帰り道その三と合流その三
始祖さんのトンネルを埋める魔法は、土で兵士を大量に作り、それをトンネル内に送り込むものだった。
俺は想像する。
生まれた土の兵士が頑張ってトンネルを前進、所定の位置で三角座りをして土に戻る。
それが次々と……
駄目だ。
残酷過ぎる。
「いや、本当に生命が宿るわけじゃないんだけど……」
目の前には十体ほどの土で作られた兵士。
良い感じに強そうだが……
駄目だ。
感情移入してしまった。
抵抗。
始祖さんと話し合う。
その横で興奮しているのがウルザ。
始祖さんの作った土の兵士に興味津々……いや、真似をして作ろうとしている。
しかし、上手くいかない。
「方法は正しいけど、性質が変化してるから」
俺と始祖さんは話し合いを中断し、ウルザの方をみる。
「性質?」
「死霊王だった頃なら、あれでできるよ。
でも、生き返っちゃったからね」
「じゃあ、無理ってことか」
「別の方法で作れるけど……多分、あの大事に持っていた土兵の核を使いたいだろうから……村長の助けがいるかな。
まず何かで形を作って、それに土兵の核を与え、融合させれば……」
「俺が形を作れば良いのか?」
「うん。
ただ、素材はできるだけ上質な物で。
サイズは……小さい方が成功しやすいんじゃないかな」
了解。
素材素材……
トンネルを埋める方法に関しての話し合いは、後で再開する予定。
とりあえず、ウルザと相談しながら素材を選ぶ。
土、木、岩……
草なんかでも形は作れるだろうけど脆そうだ。
横からハクレンが、自分の鱗を持ってきた。
素材としては悪くないだろう。
だが、ウルザはハクレンの鱗を無視し、土を希望した。
泣くなハクレン。
後で慰めてやるから。
土……
この辺りの土は、大樹の村の周辺に比べれば柔らかいが、まだまだ硬い。
それに素材としては上質な物が良いと言っていた。
なので【万能農具】で土を耕す。
程良い感じになった土に水を加え、泥の人形を形作る。
うん、なかなかの出来。
だが、ウルザのウケは良くなかった。
ウルザは俺の真似をして、泥の人形を作り出す。
十五センチぐらいの弱そうな人形。
ウルザが目を輝かせているので、これで良いのだろう。
俺はあまり役に立たなかったな。
後は始祖さんがサポート。
ウルザは始祖さんの指導に従って、呪文を唱えていく。
……
俺より遥かに才能がありそうだな。
十分後ぐらいに、ウルザの前でヨチヨチとあるく泥人形……いや、土人形があった。
ウルザは喜んで抱きついているが……汚れる汚れる。
って、壊れてる壊れてるっ!
強く抱きしめ過ぎっ!
改良。
ウルザの土人形に、ハクレンの持ってきた鱗を砕いた粉を混ぜ込んだ。
これで強度がアップ。
水に濡れても溶けたりしないらしい。
「竜兵並の戦力になったけど……」
始祖さんがそう呟くが聞かなかったことにする。
ちなみに、竜兵とはドラゴンが自分の血肉から生み出した兵士のことで、強さはグラップラーベア並とのことだ。
ウルザの護衛にはいいのかもしれない。
ハクレンの鱗で抱きついても壊れなくなったとウルザに伝えたら、素直にハクレンに感謝しにいった。
良い子だ。
その感謝を受けてハクレンはいつもと変わらぬ笑顔だが……鼻歌が出てるのでご満悦のようだ。
この調子で仲良く……
いや、焦りはよくない。
気長に考えよう。
「トンネルを埋めるのは中断。
村に帰ることを優先しようか」
始祖さんとの話し合いで、その方向になった。
なんだかんだで各地で長々と滞在したため、冬が近い。
いい加減、寒くなってきた。
ラスティたちがマクラを連れて戻ってくれば、そのまま始祖さんに頼んで村まで転移魔法で送ってもらおうと考える。
「トンネルの一部だけでも崩して、魔物などの巣にされないようにしたらどうでしょう?」
鬼人族メイドのアンの提案を受け、サックリとトンネルの一部をルーやフローラの魔法で攻撃して崩落させる。
計算通り。
というには広範囲に崩落したみたいだけど、誰にも迷惑を掛けていないので問題無し。
純白になっている創造神様の像のある場所にも影響なし。
ちなみに、創造神様の像のある場所は神々しい感じになっている。
聖地みたいだな。
ラスティたちが戻ってきていないが、村に帰ることになった。
気温が一気に下がったからだ。
ザブトンの子供たちの動きが鈍くなったので、のんびりしてられない。
温泉地から確保してきた保温石を個々に持たせながら撤収準備。
イカダは置いていくが、丸木舟は持って帰りたいので川からハクレンがドラゴン姿で運んでくる。
巨大なドラゴンに、細々とした作業をさせて申し訳ないと思うが……
ラスティは川で遊んでいた時に嬉々としてやっていたな。
温泉地はあのまま残してきたが……次に行く時まで無事に残っているだろうか?
厳しいだろう。
魔物や魔獣が多いみたいだし。
また行った時に直せばいいか。
荷物をまとめ、始祖さんの転移魔法により村へ戻った。
俺たちの帰還場所は屋敷の中庭、大樹の木の近く。
なので村の者たちに俺たちの帰還が伝わるのが遅くなるだろうと思ったが、甘かった。
ザブトンの子供たちが一気に連絡したらしい。
屋敷に村中の者たちが集まってきた。
なぜかいたドライムが一番嬉しそうに俺を出迎えてくれたのは、どうしてなんだろう?
ともかく、冬の準備がほぼ終わっていることもあり、そのまま宴会になりそうだ。
いやいや、待て待て。
ラスティたちとマクラを迎えに行ってくるから。
始祖さんには申し訳ないが、俺に付き合ってもらう。
村のことは留守番組にそのまま任せ、転移魔法で巨人族のダンジョンに向かう。
俺と始祖さんだけで十分と思ったが、ルーとティア、ハクレン、それにクロとユキが同行してきた。
ラスティたちとマクラを迎えに行くだけで、すぐに帰るのだが?
過保護じゃないかな?
まあ、でも万が一があるか。
考えてみれば、ラスティたちが戻ってきてないわけだしな。
何かあるのかもしれない。
巨人族のいるダンジョンの出入り口に到着したが、変化はない。
……
しまった。
行けば出迎えがあると思い込んでしまったが、そうじゃないみたいだ。
気温が下がったし、ダンジョンの奥に移動しているのかもしれない。
うーむ。
ダンジョンに入るしかないか。
ルーたちがいてくれて少し心強い。
洞窟内は明かりがなく、魔法で照らしてもらう。
ダンジョンというから人工的な感じをイメージしていたが、ここは天然の岩の隙間といった感じだ。
所々に横穴があり、それには作為を感じる。
巨人族やブラッディバイパーが掘ったのかもしれない。
道は……誰も知らなかったが、クロとユキが迷わずに先導してくれる。
匂いかな?
……
ある程度進むと、クロとユキが警戒し始めた。
少し遅れて、ルーやティアが警戒する。
ハクレン、始祖さんは悠然としたものだ。
ちなみに俺は、何も感じない。
そのまま歩みを進めると、音が聞こえてきた。
……
何かが戦っている音だ!
「ハクレン」
「まかせてー」
事情を知らぬ者がみれば、俺は危ない場所に女性を一人送り込む鬼畜に思われるだろうな。
などと思いながら、ハクレンの後を追うように移動する。
到着した場所は広い空間だった。
そこでドラゴン姿のラスティとザブトンの子供たち、そしてマクラを確認した。
全員無事だ。
一安心。
そして、ラスティたちが戦っている相手がいた。
虫だ。
馬鹿でかい虫。
全長はわからないが、ドラゴン姿のラスティに対抗できるサイズだ。
頭部に大きい牙が二本ある。
足も多いし、ムカデかな?
それが数匹。
奥からこちら側に向かってきているのをラスティたちが食い止めている感じだ。
「ハクレンお姉様。
炎は駄目です」
参戦したハクレンが炎を吐こうとしたのを、ラスティが止めた。
「なぜ?」
「後ろに巨人族たちがいます」
洞窟内での炎は厳禁というヤツだな。
ハクレンは納得したのか、人間姿のままでムカデに殴りかかった。
その打撃をムカデは嫌がるが、ダメージを与えたように感じられない。
マクラやザブトンの子供たちが出した糸がムカデの動きを封じ込めようとするが、少しの間ぐらいしか止められないようだ。
「全員、目をつぶれ!」
始祖さんがそう叫んで魔法を放った。
いきなりだったので少し遅れたが、なんとか間に合った。
だが、閉じた瞼が眩しかった。
その眩しさが収まったのを感じて瞼を開けると、苦しんでいるムカデたち。
チャンス!
しかし、暴れている。
近づけない。
そう思ったら、ドラゴン姿のラスティがムカデを足で押さえつけた。
それを見て、ハクレンもドラゴン姿になってムカデを足で押さえつけた。
俺は【万能農具】でムカデたちを耕した。
学習。
ムカデは一部を耕しても動く。
しぶとい。
【万能農具】で耕されることでラスティの足の押さえつけから解放されたムカデの身体が、俺に向かってきた。
それを助けてくれたのが、ルーとティア。
彼女たちは油断なく、俺のガードに徹してくれていたようだ。
すまない。
助かった。
そして成仏するがいいムカデ。