シャシャートの街のマーロン
私の名はマーロン。
マーロン=ゴロウン。
人間。
人族とも言われる。
年齢は四十とちょっと。
子供は三人。
ゴロウン商会の現会頭の長男でもある。
……
私は次期会頭ではない。
うん。
父がいろいろと画策しているようだけど、関係ない。
私は会頭の器ではない。
私がそう言っているのだから、そうなのだ。
私は大樹の村を相手にするには力不足。
ドラゴンの相手も無理。
でも、大丈夫。
会頭である父は、引退する引退するって言いながら精力的に働いているから。
以前に比べて、父はちょっと若返ったんじゃないかなって思うこともある。
誰か、薬でも盛ったか?
魔族には効き目が薄くても、人間である私たちには効き目が強い薬って多いんだぞ。
なんてことをするんだ。
いいぞ、もっと盛れ。
そして父よ。
前はあと五十年頑張れとか言ったけど、いまは違う。
あと十年。
あと十年でいい。
十年、父が頑張ってくれたら、私は年齢を理由に会頭就任を辞退できる。
会頭は私の息子に任せたらいい。
父は私の息子に甘いから継がさないとか言ってるけど、そこは私が無理に通す!
次期会頭は私の息子。
この野望!
私は必ず成し遂げてみせる!
とまあ、ゴロウン商会の次期会頭になることは断るけど、だからといってゴロウン商会に不利益を与えるようなことはしない。
ちゃんと働く。
商売は好きだから。
とりあえず、いまの私の最重要な仕事は、大樹の村から派遣されたミヨ殿との連絡窓口。
なにせ、ミヨ殿はシャシャートの街の代官の秘書みたいなこともやっている。
あれ? それって代官の仕事じゃないの? ってことまでやっていることもある。
シャシャートの街に本拠地を置くゴロウン商会としては、ミヨ殿との関係は大事。
もちろん、ビッグルーフ・シャシャートの中心店であるマルーラの店長代理であるマルコス殿と、その妻のポーラ殿のことも忘れない。
この二人も、大樹の村から派遣された重要人物だから。
個人的に護衛を雇って、密かに守っている。
ミヨ殿にはそんなことはしていない。
しようとしたら、即日バレて不要と言われてしまったから。
まあ、ミヨ殿は見た目は幼女だけど、そこらの冒険者より強い。
護衛など邪魔なだけだろう。
だからと言って、なにもしないのも問題。
なにかあったとき、なぜ護衛をつけていなかったのだと言われたら困る。
困ったのでミヨ殿にそう伝えた。
「それなら仕方がありませんね」
密かに守る護衛ではなく、堂々とした護衛をつけることを許可してもらった。
とても助かる。
でも、ミヨ殿につけた護衛たちがミヨ殿の部下というか手足というか雑用を押しつけられているように見えるのは……
見なかったことにした。
私はマーロン=ゴロウン。
余計なことは言わない男。
ああ、護衛の話はミヨ殿がシャシャートの街に来たころの話だ。
もう八年~九年ぐらい前になるかな?
時間が経ったものだ。
最近の話をしよう。
シャシャートの街には大きな変化があった。
飛行船だ。
五村とのあいだを飛んで、人や物を運んでいる。
シャシャートの街と五村は転移門で繋がっているが、あそこはいつも渋滞しているからな。
飛行船での輸送は、かなり助かっている。
そして、追尾荷車。
魔道具で、印を持つ者に自動で付いていってくれる荷車。
シャシャートの街の近郊では、使用している者が増えた。
おかげで荷運びの効率が上がった。
とても助かっている。
シャシャートの街の港にも、大きな変化があった。
コンテナだ。
コンテナは最初はただのでかい箱だと思っていたが、統一された規格の頑丈な箱だとわかり、港湾関係者がざわついた。
ゴロウン商会もだ。
コンテナの大きさはほどほどの宿の一部屋ぐらい(三メートル四方)だけど、同じ規格というのはいい。
船に積みやすいということだ。
さらに、コンテナの横にはコンテナのナンバーが書かれており、荷の管理がしやすい。
使ってみたらわかる便利さ。
弱点は、船でしか運べないことかな。
港に設置された巨大な滑車装置でコンテナの積み降ろしはできるが、そこから先が問題。
このコンテナ、荷馬車や追尾荷車に乗せるには大きい。
なにより重い。
なにせコンテナは鉄製。
いや、合金製かな?
頑丈さの割には軽いのだが、それでも人の手では動かせない程度には重い。
力自慢の巨人族とか、ミノタウロス族が押して動かせるぐらいかな。
そのコンテナになかの荷が加わると、多目的人型機動重機でも持ってこないと、どうしようもなくなる。
このままでは、コンテナは港で倉庫として使い、倉庫のまま船に積んで運ぶことしかできない。
それはそれで便利だけど、それではもったいない。
もう少し小さいサイズのコンテナはないのかとミヨ殿に相談した。
そう、このコンテナ。
大樹の村の発明だから。
しばらくすると、私の意見が通ったのか小さいコンテナが登場した。
大きいコンテナに八つ、ピッタリおさまるサイズのコンテナが。
このサイズなら荷馬車でも、追尾荷車でも運べる!
流通革命!
このコンテナは、いくつ用意できるのだろうか?
五村のゴーレム工場で作っている?
あの工場、すごい勢いで大きくなっていくな。
便利だからよし。
なにも問題ない。
あ、コンテナのゴロウン商会への割り当ては?
おおっ、そんなに!
父が交渉したのね。
さすが父だ!
そして、父は大きいコンテナを専用で積載する船も発注済と。
うーん、父にはかなわない。
やはり私は会頭の実力はないな。
うん。
あと、これは最近の話ではないのだが……
魔王国では美容品が流行した。
以前から美容品は流通していたのだけど、魔王国では魔族が多いから。
そう、魔族はあまり美容に気を使わない。
基本的に魔力の保持量が多い魔族は、老けにくい。
つまり、肌が若い。
だから、美容に対する執着が弱い。
一部の貴族は熱狂的に使うけどな。
そういった人たちは老いがどうこうではなく、より美しくということだろう。
なので、以前からある美容品はお金持ちの貴族をターゲットにしたものばかり。
庶民向けの美容品を販売している店もあるにはあるが、それなりの値段がするのでほぼ常連客で固まっている感じだ。
そんなところに、五村で新しい美容品が登場した。
コンセプトは、美容とは健康。
健康な肉体は美を兼ねる。
そういったキャッチコピーで登場した美容品類。
正直、美容品ではなく薬ではないかなと思ったけど、美容品として売っているから美容品なのだろう。
薬で売り出すと、薬関係のギルドが口を出してきて面倒になるからな。
ああ、薬関係のギルドが口を出すのは上納金や儲け云々ではなく、安全を重視しているからだ。
偽の薬とかが流通して、流行病とかを抑え込めなかったら困るしな。
幸い、美容品として売られている薬は、そういった流行病対策の薬ではない……あれ?
流行病対策の薬もあるんじゃないかな?
いいのかな?
薬関係のギルドが口を出せない人物が関わっているから、大丈夫?
あ、この薬も大樹の村関係なんだ。
納得。
そして、この美容品扱いの薬には私も助けられている。
頭髪とか水虫の薬のことではないぞ。
私が助けられたのは、口臭防止の薬。
この薬を知る少し前、娘と話をしているときに言われたのだ。
「お父さんのお口、臭い」
と。
あのときは座っていたから笑ってすまんすまんと言えたが、立っていたら膝から崩れ落ちたはずだ。
それぐらいショックだった。
その日から、口臭対策を講じるぐらいには。
だが、効果は薄かった。
食べるものにまで気を使ったのに。
歯もしっかり磨いたのに。
妻は臭いことありませんよと言ってくれたが……
娘との距離が遠い。
遠すぎる。
そんな絶望に打ちひしがれているときに、美容品扱いの薬の登場。
口臭防止の薬はなかったが、美容品のラインナップからあると思った。
これは商人の確信。
そして、やはりあった。
買った。
使った。
娘との距離が近くなった。
あんなに嬉しいことはなかった。
ありがとう。
大樹の村と五村。
美容品扱いの薬を出してくれて。
大きな声では言えないけど、水虫の薬はシャシャートの街の男たちに大人気だ。
しかし、ゴロウン商会はこの美容品扱いの薬の販売に関わることはできなかったのだろうか?
聞いたことがない商会が販売を仕切っているらしいが?
え?
五村の村長代行のヨウコさまの眷属が関わっている商会?
そうなの?
しかも、その美容品扱いの薬の事業に、大樹の村の村長のご子息のアルフレートくんが関わっている?
なるほど、それじゃあ、さすがの父でも無理は言わないか。
父から大樹の村の村長は温厚だけど、その周囲はそうじゃないから絶対に調子に乗るなって言われてるし。
ドラゴンとかインフェルノウルフの群れとか、アラクネのアラコさんを見て、調子に乗れる人がいるならぜひ目の前に連れて来てもらいたい。
ゴロウン商会の次期会頭として鍛えるので。
話を戻して。
口臭防止の薬。
増産を頼んでいる。
同じことを悩んでいる者も多いはずだ。
きっと売れる。
娘を持つ父親を救ってほしい。
そして、次は体臭防止の薬をお願いしたい。
口臭を気にして解決したら、今度は自分の体臭が気になって。
香水はつけてはいるけど、これも扱いがむずかしい。
あるんでしょ?
体臭をなんとかする薬。
娘に臭いと言われる前になんとかしたいんだ。
妻は大丈夫って言うけど、一度、気になったらもう……
私の名はマーロン。
娘から嫌われたくない、ごく普通の父親だ。
マーロン息子「父は僕のことが嫌いなのだろうか?」
マーロン 「期待しているだけだ。頑張れ」
村長 「20フィート(6メートルちょい)コンテナは無理?」
ガット 「作れますけど、誰も運べませんよ」
ヨル 「空荷ならともかく、中身があると多目的人型機動重機でも運ぶのは手間かと」
ベル 「専用の飛行船を作れば、なんとか……」
村長 「仕方がない。半分にしよう」
ガット 「それでも、船への積み降ろしは大変かと」
ヨル 「大型のクレーンを用意しないとですね」
村長 「まあまあ、やってみよう」
ミヨ 「まだ大きいと現場からの声が」
村長 「……さらに小さくしよう」
ミヨ 「いまのコンテナに八つおさまる感じのサイズがいいと思います」
村長 「なるほど。いまのコンテナが無駄にならない。採用」




