ヤメは島の名を考える
あーしの名はヤメ。
大樹の村は冬を迎えたらしい。
急に寒くなったと村長が言ってた。
あーしの島では、冬は感じない。
あ、いや、気温が下がっているのは感じる。
ちょっとだけどね。
正直、島では季節の変化よりも雨風のほうがやっかい。
急に降ったり、急に吹いたりするからね。
まあ、遠くの空を見てればなんとなく予測はできるけど。
島に新しい住人が誕生した。
五村からやってきた鶏、雄三羽、雌十五羽。
大樹の村からじゃなく五村からなのは、大人しいほうが安全だろうとの村長の考えから。
あとは飼育のしやすさ。
鶏の飼育が簡単とは思わないけど、基本的に餌と水を絶やさず、外敵への備えさえすればなんとかなる。
事前に鶏小屋も作ってあるし、鶏専用の庭もしっかり柵で囲んでおいた。
初日に、半数以上が脱走してしまったけど。
鶏の跳躍力を甘く見ていた。
でも、脱走した鶏たちは、夜になると小屋に戻って来る。
賢いと褒めていいのかな?
悩む。
なんにせよ、島は急に賑やかになった。
島の正式な住人はあーしと人形のイバン、あと鳥が……二十三羽だったから。
ハイエルフやリザードマンは大樹の村の住人。
こっちには出張扱いで来ているだけ。
だから島の住人にはカウントできない。
まあ、だからってなにか差をつけたりはしないけどね。
島の住人ではなくても、島で生活する仲間。
そうそう。
鳥たちと鶏たちは、喧嘩していない。
仲よくやっているみたいで一安心。
迷った鶏を、鳥が探して小屋まで誘導したりしてくれたもんね。
あと、雨に降られたときの避難場所を、鳥たちが鶏に教えたりしている。
そういった場所を覚えるのも大事だけど、できれば脱走しないでほしいなぁ。
鶏が安定したら、次は蜂かなって村長から相談されている。
蜂がいれば、ハチミツが手にはいる。
しかし、島の環境が環境だから、蜂たちが適応できるかを調査してからと答えている。
せっかく来てくれたのに、全滅はかわいそうだからね。
ただ、どうやって調査したものかが思いつかない。
働き蜂を数匹連れて来て、話を聞くのがいいと思うけど……環境が合わなかったら働き蜂が死んじゃうからね。
うーん。
蜂の専門家とかいたらいいんだけどなぁ。
島では二日ほど大雨が続いている。
でも、拠点の宿は無事。
鳥小屋も鶏小屋も、問題なし。
鳥や鶏たちは長雨に不満そうだけどね。
あーしは、まったりと宿の広間でお茶をする。
うーん。
魔道具による灯りと室温調整。
大雨にびくともしない頑丈な建物の安心感。
豊富な食料。
うーん、幸せ。
お茶の味が一段、上がった気がする。
あ、このお茶は島の草を使ったお茶じゃなく、大樹の村の茶葉を使ったお茶。
だから、ハイエルフたちやリザードマンたちも安心して飲んでる。
「ヤメさん、そろそろボウリングをやりましょう。
ボウリング」
お、いいねー。
負けないよー。
ボウリングは、玉を転がして悪人に見立てたピンを倒す遊び。
外出できない長雨のときは、少しでも体を動かすほうがいいって意見からボウリングが人気となっている。
あーしはカードゲームも嫌いじゃないんだけどね。
カードゲームは昨日やったから今日はボウリング。
ボウリングで成績が最下位だったあーしは、雨のなか鳥小屋、鶏小屋の様子を見にいく。
大丈夫だとは思うけど、一応ね。
くっ、あのとき盗賊さえ倒せていれば……
いや、考えてみればハイエルフやリザードマンたちは、大樹の村でボウリングに触れている。
あーしより経験者。
あーしは数回しかやったことがない。
勝負はやる前から決まっていたのか。
ぐぬぬ。
三日目も大雨。
ほんとうに長雨だなぁ。
でも、風が弱いのが救い。
これで風が強かったら、大変なことになってる。
「ヤメさん、今日はこのゲーム、やりましょう。
サイコロを振って、出た目の数だけマスを進めるんです」
それで、マスに書かれていることでゲーム内での所持金が上下すると。
「はい。
最終的に、もっとも所持金を持っている人が勝利となります。
村長が作った物の最新改良版です」
ふむ。
聞いた感じ運のみの勝負だけど、見るとマスに書かれた内容にはプレイヤーが選択するものもある。
運だけじゃなく、要所での判断力が必要と。
ふっ。
こういった勝負なら、あーしは負けない!
くっ、職業の選択を間違えた。
なぜにあーしは、踊り子を選んでしまったのか……
目先のお金よりも将来を考えるべきだった。
あーしは、今日も鳥小屋と鶏小屋を見回った。
鶏たちが、長雨の不満をあーしにぶつけてきた。
ええい、不安なのはわかるけど、あーしを突くんじゃない。
雨を降らしているのはあーしじゃないんだから。
四日目は晴れた。
よかった。
地面は雨のせいでドロドロだけどね。
ここに鶏を放つのは嫌だなぁと思いつつも、不満が溜まっているので仕方がない。
鶏小屋の扉を開けたら、一斉に飛び出していった。
あー、目に見えて泥だらけになる。
こっちの箱に水を貯めておくから、ちゃんと水浴びするんだよー。
水が嫌なら、こっちに乾いた砂を置いとくから、砂浴びするよーに。
そして鳥たちは……うん、勝手に飛んで行ってるね。
まあ、鳥たちはこの島のことをよく知っている。
問題は起きないと信じたい。
「ヤメさん、私たちは道の確認に行きますねー」
ハイエルフとリザードマンたちが、道具を持って手を振ってくれる。
うん、頑張ってー。
お昼のご飯、作ってるから。
「はーい」
食事を作りながら、あーしは島の名を考える。
村長から、考えてほしいと言われたからだ。
あーしは村長が決めたらいいと思うんだけど、こういった名付けは苦手とのこと。
あーしも得意じゃないんだけどね。
しかし、こういった考えごとこそ長雨のときにするべきだった。
ちょっと反省。
ハイエルフやリザードマン、あと海の種族たちに相談したら、ヤメ島とかヒラク島とかの意見がでた。
候補に入れておこう。
ヤメ島は避けたいけど。
島の名が決まった。
大樹の島。
シンプル。
だけど、それがいい。
島に大樹と呼ぶほど大きい木はないけどね。
大樹の村の関係をアピールできるからよし。
わかる人にはわかる。
うん。
村長の許可も出たし、海の種族たちにも教える。
広く伝えてほしい。
大樹の島にやってくる海の種族。
海の種族とまとめているけど、実際は多種多様な種族がいる。
数が多いのは人魚とかサハギンとか海型リザードマンとか海エルフとか。
そのなかで、一人の人魚が海岸のお風呂を気に入った。
天気がよければ、毎日のようにやってくる。
利用するのはかまわないけど、水着着用。
女性なのだから、とくに胸は隠してほしい。
文化の違いと言われたらそれまでだけど。
全裸でお風呂に入りたいなら、拠点のほうに来てもらいたい。
まあ、人魚だから陸上の移動はむずかしいのだろうけど。
村長が進めている鉄道が完成すれば、人魚でも拠点に来れるかな?
海岸のお風呂を気に入った人魚が、お風呂の利用料と海底から宝箱を持ってきた。
沈没船から引き上げたものらしい。
最近に沈没した船じゃないなら、面倒はないだろう。
あ、面倒があった。
この宝箱、開かない。
鍵が頑丈。
え、なにこれ?
錠前がパズルになってるの?
くっ。
楽しい。
ちょっと夢中になった。
解けなかったけど。
グッチ 「悪魔帝国島」
ヤメ 「却下」
ブルガ 「ヤメ帝王島」
ヤメ 「却下」
スティファノ「ヤメランド」
ヤメ 「島の名前! 国にすんなし!」
村長 「主役……乗っ取られてない? 気のせい? 気のせい?」
ルー 「き、気のせいだから」
ティア 「じ、自信を持ってください」
ヤメ 「あーしの話は、もうちょっとだけ続くんじゃよ」
村長 「もう駄目だぁぁぁぁっ! これまでより長くなるー!」




