4-12 閑話休題
「今日の狩人兄ぃ、強すぎるです。まさに無敵です!」
休憩中の生徒会一同はステージ袖にある区画で休んでいた。そこは小部屋となっていて生徒会側の資料や必要機材を置いている場所だった。とはいえ七人が入っても苦にならないほどのスペースがあり、もはや休憩室となっていた。
「僕が強いんじゃない。あっちが弱いんだ。いや、戦う準備が不足しているといった方がいいだろう」
そう言う狩人は次の議題における質問を確認していた。しかし、既に狩人の担当は終了している。だから静也がからかい半分で声をかけた。
「いったい何人の生徒と教師を葬る気だ」
「葬っているんじゃない。向こうが自滅しているだけだ。それに僕は誰の番でも準備を欠かさない。さっきのように聞き分けのない人もいるんでな。そういうのを黙らせるには確固たる事実と証拠、あと論理が必要だ。それを正しく使う。僕はそれがいつでも出来るように備えているんだ」
「なるほど。まぁ、さっきのあれは見事だったが、若干可哀そうな気がしないでもなかったがな」
「そうか? 僕にはそうは思えなかった。ならお前はクレーマーに慈悲を与えるのか?」
「クレーマーって…… それはないな」
「そういうことだ。確かにクレーマーは言い過ぎたかもしれないが、収拾がつかなくなる前にどうにかしないと厄介なことになりかねない。僕はそれを決着させたんだ」
「そうだよ? 静也。ああいうのはね、なるべく早く黙らせたほうがいいんだよ。じゃないと、下手したら欲が爆発してGreedになっちゃうかもしれないんだよ?」
と月乃が話に入ってきた。
そういえば月乃は何も言わなかったが、質問の合間合間で頷いていたな。そう思った静也は
「月乃がそう言うなら」
と納得を示した。もちろんその言葉にひっかかりを覚えた狩人だったが、目の前の準備のことで忙しいために何も言わなかった。
すると愛枷と能徒が狩人のところにやってきた。
「狩人…くん。ありがとう。助かった……」
「私も助かりました。ありがとうございます」
「気にするな。僕が行くしかないと思ったから行った。それだけだ」
「でも……私だけ…だったら……無理…だった…… 同情して…流されていた……と思う」
「私も先生が相手だと私の言葉だけで納得させるのは無理でした」
「能徒のは納得ではないと思うがな」
「それでも、あそこまでのことを私には出来ません。感謝します」
「……まぁ、困ったら僕が出よう」
と褒められ慣れていない様子の狩人は顔を隠すようにパソコンに向かっていた。
「ところでぇ、次はお姉さんの番なんだけど不安なのよねぇ。だから静也くん、そんなお姉さんを励まして?」
唯が座っている静也の隣に座ると身を委ねるように、まるで甘えているかのように体を傾けた。それにより唯のふわっとした髪や香りが静也の鼻腔をくすぐった。また、意図的に開けているとしか思えないような制服のボタンの隙間から豊満な二つの山が顔を覗かせており静也の視界に入った。
「唯なら大丈夫だろ。もし変なのが来たらまた狩人が消してくれると思うし」
「言い方に悪意を感じるぞ」
「気のせいだ」
「静也くんは来てくれないの? それかぁ、この際だから一緒に立ってくれる? そうしてくれたらずっと元気でいられるかも」
ところどころで唯の甘い吐息が混ざり、細い指がするすると静也の腕を這っていって手の甲まで到達した。だがそこで
「唯。自分でやるんだよ? そのための担当なんだから。それと、駄目だよ?」
月乃が抑揚のない声で言い、同時に静也を遠ざけた。その様はまるで静也は渡さないと言っているかのようだった。だが、唯も負けじと静也の手を引いて自分のところに戻そうとした。
「愛枷ちゃんと能徒には狩人くんっていう助っ人が来たじゃない? なら非常時に備えて静也くんを助っ人としてお願いしておくのもありじゃないかしら?」
「唯には必要ないと思うよ? 特に男性が相手だった場合はね。だって面倒になりそうだったら魅了して無理矢理納得させちゃうでしょ?」
「まぁそうね。でもそれは男性が相手だった場合よ。女性が相手なら難しいかもね。それこそ、お姉さんは同性から嫉妬とかそういう感情を向けられやすいから」
「まぁ、優れたものをもっていると仕方ないよね。人間だもの。でも適任はいるはずだよ。それこそ狩人がね。狩人は男女関係なくものを言えるし、なんなら善悪について容赦しないからこれ以上にない助っ人だと思うよ?」
「でもお姉さんは静也くんがいいなぁ。月乃ちゃんだってそうでしょ? 次の議題はお姉さんと月乃ちゃんの二人がかりだもの。去年だってけっこう大変だったわよねぇ」
「そうだけど……」
そこで月乃の口が閉じた。そして何かを思い出しているのか少しだけ口元を強張らせて嫌な雰囲気を出した。それに気付かない唯ではないので追加で提案した。
「だから、静也くんはお姉さんと月乃ちゃんの二人の助っ人ってことにしない? それならいいでしょ?」
「……それなら」
「決まりね。そういうことだから、何かあったら助けてね。静也くん」
「俺に出来ることがあればその時は」
静也のその言葉に喜ぶ唯。だが逆に複雑そうな様子の月乃。それを見ている愛枷と能徒は何とも言えない雰囲気を出していた。
「能徒……」
「おっしゃりたいことは分かります」
「そう……よかった…… 私達も…助けてもらえてたら……どう…だったのかな……?」
「きっと嬉しかったのだと思います。とはいえ、今回は金錠様にお世話になりました。深く考えることや追求するのはやめましょう。でないと金錠様に失礼です」
「うん……そう…だよね……」
そんな周りのそんな様子を見ている悟利はお菓子を食べながら小さくなっていた。また、狩人はというと準備をしながらやれやれといった様子で見ていた。
「ところでよ、野球部の件はどうするんだ? 額が額なんだろ?」
「そうだな。あいつは部費のほとんどを使いこんでやがったからな。学校の財務を管理している者としてはきっちりと回収しないといけない。それまでは臨時で部費を出すわけだが、そう簡単に出せる額でもない。最悪は僕の個人マネーから一旦出しておく」
「狩人兄ぃ。気になったですけど、あの顧問はどうなるです?」
「間違いなく解雇だ。いくら公務員とはいえ法を犯せば職を失うものだ」
「ならお金は回収出来ないと思うです。稼ぎが無くなるですから」
「そうだな。だから今僕はあいつに執行猶予を付けてもらえるように弁護士に話をつけて、その間の雇用先を探してやっているところだ」
「そんなことまでしてあげてるですか。狩人兄ぃは優しいです!」
悟利は狩人を聖人を見ているかのような目で見ていた。だが他の人達は不安の眼差しを向けていた。
「金錠様。まさかとは思いますがご自身の会社で雇われるのではないですよね?」
「まさか。それは僕の会社の評判にも関わるからな、ちゃんと高収入の仕事を斡旋するさ。そのパイプもある。―でもそうだな。もしかしたらそんなことをしなくてもいいかもしれない。いや、したら無駄になりそうだ」
直後狩人の雰囲気が変わった。そしてパソコンを閉じると
「能徒。少し一緒に来てくれ。星見、まだ大丈夫だよな?」
「うん。でもあまり遅くならないようにね」
「分かった」
「何かあるのか?」
「まぁ、少し野暮用だ。すぐに戻る」
ということで狩人が能徒とともに出て行った。それを不思議そうに見ている静也。だが少しして察した。
「そういうことだな? 月乃」
「うん。だから能徒を連れていったんだよ。もし気になるなら行ってみたら? 職員室だよ」
「そうしようかな。俺は見ているだけだけど」
そうして静也も二人を追うように出ていった。




