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十一話、大人の魔法使い

 


 陽の国は激戦区と呼ばれている、遺跡から地上に出てくる魔物の数も他の国に比べ少し多いが、それ以上に強く厄介な魔物が多いからだ。それ故に派遣される魔法使いも腕利きが多く、ミルンなどは通常の魔法使いを超え魔人というカテゴリにあたるほどだ。


 そして失踪から一週間が経とうとしているレイニーも、その友であり現在その行方を追い陽の国周辺を巡回しているこの男、グラッドもまた本部の魔法使いにも引けを取らないほどの強さであった。


「そう、俺は強い……油断もしていなかった、なのになんだ!この様はァ……ッ!」


 体中に傷を負っているが命や活動に支障が出るものは一つもない、とはいえそれは彼が強いからではない、遊ばれているのだ。たった一人の少女、いや魔物(・・)に。


「おにーさーん」


 右前の木に雷が落ち燃えた。


「隠れててもわかってるよー」


 左前の木には氷の刃が飛んでいき切り倒された。


「そこに止まってても無駄だよ?」


 覚悟を決めてもたれていた木から飛び出た瞬間、その木は地面から立ち昇る火柱に包まれた。

 グラッドの眼に映るのは未だ30mほど離れたところに立つ少女、白い髪に白い目、白いワンピースは右側の裾が僅かに焦げ、右手にも少しの火傷痕があるだけ。それ以外には何も、魔法水晶もないのに落雷に氷の刃に火柱を使ってみせたのだ、年齢からしてあり得ないほどの手練れ。それ以前に、こんなところに少女がいる事が、そして自分を殺そうとする事が異常なのだ。


「お前……なんなんだよ」


「ねーねー、この前のおにーさんみたいに新しい魔法見せて?ドカーンて凄かったんだよ?」


 手をさすりながら話を聞かずに、無邪気にそんな要求する少女は、されど聞き逃せない事を言う。

 爆破、特定の座標を明確にイメージして行うそれは、遠距離の相手を攻撃するのにも、音を使い意識を逸らすのにも便利なレイニーの十八番、この少女がなぜか自分の命を追い詰めている以上、レイニーももう無事では無いのだろう。


「特にね、最後のは凄かったの、やり過ぎちゃって死んじゃったのか見に行ったらね、ドカーンてとっても大きなのが来て、それで私の手がこんなのになったんだよ。熱いも、風も、音も凄くて、痛くて、たくさん教えてくれたの、おにーさんも教えて?世界を」


 目の前にいるのは少女でありながらどうしようもないほど魔物なのだ、それも自分が叶う類のものではない化け物。


「くそっ、本当に外は不便だな、電話やテレビが壁の外にもあれば楽なんだが……こんな化け物がいたら配線通すのも無理か」


 レイニーもきっとこんな気持ちだったのだろうか、自分の死を覚悟して、最後に放った爆発はきっとこいつを殺すため、そして狼煙でもあったのだろう。不幸なことにそれが服の裾と右手の軽い火傷程度で済むほど抑え込まれたのだろうが。


「見せてやるよ、ああ見せてやるとも」


「ほんと!?ありがとう!」


 この少女(魔物)は待ってくれる、故にまずは伝える、レイニーと違い魔法では代用できないため持っていた狼煙をまずはあげる、これで自分ある程度役目を終えたと言っていいだろう。ここから先は生き延びれるか、この少女(魔物)に何か印を残せるかだ。


「追い(すが)れ、撒き散らせ、(ぬぐ)えぬ悪意、醜女(しこめ)よ走れ、ここは黄泉(よもつ)の道行なり」


 伝承に残る言葉を唱え終わると白い少女の周りに現れた黒い(もや)が少女へと襲いかかる。


「なにこれ!?すごい!すごいすごい!痛いくらいに鼻に刺激がきた!これが臭い!」


 すでに魔力の障壁で防いでいるがあれは完全に捕まれば臭いによるマーキングができる、距離は30m、少女(魔物)は夢中、となればグラッドが取るのは逃げの一手、晴れた夜にしか使えない魔法。


「天の光は全て星、その威光こそが我が威なり、我は星、(あまね)く星の光は全て我である」


 星の綺麗な夜、自分が巡回に出ているなら寝ずにそれを見てくれている家族がいる、グラッドにとってなによりも心強い味方だ。

 自分から見える星を同じく見ている人を思い浮かべそこへ転移する伝承再現魔法、唱えきると徐々に星の光は彼の体を覆い、10秒ほどしてから彼は壁の内側へと消えた。


星の光が強くなり一匹の犬の横で人の形を作る、徐々に光が弱まるとともに人の形はよりはっきりとしていき、最後には完全に人となる。その姿を見た犬は尻尾を激しく振って飛びつく。


「いやー、疲れた疲れた。今日もありがとな、ペヌ。あれは俺の手に負えないわ、引退がどうのとか言ってるけどミルンさんに頼むしかないな」


 レイニーが死んだのは確実で怒りもある、事実噛み締めた唇からは少し血が出ているほどだ。それでもグラッドはこのペヌの為にでは無茶はできない、自分の命をかけても勝てないと分かっている相手に戦うことなどしない。


「大人になったもんだね〜、俺も」


 それが喜ばしいことなのか、友の死に対して仇を討とうともしない不義理な人間なのかはわからないが、魔法使いとしての我の強さは彼に語りかけていた。


「まあ、少しぐらい手伝わせてもらいますか、大人としてガキにやられっぱなしってのも無いだろうよ」


 自分の力であの少女(魔物)を殺せと。


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