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十話、机上研修

 


 統也のせいで真中の魔力が無くなり、回復するまでは模擬戦どころかまともに魔法すら使えないということで、机上研修となった。


「統也のバーカ!えろえろー!ボクに読んで何かを覚えるとかできるわけないだろー!」


「できるとかできないじゃなくてやるの!覚えるだけで強くなれるんだから!」


「何書いてるかもどんな意味かもほとんどわからないのに覚えられるわけ無いだろー!」


「そうは言ってもやるしかないんだからやるのー!」


「緋色だってさっきから全然進んでないし覚えられてないんだろー!」


「それを言ったらもう喧嘩するしかないでしょ!」


「やた!じゃあ模擬戦勝手にしちゃおう!」


 現在四人が行なっている机上研修の内容は過去にあったとされ、再現されたことのある魔法を覚えること。例えば鳴が見ているのは雷を使ったとされる神話の神、『トゥワニス』の雷を再現する魔法。

 トゥワニスが言ったとされる口上を述べ、完成形をイメージして魔力を使う事で再現されるそれは、口上を入れただけだが同じ威力を出すのに必要な魔力を大幅に軽減できている。


 世界へ自分の意思を押し付けるのが魔法であるならば、伝承に残る神が行ったとされるそれは超常の力を持つ者が起こした現象、現象を再現するのは無から有を生み出すより遥かに簡単な魔法だ。ということで知識を蓄えさせられているのだ。


「この模様……覚えても描ける気がしない……」


「何で描くかの指定がないなら真中は水で描くとかできないか?」


「そっか……魔法を使うためにも魔法……使えるんだ」


 鳴と緋色が騒いでいるのは完全に無視して統也と真中は二人で運用方法なども考えていく、やはり彼らにはこちらの方が性に合うのだ。


「統也も〜、模擬戦しよ〜?体動かそー!」


 いつのまにか席を立って統也の後ろまで来ていた鳴が首に腕を回してべったりと統也に張り付くがそれが間違いだ。


「最初から順に全部じゃなくて興味があるやつから覚えたらいいだろ、はい、席に戻る」


「ちょっ!その光って!んぁー!統也の意地悪ー!」


 先程までつけていなかったはずのグローブをいつのまにかつけている統也によって鳴も魔力を空にされる。


「緋色もやっとくか?」


「え、遠慮しとく……統也、いつの間につけてたの?」


「ん?鳴がひっついてきてからだぞ?これをこんな感じで」


「「「???」」」


 統也が左手にもグローブを着けるが、右手が左手の前を通り過ぎたと思えば着いているのだ、手に当たる前に減速するなどもなく、本当に通り過ぎれば着いている。


「いや、まあそこまで驚く事じゃ無いんだろうけど普通指その速さだと指が引っかかったりするよね」


「統也は器用……凄い……」


「そ、そうか?大したことないけど褒められると嬉しいもんだな」


「でも地味だよね〜」


 地味、統也が内心気にしている事だ。もともと何でもそこそこできるため特技という特技や得意な事もなく、髪の色も三人のように鮮やかではなく夜になれば闇に紛れる、前から何となく気にしていたが最近は魔力や魔法のことでますます気にしていたのだ。


「地味で……すまん……」


 統也は崩れるように椅子に座り込み顔を伏せる。


「うぇ!?そんなに傷ついた!?ごめん!えーと、落ち込まないでも統也も派手なとこあるよ!えーとえーと……ほら!ね!」


「そこはなんか例を出さないとダメでしょ、鳴」


「じゃあ緋色はなんか思いつくの!?統也の派手なところ!」


「…………」


「ほら!緋色も思いつかないんじゃん!」


 統也がガフッと声を漏らす、血は出ていないはずなのに真中には統也が血を吐いているようにも見える。目元に薄っすらと滲んだ涙に関しては間違いなく現実のものだ。


「二人とも……やめたげて……統也が可哀想……私はどんな統也でも好きだから……」


「今はその優しさも辛い……」


 真中に優しく抱きしめられた統也が絞り出した声は本当に切実だった。

 そんな微妙な空気をぶち壊してくれる何かが来ることを願ったところに飲み物とお菓子を用意すると席を外していたミルンが戻ってきた。


「真面目にやって……なさそうだね、面倒だろうが覚えて損はないよ、特に単純な破壊力じゃなくて変な効果のあるやつってのは本当に便利だ」


「魔法水晶の磁力みたいなやつとか?」


「もっと複雑さ、単純な力をオンオフするんじゃなくて相手を追いかけて縛り付ける縄とか、そういう複雑な動きを勝手にしてくれるやつから特定の条件で勝手に発動する罠まで、思考や視界を割かないといけない魔法の弱点を補うやつとかだね」


「それができれば自分が離れる時も誰かを守れるとか、どこから来るかわからない侵入者を捕まえれるようになるんですね」


「まあね、それこそ伝承の再現だからこの辺だと硬い甲羅をもった亀『甲亀』の硬さを再現してもそれを火で炙って閉じこもれないようにした『火兎』の話から火で簡単に壊せたりもするから対策は取られるし逆に取ることもできるってもんだけどね」


「それ知ってる!怠け者の亀だけど凄く硬い甲羅を持ってるから道で食べ物くれないと通さないぞー!って悪さしてたのを通りすがりのうさぎが邪魔だー!って燃やしてから自分で餌を探すようになったんだよね!」


 童話として残っているようなものまで伝承を再現する魔法として残っている、となれば鳴の目も輝きだした。


「知ってる話の勉強なら楽しめそうかい?」


「うん!」


「なら裏方にどんな話から伝承再現ができるか聞いてきな」


「はーい!」


「あ、待って鳴!私も一緒に行く!」


 そうと決まればすぐに行動と鳴は走り出す、真面目だが覚えるのが苦手な緋色もそれなら覚えられそうだとついて行く事にした。


「あんたらはいいのかい?」


「僕たちは覚えるのは得意ですし、使い方を考えてる方が楽しいですから」


 統也の答えは目上の人に対しての接し方という事でまだ硬さを感じる、それを少し悲しいだとか憐れだとかそんな心持ちで聞きながらも内容自体に問題はなく、隣でこくこくと頷いているから真中も無理につきあってる訳でも無さそうだ、となれば今はミルンに手出しできることはない。


「そうかい、じゃああたしは走ってったあの子たちのとこまでこいつを届けてくるよ」


 当初席を外した目的であったジュースとお菓子を二人分残してミルンは立ち去った。

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