ヤメは島の外を知る
あーしの名はヤメ。
飛行船で移動中。
ウルザの飛行船はとある街に一度、停泊。
あーしは降りない。
すぐに出発するから。
ウルザはその街で大量の書類を受け取り、飛行船のなかで確認していた。
書類の内容はよくわからないけど、なかなかいい紙を使っている。
なのに、紙じゃなく木の板に書かれたものも混じっているのは変な感じ。
統一されていないのかな?
飛行船は巨大な街に到着した。
五村というらしい。
いまはこの大きさでも村というのかな?
でも、少し前に停泊した街はここより小さかったけど?
なんにせよ、こんな大きな村の村長の娘なら、ウルザが裕福なのも当然だろう。
……
え?
違う?
ウルザの村は、この村じゃない?
ウルザの父親はこの村の村長でもあるけど?
?
どういうことだろ?
五村は目的地じゃないのはわかったけど、それじゃあなんでここに来たんだろ?
目的地に飛行船で行くのは、ちょっと面倒?
なるほど。
ここで移動手段を変えるのね。
でもって、先に手紙であーしを連れて行くことを連絡。
返事が来るまで、五村で待機と。
了解。
与えられた宿で大人しくしている。
出歩かない。
こういうときに出歩くとトラブルに巻き込まれる。
あーしは優秀だから知ってる。
あ、いーのいーの、気を使わなくて。
違う?
目的の村に戻るとウルザはしばらく自由に動けなくなるから、五村にいるあいだに仕事を終わらせないといけない?
あの書類、処理しきれなかったんだ。
天使族の四人と氷の魔物も、それを手伝うと。
あーしは邪魔?
りょーかい。
外で時間を潰してまーす。
とりあえず、身分証みたいな札を渡された。
これを見せれば、だいたいのところに入れるらしい。
あと、支払いに関しても気にしなくていい。
請求がウルザの父親のところに行くそうだ。
失くさないようにしないと。
あと、宿の場所もしっかり覚えてと。
この五村は広い。
けど、飛行船の発着場の近くの宿だから、わかりやすい。
ん?
全力でこっちに走ってきたのは……誰だろ?
確実にあーしに向かってるよね。
五村の村長代行の秘書の一人?
あーしの案内役?
あ、ウルザが頼んでくれたのね。
よろしく。
え?
なんであーしは盾をかまえているのかって?
持ってると安心するの。
とりあえず、秘書の案内役さんに案内された場所で食事。
天気がよかったので外で食べれるものを買うことにした。
案内役さんがお薦めしてきた物を買う。
超美味しい。
えー、なにこれ?
紙の箱に入っているから簡易食だと思ったのに、ボリュームがしっかりしてる。
あっちの工場で作ってるのね。
へー。
ゴーレムを上手く使ってるんだー。
あーしが寝る前だと、ああいったゴーレムの使い方はしなかったなぁ。
これが時の流れかな。
え?
毎日、メニューを変えてるの?
すごい。
食事が終わったら、次は美術館。
時間を潰すならここと、案内役さんに連れていってもらった。
……
入口にすごいのがあった。
あーしら悪魔族をそのまま具現化したような姿。
ここ、神殿か霊廟じゃない?
場所、ここであってる?
大丈夫?
美術館なの?
……ん?
あれ?
案内役さんの説明を聞いているときに、ちょっとひっかかった。
待って。
もう一回、この美術館の名前を言って。
「ここは五村の誇る美術館。
プラーダ美術館です」
プラーダ?
すごく知ってる名前なんだけど?
【金貨】のプラーダ。
もしくは【美術品を収集する悪魔】のプラーダは、あーしの数少ない知り合いの悪魔族。
そう思ったら、プラーダがいた。
「………………ヤメさま?」
あー、ひさしぶりー、でいいのかな?
あーしの感覚だと、寝る前に会ってるから十数年……二十年ぶりぐらいの感覚だけど、プラーダにすれば二千年以上ぶり?
百倍ぐらい感覚が違う。
違うのはわかるけど、ぺたぺた触るのは止めてもらえるかな。
盾の強度を試すのもやめて。
脆いから。
「ヤメさま、すごく弱体化してません?」
うん、してる。
原因不明。
「そんなっ!
それじゃあ、殴れないじゃないですか!」
殴らないで。
あーしは、プラーダにこれまでのことを話した。
「なかなか苦労されたようですね」
まーね。
「ですが、こっちはこっちで大変でした」
そういえば、悪魔族は竜族に仕えたって話だけど……
プラーダは見逃されてるの?
「見逃されてません。
竜族に意見できる偉い人がいまの私の主で、その主からこの美術館を任されています」
へー。
【美術品を収集する悪魔】が求める最高の環境を与えるなんて、すごいわね。
「ですよね。
私も驚いています」
わかってると思うけど、ギャンブルは駄目だからね。
プラーダはギャンブルに誘われると美術品を賭けるぐらい熱くなっちゃうから。
「さすがに、頑張って我慢してますよ」
それはなにより。
「主を裏切ると、いろいろと怖いですし」
そうなの?
「万が一、裏切ると……主が怒るより先に、竜が山ほどやってきて炎を叩き込んできます」
自主的に竜が出てくるってこと?
そんな存在がいるの?
たしかに、竜に意見できるって言ってたけど……
プラーダの冗談であってほしい。
プラーダ美術館には、【箱】のカティ、【音】のルディオ、【文字】のシャルネもいた。
彼ら彼女らも癖が強い悪魔族だ。
そして、あーしが知ってる数少ない悪魔族。
どうして、ここにと思ったけど……プラーダが集めたんだろうなぁ。
で、三人とも、あーしを見て殴りかかってくるのはやめろし。
あーしは、あーしが驚くほど弱ってんだから。
あんたらを見たら、自覚できた。
あーしは、超弱い。
そして、あーしの盾はさらに弱い。
砕かれた。
泣いた。
泣いたからか、いっぱいお菓子をもらった。
美味しい。
このお団子とかいう、不思議な食感のが好き。
あと、今後の話をしたら美術館に誘われた。
ありがたい。
ウルザの父親との話が上手くいかなかったら、頼らせてもらおう。
「それなのですが……
ウルザさまのお父さま……村長がいまの私の主です」
へー、世間は狭いなぁ。
……ん?
竜に意見ができて、裏切ると本人が怒る前に竜が山ほどやってくるって人?
「そうなります。
ちなみに、村長は竜を二人、妻にしており、ウルザさまのお母さまはその竜の一人です」
……!
ウルザは人間だけど?
「養女です」
あー。
「でもって、アドバイスですけど……ウルザさまには、もう一人と言っていいのか悩みますが、お母さまがいまして」
家庭環境が複雑だ。
そのあたりの関係に口を出すなってこと?
跡継ぎ問題で揉めてるとか?
「そうではなく、そのもう一人のお母さまは竜より強いので、絶対に機嫌を損ねないようにと」
……
どこの世の中に竜より強い存在がいるのよ!
「ウルザさまのお父さまは、その竜を倒して妻にしたそうですよ」
………………
ウルザの父親に会うのが怖くなった。
「大丈夫です。
その村では村長がもっとも温厚ですから。
頼るなら村長です」
だから、絶対に村長を怒らせちゃ駄目ってことね。
覚えておこう。
プラーダたちと話し込み、放置してしまった案内役さんに謝る。
ごめんなさい。
気づけば、もうすぐ日が暮れる。
「いえいえ。
旧交を温めるのは、悪いことではありません。
それに、ひさしぶりにゆっくりと美術館を回れましたから」
あはは。
あーしは、全然見れなかった。
「それで、盾を失くされたようですが……新しい盾をご用意しましょうか?」
ありがたいけど、それは申し訳ないから遠慮した。
いや、盾は欲しいけど。
案内役さんに案内された店で、お肉とお酒を楽しんでから宿に戻った。
案内役さん、ありがとうー。
案内役さんの頑張り、ウルザに伝えておくねー。
ウルザの父親にも。
名はメッサーだったよね。
覚えておくからー。
案内役さんと別れ、部屋に行くと……
四人の天使族と氷の魔物が疲労困憊で倒れてた。
ウルザは元気だった。
あ、天使族は五人だ。
ウルザの父親からの連絡を持って帰ってきたところ、仕事を手伝うことになったと。
明日にはウルザの父親のいる村に行けるのね。
ちょ、ちょっと怖いけど了解。
それで、仕事のほうは終わったの?
あーしが聞くと、倒れていた五人の天使族と氷の魔物がむっくりと起きて、書類作業を再開した。
明日には移動するから、今日中に終わらせないといけないんだ。
えーっと、あ、あーしにできることがあったら言ってね。




