相談
問題が多いのはわかっていた。
元から、受け入れる数が多過ぎるのだ。
そして来るのが早すぎる。
しかし、全員を受け入れると決めたのだから頑張るしかない。
村の住人たちにも迷惑を掛けるが、よろしくお願いしたい。
夜、各種族代表を集め、話し合いを行う。
ミノタウロスやケンタウロス、ニュニュダフネの代表者、それと彼らの世話役になったナーフ、ラッシャーシ、マム。
それにドライムとビーゼルも参加している。
新しく来た者たちをいきなり参加させることに異論はあったが、問題点は共有した方が良い。
それに、彼らはお客様ではない。
別の場所に住むが、新たな住人だ。
「ミノタウロス族代表、ゴードンだ」
「ケンタウロス族代表、グルーワルドです」
「ニュニュダフネ族代表、イグ」
イグは人の姿のニュニュダフネに抱えられての参加だ。
マムが抱いて移動させるには、重かったらしい。
それにしても、移住者の各グループが一つの種族で統一されていて良かった。
呼びやすい。
それに、種族代表がそのまま移住者グループ代表も兼ねられる。
いつもは大きなテーブルを囲むのだが、ミノタウロスやケンタウロスなど大きい者が居るのでテーブルはなし。
各自、丸太椅子に座ったり、床に座ったりしている。
「話し合いの前に、少し良いだろうか」
ケンタウロス族代表のグルーワルドが手を挙げる。
「お会いした時の身の程を弁えなかった無礼な言動、大変、失礼しました。
謝罪させてください。
そして、責は私一人にあるので、どうか他の者たちへは累を及ぼさないよう、伏してお願いします」
グルーワルドは一度立ち上がった後、前足を曲げて体を沈め、頭を深く下げた。
後ろ足は曲げてないからお尻が上がったままだが……それがケンタウロスの謝罪ポーズなのだろうか?
後で聞こう。
「それほど無礼だったとは思わなかったけど、謝罪は受け入れる。
気にす……ごほんっ。
今後は注意するように」
気にするなと言おうと思ったら、グルーワルドの横に居るラッシャーシが木の板に文字を書いて俺に指示したので従った。
誰だ、彼女にカンペを教えたのは!
「はっ。
ありがとうございます。
以後、注意いたします」
グルーワルドはラッシャーシのカンペに気付かず、感謝の意を俺に伝えてきた。
「これからの働きに期待する」
これもラッシャーシの指示だ。
「ははっ!」
グルーワルドの返事に満足したのか、ラッシャーシが木の板を裏返す。
“さすがは村長! 名演技! いつでも王様になれますよ!”
ありがとう。
でも、そのカンペは俺の傍にいる者も見てるからな。
ルー、ティア、笑わないように。
話を進める。
とりあえず、当面の問題は新たに来た者たちの寝床だ。
全員が野宿で問題ないと言ってくれるが、小さい子供は屋根のある場所で寝かせたい。
村で屋根のある広い場所は、三箇所。
俺の家、宿、そして酒の製造所。
それらは広いといえば広いが、十分なスペースがあるかと言われたらノーだ。
わかってる。
製造所には手を出さないから、ドノバンは俺を睨まないように。
「宿を開放しよう。
小さい子を優先的にそこで休ませるように」
そして、他の者たちの寝る場所だが早急に手を考えたい。
俺たちだけが屋根のある場所で寝て、新しく来た者が外で寝てるなんて状況、俺の神経が持たない。
「当面の野宿の場所だが、このまま今の場所を貸していただければ助かる」
ミノタウロスは武闘会の舞台周辺を希望。
「私たちは牛や馬などがいた場所をお借りできれば」
ケンタウロスたちは、牧場エリアを希望。
「我らは日当たりが良ければ、どこでも構わない」
ニュニュダフネたちは、どこでもOKと。
となると……
「ミノタウロス、ケンタウロスたちは希望の場所で休んでくれて構わない。
必要な物は世話役に遠慮なく伝えるように」
「わかった」
「はっ」
「ナーフ、ラッシャーシ、起きている時はなるべく彼らと一緒にいるように。
あと、しばらくは俺の家に寝泊りだ」
「承知しましたが……村長の家で寝泊りですか?」
「理由は?」
「ミノタウロスやケンタウロスたちがお前たちを探す手間を省くためだ」
「なるほど。
わかりました」
「そのように致します」
「ニュニュダフネたちは、寝る場所は自由にしてくれて構わない。
ただし、畑の中は駄目だ。
あと、他の者に迷惑を掛けないように。
マムとの連絡はしっかり取れるようにしてくれ」
「了解した」
「マム。
大変だろうが、頑張ってくれ」
「はい、頑張ります」
「それでマムにも俺の家に泊まってもらいたいが、大丈夫か?」
「大丈夫ですが、一旦は家に戻ってラムリアスさんに報告したいと思います」
「わかった。
アン。
三人の部屋を頼む」
「承知しました」
その後、色々と話し合いが行われた。
完成させた一村はそのまま放置。
まずは全員で収穫作業。
その後、時間の許す限り二村、三村を作っていく。
二村は建物さえできれば、一グループは住めるだろう。
まずは先着順ということで、ミノタウロスたちが二村に住むと決めた。
三村にケンタウロスたち。
その後でニュニュダフネたちの四村作りだ。
ドライム、ビーゼルの両名は、時々は様子を見に来てミノタウロスやケンタウロスたちの精神安定に努めてくれることになった。
ありがたい。
収穫作業開始。
収穫作業ができる者は、収穫作業する。
収穫作業ができない者は、森で狩りだ。
新たな問題。
ミノタウロス、ケンタウロス、ニュニュダフネたちの大半が、森の魔物や魔獣を狩れないらしい。
「見た感じ、強そうに見えるけどなぁ」
「そう言われましても、ミノタウロス族は元々が温和な一族です」
ミノタウロスたちの世話役のナーフが説明してくれる。
「彼らは集団全体で戦うスタイルではなく、戦闘に特化した者が集団を守るスタイルです。
ですので、戦闘に特化したミノタウロスはかなり強いですが、そうでない者たちは普通に牧歌的です」
「戦闘に特化したミノタウロスは……幼少期からの教育か?」
「いえ、出産時に決まるみたいです。
角の形で見分けがつくそうです」
「なるほど。
で、村に来ているミノタウロスで戦闘に特化しているのは……」
「種族代表のゴードン以外は、まだ子供です」
「つまり、ゴードンしか森に入れないと」
「はい」
「無理に森にいかせて怪我をされても困る。
他の者には何か別の作業を考えよう」
「すみません、よろしくお願いします」
「ケンタウロスたちで、森の中に入れるのは何人だ?」
「グルーワルドを含め、七人の大人だけです。
子供は無理です」
ケンタウロスたちの世話役のラッシャーシが説明してくれる。
「子供以外はそれなりの武装をしていなかったか?」
「武装はしていましたが、子供たちを守るための戦力として集められた一般人がほとんどです」
「森に入れる七人がちゃんと教育を受けた兵士ってことか?」
「いえ、ちゃんとした教育を受けたのはグルーワルドともう一人。
後は……牙の生えた兎をなんとか狩れる程度の腕らしいです。
すみません。
その辺りは自己申告なので……」
「そうか。
森に入れるのは不安があるな」
「はい。
ですので、グルーワルドともう一人以外は別の作業にしてもらいたいです」
「わかった。
何か考えよう」
「ありがとうございます」
ニュニュダフネは理解できる。
逃げる技術はあるが、戦闘力は皆無だろう。
「いえ、それなりに戦えますし、魔法も凄いですよ」
「そうなのか?」
「はい。
ただ、自主的に狩るのではなく、待つスタイルなので量を狩るのは厳しいかと」
「あー、なるほど」
「人の姿の者はともかく、切り株の姿の者は移動力に難がありすぎますからね」
「確かに。
だが、少量でも狩ってもらえるのは助かるな」
「はい。
ですが、クロさんたちと被らないように場所を決めないと成果が出ないかもしれません」
「積極的に動けないから、そうなるか。
わかった。
クロたちと相談して場所を決めよう」
「よろしくお願いします」
こうして森に入れない者たちに新たな仕事が与えられた。
ミノタウロスたちは、収穫物の運送。
男女問わず、パワーは十分だ。
収穫した作物を倉庫に運んでもらう。
ケンタウロスたちは、寝床作り。
日除けと雨のことを考え、大きな布を張ってもらう。
ケンタウロスたちの分だけでなく、ミノタウロスたちの分もだ。
ついでにミノタウロスの子供たちの世話も頼む。
ニュニュダフネたちは、全員が二村周辺に移動。
その辺りで狩りをすることになった。
各自、慣れない作業だが頑張ってくれた。
初日、ニュニュダフネたちを除き、森に入った狩り組の成果は牙の生えた兎が一匹だけだった。
そして負傷者が三名。
ゴードン、グルーワルドともう一人のケンタウロス。
「……牙の生えた兎って、手強いのか?」
「えーっと……一般人だと出会ったら絶望する相手です」
文官娘衆の言葉を聞きながら、明日からは森に入らない仕事をしてもらおうと思った。
「ちなみに、お前なら牙の生えた兎を倒せるか?」
「ご冗談を。
私は一般の部です」




