島の雨と風
島の雨と風は凄かった。
補強した宿や鳥小屋は無事だったが、建設途中の場所では崩れたり壊れたりしているところもある。
大きな建材は岩などに縛っていたので飛ばされなかったが、動かないと思っていた石材は乱雑に移動させられている。
飛んでいかなかっただけだ。
回収が、ちょっと大変。
ヤメさんの経験だと、今回より強い雨や風は年に数回、あるらしい。
【万能農具】で耕した畑は無事だったけど、それはまだ芽が出たばかりだったので風の影響を受けにくかっただけだろう。
樹木などは、べつの場所で育て、植樹したほうがいいかもしれない。
検討項目だ。
風車や水車を島に設置しようと考えていたが、これも白紙だな。
どう考えても壊れる。
風が強くなるたびに風車や水車を収納するのも手だけど、大変だし、そこまでして必要かと言われると悩む。
風車や水車はいろいろと生活の力にはなってくれるんだけどな。
魔石があればその代用になる。
あー、でも、この島では十分な魔石は確保できないか。
魔石も外部頼りか。
ふむ。
壊れた見張り台が新たに建てられている。
うーん、さすがリアたちハイエルフ。
手早い。
天使族たちも上空からロープを持って支えてくれていたのは知っている。
アピールの必要はないぞ。
わかっている。
ちゃんと天使族の長に言っておくから。
ティアにも伝えておこう。
酷いことになった砂浜は、また清掃するしかない。
………………
電車の車両ぐらいのサイズの魚……鯨かな? たぶん鯨だろう。
鯨の死骸が砂浜にあるんだが?
亡くなったのはかなり前だろう。
いたるところに腐敗が見える。
臭いもすごい。
海の種族たちが、早く処分しないと海にいる魔獣や魔物を呼ぶというので、燃やす……のは大変そうだったので、【万能農具】で耕した。
砂浜に不似合いな土の山ができてしまった。
まあ、死骸をそのままよりはいいだろう。
そのうち波にさらわれる。
砂浜の清掃は、地道にやっていくしかない。
海の種族たちと一緒に、頑張った。
砂浜の清掃で、綺麗な貝殻を大量に手にいれた。
大半が普通の貝殻なのだが、一部が魔獣産なのか見たこともないような光沢や、宝石っぽいものがついていたりする。
これは価値があるのだろうか?
海の種族は、そんなものは海底にゴロゴロしていると言っている。
つまり、価値はない。
価値があるなら、ゴロゴロしているわけがない。
集めて、陸にいる商人に売ったり、取引に使われているだろうからな。
実際、砂浜を清掃した程度で、軽く見つかるわけだし。
飾りぐらいにしか使えないか。
そう思っていたのだけど、大樹の村に持ち帰ると興味を示す者がいた。
ルーやティアじゃない。
ガットだ。
「これ、月岩貝の殻ですよね?
砕いて鉄や銅に混ぜたら、粘りのあるものができると聞いてます。
試させてください!」
そう言って、形の悪い貝殻を要望。
大量にあるので、好きに持っていっていいと許可した。
貝殻が使えるなら、ありがたい。
さらに必要なら、海の種族に集めてもらおう。
あー、そこで様子を見ている子供たちよ。
形の綺麗な貝殻は、好きに持っていっていいぞ。
そう言ったら、子供たちが貝殻に群がった。
ちなみに、貝殻をもっとも歓迎したのは鶏たち。
鬼人族メイドたちに砕いてもらった貝殻を喜んで食べてた。
海の種族と港の設備や船の運行の相談をしていると、灯台の話がでた。
できれば島に灯台を設置してほしいと。
この島の周囲には目印となる物がないので、見失いやすいそうだ。
だから遠方からでも確認できる灯台がほしいと。
納得できる話だが、見張り台が倒壊したのを見ているから素直に頷きにくい。
頑丈な灯台を作れるだろうか?
山エルフたちは灯台を伸縮式にして、雨風が強いときは低くするのはどうですかと言っているが……
灯台は動いたら意味がないぞ。
同じ場所にある灯りだから、目印になる。
それに、夜や天候が悪いときにこそ、灯りが必要なんだ。
雨風が強いからと避難するような灯台は灯台ではないと思う。
ともかく、灯台の建設は保留。
現在、各地で動いている灯台を調べてからだ。
どうやって建てたとか、補修はどうしているかとか。
灯台の運営体制も聞きたいな。
あー、シャシャートの街って港街だよな?
あそこに灯台ってあったっけ?
あれ?
覚えがない。
今度、シャシャートの街にいるミヨかマイケルさんに確認しておこう。
島に鉄道のレールが敷かれた。
もう、急がなくていいって言ったのにー。
レール作りの練習も兼ねているので、港と洞窟の倉庫を繋ぐ短距離の単線。
レールに乗せたトロッコを、人型のゴーレムが押す形。
実際に動かしてみて、悪くないとの評価。
いざというときに、洞窟の倉庫に運べるのは助かるそうだ。
よかった。
あとはレールやトロッコ、ゴーレムの耐久性を調べて、本格的にレールを敷いていく予定。
結果を気長に待ちたい。
待ちたいけど、一回、トロッコに乗せてもらっても?
すまない。
一回でいいから。
脱線しないように頼むぞー。
短い路線だが、楽しめた。
宿で休憩。
広間に置かれているカードをみる。
スペード、ダイヤ、ハート、クラブの四つのスートに、A(一)から十三までの数字、それとジョーカー。
大樹の村にもある見慣れたトランプだ。
ただ、大樹の村にあるのは木製。
目の前にあるのは紙製だ。
ほどよい厚さと硬さの紙に綺麗な印刷、揃ったカット。
五村の製紙業と印刷業での成果だな。
少数の生産はできるがコスト的にやめてほしいとのことで、千セットほど作ってもらった。
紙はそれなりに丈夫だが、どこまでいっても紙は紙。
水には弱いし、耐久性に限度がある。
数があっても困らない。
とりあえず、ババ抜きや七並べ、神経衰弱、大富豪、BJ、ポーカーなどの遊び方を書いたペーパーをつけて、関係各所に配っておいた。
島に持ち込んだのはその余りのセット。
夜の暇つぶしやレクリエーションに使われている。
好評でなにより。
まあ、トランプを配った魔王やビーゼル、シャシャートの街のミヨやマイケルさんから生産を継続してほしいとの要望があったから、好評になるのはわかっていたけど。
そういえば、五村のクロトユキや青銅茶屋でトランプをする者が出て、客の回転が悪くなったとの報告を受けている。
トランプを遊べる酒場とかを用意したほうがいいかもしれない。
昼。
綺麗になった砂浜で、俺は木と木を擦り合わせる。
そして種火を作り、用意しておいた枯れ木や枯れ草にすばやく着火。
焚火を作る。
次に、鍋に海水を入れる。
その鍋の中央に、海水が入らないようにコップをセット。
コップが動いたり、浮いたりしないように重しとして石を入れるのを忘れずに。
鍋に蓋をするけど、普段と違って蓋は逆に乗せる。
普段、外側になっているのを内側におく感じだ。
そして、その鍋を焚火にかける。
鍋のなかの海水が沸騰すれば、その水蒸気が鍋の蓋につき、鍋の蓋を逆に乗せているので、中央に水滴が集まり、受け皿の貝殻のコップに落ちる。
そういう仕組み。
適度に海水を鍋のなかに注ぎながら、コップに水を貯める。
……
それなりにやったのに、コップにはほとんど水が入っていなかった。
なぜだ?
コップのなかの水も熱せられ、さらに蒸発してしまったのか?
コップの重しとして入れた石は、かなり熱かった。
くっ。
そして、コップに入っている水……いや、お湯かな。
口に含んでみた。
わずかにしょっぱさを感じる。
だが、飲めないことはない。
俺はちょっとだけ無人島の感覚を楽しんだ。
護衛として俺のそばにいるクロの子供たちや、ザブトンの子供たちから、なにをやっているんだろうという目で見られたけど。
ハイエルフ 「村長はなにをやってるのかな?」(魔法で水を出しながら)
山エルフ 「崇高なお考えがあるに違いない」(汲んできた湧き水を飲みながら)
鬼人族メイド「村長ー、そろそろ鍋を返してくださーい」




