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【15000PV感謝!】楽園の欲祓師  作者: 翡翠ユウ
Interlude Ⅲ

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4-13 往生際の悪い男

大河内(おおこうち)先生。分かっていると思いますが、あなたの処遇は後程決定します。今はここで大人しくしていてください」


 野球部顧問の大河内はさっきの一件にて部費の私的利用を明かされ、さらには未成年売春といった犯罪をおこなっていたということを晒された。それにより彼の顧問としての、いや人としての立場は無くなり、あとは下される処罰を待つだけとなった。

 そんな彼は生徒総会の会場である体育館から職員室に連れて来られ、さらにはその最奥にある鍵のかかる部屋に入れられた。そんな彼を連れてきたのはその同僚で、彼はまさか近くで不正利用があったなんてと驚きとともに落胆していた。


「俺は…どうなるんだ?」


 パイプ椅子に座らされた大河内が無気力に問いかけた。


「これだけの数の人に知られた以上は隠蔽は無理でしょう。懲戒解雇だけならいいですが、おそらく逮捕にもなるでしょう。でないと学校側の立場もありませんので」

「そうか……」


 大河内はさっきまでの威圧的な雰囲気はどこへやらといった消沈した様子になっていた。それを見ている彼もどう声をかけたらいいのか分からずにいた。だが、いけないことはいけないとして毅然とした態度でいるのが普通なのだと思って声音から雰囲気からそのようにしていた。


「なぁ、金を使ったのは反省している。でもよ、あの女が未成年だったなんて俺は知らなかったんだ。今も道端でそれを隠して自分を売っている女はたくさんいる。そういう奴らも逮捕されるべきなんじゃねぇか?」

「そうでしょうね。でもあまりにも数が多いことで警察も取り締まりが出来ないのでしょう。ですが、それはそれです。大河内先生、あなたは間違ってしまった。それはもう隠しきれない事実です。処分を待ってください」

「……」


 そうやって言う彼も辛そうな顔をしていた。言われている大河内は項垂れて顔を上げなかったが同じく辛そうな雰囲気を出していた。


「私は戻ります。部屋には鍵をかけさせていただきます。お手洗いに行きたい場合は私に連絡をしてください」

「……やっぱりおかしいだろ。俺はあの女の言葉を信じた。未成年じゃないって言ったから金を渡したんだ。なのに嘘だったなんてよ。おかしいだろ。俺だけが悪者なんて納得出来ねぇ」

「大河内先生……?」


 その時、大河内はゆらりと椅子から立ち上がった。そしてぬぅっと顔を上げるとその目は赤く充血していた。そんな眼に見られた彼は言いようのない圧というか恐怖を感じて思わずたじろいでしまった。


「俺の処罰は覆らない。なら思ったんだ。最後まで好きなことをしてやろうってな。だから俺はあっちに戻ってやりたい放題してやる。全てを暴いた金錠(きんじょう)は殺す。気に入らない奴も殺す。いい女は犯す。俺は自分に正直になってやるよ」

「何を言ってるんですか。そんなの駄目に決まってるじゃないですか。絶対にここは通しません。あなたはここで大人しくしていてもらいます」

「俺にそんなことを言っていいのか? 今そこをどけば殺さないでおいてやる。どかないならまずはお前から殺す」


 大河内は一歩、また一歩と彼に近付いていった。その度に人間とは思えないほどの異様な圧が彼を襲い、全身の震えとともに本能が逃げろと言っているのが聞こえ始めた。

 だが、ここを通せば生徒や他の教師達が危険だ。そう理解しているため彼は絶対にどかないと決意したのだった。


「どかないのか?」

「……駄目です。ここにいてください。これ以上罪を重ねるのはやめましょう。懲役だけじゃ済まなくなります。その後の社会復帰も出来なくなります」

「かまわねぇ。俺は俺がやりたいようにやる。やりたいんだ。それを邪魔するなら、仕方ねぇよな」


 ついに大河内が彼の目の前に到着した。そして両手をゆっくりと上げていくと、その中に彼の首を捉えた。直後、にやぁっと口角を上げると手に力を込めて彼の命を潰しにかかった。

 大河内の掌や指に彼の脈拍や体温が伝わる。さらに苦しそうにしながらも抵抗している彼の命の灯がその瞳に映った。しかし大河内は一切歯牙にもかけなかった。むしろ次第にうっ血し涎が滴り、目から光が失われていく彼を見て達成感すらも感じ始めていた。


「俺は自由だ。好きなようにしてやるんだ」

「―ッ……っ…」


 彼の呼吸が浅くなる。意識が遠のき始める。もう抵抗の力は残されていないため両腕はだらんとなっており、自力で立ち続けることも出来ていない。

 そして彼の呼吸が止まると大河内は、まずは一人目と思って彼を手放した。それにより床に彼の体が落ちた。


「行こう。待ってろよ」


 血走った目にまるで人間とは思えないような狂気の形相。殺気に満ち溢れた雰囲気の男が扉に手をかけて開けた次の瞬間


「行かせないぞ」


 という声とともに長物が彼に急接近して肩を貫いた。直後あまりに予想外の出来事だったために大河内は後ろへ大きく倒れた。それに合わせるように長物も引き抜かれた。


「随分と好き勝手なことをしているじゃないか。いや、しようとしているようだな。お前に反省という文字はないのか?」

「金錠……」


 ぼたぼたと落ちる血が床を赤く染め、周囲にも血が飛び散っていた。それでも大河内は感覚が麻痺しているのかよろよろと立って狩人(かぶと)を睨みつけていた。


「やっぱりか。強情なお前のことだ、素直に反省しないと思ったよ。来て正解だった」

「金錠様。来ないとまずかったでしょう。この方はもうGreedなのですから」

「そうだな。もちろんこうなることも想定内さ」

「さすがでございます。既に結界は張り終えています。倒れていた先生も安全なところに回収済です」

「そうか。それじゃ、欲祓師の仕事をするとしよう」


 そう言った狩人は自らの得物である長槍を構えた。そして瞳を緑色に発光させると、あらためて大河内を標的として認知した。


「金錠。全部お前のせいだ。お前があんなことをしなきゃこんなことにならなかったんだ。お前が死ぬこともなかった」

「まだ生きている。死んだことにされては困る。言っておくが死ぬのはお前だぞ」

「馬鹿め。ガキが大人に勝てると思うな」

「馬鹿はお前だ。その目は節穴か?」

「金錠様」


 能徒(のと)が口を挟んだ。それが意味するところを理解した狩人は槍の先端を合わせて集中した。


「俺はやりたいことをやる。欲しい物は奪う。気に入らない奴は殺す。いい女は犯す。それを邪魔するお前は殺す。こんなことをしなきゃならないのは全部お前のせい。自業自得だ」

「そろそろいいか? 僕達には時間がないんでな」

「貴様……」


 大河内の話を完全に無視をした狩人。それが癪に障った大河内は怒りを露わにして狩人に襲いかかった。


「正面から来るとは潔いというべきか、愚かというべきか」


 直後、狩人が動いた―ように見えた。ほんの僅かな動きだったのにも関わらず長槍は的確に大河内の首を貫いており、さっきまで接近していた彼は刺さったまま動かなくなっていた。

 その顔はさっきまでの怒りを表したままだった。ゆえに、速すぎて気付かないまま死んだに違いなかった。

 彼の絶命を確認して槍を抜くと、直後にはおびただしい量の血が周囲に飛び散った。もちろん結界の中なので室内の物に被害は出なかった。


「終了だ」

「お疲れ様でした。お見事でございました」


 能徒が相変わらず表情を変えずに言った。直後、その後ろのほうから誰かがやってきた。


「やっぱりか。というか殺して良かったのか?」

無波(ななみ)か。まぁ、最初から気付いていたがな」


 静也(せいや)だった。二人を追いかけた後、ぎりぎりのタイミングで結界の中に入ることに成功した彼は静かに見物していたのだ。


「それで、金はどこから取るんだ? 死体は働けないぞ?」

「心配するな。ちゃんとこいつから()()。だから首を刺したんだ」

「……あぁ、なるほど。それなら問題ないか。というかお前、こいつがGreedになるって分かってたな?」

「分かっていたというよりも勘で分かるものだ。お前も分かるようになるといいな。まぁ、いつになるか分からんがな」

「少なくともお前が習得した時間よりは短いだろうな」

「それはない。この僕でも完全な習得までそれなりにかかったんだ。それをこえることなどありえない」

「やってみなきゃ分からんぞ?」

「無波様、金錠様。そろそろ戻りましょう。まもなく再開のお時間です」


 二人のいがみ合いを制するかのように能徒が割って入った。それにより鎮静化された二人は身なりを整えて体育館に向けて歩き始めた。だが静也が振り返って


「能徒も行くぞ。というか死体はこのままにしておくのか?」

「はい。鍵をかけて結界を張ったままにしておけば開けられることはないでしょう。そうすれば大河内先生はまだ生きていると思わせることが出来ますので。処理は生徒総会が終わってからおこないます」

「そうか。ならその時は俺も付いて行っていいか?」

「あぁ、以前そのようなことをおっしゃっていましたね。かまいませんが、あまりいいものではないですよ。それでもご一緒されますか?」

「もちろん。死体処理を任せているのにどうやっていたりとか能徒の仕事を把握していないのはおかしいと思うからな」

「分かりました。でしたら……その時は二人で行きましょう」

「そうだな」


 そう言った能徒の頬は僅かに赤くなっていた。

 もちろんそれに気付いていない静也は再び体育館に向けて歩き出した。

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