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十四話、いつもの事

 


 改めて、退治した猿の魔物はデカイ。身長は大人の男ほど、もちろんそれも統也よりも大きいのだが筋肉による横幅が威圧感を増している。

 統也はと言えば十歳の少年だ、身長は猿の胸あたりまで、筋肉は比べるのも烏滸がましいほど少ない、しかし武器に包丁。

 猿は魔物とはいえ心臓が機能を持って生きているのなら、大きな血管を切り裂けば血をなくし死ぬ。


 今まで猿が殺してきた魔物の中には刃物を持つものもいたのだろう、鋭い刃を持つ包丁に対する警戒が見て取れる。

 統也は当たり前のように猿の方が強いのを理解している、その上で極限まで魔力を使わずに勝たなければならないのだ。

 狙っているのは一振り、転移して死角からの一撃で首を切りつけ、大きな血管を傷つけ殺すこと。


 お互いにジリジリと距離を詰める今、統也にとって最高の瞬間へと近づいている。先ほど転移に使った球は猿の足下にある、先ほどの攻防でずれた位置が再び猿の背後を取れるよう、徐々に距離を詰めさせ、注意を引きつけるため自らも詰める。


 そしてその時が来る、背後を取った統也は声を発さず、極限まで音を殺し気配を殺し、飛び跳ね、勢いをつけ最高の殺意を持って包丁の刃を猿の魔物の首へと滑らせる。


「ぐぎゃぎゃぎゃ!」


 待っていた、と言わんばかりに猿が振り向く。先ほどの攻防で猿は既に学習していたのだ、消えればこいつは背後にいると。

 確実に自分が殺す側に回ったと思っていた統也はそれを一瞬理解できず、理解できないままに包丁を避けられ、逆に猿が放った回し蹴りをモロに受けてしまう。


「ゔぉえっ」


 折れた左腕に追い打ちをかけるように放たれたその蹴りの衝撃は、統也の内臓に酷くダメージを与える。そして統也はなにかを吐き出すかのような声を漏らし再び吹き飛び転げ回る。

 武器である包丁さえも手放し、立ち上がろうと四つん這いになろうにも、左手は折れ、右手は痛みに腹を抱えて土下座のような姿勢を取るのみだ。


「ぐぼっうぉぇえええ」


 そして、吐く。もはや痛みに耐えられないと戦意が消えかける。


「ぎゃひひ!ぎゃひひひひひ!」


 猿はその姿を見て、今度こそ自分の勝利は揺るぎないと喜びに顔を歪ませる。


「だず…だずげで…だずけてミルンさん!」


 みっともなく、涙を流しながら統也は隠れているはずのミルンに頼む、しかし返事すら返っては来ない。


「きひひ!けひひひひ!」


 猿は統也が落とした包丁を拾った、統也は痛みにどうにかなりそうな頭で自分の絶望だけは確信する。

 自分にはこんな痛みを堪えながら今から魔法で何かを作ることはできない。

 もしこれが緋色や鳴や真中ならそれぞれ得意な魔法を使えただろう、統也には集中せずに使える魔法はない、にじり寄る猿を倒す方法は既に無いというのに、助けは来ない。


「あんたがあの子達を守ってあげるんだよ」


 こんなタイミングでも、力のなさを思い知り、痛みに苦しむ今でさえ、何故か思い出すのは礼子の言葉だ。


「無理だよ、俺にそんなことできるわけない」


 さっさとこの痛みを終わらせてくれれば、もしかしたら殺される瞬間になればミルンが助けてくれるかもしれないなんて希望もあるというのに、猿は慎重に距離を詰める。


「あんたがあの子達を守ってあげるんだよ」


「無理だ、俺には何も無い!何か力があるなら!この魔力も何かに変われよ!」


 集中などできないのだから、緋色が炎出すように、鳴が雷を出すように、真中が水を出すように、魔力が何かに変われとただ叫ぶ。

 それは、どうでもいい変化だ、叫んだ時に涙も撒き散らさなければ気づけなかったかもしれない。

 涙が落ちるのが、酷く遅かった。何故だろうと触ろうとすると、自分の体の動きも遅く見えた。


 そこで統也は思い至る、初めて魔法を使った時、周りが一つの現実改変を行った時、自分は四回、複数回現実改変を終えていたのを。

 動こうとしなかったから、魔法に慣れていなかったから違和感など覚えなかったが今ならわかる。

 自分にも得意な魔法はあったのだ、相変わらず鳴には地味と言われるかもしれないがこれはそう、急に頭が冴えたのも合わせて考えるならば『思考加速』それが統也の、自身の魔法だと知る。


「でもさ、ババア…結局俺には力なんてないじゃねーかよ、こんな魔法でどうやってあいつらを守れるっていうんだよ」


 統也の加速された思考が礼子に自信が力を褒められた時の記憶をすぐさま導き出し、呼び起こす


「思いの乗った拳は何より強いんだ、なにせ体の芯に響く、力がどうとかじゃなくてそういうのは効くんだよ、あんたの真っ直ぐな拳はいいね」


 それはいつものように、くだらないことから喧嘩になって、殴り合った記憶。

 統也の口に笑顔が浮かぶ、左腕も腹も痛んで仕方がないが痛いのなんていつもの事(・・・・・)だった。

 何を弱気になっていたんだ、自分より大きい相手と戦うのもいつもの事(・・・・・)だった。

 そうだ、普段から自分はババア(礼子)と殴り合いをしていたんだ、それが当たり前でくだらない日常だったのだ。

 だから統也が痛みを堪えて立ち上がるのもいつもの事(・・・・・)で、加速した思考の中では猿の行動もよく捉えられるのだから、よく見て躱し、拳を固めてまっすぐ叩きつけるのもいつもの事(・・・・・)でしか無い。


 猿もまた、それに反応するのはいつもの事(・・・・・)だ、幸か不幸か魔力を消されてから時間が経ったことで猿は少しばかり魔力が回復していた、それ故に猿はいつものように統也の攻撃を魔力障壁で防いでしまったのだ。


 そしてそれは統也を相手にするならこの上ない悪手であった。

 魔力障壁に対し、統也は右手の魔法水晶を起動する。さらに加速した思考はより良い答えへと彼を導く。

 考えてみれば魔力を消すのに触れる必要があるのなら、そのまま倒してしまう方が良かったのだ、だからこの一撃がこれから先、いつもの事(・・・・・)になるように、名前をつける。

 銀に光る魔法水晶により相手の魔力を消し去り、得意の器用さで魔力放出と拳を振り抜く速さを足し、当たる瞬間、拳の一点から魔力を放ち威力を何倍にも高め撃ち抜く必殺の拳


撃ち砕く徹甲の銀拳(ピアシングフィスト)ォオオオオオオオ!!!!」


 真っ直ぐに、猿の胸へと撃ち込まれた拳は、その衝撃を心臓()まで響き、破裂させた。


 白い猿の魔物が絶命し、倒れこむと同時に四人(・・)の足音が響く。


「大丈夫かい!怪我を見せな!すまない救けにいけなくて!」


 どうやら情けなくも救けを求めた時にミルンが来なかったのは彼女の意思では無かったらしい、だが過ぎたことを気にしても仕方がない、何より自分はこうして必殺技を作れた上に自分の得意な魔法もわかった、感謝したいくらいだ。


「いえ…これで良かったんだと思います、だから気にしない-「統也ー!」-ぐぁああああ!!」


 統也の言葉を遮って鳴が跳びこんでくる、折れた左腕に衝撃が伝わりあまりの痛みに統也は叫ぶ。


「うわぁあああ!鳴の馬鹿ぁああああ!!」


 少し遅れて来た緋色がこれ以上鳴がいらないことをしないようにと統也から離すため鳴を突き飛ばす。

 好意からの行いで冷静でない鳴を統也からとりあえず引き離すのは間違いではない、ただ統也に抱きついた鳴を突き飛ばすとどうなるかを、緋色自身も焦って考えれなかっただけだ。


「ちょっ」


 戸惑いの言葉を口から発しながら鳴とともに倒れ込みながら統也は内心呟いた「許さねぇ」と


「危ない……もっと丁寧に……」


 冷静に水のクッションを統也の下に作ってくれた真中だけが統也の救いだ。


「鳴、助かった。本当にありがとう」


「統也……雰囲気が戻った?」


 腕が折れた痛みで余裕が無いのか、それとも何かが吹っ切れたのか確かに統也の雰囲気は無理をしている感じが抜けてどこか雑さが見えるような、礼子の事をババアと呼び喧嘩を良くしていた頃の雰囲気に戻っていた。


「んぁー、自分では雰囲気が違ってた自覚も無いけど、真中が言うならそうかもな?」


「うん……もどった、それはそうと体の方は大丈夫?」


「体は痛いけど平気だと思うぞ?変な音がしたのは腕くらいだし、腹の痛みはだいぶ治まってきてる」


「そっか……痛いんだ……それに腕も大変だししばらく身の回りの世話……任せて」


「いや、体は平気だし身の回りのことも片手が-「任せて……」-なんで?話聞いてた?怖-「大丈夫任せて」-はい」


 冷静だと思っていた真中も急に話を聞かない上に自分から動くなんてらしくない事を言い出しておかしいのだが、謎の威圧感に統也は従うしかない。


「もう尻に敷かれてるのかい…、まあいいとりあえず今日は帰るよ。あたしらを急に閉じ込めたナニカの存在も気になるし統也も怪我をしたんだ、とりあえず応急手当てをしてすぐに帰ろう」


 魔人であるミルンを閉じ込められるナニカ、報告のあった魔物(白い少女)、危険な要素が見られるここに研修生を連れて長居するのは良くない。

 それに十分に成果は得られたとミルンは帰還を選択した。


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