ヤメは島に戻る
あーしの名はヤメ。
あーしが悪魔帝国の初代だったことを知った村長が、あーしのことをどう呼ぼうか悩んでいた。
ヤメさまとか、ヤメ帝とか。
いつも通り、ヤメさんか、呼び捨てでヤメでいーよと言っておいた。
島に戻る前に村を見てまわった。
前に来たときも見てまわったけど、今回は島に持ち込めるものはないかと探しながら。
馬や牛、山羊、鶏などが島にいてくれたら、いろいろと助かるなぁと考えながらも、島での生活が合わなかったら悪いなぁとも思う。
あーしを追いかけてきた山羊たちは、島には不要。
山羊はあーしの安寧を乱す存在と認識。
ええい、寄るな。
いまさら甘えた顔しても許さん。
どうせあーしの隙をつくんだろう。
ほら、何頭か背後に回り込んでる。
そう思ったら、右側から頭突きをされた。
背後も囮だったか。
あーしは空に舞いながら、二度と村の山羊には近づかないと誓った。
蜂は冬に向けて忙しそうだった。
忙しそうな巣のなかで、寝転がれる太った女王蜂の精神の強さはすごい。
尊敬はしないけど。
そんな巣の働きバチたちの愚痴を聞いたら、ハチミツをわけてもらった。
甘くておいしい。
ありがとうね。
ウルザは、なんだかんだと小さい子たちの面倒をみている。
あーいうのを見ると、普通の女の子だなー。
で、子供たちとなにやってるの?
干し柿作り?
へー。
ラスティの好物なんだ。
いいね。
でも、ハクレンにもなにかやってあげないと拗ねない?
竜族って、ちょーつまんないことで拗ねるよ。
ハクレンには、リンゴを使ったパイを渡す予定?
リンゴって、あの大きいアッポのことだよね。
それは美味しそう。
あ、いや、ねだったわけじゃないよ。
リンゴのパイはハクレンにね。
あーしは、村長に頼んで島にアッポ……いや、リンゴの木を植えてもらうから。
ルールーシー=ルー。
村長の妻たちのなかで最上位にいる吸血鬼。
現在、妊娠中。
……あれ?
吸血鬼って妊娠したっけ?
ま、まあ、細かいことは気にしない。
すでに二人、産んでるらしいから。
おめでとうを伝える。
ウルザに連れられて来たときに、顔合わせはしているからね。
知らない仲じゃない。
そのルーの長子であるアルフレートとは初顔合わせ。
妊娠したルーを心配して戻ってきたのかな?
こんにちはー。
ん?
ルーから少し離れた場所に?
いいけど。
なんだろうと思ったら、アルフレートは姿を変えた。
あー、いや、年齢をあげた感じかな。
「私の名はアルフレート!
アルフレート=マチオ!
偉大な父と母から生を受けるも、まだなにも成していない未熟者!
なれど、いずれ世界を変革する志を持つ!」
おおっ、考え込まれた姿勢!
そうそう、吸血鬼ってこんな感じだった。
ルーとか始祖さんとか普通だったから、忘れてた。
そして、挨拶をされたら、挨拶をする。
当然のことだ。
あーしは、頑張って体内の魔力をかき集め、体を成長させる。
アルフレートが人間の二十前ぐらいだから、あーしは人間の二十ちょっとすぎに。
あーしのほうが、年長だからね。
本来ならもっと年配にしないと駄目だけど、正直、これが限界。
あーし、弱りすぎ。
だけど、なんとかなった。
あとはポーズを決め、挨拶。
「あーしはヤメ。
悪魔族の最弱にして最弱。
誰にも勝てない女。
すぐに死ぬから、丁重な扱いをもとめる」
……
あーしとアルフレートは理解しあった。
「ヤメ姉さんとお呼びしても」
いーよ。
握手するあーしらを、ルーがちょっと離れたところから心配そうに見てた。
ま、ルーも経験があると思うけど、若い吸血鬼なんてこんなものだから。
気にしても仕方がないんじゃないかな。
若い竜族の子が拗ねてた。
ハクレンの子で、ヒイチロウというらしい。
あー、妊娠したハクレンがヒイチロウのことまで手がまわらなくなって拗ねてるとか?
違う?
そのあたりの事情は理解している?
わがままは言わない。
立派なお兄ちゃんだ。
でも、それじゃあ、なにに拗ねてるの?
拗ねてない?
拗ねてる子はそういうのよ。
ほれ、あーしに言ってみ。
……
あー、ライメイレンがグラルだけを連れて魔物退治に行ったのね。
ヒイチロウも行きたかったと。
ふむ。
まあ、単純に考えれば、ライメイレンがヒイチロウをのけ者にはしないだろうから……
ヒイチロウを驚かせる獲物を狩りにいったんじゃないかな。
そうそう。
ヒイチロウへのプレゼント。
それを狩りにいくのに、ヒイチロウを連れては行けないでしょ。
ヒイチロウを驚かせられないからね。
タイミング的に、ハクレンが妊娠してヒイチロウが寂しがると、ライメイレンが気を回したんじゃないかな。
置いてって拗ねさせちゃ意味ないのにねー。
ライメイレンにはあーしから注意しとくから、あんたはプレゼントをもらったら素直に喜ぶんだよ。
よしよし。
こっそりあーしらの様子を見ていた鬼人族のメイドから、あの慰め方で大丈夫かと聞かれた。
ライメイレンがヒイチロウへのプレゼントを持って帰らないことはないかと。
時期的に、妊娠したハクレンのためのもののほうがありえるんじゃないかと。
そうだけど、それならヒイチロウを置いていく理由がないでしょ。
大丈夫大丈夫。
竜族はだいたい、ああいったずれた行動をするから。
数が少ないからか、竜族は子育て……今回は孫育てか。
不器用なのよ。
ま、違ったらあーしが頭を下げて、仲を修復するから安心して。
天使族のティアとは、挨拶だけで終わった。
周囲に天使族が取り囲んでいて、あーしが変なことを言わないように見張ってた。
あーしを馬鹿にしないでもらいたい。
妊婦に心労をかけるようなこと、言うわけないじゃない。
そう、神人族の話はしない。
いや、聞かれたら答えるかもしれないけど。
その場合は、聞いたほうが悪いと思う。
あーしは、始祖さんの転移魔法で島に帰った。
同行者は、ハイエルフが五人とリザードマンが十人。
天使族は、五村のゴーレム工場のほうを優先するとのことで今回はパス。
ゴーレム工場の主力だったルーとティアが妊娠して無理ができないぶん、天使族が数でなんとかするみたい。
島で空から偵察できる人がいなくなるのは、ちょっと不便。
見張り台も無人になる。
見張り台は天使族専用みたいな感じだったから、梯子がないんだよねー。
家畜は、次に村長が来るときに。
それまでに家畜小屋を作っておかないと。
あーし一人のころに比べれば、格段に快適になった島での生活だけど、まだまだやること、やれることがある。
頑張ろうと思う。
あ、そうそう、あーしはこの島の管理人になることになった。
あーしが、島で仕事したいなーっとふんわりと村長に言ってたからね。
ありがとう村長。
あーし、頑張る。
でも、当面は村長や村の物資に頼ることになると思うけど。
後日。
島に手紙が届けられた。
差出人は、ライメイレンとグラル、それとヒイチロウから。
中身は読まなくてもわかる。
よかった。
ああ、もちろん、ちゃんと読むよ。
あとでね。
ヤメ 「このメンバーだと、あーしが料理人か」
リザードマン「パンを焼くのは任せてください」
ヤメ 「うん、それだけでも助かる」
ハイエルフ 「ジャムを塗るのはお任せを」
ヤメ 「あー、うん、助かる」
ハイエルフ 「褒めて伸ばすタイプだ」




