ヤメは村で交流する
あーしの名はヤメ。
海の種族たちからもらった帆船。
帆の入手は天使族たちが頑張ってくれた。
島から陸地までは、帆船だと二日ぐらいの距離らしい。
それを天使族たちは飛行し、港街で帆を購入して……
持ち帰るのは駄目だった。
帆は想像よりも重かったそうだ。
海の種族に頼んで、輸送してもらった。
そして、村長がやってきたときにタイミングを見計らって隠し港を紹介。
村長を帆船に乗せ、出航。
誰も帆船の操縦方法を知らなかったから、結局は海の種族に押したり引っ張ったりしてもらったけど。
陸地まで行った天使族たちが、帆の意味はあったのかと呟いていた。
意味はあったと思うよ。
帆があるのとないのでは、見た目が違う。
村長、大喜びだった。
あーしが想像する以上に興奮していた。
つまり、あーしらは村長を驚かせるのは成功した。
その点だけはよかった。
駄目だったのは、出航直後に目隠しのために作った岩壁に接触したこと。
帆船を押したり引っ張ったりしている海の種族たちが、なにかミスをしたわけじゃない。
帆を広げていたのがよくなかった。
突風に煽られ、帆船が制御不能になってしまった結果。
見た目重視はよくなかった。
接触で怪我人はなく、船体もちょっと傷ついただけだけど、安全のために村長は下船。
失敗したなぁと思ったけど、村長は大笑いしてたから大丈夫かな?
うん、大丈夫そう。
隠し港の改善案、出してるし。
ただ、隠し港までの道をダンジョンにするのは、なぜなんだろ?
行きにくいだけじゃないかな?
大樹の村の収穫作業が終わったので、村長が島に入り浸るのかなと思ったけど、今度は村で武闘会があるらしい。
島にいる村の住人たちも、隙を見てはなにかしらの訓練をしている。
あーしも見物に来ないかと誘われたので、喜んで行く。
鳥たちの雛も、心配ないていどには大きくなったしね。
あ、絶対に戦わないからね。
ブルガやスティファノが、勝手に出場登録するかもしれないから注意。
グッチは偉い人を使ってやるから、さらに注意。
あーしは弱いの。
大樹の村の武闘会を見た。
世界一決定戦かな?
村の規模にしては、過剰な戦力だと思う。
天使族同士の戦いはもちろん、竜同士の戦いはかなり怖かった。
村の住人たちは、いろいろと慣れすぎじゃないかな。
……今回は大人しかった?
あれで?
吸血鬼のルーと天使族のティア、それに竜のハクレン、ラスティが出てないから?
どうして出なかったのかな?
……
あー、妊娠が発覚したのね。
おめでとう。
全員の父親が村長ってのは、素直に凄いと思う。
でも、村長は栄養のある物、食べないと早死にするよ。
気をつけてね。
武闘会の余興として、鶏同士の戦いがあった。
うーん、あーしが寝てるあいだに、鶏って魔法が使えるようになってたんだ。
知らなかった。
嘴の突っつきで、床の石板を砕かないでほしいなぁ。
そして勝った鶏は、ものすごいドヤ顔で鬼人族のメイドに報告に行ってたのが印象的だった。
そこは村長に報告に行くところじゃないのかな?
同じく武闘会の余興として、多目的人型機動重機を使っての障害物レースが行なわれた。
ユーリも参加してた。
そしてぶっちぎりで優勝してた。
拍手。
二着は、あーしと同じ悪魔族……あ、いまは古の悪魔族か。
古の悪魔族のクリム。
不思議なんだけど、あーしたちは魔力の塊みたいな存在だから魔力を遮断するパイロットスーツを着てても、多目的人型機動重機には乗れないはずなんだけどなぁ。
なんで乗って動かせているんだろ?
リミッター、潰してるのかな?
それとも、最近の悪魔族は魔力の放出を完璧に制御できるようになったとか?
見た感じ、そんなふうには見えない。
うーん。
ま、いっか。
あーしが気にすることじゃない。
ちなみに三着はヨルっていう人工生命体。
ちょっと前に多目的人型機動重機を大破させたらしく、めちゃくちゃ慎重に操縦してた。
微笑ましい。
武闘会で出された食事。
美味しい。
秋の収穫物を使っているからだろう。
いつもより気合が入っているのもある?
妊娠祝いも兼ねているのね。
なるほど。
あ、この白いの美味しい。
豆腐?
へー。
薬味ってーの?
ネギとショウガがいいね。
もちろん、醤油は必須。
うん。
これがないと、ちょっと食べにくい。
妊婦がいるからか、お酒が提供される場所は隔離されていた。
エルダードワーフがいっぱい。
妊婦でも飲める酒、子供でも飲める酒の開発を話し合っている。
やめたほうがいーよー。
いや、なぜって。
最初に誰に飲ませるの?
失敗したら酷いことになるんだから。
エルダードワーフはむずかしいことを考えず、いつも通り鍛冶してお酒を作って、飲んで、歌ってたらいいんじゃないかな。
あーしの知ってるエルダードワーフはそんな感じだったよー。
あ、あーしはあんまりお酒に強くないから。
ジュースで割ったやつで。
酒精はちょっとでいいの。
あーしは、あんたらエルダードワーフほど頑丈じゃないんだから。
天使族の長を名乗る者から、口止め料をもらった。
口止め料じゃない?
ただの友好の証?
ま、いいけど。
大丈夫大丈夫。
神人族のことはもう喋らないから。
話を聞いた天使族が、頭を抱えるだけならいいんだけど、場合によってはあーしの口を封じようとしてきたりするから。
逃げるのが大変だった。
あ、いや、口止め料の上乗せを要求してるわけじゃないから。
ただの愚痴。
気にしないで。
村長の仲介で、魔王国のビーゼルと顔合わせをした。
転移魔法が使えるらしく、そっちに行くかもしれないからと。
ビーゼルは魔王国のお偉いさんの一人らしい。
あーしの知ってる人の子孫だったりするのかな?
ビーゼルはすごくあーしに怯えてるけど。
ひょっとして、誰かからあーしのこと、聞いてる?
「あ、悪魔帝国の初代の帝王と……」
あー、あれか。
帝国って言ってるけど、あれはそんな立派なものじゃないから。
好き勝手やる悪魔たちから守るために、あーしの保護下ってことにしてって各国から頼まれて、引き受けていたらいつのまにか帝国って呼ばれてただけだから。
あーしはなにもやってない。
帝国の運営は、各国から賢い人が集まってやってたから、任せてた。
あと、初代って……二代目がいるの?
あーし、知らないんだけど?
ビーゼルは知らなかったので近くにいたブルガに聞いたら、二代目はグッチだった。
いつのまに。
あーしが封印中にか。
酷いこと、してなきゃいいけど。
ブルガが言うには、あーしのやってたことを踏襲して、議会に任せてたって話……まあ、それなら大丈夫かな。
なんにせよ、あーしと帝国はその程度の関係だから。
あーしを怖がる必要はないよね。
仲よくしようとビーゼルに言っておいた。
ハイエルフ 「これが隠し港です!」
天使族 「帆船もあります!」
リザードマン「出航っ!」
村長 「おおおおおおおっ! 映画のワンシーンみたいだ!」
ビーゼル 「ヤメさまは……その、悪魔帝国の初代さまと伺っております」
ヤメ 「あはは……あれ、そんなにすごい話じゃないからー」
ビーゼル 「(わぁ……同名じゃなかった……本物だったぁ……)」
解説 「魔王国の貴族は、古の悪魔族と戦って功績が高かった魔族の末裔」
当時の国A 「俺、人間の国だけど、仲間にしてもらえますか?」
ヤメ 「いーよ」
当時の国B 「ケンタウロスの国も……」
ヤメ 「いーよ」
当時の国C 「エルフもいいですか?」
ヤメ 「いーよ」
当時の魔王国「古の悪魔を中心にしたばかでっかい国ができたんだけど……怖い」
古の悪魔族A「あそこ、ヤメの国だから手を出したら痛い目をみるぞ」
古の悪魔族B「おもにグッチとかブルガとかスティファノが殴ってくるやつね」
古の悪魔族C「プラーダも敵にまわすから、近寄っちゃ駄目」
悪魔帝国住人「ヤメさまを頼ってよかった」
ブルガ 「よっ、ヤメ帝!」
ヤメ 「やめてぇぇっ!」




