統一王の帰還
こんにちは。
俺は征服王。
ジドエン王国の王。
そして、ケイルランド地域連合王国の統一王でもある。
遠慮なく、統一王と呼んでほしい。
あ、馬鹿にした感じにじゃなく、尊敬を込めて。
尊敬が無理なら、敬意でいいから。
はい、それじゃあ声を揃えて呼んでみよう。
声が小さいぞー。
もういっかーい!
俺は旅から戻った。
一年ぐらいかかった旅だった。
王都は……新しくできた場所で、そんなに長く生活していないのに旅立ったから、あまり愛着はないけど、戻った感じがする。
旅立つ前の倍ぐらいの規模になっている気がするけど、細かいことは気にしない。
そして、出迎え……おい、王都の街門の見張りの兵が俺の顔を知らないのは問題だ。
ベテランを配置せんか。
え?
ベテランなの?
ちょっと忘れてただけ?
一年ぐらいで王の顔を忘れるんじゃない!
あと、俺の後ろにいる同行者集団が見えんのか。
どう見ても王の一行だろうが。
だったら、王が先駆けるな?
堂々と一行の真ん中に陣取ってろ?
帰ってこれたから、ちょっとはしゃいだだけだろ。
厳しいことを言うなよー。
それで、出迎えは?
少し待て?
いま、集めるから?
いやいや、俺が戻るって事前に連絡したよな?
手紙と使者、届いてないの?
届いていたけど、忙しいのであと回しだった?
どうせすぐ戻らないから?
いや、たしかに手紙や使者に伝えた日程より遅れたけど。
わかったわかった。
少しだけ待とう。
ん?
待つならもう少し離れた場所で?
ここだと邪魔?
大任を果たした王を邪魔扱いするとは……
街の出入りに人が多いのはわかるけど、ここは王とか貴族用の出入り口だろ?
暇なんじゃないのか?
貴族はわがままな者が多いから、いろいろと準備しておかないといけない?
暇なはずがない?
そ、そうか。
わかった。
じゃあ、あっちの日陰で待つぞ。
あそこなら問題ないだろう。
俺の出迎え、三人だった。
右に一人、左に二人。
たぶん、近くで暇してた人。
……
せめて見張りも参加するべきじゃないか?
見張りは見張りの仕事がある?
そりゃそうだろうけど。
くっ。
街門なら、これぐらいか?
いや、ここは王都。
俺が王の王都。
もう少し派手に出迎えてくれてもいいんじゃないかな?
怒るべきか?
いや、怒らない。
旅で一回りも二回りも成長した俺は、この程度で怒ったりはしない。
大丈夫。
冷静になる方法はマスターしている。
ラーメンの数を数えるんだ。
醤油ラーメンが一杯、醤油ラーメンが二杯、醤油ラーメンが三杯、大盛で四杯、味を変えて塩ラーメンが五杯……
冷静になってきた。
やはりラーメンは正義。
これは旅の途中で寄った国で、教えてもらった。
ラーメンの作り方を覚えるまで出国させないとか言われたときは、ちょっと困ったけどな。
ははは。
材料さえあれば、俺はラーメンを作れるようになった。
麺だって打てるぞ。
王都の中心にある王城に到着。
ここの門番は俺を覚えていた。
よかった。
だけど、出迎えはやっぱり少なかった。
王城近くで商売している人や客が出迎えに参加してくれたみたいだったけど、仕方ないなぁ感が見てとれた。
ラーメンを十五杯まで数えたから、俺は冷静だった。
さすがに城に入れば、歓迎された。
俺は部下たちに取り囲まれた。
おおっ、すまない。
寂しい思いをさせたな。
やっと帰ってきたとか言うんじゃない。
いや、遊んでたわけじゃないから。
苦労話は山ほどあるぞ。
死を覚悟したこともあるし。
まあ、まずは旅の埃を落とさせてくれ。
同行した部下たちも解散……
あ、俺が労う前に解散してる!
苦難をともにした同士だと思っていたのに!
そして俺を取り囲んでいる者、俺をどこに連れて行くんだ?
正直、建物の内装とか変わってるから、まったく見当がつかないけど俺の私室じゃないのはわかるぞ。
なんだ、この部屋いっぱいの書類の山は?
貴重な紙をこんなに乱雑に……
え?
俺の承認待ちの書類?
待て待て。
そういったことは、正式に俺の帰還を民衆に伝えてだな、労いの宴をやって、その翌日から……
なに?
一枚の承認が一日、遅れるたびに百人が困ると。
二日遅れると二百人が困るわけね。
しかしだな。
……ここの書類は何十日も待機している?
ものによっては、俺が旅立った日に待機した書類もあると。
……
わ、わかった。
最優先のものからもってきてくれ。
あと、俺は一年近く不在だったんだ。
判断を補助する者がほしい。
理解もできずにサインはできんだろ。
驚くな。
褒めるな。
当然のことだ。
それでは、最優先のものを選別しているあいだに俺はティゼル嬢たちに……
なぜ俺を掴む?
しかも強い力で。
離してくれないか?
……
この部屋にあるのが最優先で、優先が隣の部屋、ちょっと遅れてもいいのがさらにその向こうの部屋と。
はははははははははは。
冗談だよな?
冗談じゃなかった。
そして、ティゼル嬢は軍を率いて、各地の治安維持活動で不在。
エカテリーゼ先生は国内の畑を見回ってるらしい。
イースリー嬢は?
王都の裏社会を牛耳っている?
なにをやっているんだあの娘は?
いや、俺が戻ったことを知らせてくれ。
報告というか、手紙を預かっている。
本人に手渡す約束なんだ。
最優先で頼むぞ。
俺が書類の部屋から解放されたのは、十日後だった。
トイレまで見張りを同行させるとは、俺を囚人かなにかと思っているのではないだろうか?
実際、二回ほど逃げたけど。
三回目を実行しなかったのは、足に重りつきの鎖がつけられたから。
まったく。
王に対する扱いというものを理解していない。
俺がラーメンを数えることに加え、チャーハンやギョーザをサイドで数えるアレンジまで習得できていなければ、危ないところだった。
ただ、ラーメンを数えているときに書類の束で俺を殴った文官。
あいつの顔は忘れん。
まあ、俺の前に出された書類は大事な内容ばかりだったけど。
解放された俺は、そのまま自室で……久しぶりすぎてちょっと落ち着かないが、安眠。
その翌日、玉座の間で俺はティゼル嬢たちに会えた。
久しぶりだ。
三人とも、少し……その、たくましくなったのではないか?
背が伸びただけか?
見違えたのではないかな。
ははは。
えーっと、無事にティゼル嬢の父親とは会えた。
話もした。
仲よくなったと思うぞ。
俺のほうは。
向こうがどう思っているかはわからない。
預かったティゼル嬢たちへの手紙に書いてあるかもな。
土産や向こうからの贈り物は、別便で届く予定だ。
え?
もう届いている?
俺が戻る三十日ほど前に?
えーっと、なのに、俺がなぜ三十日も遅く到着したかって?
そりゃ、あー、その、なんだ。
さすがに竜に乗るのは怖い。
うん。
六竜神国で、送ろうかと言われたけど遠慮して船で戻ったから。
でも、帰りの船は速かったんだぞ。
海の種族が護衛して先導したから。
あっというまに知ってる港に到着した。
行きは長かったんだけどな。
いろいろな港に停泊しながらだったし。
人間の国でも、海の種族を護衛や先導に雇えばいいと思う。
ははははは。
「統一王」
なんだねティゼル嬢。
「統一王の後追いで出した者たちがいるんだけど、なぜか王よりも早く目的を果たして戻って来たの。
なぜかな?」
……
「目的は統一王と同じ、五村にいる私の父に会うことなんだけど。
不思議よね」
…………
「統一王は、サボっていたのかな?」
遅くなったことはすまない。
だが、けっしてサボっていたわけではなく……
「サボっていない?」
サボってない!
「じゃあ、どうしてこんなに遅くなったのかな?」
ラーメンに捕まって修業!
あと、魔王に捕まって挨拶の練習!
だから遅れたの!
俺は玉座を盾にしながら、頑張って謝った。
あ、玉座を砕こうとするのはやめてください。
ティゼル 「ラーメンに捕まったって? ラーメン女王?」
征服王 「その弟子。王になってて、ラーメンの普及に力を入れていた」
ティゼル 「逃げられなかったの?」
征服王 「大国だったから敵に回したくなかったの。ラーメン女王とか大師匠に伝言も頼まれたし」
エカテリーゼ「先行して届いた贈り物の大半が、ラーメンの材料だった理由が判明しました」
イースリー 「久しぶりに食べたいので、トンコツ味でお願いします」
エカテリーゼ「同じものを。あ、麺は硬めで」
イースリー 「私は普通の硬さで」
征服王 「あートンコツは煮込みの時間がかかるんだが? 醤油……いやミソにしない?」




