4-11 忠告は素直に
「なるほど。では体育館の使用は交代で。それを守らない場合は、その部活は罰則として活動停止にします。よろしいですね?」
「分かりました。男女ともに守るようにします」
次の議題は部活と委員会についてだ。その担当者は能徒叶である。彼女は生徒達の声を聞き、的確かつ冷静に判断して可否を下していく。
ちなみに今は男子バスケ部と女子バスケ部による体育館の使用について話している。それぞれには一コートずつ与えられており、校庭にもコートはあるものの、大会前だったり雨天の場合には使用権で揉めるのは周知の事実だ。現にそれで教師達が会議したり、収拾がつかなくなった生徒同士が争ったりもしていた。
「ちなみに、体育館を広くするというのは? 前に使用禁止になったのは改装工事と聞いています。その要領で増築するのはどうですか?」
「改装工事と増築工事は規模も予算もわけが違います。よって不可能です。体育館は仲良く使っていただくしかありません。どうぞご理解ください」
「……分かりました」
「では次の方どうぞ」
まるで診療のように言う能徒。表情も一切崩さないので本当に考えて話しているのか疑問に思ってしまう人もいるが、生徒会の仲間達はそれでも能徒が懸命に考え、言葉も選んで答えていることを理解していた。その証拠に生徒達から見えない位置で時折手をもじもじとさせているのだ。
「新しい部活を作りたいです」
「具体的にはどのような部活でしょうか」
「古典部や第二新聞部、オカルト研究部に隣人部、電機電子遊戯部です」
「最初の三つの活動については想像出来ましたが、後の二つは分かりかねます。部活の新設申請については各担任教師から用紙を受け取っていただいて活動目的を記入のうえで提出してください。その内容を生徒会で精査し、活動場所と顧問は付けられるかを現実的に判断したうえで結果をお知らせしたいと思います」
「分かりました。後で提出するので検討をお願いします」
彼もまた発言台から下りていった。そうしてまた別の生徒が発言台に立った。
「部費の使い道を明らかにしてほしいです。それと今月は何に使ったのかを公開してほしいです」
「なるほど。ですが、それは透明性を確保するために各部活内で公開する義務があるはずです。ご存じでしたか?」
「いいえ。多分他の人達も知らないと思います」
「そうですか。ちなみに、あなたはどこの部活に所属していますか?」
「野球部です」
「分かりました。では、ちょっとすいません。そこの方、発言台にお願いします」
と能徒がおもむろに一人の生徒を指名した。そして彼がそこに立つと質問した。
「あなたの部活はどこですか?」
「はい。テニス部です」
「部費の使い道や明細は明らかになっていますか?」
「はい、大会や合宿の遠征費や備品の購入など、全て公開されています」
「そうですか。ありがとうございます。戻っていただいて結構です。ご協力ありがとうございました」
そして野球部と言った生徒が再び発言台に立った。すると、能徒の雰囲気が変わった。
「野球部の顧問は発言台にお願いします」
「俺だが。部費の公開なんざ練習の邪魔なだけだ。余計なことを考えないように言わなかったんだ」
「そうですか。しかし義務となっています。それはご存じですよね?」
「知ってはいたさ。だが生徒が知って何になる? 無駄なだけだろ」
威圧的な雰囲気を出す顧問の大河内。現に大人としての独特な重圧を発していて能徒を黙らせようとしていた。だが、能徒は一切顔色を変えることなく詰め寄った。
「なるほど。しかし、先程質問があったということは部費の使い道を示す行為は生徒達にとって無駄ではないと思われます。そもそも義務です。お分かりですか?」
「思われますってことだけだろ。なら無駄かもしれないだろ」
「……ちなみにお聞きしますが、先生は用途不明金についてはどう思いますか?」
「額によるだろ。数百円とかなら別に」
「では、億ならどうでしょう」
「それは問題だ。何に使ったのかを示せってなるな。だからなんだ。何の意味があるんだ?」
「そういうことですよ。生徒達にとってその部費の用途不明金こそが億にも思えるほど何に使っているのかを示してほしいものなのです。もう一度申し上げますが、部費の使用用途の公開は透明性を図るという意味で義務です。そろそろご理解していただけますか?」
「部費は億もないだろ。なら示す必要はない」
何を言っても公開する気にはならないようだ。また、話も通じないようだ。そう理解した生徒会一同。それとともに生徒側も『この人はやべぇな』と思い始めていた。
そこで能徒が月乃の方を見た。すると月乃は一度だけ頷いた。直後狩人の方も見ると、彼もまた頷いた。それらの意図を理解した能徒は話を続けた。しかし、その声音は変わっており規律違反の者を断罪しようとするものになっていた。
「これが最後の確認、および忠告です。この場で気持ちを改めて公開する気はありませんか?」
「ない。示す意味が分からないからな」
「そうですか。とても残念です。では代わって私達が使用用途を示そうと思います。今ならまだ間に合います。気持ちを変える気はありますか?」
「ないって言ってるだろ! そもそもお前らに公開出来るわけがねぇだろ。部費は部活の口座に振り込まれるんだから」
「はい、そのとおり口座に振り込まれます。ということは、引き出せば記録が残るということです。そしてその時にあなたがどこにいて何に使ったのかも」
「はったりだ。そんな監視みたいなこと出来るわけがねぇ!」
「それが出来るんだよ。僕の力を使えばな」
するとそこで再び狩人が生徒会側の発言台に立った。その手にはノートパソコンがあった。
「金錠様」
「代わる。こういう輩には現実を教えてやったほうがいい。いいよな? 星見」
マイクの電源をわざと切っているためその会話は向こう側には届かない。だが、生徒会同士には聞こえるため、月乃がその確認に頷いた。
そういうことならと狩人が能徒に代わってマイクを握った。
「金錠。お前が社長だからって個人の資産を監視しようとすればタダじゃ済まされないぞ」
「そうだな。個人の資産ならな。だがよく思い出せ。僕の担当は何だ?」
「会計だろ? そんなことは分かってる」
「なら、毎月の部費はどこから出る?」
「学校だ。それがそれぞれの部活に振り込まれる。つまり何が言いたい? 嘗めてるのか?」
「まだ分からないのか? いいか? 部費は学校から各部活に向けて割り振られる。つまり、部活の金なんだよ。個人の金じゃない。つまりどういうことかというと―」
すると、生徒会側の発言台の両隣にスクリーンが出てきて全校生徒に見えるように何かが映し出された。それは次第に拡大されていき、その正体を知った時教師は焦りの顔になった。
「学校の金だ。僕の担当は会計。つまり各部活への配分や管理、その使用用途を明確に出来る権限を持っている」
「でもよ、通帳は俺が持ってる。確認のしようがないだろ?」
「このご時世での確認手段が物理的な通帳だけなわけがないだろ。各部活に渡しているキャッシュカードや通帳は特殊な仕様でな、全国どこでででもそれを機械に入れたらその場所や引き出し額が僕の管理パソコンに入るようになってるんだよ。つまり、金の不正利用をさせないために連動しているんだ。それでだ、今映しているのは野球部の通帳画面なんだが、一番上に先月分の振り込み額がある。これは学校から入れたものだ。それを追っていくと―」
「もういいだろ。いいかげんにしろ! 要はこれからは公開すればいいんだろ?」
「その通りだ。でもな僕は、いや、野球部を含めた校内の全員がその使用用途を知りたがっている。あなたはその用途をかなり知られたくないみたいだったからな。ならばこの際だから確認しておこうか」
「そんなことをして何になる! もういいだろ! 早く消せ!」
明らかに動揺し焦り始めた大河内がその場を離れてステージに向けて走りだした。だが、彼は急に停止して動かなくなった。
「まぁ、そう焦らなくても。確認したら消すから安心しろ。さて―」
「ふざけるな! どうして動けねぇんだよ!」
動けない理由。それは簡単だった。愛枷が支配欲求にて彼の行動を支配し停止させたのだ。狩人はそれを分かってはいるが何も気付かないふりでパソコンを操作し、スクリーン上の通帳の記載を全員に分かるように示した。
「振り込まれてから一気に半分が引き出されてるな。野球部はこの日に大会やら備品の購入はなかったはずだ。何に使ったんだ? 正直に言えばここでやめてやる」
「覚えてねぇよ」
「そうか。なら僕から。この日あなたはこの金を持ってここに行ってる。そこで全部使ったんだ」
すると片方のスクリーンに映されているものが変わった。そこには紛れもなく彼が映っており、その隣や周囲には複数の女性が座っていた。
「俗に言うところのキャバクラというやつだ。それから店を出たあなたは再びコンビニに行ってATMで金をおろした。それがここの記載だ。時刻も夜で、こんな時間に活動費で引き出すのはおかしい。だからそういう言い訳は通用しないと予め言っておこう。でだ、それからあなたは―」
「もういい!」
「もういい、とは?」
「言葉のとおりだ」
「つまり本来の目的以外に金を使っていたことを認めると?」
「使っていたんじゃない。少し借りたんだ。あとで返そうと思った」
「それは苦しい言い訳だな。―先生、まだそういう苦しい言い訳を続ける気か? それならこっちも相応のことで対処しないといけなくなるが、どうする? ちなみにこれは最終警告だ」
教師は沈黙した。その目は狩人をじっと睨みつけており、まるでその先を言ったらどうなるか分かってるだろうな?とでも言っているかのようだった。
無論、狩人はそんなことで怯みはしないので
「何も言わない、すなわち抵抗と理解した。そうか。なら仕方ない。あなたは引き出した金を持って―」
「待て! 抵抗とは言って―」
教師が狩人の次の言葉を止めに入った。だがそれは遅く、スクリーンには彼の次の行動についてが映し出されてしまっていた。それにより教師の顔面は蒼白となって抵抗はおろか完全に意気消沈してしまった。
スクリーンに映っているものを見た生徒達はざわついた。そこに映されていたのは
「先生。これは紛れもない犯罪だ。僕は前々から野球部の部費の異様な減り方に疑問をもっていたんだ。それで確認を続けていけばあなたの個人使用にいきついた。それで額が額だったために真偽を確かめるために警察と街に協力を要請し、提供された防犯カメラの映像を見て絶句した。それで、先生が道端でお金を渡している女性、この方は未成年だ。しかも素性を調べたら高校生だという」
「これはその……知らなかったんだ」
「それでもあなたがやっていたのは犯罪だ。まさか部費からここまで話が大きくなるとはな。だから能徒が言っただろ? 今ならまだ間に合うと。その時に素直に謝っておけば僕らもこうやって衆目に晒すことはしなかったんだ。人の忠告はしっかりと聞くことだな。―まぁ、そういうことだ。野球部の部費の用途ははっきりした。野球部には学校から一時金として部費を振り込んでおく。だが、それはしっかりとその犯罪者から取り立てる。以上だ」
そうして狩人がパソコンを持って自分の席にさがった。それによりスクリーンも収納され、完全に項垂れた大河内は数人の教師によって連れていかれた。もちろんそんな彼に対して生徒達は軽蔑と嫌悪の目を向けていた。特に女子から。
「で、では他に質問や意見はございますか? なければ一旦休憩に入りたいと思います」
司会者も驚きと動揺を隠せない様子だった。それでも全校生徒に対してそう問いかけると、生徒達はもう質問はない様子だった。よって休憩に入った。




