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十三話、ああ、わかっていたさ

 


 周囲を囲う巨木、その(うろ)や地をうねる根の隙間にたまに見える人工的に手が加えられたように整備された坂道や階段といった地下への入り口、それこそが今回の目的である遺跡の入り口だ。

 今回ミルンが選んだ入り口は第三階層までの浅いところで行き止まる入り口だ、地下深くへ行くほど通路が大きくなる遺跡では、共食いを繰り返し強くなった魔物や大型の魔物は獲物を求めたり、単純に行動しやすさを求めてより深く潜っていく傾向にある。

 たくさんの入り口と繋がる遺跡の中で出入り口が一つ、かつ浅い階層で完結しているここは強い魔物が限りなく現れにくい条件であるとして、普段から放置する期間を長めに設定されているため、新人が倒すのに十分な弱い魔物の数が用意できると踏んでの事だ。


「ここが今回の目的地だ、緋色、鳴、真中、統也の順で三体ずつ相手してもらう」


「私が最初ですか、三体っていうのは同時にですか?それとも一体ずつ倒しての合計ですか?」


「魔物の出方次第、同時に六体出てきたなら次の順番の奴と同時に戦って連携してもいいし、それぞれで戦いたいなら私が壁を作って分けてあげるよ」


「んー、魔物がちゃんと三体ずつ出てきてくれたら競争したのになー、速さならボクが一番なのはわかりきってるけどね!」


「じゃあ競争にしよう、敵の発見も含めて三体倒すまでの時間を競う。最下位には特別に宿題を出してあげよう」


「宿題って……なんですか?」


「期日までに伝承再現の魔法をいくつか覚えてもらうとかだね、魔法の方はこっちで選ぶから興味の無い話を読み込んだりしないといけない、しかも自分の自由時間を削ってだ」


 最後の自分の自由時間を削ってのところで真中の顔が青くなる、ダラダラと過ごす事、それに巻き込んで働きすぎな統也に一緒にダラダラさせる事を何より大事にしている真中にとって、それは非常に好ましくない事だった。


「興味の無い話を読み込むっていうのは確かにしんどいけど、興味がある話が来るかもしれないだろ?」


 統也が真中を励ますが宿題をやる前提な事が真中の問題であるため励ましのジャンルがズレている。


「そーそー!二人なら覚えるのも速いしいいでしょ!ボクと緋色は絶対に負けられない戦いになったんだからね!」


「うっ…そうだよね、私たちは物覚えが悪いから大変だよね、うん、負けられない」


 家事を分担している以上、そこに新たにタスクが入るのはこの二人も嫌なはず、となれば統也が負けてしまった場合に備えて先に負担を軽減する策を用意しなければならない。


「じゃあ……負けた人は変わりに家事を休む……でどう?」


「負けるつもりはない…ないけど万が一のためにボクは乗った!」


「私もその方が助かるかな」


「それは凄く助かるな、俺もそれがいい」


「じゃ……決まりで」


 家事を大きく、掃除、洗濯、炊事に分け、一つずつ受け持っている三人に対し全てに参加している統也の負担は普段から大きくなりがちだがこれで負けた場合でもそれほど負担が増えるわけではないと真中は安心する。


「話はまとまったかい?日常の事を忘れないのは心の安定のためにいい事だよ、特に今から行く非日常の中ではね、さあ、魔物と殺し合いに行こう」


 殺しに行くでも、倒しに行くでも無く、殺し合いに行く。それは先ほどの魔物の最期の生きたいという思い、殺される事への恨み、それらのこもった叫びを聞いた四人には胸にストンと落ちるもので、自然と戦いのために油断の一切ない集中した状態へと移り変わる事が出来た。


「私から、だね」


 遺跡の中は暗い、明かりが無いわけではない、発光する壁や燃え続ける燭台、というのも存在している事が入ってすぐにわかるが、だからと言ってそれで全エリアが見えるわけではなく、不気味な暗さを持っている。

 見えない、という状況では敵を探すこともできないと緋色は自身の周りに火を灯す。


 ヒタ…ヒタ…微かに音がなる。ヒタ…ヒタ…ヒタヒタヒタヒタ早く大きくなるその音の方に緋色が向いた時、それは既に自身のトップスピードで近づいてきていた。

 人間を上半身のみにしたような外見、顔には鼻がなく、口が異様に大きく縦に避けたそれが、逆立ちの要領で走ってきていた。


「うわぁ!燃えろぉ!」


 その見た目の不気味さに驚きながら放った炎は魔物の足を止めることもできず、ただ魔力の壁によって阻まれる。視野の確保のために出した炎は同じく視力を持つ相手にとっては自らの場所を教えることになったのだ。そして魔物は炎に一瞬怯みこそすれ、障害物と言うには威力が足りなかった。


「落ち着け私、撃ち落とせ灼薙(しゃくなげ)


 四つの魔法水晶による補助で炎の収束、固定、形状を槍へと変え、発射する。自身の中で素早くイメージするために名付けたそれはしっかりと訓練通りに作動し、今度は魔物の魔力障壁を撃ち破り、貫き、燃やし尽くした。


「一体目、いいねぇ、最初に中途半端な攻撃で接近を許したとはいえ、すぐに落ち着いていつも通りの力を出せた。残りもその調子でいきな」


「明かりに関してはどうしますか?」


「他に周りの状況を確認する手段があるなら使わない方がいいとも言えるし、今回のように早く目的の数を倒したいなら敵から来るようにつけるのもあり、状況次第だし下手に何もしないよりは奇襲に気をつけて視野確保してる方がいいんじゃないかい」


「わかりました」


 その後、明かりに釣られ同時に出てきた二体も、緋色は危なげなく灼薙(しゃくなげ)の名の通り同時に二本展開する事で薙ぎ払った。


「ぃよーし!次はボクの番だね!」


 言うやいなや、緋色が交代時に明かりを消した事で暗くなった周囲に再び電気で明かりを灯す。


「出てこーい!魔物ー!」


 そして大きく叫んだ。


「ちょ、鳴!?響いて耳痛いよ」


「ごめんごめん、明るくしたら来たんだし騒いだら来るかなーって」


「相手次第だね、今回は警戒して動かなくなったみたいだが良いこともあったよ」


「良いこと!?やっぱりボクは凄いね!」


「何が凄いの?」


「わからない!統也と真中はわかった?」


 鳴と緋色に目を向けられて統也と真中は考える、自分たちの番ではないからと意識していなかったが大声を出す利点というのがあるはずなのだ。


「大きな声が大事、なら反響?」


「そういえば……音が返ってくるのが違った……」


「てことは先に長く続く道が何となくわかる、とかですか?」


「正解だ、ちなみにあっちの方があんまり返ってこなくて第二階層に続く坂道がある」


「よし!じゃあいこう!」


 即断即決即行動とばかりに鳴は走り出す、他の面々もやれやれという風にその後ろをついて走る。第二階層に続くということはそこから上がってくる魔物や、獲物を求めて下ろうとする魔物もいるのでその過程で相手が反応するより速く鳴が雷を当てて三体殺した。


「うぇぇ……順番だぁ……魔物……気持ち悪い……やだなぁ……」


 統也が負けた場合の布石は打った、さすがに勝負に手は抜けないと思いながらも魔物の見た目が思っていたよりも気持ち悪くてただただ自分の順番が回ってきたことが嫌だと真中は愚痴をこぼす。


「でもでも〜!魔物多くなって来てる雰囲気するしちゃちゃっと倒せばいいと思うよ!」


「その分魔物が持ってる魔力も多くなってるから、そこは鳴みたいに気づかれる前に気づいて殺せるかも大事になってくるね」


 能天気に励ます鳴と冷静に話すミルン、おそらくミルンは最初から弱いが索敵が大事な前半に火力に優れた緋色と鳴を、後半に真中を、統也を最後にした理由がわからないが三人の順番に関してはそう考えての事だろうと真中は察する。


「まあ……頑張ります。我は狩るもの、いかなる闇も獲物を捉える我が(まなこ)(かげ)りを与えるに(あた)わず」


 頑張る、と柄にも無く言うやいなや真中は狩人の神ユミールの伝承再現魔法を使う。それは暗闇の中でも周りの景色をしっかりと見ることができる魔法、そして魔法水晶により作り出した第三の目にもそれは適応される。


「ねーねー真中ー、動かないのー?ボクたち何にも見えないし今魔物が襲ってきたりしたら普通に困るよ?」


「そこは私が守ってやるさ、素直に待っときな、明かりをつけるつけないは本人が決める事さ」


 少ししてから真中の魔法水晶が放っていた微かな青みがかった光が消える。


「三体殺しました……うぇ……」


「警戒させずに位置を把握して攻撃、暗視まで習得してるなんて予想外だよ、殺した魔物の確認さえとれれば最速だね」


「暗視は……絶対に便利だと統也と話しましたから……あの……すごく気持ち悪い魔物を殺したんですけど……あっちです」


 真中が案内した先にはたしかに魔物の死体が合計して三体あった。気持ち悪いと言っていた魔物は言うだけあり(ひる)のような見た目でサイズを大きくしたようなそれは体中に穴が開き死んでいる。


「よし、じゃあ最後は統也だね」


「わかりました、我は狩るもの、いかなる闇も獲物を捉える我が(まなこ)(かげ)りを与えるに(あた)わず」


 準備はできていたと言わんばかりに真中と同じく暗視の魔法を使う、違うのはそこから歩き出す事だ。

 曲がり角や分かれ道では警戒して顔だけを先に出すなどしながら、決して速すぎない何がきても対応できそうな速度を統也なりに維持する。


 そしてそれに遭遇する。

 曲がり角を曲がって視界に入った通路、一直線に見据えた先は明かりのある壁が連続していて誰にでもよく見える。

 ならば当然視力を持つタイプの魔物にとって戦いやすい場所であり、そこに立つ一匹の魔物も当然のように視力を持っていた。

 白い毛並みに血のように赤い瞳、口に並んだ牙も鋭い。遺跡に入ってからは異形の化け物が多かったが忘れてはいけない脅威の形、純粋な筋力、統也の接近戦というアドバンテージを無くす為に配置されたかのように、死体の山の上でそれは目を血走らせる。


 一匹の、しかしこの明かりあるエリアを縄張りとして視力ある魔物としての強さを示し続けた獣、白い猿が、数十の死体の上に


 ー立っていたー


「消えた!?」


 疑問に思うと同時に周囲に魔力障壁を展開して状況を見る、一本道の通路だ、視界から消えたとなれば考えられるのは頭上、予想通りそこに猿はいた。

 ミルンが細工したのかその意識は完全に自分にのみ向いている、魔物同士の共食いを繰り返したため魔力の量が多いのだろう、統也と同じ筋力と魔力の融合による移動法、それをさらに高いレベルで実現した猿は速さを今度は威力に変え天井を蹴り急降下する。


「そこだ!」


 今度は軌道を読んでいたため見逃す事はない、魔力消費を抑えるために頭上にのみ障壁を展開するがその威力の前に少し堪えた後に破られる、威力は下がったとはいえ強大な力の秘められた拳が統也に振り抜かれ、咄嗟に防いだ左腕が嫌な音を鳴らしながら体ごと吹っ飛ばされた。


「いっぎぃ!」


「うきゃきゃ!」


 あまりの痛みに顔を歪ませ涙まで見せながら地面に這いつくばる統也に対して笑う猿、あまりにも力の差が大きい、猿は自分が今回も狩る側に立つと確信する。

 しかし、その足元には一つ小さな玉がある。


 猿は勝ちを確信していた、骨を折った感覚がこれまであった勝利への感覚のそれであったからだ。それでいてすぐにとどめを刺しに行かないのはあくまでも警戒だ。初撃の奇襲、そこでダメージを負わせれば後は血を流すのを眺めたり、待つだけで勝手に相手は心が折れたり、無駄に障壁を作って魔力が無くなるのを経験として猿は知っていた。


 故に何が起きたのかわからなかった。一瞬たりとも目を離していなかったはずの統也(えもの)が消えたのだ、自身が行ったように高速で移動したのかと魔力障壁を出しながら頭上を見上げる、それが間違いだった。

 魔力障壁はただ魔力を放って壁を作るだけだ、統也の右手の水晶が銀に輝き、魔力を搔き消し、猿のがら空きの背中に触れる。音もなく、共食いを繰り返し強化された猿の魔力は無になった。


 考えるより先に猿は背後に向かって拳を振り抜いていた。

 統也は先ほど転がっていた場所に再度瞬間移動をして逃れる。

 ふり抜かれた拳は勢いそのままに壁にあたり、それを砕いた。


 数秒前まで確実に狩る側であったはずの猿は魔力を失い、なんとか魔力こそ消したものの左腕が折れたまま筋肉の化け物を倒さなくてはいけない統也。


 統也は今すぐ泣き叫びたい痛みの中で考える、戦況は決して良くないが勝ち目が無いわけではない。そして魔力消費は今の時点で魔力障壁を使った分他の三人よりも多いのは間違いない、これ以上無駄にしてはこの戦い方を選んだ意味がない。


「ああ、わかっていたさ。難しいことも、危ない事も、それでもやると決めたんだ」


 筋肉に対抗するため、統也の右手には軽く、振りやすい、普段から使っていてイメージのしやすい刃物、包丁が作られた。


 そして一人の魔法使いと一体の魔物は徐々に距離を詰めていく。

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