしくね。生徒会長としてちゃんと答えるけど、難しいものは検討にするからね」


 そう言った風貌は元来の地味さを纏っていたが、その奥にある真剣さとまるで何でも来いという自信が一瞬にして体育館を包んだ。そんな月乃の口角はまたもにこっと笑っていた。


「あの感じの月乃()ぇを論破するのは無理です。あの感じは至極冷静で頭の回転が異常な時の証です」


 悟利(さとり)が言った。それを聞いていた静也が不思議そうな顔をした。


「そうなのか? 俺にはいつも通りにしか見えないぞ?」

「はいです。それこそ、ああ見えてっていうやつです。前に生徒会室に文句を言いに来た生徒がいたです。でも月乃姉ぇは怖気づくことなく淡々と対応して帰らせたです。あれは…すごかったです」

「俺といる時はそんなことはないんだけどなぁ。むしろ時々俺がやるどうしようもないことにも何も文句を言わずに黙ってるけどな」

「それは静也()ぃだからです。その……信頼とか幼馴染だからみたいなあれです」

「そういうもんかぁ」

「ところで静也兄ぃ。どうしてそんなに殺気立ってるです?」


 普通に話しているつもりになっていた静也。だが静也も生徒会として月乃が担当する議題については目を通していた。それこそ予め投げかけられた意見も。


「……他の人にもバレるかな」

「わち達は分かるです。証拠にさっきから能徒と愛枷(まなか)が心配そうに静也兄ぃを見てるです。狩人(かぶと)兄ぃは気にしてはいるみたいですけど、やれやれって感じです。でも生徒達は気付いていないと思うです」

「そうか。でもあれを見て普通でいろってのが無理なんだよなぁ」

「はいです。でも公の場で欲を披露するのはまずいですから極力我慢してほしいです。きっと月乃姉ぇがどうにかするはずです」


 そう話しているうちに生徒側の発言台では色々な意見や質問が投げかけられていった。


「なるほどね。それじゃ順番に答えていくね」


 やっと列が途絶えたタイミングで月乃が回答していった。それを生徒会側は静かに見守りつつも、イレギュラーなものにどう答えるのかを見ていた。


「えっと、私立なんだから教師に対して教員を継続か処分かを教師だけでなく生徒にも投票というかたちで参加させてほしい。これについては難しいところだね」


 想定外の要望について答え始める月乃。対してそう言った生徒が発言台に立っていた。彼はいかにも真面目そうで成績優秀な感じの人だった。


「ちなみにだけど、どうしてそう思うの?」

「はい。僕は塾に行っているんですけど塾での勉強の方が明らかに為になっているんです。きっと教師の質なのか教え方なのかなって思います」

「そっか。でも確かな原因は掴めていないんだね」

「はい、まぁ……」

「なら強行的にこれをやる必要はないかな。そもそも塾っていうのは少数に確実に教えて給料を貰っていたり、その生徒のテストの点数が上がれば月給が上がるなんていうインセンティブがあるからちゃんとやるんだよ。でも学校は違うよ。大多数に教えて、遅れている人にも合わせてやるから勉強が出来る人にとっては物足りなく感じるものなんだよ。だって生徒達の足並みを揃えたほうが授業の進捗を管理しやすいし、作るテストだって問題を設定しやすいからね」

「でも、それだと優秀な人は落ちてしまいます。公立ならまだしもここは私立ですのでむしろ生徒側が教師の教え方に合わせる、もしくは出来る人はランク分けしてクラスを再編成するのもありだと思います」

「最初の教師の継続から離れちゃった気がするけど、まぁ、その意見も分からなくはないよ。もどかしいもんね。でもね、いくら私立でもそういうわけにはいかないんだよね。だってクラスを再編成したらみんなが困ることにもなるんだよ」

「勉強の差が広がってってことですか?」


 月乃が首を横に振ると


「みんなはクラス分けがどうやってされているか知ってる? 違うね、どういう仕組みでされているか知ってる?」


 と彼だけでなく全校生徒に問いかけた。しかし誰もそれに答えることが出来なかった。

 するとそこで


「星見さん、それは話さないほうがいい」

「どうしてですか? 先生。透明性が大事ですよ。それにこれを話したほうが納得がいくと思いますよ」

「でもな、それは―」


 直後、そうやって止めに入った教師が言葉を詰まらせた。そして何かを察したのか感じたのか正体不明の身震いをして奥にさがった。

 それを見届けた生徒会は他の人達にバレないように彼の方に目を向けた。それはもちろん静也だ。


無波(ななみ)様。どうか落ち着いてください」

「……悪い。月乃を止めたからつい」


 静也が鋭い殺気と排除欲求を教師に向けて放ったのだ。それにより教師の呼吸が詰まったのである。


「よく分からないけどどこかに行っちゃったみたいだし、他に誰も止めようとしていないから教えてあげるね。クラスを決めるやり方は大きく分けて三つに沿ってやるの。一つ目は合唱祭におけるピアノが弾ける生徒や体育祭で活躍する生徒を分散させること。二つ目はPTAの役員だったりクラスのリーダー的な存在になる人を固めないこと。三つ目は問題児を分散させること。他にも優秀な人を分けるとかはあるかもしれないけど、その三つのやり方が主流らしいよ。それで、もしも勉強の裁量で再編成した場合はその均衡が崩れるのね。そうなると色々と大変なの」

「……各イベントで中核となる人が固まるから誰も出来ないクラスが出てくる」

「そう。それと必然的に勉強が苦手な人ばかりのクラスとか問題が多い人ばかりのクラスが出てきてみんな大変なことになるの。だから再編成は出来ないよ。塾に行ってるって言ってたよね? それこそ塾はレベル分けして教えるのが主流だし、その方が効率がいいのは知ってるよ。でもそれは塾だから出来ること。学校だと出来ないよ。まぁ、最初に言ってた教師の継続については検討してみるのもいいかもしれないね。それこそ会議には来るけど居眠りばかりするような人みたいに成果を出さずに給料泥棒をする人だったり、ハラスメントとか問題がある人も私達生徒から見てあるかもしれないもんね」


 そんな感じでどう?という様子で口を閉じた月乃。それを察した彼は


「分かりました。教師の継続云々は検討をお願いします」

「うん。ちゃんと考えてみるよ」


 と言って去って行った。

 それにてひと段落し生徒会側が安堵した。だが、まだ完全に安心したわけではなった。なぜなら、さっきの彼の意見は予定外のものだったからだ。

 もちろん静也が落ち着くことはなかった。そして月乃の議題において最後の発言者がマイクの前に立った。


「私が意見することは一つです。生徒会人員の再編成選挙を行うべきだということです」


 その言葉に全員がざわついた。また、静也の心も穏やかではなく


「無波様」

「……大丈夫だ」


 と能徒に宥められてしまっていた。

 そう。これが予め生徒会に出された意見だった。そしてこれこそが生徒会員全員の心を乱していたものでもあった。


「そう。詳しく聞かせてもらおうかな」


 それでも月乃は一切乱れない声音と雰囲気で発言台にいる女生徒をその長い前髪の奥から見ていた。

 まもなくして彼女は心に抱いていた気持ちを話し始めた。

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