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統一王と書類

あとがき修正 2026/09/01


 こんにちは。


 俺はケイルランド地域連合王国の統一王。


 偉い立場にいる。


 尊敬される立場のはずだ。


 けっして、文官たちからせっつかれながら書類仕事をする立場ではないはず。


 承認サインするだけ?


 馬鹿者!


 内容を理解してからじゃないと、承認なんてするもんじゃない!


 じゃないと、すごい借金をいつのまにか背負わされていることになるからな!


 内容はしっかりと確認するんだ。


 部下の給料アップの書類がまぎれているかもしれないぞ!


 それどころか、部下の長期休暇の許可を認める書類までまぎれている可能性もあるんだ!


 あれは恐ろしいぞ。


 魔王国の文官に、その手口を教えてもらってなかったら俺も危なかった。


 これまで五十枚以上、確認している。




 さて。


 俺は執務室で久しぶりのまったり時間タイムを満喫する。


 お茶が美味しい。


 文官たちの恨みがましい目は無視。


 机の上の書類も見なかったことにする。


 あんな量の書類、全部処理してたら死んでしまう。


 一日の仕事量は制限させてもらいたい。


 いや、制限する。


 自身の健康のために。


 だってペンを持つ俺の腕、動かないもん。


 感覚がないもん。


 剣をどれだけ素振りしても、こんなことになったことがないのに。


 いまだって、お茶の入ったコップを持つ手が震えている。


 こっちの腕、まだ動くほうの手なんだけどな。


 ある意味、まったり時間ではなく、治療時間だ。


 だらけた格好でも許される。


 といっても、ティゼル嬢たちを呼んでいるから、ちゃんとした格好をするけど。


 服装もチェック。


 ティゼル嬢やイースリー嬢は気にしないが、エカテリーゼ先生は厳しい。


 王であるなら、王たるべき服装と姿勢であるべきと。


 うん、服装は大丈夫。


 ちょうど、ティゼル嬢たちがやってきた。


 入口で陣取ってる文官たちよ、道を譲るように。


 そこでなら見張っててもいいから。



 ティゼル嬢たちを呼んだのは、俺が不在中の出来事を共有するため。


 もちろん、俺の旅の最中の出来事も共有する。


 互いに報告書は提出はしているが、書けないことや細部に関しては口頭で伝えるしかない。


 とくに魔王国に関しては、ティゼル嬢が詳しいらしいからな。


 いろいろと聞きたいことがある。


 が、先に国内のことから。


 書類の承認で、ケイルランド地域連合王国全域で開発が行なわれているのは理解している。


 採掘できてなかった鉱脈とか、河川の開発管理とか、統一してないとできなかったな。


 所有権で揉めるから。


 鉱脈の場合、地下でどこまで続いているかわからず、鉱物を求めて掘っていたら別の領地に入っていたりして揉める。


 河川は領地の境目になりやすいから、手を出せるのは片側だけだったりするし、片側だけ手を入れると手を入れてない反対側で川が氾濫したりする。


 それを攻撃ととられて揉める。


 面倒。


 統一してよかった。


 ただ、統一したゆえに統一王の承認が求められる。


 書類が俺の前に積みあがる。


 ため息がでる。



「とりあえず、国力をあげるために人口の集中を進めているわ。

 王都や大きい街や村に」


 ティゼル嬢がそう言って地図を広げる。


 強制はしていないだろうな?


「ほっといたら潰れるような村以外は、してないわよ。

 あと、巡回部隊を作って治安維持をさせてるわ」


 それは俺が旅に出る前に発案があったやつだな。


 問題は?


「山積み。

 たぶん、関係書類は……机の上(そこの)の書類の山のどこかにあると思う」


 だよなぁ。


 ティゼル嬢がわざわざ治安維持に出かけたぐらいなんだから。


 ……書類仕事、急ぐべきか?


「そうしてもらいたいけど、体を壊されるのはもっと困るから無理はしないで」


 おおっ、労わってもらえてる。


「よく効く薬の手配をしているから、それが届くまでは」


 ……


 危ない薬じゃないよな?


 ……返事はどうした?


 副作用の有無を聞いているんじゃない。


 嫌だぞ、薬漬けで働くのは!


 冗談だと言ってくれ。


「冗談」


 もっと声を張って!



 落ち着いて。


 移民が増えているという話があるが?


「増えてるわね。

 統一で安全になった、働き口があるって周辺国で噂になっているみたい」


 ふむ。


 まあ、実際に戦争は減った。


 住民は暮らしやすいだろう。


 働き口も、各地で開発を進めているから、あらゆるところにある。


 働き手が不足している状況だ。


 んー……


 開発も集中してやったらどうだ?


 各地で進めているから、人手や資源の奪い合いになっていると思うんだが?


「そうしたいけど、各領地からの要望でね。

 断り切れないのよ」


 ティゼル嬢が?


「私がこの国の王ならなんとでもするけど、王は貴方でしょ?」


 なるほど。


 そのあたりの調整のためにも、書類があると。



 エカテリーゼ先生の農業のほうは?


 成果がでるのはまだまだ先か。


 まあ、農業はすぐに成果はでない。


 五年、十年単位で考えなければ。


 いまは春に収穫する小麦を中心に広げてもらっているが、後々は土地にあった作物を育ててもらいたい。


 当面の住民の食料は……まだ輸入に頼らないと駄目か。


 借金が増える。


 いつかは自給しなければ。


 そして、逆に輸出できるように……が、理想だな。


 ああ、農学者を招聘しょうへいしたのはわかった。


 王都の近郊に新しい作物の試験農場を作ったことも承認する。


 それは書類で出してあるはずだ。



 イースリー嬢のほうは?


 裏社会を牛耳ったと聞いているが?


 もともと、大きいところはないだろ?


 ある意味、国でもっとも大きい暴力集団は国軍だ。


 それが少し前まで、各地で争い合っていたのだから、小さいところが大きくなる隙がない。


 いや、存在すら許されない。


 裏が目立ったら国軍が潰しにいく。


 なのに裏社会が形成された?


 統一されたことで、平和に馴染めない者が集まったか?


 それとも、統一の過程で再編された国軍から弾かれた者か?


 ……弾かれた者が大半と。


 それをまとめ、組織にしたのか?


 必要か?


 潰せばよくないか?


 あー、裏社会を縄張りにする者がいないと、他国からの密偵や工作員を見つけられないか。


 密輸入の取り締まりや、内部の腐敗の察知もできないと。


 なるほど。


 わかった。


 それで、その裏社会を管理するのに、“統一王を称える会”への予算が必要と。


 偽装なのはわかる。


 たしかに、“裏社会管理費”とは書けんな。


 これを知るのは?


 文官のほとんどは知っていると。


 だから、予算の九割が裏社会管理費で、一割が文官の遊興費になっていると。


 ……


 偽装とはいえ“統一王を称える会”なのだから、俺の遊興費にすべきではないだろうか?


 文句があるなら、文官に?


 やめて。


 そういう、不可能なことを言うのは!




 ん?


 俺のほうの話も聞きたい?


 道中はほぼラーメンだ。


 魔王国では……


 ティゼル嬢の父親とはちゃんと会ったと言ったな。


 うむ。


 とくに揉めることもなく、話が弾んだ。


 有意義な会談であった。


 父親だから当然だが、ティゼル嬢のことをかなり心配していたぞ。


 うん。


 しかし……


 やはり俺が会いに行く必要があったか?


 そのせいで書類があんなに溜まったのだろ?


 い、いや、たしかに俺が戻るのが遅くなったのも理由だが……


 悪かった。


 その件は、謝っただろう。


 国の将来を考えたら、会うのは大事?


 行く前にも言われたが、行ったあとも、いまいちわからん。


 いや、たしかにティゼル嬢の父親に会うと魔王や、その部下に言ったら、めちゃくちゃ挨拶の練習をさせられたけどな。


 ああ、挨拶と言っても頭の下げ方とか、歩き方とかじゃないぞ。


 そういうのは、エカテリーゼ先生から教わってる。


 無礼にならず、かといって硬くもなりすぎず。


 ティゼル嬢の父親は普通に見えるが、普通だと思ってはいけない。


 そういったことを、魔王の部下であるクローム伯とプギャル伯が、それはもう丁寧に教えてくれた。


 多少、失敗してもティゼル嬢の父親は許してくれるが、その周囲から睨まれるととても面倒だからと。


 そうそう、ティゼル嬢の兄や弟にも会ったぞ。


 ゴール殿、シール殿、ブロン殿にトライン殿だ。


 いや、優秀な者たちだった。


 さすがはティゼル嬢の兄や弟だな。


 あとは……おお、忘れていた。


 ゴズラン王国の第三王女。


 五村で会ったぞ。


 俺と第三王女は互いに顔を知らなかったが、第三王女の部下に俺の顔を知る者がいた。


 いやー、あれはびっくりした。


 なにせ第三王女が屋台でケーキなるものを売っていたからな。


 いやいや、屋台で商売している者を低くみているわけではないぞ。


 立派な商売人だ。


 ただ、第三王女は十歳に達していないだろ?


 それなのに立派に販売員をやっていてな。


 そこに驚いたのだ。


 まあ、部下が手伝ってはいたが、計算などは自分でやっていた。


 優秀だ。


 ああ、そうだそうだ。


 俺が送った土産に第三王女の手紙があっただろ?


 先行して届いたって話だから忘れていた。


 手紙をゴズラン王国の王家の者に渡してくれたか?


 一応、そういった指示書をつけたと思うが?


 ……渡してくれたのね。


 よかった。


 ああ、無事を知らせる手紙だから問題はない。


 まあ、第三王女は五村で骨を埋める、ケーキで世界をとるみたいなことも書いてたと思うけど。


 元気そうではあった。





文官     「利き手が駄目になった?」

統一王    「うん。だから、ちょっと休憩を……」

文官     「なにを言っているんですか。逆の手があるじゃないですか」

統一王    「えええっ! ……サ、サインが変わるのは駄目だろ?」

文官     「サインされないよりはマシです。はい、追加の書類」



第三王女   「ケーキ、売ってまーす」

統一王    「一つもらえるか?」

第三王女   「この場で食べますか? 持ち帰りますか?」

統一王    「この場でいただこう」

第三王女   「はい、少々お待ちを。飲み物は隣の屋台で売ってます」

統一王    「なるほど、ではそちらの屋台の主人。飲み物をもらおう」

飲み物屋台の男「あいよー」

第三王女   「お待たせしましたー。ケーキです。そっちのテーブル席を使ってください」

飲み物屋台の男「あいよ、ケーキに合うお茶だ」

統一王    「ふむ。……なかなか美味いな」

第三王女   「なかなかではなく、最上級に美味しいです」

統一王    「ははは、すまなかった。うん、美味しいな」

飲み物屋台の男「兄ちゃん? こっちは?」

統一王    「飲み物も……美味いな。いや、ほんとうに。ケーキに合う」

飲み物屋台の男「だろ?」

第三王女   「毎日、このあたりにいるから、また来てね」

統一王    「ああ、また来させてもらおう」

飲み物屋台の男「こっちもな」

統一王    「わかってるよ」


第三王女の部下「あの顔、見覚えが……ま、まさか……」

飲み物屋台の男「征服王だ。いまは統一王を名乗っている。村長への謁見待ちだ」

第三王女の部下「え? 何者?」

飲み物屋台の男「五村から派遣された護衛。あんたらがいるとはいえ、さすがに放置できないから」


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>だってペンを持つ俺の腕、動かないもん >こっちの腕、まだ動くほうの手なんだけどな 欄外にも在りますが、統一王は結局両手でサインを続けさせられたのですね。 統一王、そのうち"両手利き”になって、伝説…
イースリーだけど、大樹の村での恐怖体験を経ているので見た目は未成年の女の子の容姿なのにかなり肝の座った取りまとめをしたんだろうなと想像してしまう。 この作品内では人間種で唯一、神槍に胸を貫かれる「幻」…
村長はヤメさんの島を開拓中だったり?
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