レイワイト王国のパンナ嬢 ふたたび
ごきげんよう。
私はレイワイト王国、シルバーシルク伯爵家の長女、パンナコア。
パンナコア=シルバーシルク。
どうぞ、親しみを込めてパンナとお呼びください。
さて、私は王子たちのトイレ事業を手伝っております。
手伝うのは私だけでなく、多くの貴族令嬢が参加しています。
心強いかぎりです。
ですが、なぜ貴族令息は参加していないのでしょう?
王子たちに人望がないのでしょうか?
違います。
資料館の罠……失礼、資料館の試験を突破できなかったのです。
これには、王子たちだけでなく、報告を受けた王子たちの親も頭を抱えました。
武勇を誇り、軍を動かすのは大事ですが、考える頭も大事です。
とくに簡単な計算でつまずくのは困ります。
将来、領地を経営するときはどうするのでしょうか。
……
ああ、だから夫人が領地で奮闘するのですか。
なるほどなるほど。
貴族令息の教育に関して、改革が必要だと思います。
ですが、教育は個々の家でやっていますからねぇ。
国は学ぶための施設を用意しているのですが、そういった場所は希望制。
剣を振りまわす貴族令息が、喜んで通うとは思えません。
親に無理やり叩き込まれたとしても、学ぶ姿勢がなければ身につきませんしね。
王家が強権を発動して、一定の学力を持たせるようにしてもらいたいものです。
ああ、貴族令息の全員が愚か……失礼、考えなし……違った、えーっと、武勇……そう武勇。
貴族令息の全員が武勇だけを誇るわけではなく、ちゃんと計算に強い者もいます。
ただ、そういった人は王家が優先的に囲ってしまっているので……
そうですよね。
国の運営は大事ですから。
嘆いてもしかたがありません。
やれることをやるだけです。
幸い、なんとか事業は前に進んでいます。
先はまだまだ長いですが、少しずつ綺麗なトイレが広がるのは、嬉しいことです。
そのように私が事業に邁進しているとき、シルバーシルク伯爵家は事件に巻き込まれていました。
私はなにも知りませんでした。
父も母もです。
私や父や母が知ったのは、賠償金の話がされたときです。
なんのことかと混乱しているうちに、コーリン教が話をまとめて事件は解決となりました。
予想よりも多い賠償金を受け取ることになった父は、かなり困惑していましたが……
シルバーシルク伯爵家に被害らしい被害はありませんし、お金はあるほうが嬉しいです。
私はすぐに受け入れました。
父と母は時間がかかりましたが、こちらも受け入れました。
屋敷で出される食事の質が、わかりやすくよくなりました。
少しして、レイワイト王国に大きな変化がありました。
派閥が統合される動きです。
レイワイト王国は三つの王家とコーリン教で構成されています。
それゆえに派閥は多数あり、その派閥の関係は複雑です。
さらに、普通は一つの家で一つの派閥に属しますが、レイワイト王国では夫と妻がべつの派閥に属することは珍しくありません。
これは夫婦仲が悪いのではなく、いろいろな派閥から力を借りやすくするためです。
その派閥が、統合される動き。
シルバーシルク家は父も母も中立を掲げ、特定の派閥に強く関わっていないので、関係ない話だと思っていたのですが巻き込まれていました。
それだけではなく、いつのまにか統合された派閥の上層に位置しています。
なぜに?
それに、今回の派閥の統合を進めた中心人物であるゴドレイク伯爵家とブラックリバー伯爵家が上層に位置していません。
なぜでしょう?
そのあたりを質問したいのですが、さすがにただの小娘である私が聞くのは憚られます。
観察して推察することしかできません。
幸いにして、今日は派閥統合のパーティーです。
……
ゴドレイク伯爵やブラックリバー伯爵は、笑顔ですね。
なにやら、長年の悩みが解決したかのような。
すがすがしい顔をしています。
なぜ、足や頭を自慢しているのでしょう?
そして、ゴドレイク伯爵夫人やブラックリバー伯爵夫人は、とても疲れた顔をしています。
なにやら想像を絶する苦労があったのでしょう。
ただ、気になるのですが……
とても疲れた顔をしながらも、ゴドレイク伯爵夫人やブラックリバー伯爵夫人の肌は若々しかったのです。
遠目で見てもわかるぐらいに。
髪の艶もいいですし、少し若くなったようにも見えます。
これは……ゴドレイク伯爵夫人やブラックリバー伯爵夫人だけではありませんね。
パーティーに参加している、ほかの大物貴族の夫人たちも同じような感じです。
うちの母は……あれ?
あの、お母さま?
いつのまに?
その肌は?
ピチピチですよ?
若返ってません?
娘の私が驚くぐらいに。
まさか、前に私から取り上げた試供品……いえ、お譲りした試供品の効果ですか?
い、いえ、私が使ったときはそこまでの効果はなかったはず……
私の肌が若いから、効果がなかった?
そして、若くない母には過剰に効果があったということで……
母の高速攻撃により、私はダウンしました。
失礼しました。
お母さま、その肌はどうされたのですか?
「アルフレート美容品店の話は聞いていませんか?」
やはりアルフレートさまからいただいた試供品ですか?
お店のことは聞いていますが、開店はまだ先のはずですが?
「ふふふ。
開店前に手に入れることができました」
おおっ。
「そして、試供品よりも高性能でした」
さすがアルフレートさまの扱う美容品です。
「ええ。
ですが、貴女にはまだ不要ですよ。
若いのですから」
いえいえ。
アルフレートさまは言ってました。
肌は若いときの手入れが大事と。
母の攻撃が速すぎてかわせません。
私はまだまだということでしょう。
鍛えなければ。
その決意を横に置いておいて。
お母さま。
独占はズルいです。
私もほしいです。
「……わかりました。
貴女にも渡しますよ」
ありがとうございます。
「ですけど、一つだけ約束しなさい」
約束……ですか?
「ええ。
むずかしいことではありません。
アルフレートさまに迷惑をかけないように」
?
そんなこと、約束するまでもありません。
アルフレートさまはシルバーシルク伯爵家を救ってくれた恩人。
迷惑をかけたりはしません。
「なにがあってもですよ」
もちろんです。
そう私が言った数日後に、アルフレートさまの美容品店の前で、パーティーが開かれました。
アルフレートさまの美容品店の開店を祝ってです。
昼の野外パーティーですが、大勢の者が参加しています。
貴族スペースと、平民スペースはべつになっているのですね。
本来はトラブルを防止するため、同じお祝いのパーティーでも貴族と平民はべつの日にするものですが、このパーティーの手配をコーリン教のフーシュさまがしているので一緒になったのでしょう。
まあ、誰も文句は言いません。
こういったパーティーに参加する平民は騒ぎませんし、レイワイト王国でフーシュさまに文句を言える人は限られていますから。
おっと、そろそろ父の出番です。
統合された派閥の上位にいるので、挨拶をするようにフーシュさまに言われたのです。
父は緊張しているようですね。
私は少し離れた場所から、頑張れと応援します。
……
大きな影が空を覆ったと思ったら、混代竜族が飛んでいました。
……………………………………………………
え?
混代竜族?
私は初めて混代竜族を見ました。
ですが、あれは話に聞く混代竜族だと理解できました。
圧倒的な存在感と力を感じます。
混代竜族の前では、私たちなど塵のようなものでしょう。
尻尾の一振りで、私たちの命など簡単に刈られてしまう。
あまりのことに、私は恐怖に震えることすらできません。
震えてしまうと、混代竜族の気を引いてしまうと恐れてです。
じっとしていれば、飛び去るに違いないと信じました。
ですが、混代竜族はパーティー会場になっているお店の前に着陸します。
なぜ?
どうして?
私、なにか悪いことをしました?
もしくはこのパーティー会場にいる誰かが?
出てこいっ!
殴ってやる!
混代竜族をなんとかして!
んんん?
アルフレートさまが、混代竜族に声をかけていました。
なにを言っているかわかりませんが、混代竜族がアルフレートさまに従っている?
あれ?
よく見れば、混代竜族の背に荷物?
え?
ひょっとして、アルフレートさまが混代竜族を呼んだの?
…………
えーっと、と、と、と、とりあえず、アルフレートさまが悪いことをするわけがありません。
なので殴りません。
そして、混代竜族に指示を出してお店の裏に連れて行くアルフレートさまはすごい。
うん、それだけ覚えておきましょう。
混代竜族 「お邪魔しました。荷を届けたので、帰ります」
司会 「では中断していた挨拶を。シルバーシルク伯爵、お願いします」
シルバーシルク伯爵「本日はお日柄もよく、ドラゴンが落ちてきそうな天気ですね。ははは」
参加者たち 「(シルバーシルク伯爵、大物だな)」
パンナ 「お父さま、現実逃避してる……(大物は司会だと思う)」




