騒動の始末
僕の名はミケル。
自分らしさとはなにか。
日々、それを考える若き男。
現在のレイワイト王国は静かだ。
だけど、裏では大騒ぎ。
それもこれも、ゴドレイク伯爵夫人が勧めたアルフレートくんの仕入れた美容品を扱う店が原因だ。
どうもあの店が周辺国を巻き込んで大騒動を起こすと考えているようで、その対策に動いている。
具体的には、ゴドレイク伯爵夫人とブラックリバー伯爵夫人を中心に派閥の統合が行なわれている。
なにかあったとき、派閥が邪魔にならないように。
だけど、素直に派閥の統合に賛同する者ばかりではないので、当たり前のように揉める。
揉めるけど、ゴドレイク伯爵夫人とブラックリバー伯爵夫人はねじ伏せた。
財力と人脈を使って。
だけど、そういったやり方は大きな反発がある。
その反発もねじ伏せている。
あまりに遠慮のない行動、レイワイト王国の三つの王家からゴドレイク伯爵夫人とブラックリバー伯爵夫人に警告が出たぐらいだ。
だけど、ゴドレイク伯爵夫人とブラックリバー伯爵夫人は止まらなかった。
夫人派閥をある程度まとめたら、今度は夫たちの派閥を統合しようと動いた。
外部からみていると、国内の派閥を統一する勢いに見える。
これにはレイワイト王国を構成する三つの王家の一つ、アサムッド王家のコナ王妃が青ざめた。
コナ王妃はゴドレイク伯爵夫人と揉めた過去があるらしい。
これはコナ王妃への復讐ではないかと。
コナ王妃は怯えた。
怯えたがゆえに、愚かな行動をした。
まだ派閥の統合の話が来ていない、地方の者を頼った。
領地に軍を持つ貴族を抱え込み、身を守ろうとしたのだ。
最初は、アサムッド王家の軍を使おうとしたけど、残念ながらコナ王妃に軍の編成権や指揮権はない。
編成権や指揮権を持つ王に訴えたけど、王家が下手に軍を編成すると戦争かと庶民は不安に思う。
それゆえに、王はコナ王妃の要請を却下した。
だからコナ王妃は、領地に軍を持つ貴族を抱え込んだのだけど、領地に軍を持つ貴族は無駄に軍を持っているわけではない。
外敵への備え、領内の治安維持など、目的があって持っている。
それがコナ王妃の身を守ると宣言して王都に向かったら、事情を知らない者からすれば反乱でも起きたのかと考えるだろう。
反乱が起きていなくても、騒動があるかもしれない。
どちらにつくにせよ、軍を持つ貴族の大半が騒動に備えて軍の準備をした。
こうなると、王家も軍を編成しないと危険な状況になる。
三つの王家は互いに協力する約束をしながらも、個々に戦力を集め始めた。
もう一度、言う。
現在のレイワイト王国は静かだ。
だけど、裏では大騒ぎ。
それは内乱の直前だから。
もうすぐ、大騒動になる。
僕は母に聞きました。
なぜこうなるまで放置を?
母なら、もっと前の段階で収められたと思うのですが?
「そうですね。
収められました」
では、なぜ?
「決まっているではありませんか。
アルフレートくん……いえ、アルフレートさまはミケルの命を助けてくれたルールーシーさまの息子ですよ。
そのアルフレートさまを困らせた者を、なぜ私が助けるのです?」
え?
ゴドレイク伯爵夫人は、母の友人だと思っていましたが?
「友人です。
ですので処罰ではなく、働いてもらっているのです」
……
「安心しなさい。
内乱にはなりません。
その前に止まるように仕込んでいます」
そ、そうなのですか?
「アルフレートさまが滞在しているのに、内乱など恥ずかしいところは見せられませんからね」
それはなによりです。
「ですが、今回の件を含め、ここ最近の騒動でいろいろと思うところがありますからね。
アルフレートさまを軽くみる者たちには、少し驚いてもらおうと思っただけです。
ふふふ」
え、えーっと、内乱にならないことを、王子や知り合いの貴族令嬢たちに伝えても?
かなり怯えているようなので。
「そうですね。
いま知ってもなにもできないでしょうから、かまいませんよ」
ありがとうございます。
私は礼を言って、母の前から離れた。
母の異名が《悪辣フーシュ》である理由が、ちょっと理解できた。
普段は優しい母なんだけどなぁ。
母の言うとおり、内乱は回避された。
コナ王妃が抱え込んだ軍を持つ貴族たちが、王都に入る直前で揃って踵を返したから。
母が、抱え込まれたふりをしろと指示していたようだ。
なんにせよ、これには多くの者が一安心。
騒いだのはコナ王妃ぐらい。
そのコナ王妃は、病気療養として王城の一角に幽閉された。
監禁ではない。
ほんとうに病気で倒れ、療養のようだ。
それほどゴドレイク伯爵夫人が怖いのかな?
揉めたとは聞いたけど、どう揉めたかは知らないからなぁ。
調べてみたほうがいいかな?
調べてみた。
すぐにわかった。
有名な話らしい。
事件があったのは二十年ぐらい前。
ゴドレイク伯爵夫人とコナ王妃がともに結婚前で、十三~十四歳ぐらいのとき。
ゴドレイク伯爵夫人と結婚直前だった婚約者を、コナ王妃が実家の力を使って強引に横取りしたらしい。
よくあると言っては失礼だけど、それほど珍しい話でもない。
これが原因で揉めているのかと思ったけど、続きがあった。
婚約者を横取りしたコナ王妃は、その後に横取りした婚約者を捨てて王族に嫁いだ。
捨てられた婚約者は、国内での立場を失い国外へ。
……
うん、ゴドレイク伯爵夫人はコナ王妃を恨むね。
結果だけみれば、ゴドレイク伯爵夫人の結婚を無駄に邪魔しただけだから。
その後、ゴドレイク伯爵夫人はゴドレイク伯爵と結婚して領地に篭ったけど、篭った理由がコナ王妃の顔を見たくないからと噂されている。
まあ、見たくはないだろう。
ゴドレイク伯爵夫人と伯爵の仲がいいことだけが、救いかな。
でも、まあ……コナ王妃も望んで王家に嫁いだかはわからないしなぁ。
王命とかあれば、奪った婚約者と別れて泣く泣く王族に嫁いだとか……
うーん。
推察しかできない。
男女の話を本人に聞くわけにもいかないし。
この件には、関わらないのが正解かな。
余談だけど、国外へ行った捨てられた婚約者は、他国の男爵家に婿入りし、家族仲は円満で六男三女を儲けたらしい。
平穏が戻ってきた。
しかし、騒動のきっかけとなったゴドレイク伯爵夫人とブラックリバー伯爵夫人による派閥の統合が邪魔されたわけじゃない。
国内の八割の貴族が参加する大派閥ができあがった。
まあ、数年もすれば分裂四散するだろうと見られているけど。
それでも、大派閥の目的はそれで十分。
なにせ、アルフレートくんの仕入れた美容品を扱う店が起こす騒動を、収めるための大派閥なのだから。
まあ、それで内乱未遂の大騒動を起こしたのはどうかと思うけど。
しかし、なぜそこまで警戒するのだろうか?
ルールーシーさまの名が問題らしいけど、僕にとっては大恩人。
なにも問題がないように思える。
わからないときはわかる人に聞く。
母に聞いた。
え?
賞金首?
ルールーシーさまの薬を欲した某国の大貴族が、ルールーシーさまに賞金を懸けたと。
しかも、天使族に声までかけて追いかけた?
それは……すごい騒動だったのでしょうね。
だけど、ルールーシーさまは姿を隠して、行方知れず。
いまでも、その名が出るだけで、騒ぎになると。
そ、そうだったのか。
そのルールーシーさまに僕の薬を作ってもらえたのは、奇跡的な偶然があったかららしい。
神さま、ありがとうございます!
それで、母はアルフレートくんの仕入れた美容品を扱う店はどうするのかな?
国内は大派閥のおかげでなんとかなるとしても、国外はどうしようもないと思うけど。
「大丈夫です。
お店の話が出た段階で、ルールーシーさまと相談しています」
相談して、どうにかなるのですか?
「なります。
騒動が起きるのは、簡単に言えばルールーシーさまを下に見ているからです」
まあ、たしかに。
「ルールーシーさまは、基本的に個人行動。
特定の集団と関わっても、深くはつき合いません。
だから、金と力で、どうにでもなると思われているのです」
そうだったのですね。
「なので、ルールーシーさまは王族クラスであるとアピールします」
王族を相手に、騒動を起こそうとはあまり考えませんからね。
「そうです。
そして、その王族は……大国。
世界の半分を支配している国であれば、なおさらではありませんか?」
そ、そうですが……
お母さまは、レイワイト王国をどうなさるおつもりで?
「ふふ。
いろいろと緩んでいるようなので、ぎゅっと締め直すだけですよ」
後日。
アルフレートくんの仕入れた美容品を扱う店の前に、混代竜族がやってきた。
商品の配達らしい。
王都は大騒動……にはならなかった。
ただ動かず、静かに見守っていた。
動いたら、声をあげたら、混代竜族がこっちを向くと恐れて。
そんな混代竜族にアルフレートくんは普通に話しかけ、裏手の倉庫に案内していた。
これがルールーシーさまと相談した結果……
奇跡的な偶然
始祖さん 「居場所? 知ってるよー」
フーシュ 「……」
混代竜族 「配達でーす」
周辺国 「はい、終わり。レイワイト王国に百年は手を出さないように」
フーシュ 「次は天使族のみなさまに来てもらう予定でしたのに……」
天使族 「混代竜族のあとだと、霞むんじゃ」
フーシュ 「大丈夫です。天使族の評判はすごいですから」
天使族 「えー、そうなのー、えへへ」
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
助かってます。




