新しい住人達 第二グループ
第二グループ。
下半身が馬のケンタウロス。
総勢百四人。
男性三十人、女性七十四人。
明らかな子供が男性三十人、女性三十四人。
残りが労働力として働ける大人が四十人だが……全員女性になる。
その労働力として働ける大人は、全員が皮か鉄の鎧を装着し、武器を持って臨戦態勢。
周囲を警戒している。
子供たちは防具は着けているが、武器は持っていない。
……
見た雰囲気、戦火に巻き込まれた城から逃れた一団といった感じだ。
「ビーゼル。
彼女らは?」
彼女らをここに連れてきたのはビーゼル。
大人数を転移魔法で村の近くに一気に運んできたので、ビーゼルはフラフラだ。
この後、フラウの家で休むとのことだが、その前にできるだけ話を聞かせてほしい。
「見た通り、戦火に巻き込まれた城から逃げた一団です」
「戦闘中の者たちに移住を持ちかけたのか?」
「まさか。
戦線が動いて、急に危なくなった地域だったので避難の意味を含めて移住のお話を持っていったのです」
「その話を進めている間に戦闘に?」
「はい。
話をした手前、見捨てるわけにもいきませんから」
「……相手は?」
「フルハルト王国です」
魔王国と戦っている人間の国だったな。
「私もできるだけ協力しますので、よろしくお願いします」
「わかった」
そろそろ限界のビーゼルを、リザードマンに頼んでフラウの家にまで運んでもらう。
さて……
ケンタウロスたちを見る。
警戒を解かず、臨戦態勢のままだ。
さすがにこのままじゃ困る。
「村の代表のヒラクだ。
そちらの代表は誰だ?」
「私だ。
名はグルーワルド」
一人の女性が、前に出てきた。
一番良い感じの鉄鎧を装備した女騎士って感じだ。
下半身は馬だけど。
ああ、ケンタウロスって馬部分もしっかり服を着るんだな。
正面からだと、普通の人間に見える。
「ビーグ子爵家筆頭従士の縁者だ。
何をジロジロ見ている?」
「あー……すまない」
ビーグ子爵って誰だ?
こういった時のフラウ……はビーゼルを休ませるために家に向かった。
ならば文官娘衆!
「ようこそ、大樹の村に。
ここは貴女方を案内したクローム伯に縁のある地です。
ご安心を」
クローム伯?
……ああ、ビーゼルのことか。
「我らはここに移住する話を貰った。
そちらに話は通っているか?」
「通っていますが、問題があることも通達していると思います」
「うむ。
なんとかせよ」
「グルーワルドさん。
貴女はこの村に何しに来たのですか?
新たに領地を得たと思っているのでしたら、お考えを改めることをお願いします」
「貴様。
村娘の分際でこの私に指図するのか?」
「失礼。
まだ名乗っていませんでしたね。
私は魔王国ドロワ伯爵家次女、ラッシャーシ=ドロワです」
文官娘衆の一人、ラッシャーシはスカートを摘み、綺麗な礼をグルーワルドにしてみせた。
服装は村娘ファッションだが、気品に溢れている。
俺はその気品に耐えられず、一歩下がって従者ポジションの位置に。
「ビーグ子爵家は西部派閥でウチの組下でしたね。
貴女はそこのどちら様でしたっけ?」
「し、失礼しました。
私はグルーワルド=ラビー=コール。
ビーグ子爵家筆頭従士の縁者です」
立場は、ラッシャーシの方が上っぽい。
「安心していいと私は言いましたよ。
いつまで武器を構えているのです」
「も、申し訳ありません」
グルーワルドが指示し、ケンタウロスたちは構えを解いた。
一安心。
ラッシャーシを褒めておく。
「ありがとうございます。
村長、彼女たちは少し混乱しているようです。
落ち着かせるためにも、ミノタウロスたちと同じように食事を与えてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ。
そのつもりで手配している」
「さすがです。
それと、彼女たちは私の実家に縁のある方のようですので、私が担当してもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる。
頼めるか」
「お任せください」
「それとだが……」
「なにか?」
「彼女たちがお前の関係者ってことは、お前の家も危ないんじゃないのか?
大丈夫なのか?」
「ビーゼル様から、その辺りの情報は頂いております。
今のところは問題ありません」
「そうか」
「ですが、何かあったらお願いします」
「ああ、わかった」
俺はケンタウロスたちを文官娘衆のラッシャーシに任せ、受け入れ態勢の相談に戻った。
「さて、グルーワルドさん」
「はっ」
「なかなか良い返事です。
最初っからそうであればもっと良かったのですけど……」
「無礼な言動、申し訳ありませんでした」
「いえ、ごめんなさい。
苛めるつもりではないのです。
先程までの態度も、子供たちを守るためと理解できます。
ここに来るまで、大変だったのでしょう」
「はい……」
「大樹の村は、お話通りに貴女たちを受け入れるつもりで動いています。
ただ、この村ではなく新たに作っている村にです。
そして、まだその村は出来上がっていません」
「その辺りは聞いております。
せめて子供たちだけでも、この村に住まわすことをお願いできませんか?」
「それを判断するのは村長です。
ああ、そうそう。
大切なことを伝え忘れていました」
「なんでしょう?」
「この村で一番偉いのは、村長です」
「村長とは……先程の男ですか?」
「そうです。
そして、残念なことに私はこの村では立場がかなり下の方です。
いえ、最底辺です」
「まさか、ドロワ伯爵家のご令嬢が……」
「クローム伯がご自身で貴女たちを運び、私が貴女のお話を直接聞いていることで察してください。
この村は、私クラスが最底辺です。
そういった村です」
「……」
「まあ、言葉ではなかなか信じられないでしょう。
まずはこれから食事をしてもらいます。
村長からのご厚意です。
感謝を忘れないように。
食事の後、貴女を含めて数名、村を案内しますので実際に見て感じてください」
俺は家に相談に戻った。
「無礼な者たちですが、受け入れるのですか?」
「無礼ってほどでもなかったと思うが……
まあ、見知らぬ土地だ。
警戒も仕方が無いだろう」
「そうかもしれませんが……」
「ラッシャーシが上手く間を持ってくれることを期待しよう。
それよりも、さらなる問題だ」
さらなる問題。
第二グループのケンタウロスたちは、下半身が馬の種族。
そのサイズは本当の馬と同じぐらい。
つまり、大きい。
大体、ミノタウロス並み。
そして下半身が馬。
人間基準に作った家では、生活が厳しい。
通路によっては通れないな。
トイレのサイズも合わないか。
……
それはミノタウロスたちも一緒か。
「村長、どこに行かれるのです?」
「とりあえず、ミノタウロスやケンタウロスたちのトイレを作ろうかと」
「申し訳ありませんがそれは後回しでお願いします。
大丈夫です。
村長の綺麗好きはわかっています。
排泄場所は固定させるよう伝えますのでご安心ください」
「むう」
「ところで村長」
「なんだ?」
「ミノタウロスやケンタウロスたちの前にクロさんたちやザブトンさんたちが姿を見せていませんが、何か理由があるのですか?」
「ドライムやビーゼルに注意されたんだ。
怯えて気を張っているから、いきなり会わせるのは止めてほしいと。
だから、クロたちは大半が森の中。
ザブトンたちは、自主的に木の上や建物の上に。
何匹かは連絡要員で傍に居てくれるけど」
俺の言葉に天井にいたザブトンの子供がスルスルと降り、足を上げて振った後、また登っていく。
「聡明なご判断です」
「まあ、夜には顔を合わせるだろうけどな。
それより覚悟しろ」
「何をですか?」
「第一グループ、第二グループが予定より早く到着したんだ。
次が来ても驚かないぞ」
「まさか」
「ははは。
……ん、誰か来たみたいだな」
「ははは。
冗談ですよね」
「そうであってほしいけど……」
「村長。
グランマリアさんから連絡です。
マイケルさんの紹介によって集まった者たちと森の中で遭遇、もうすぐ到着するそうです」
だーよーなー。