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3番テーブルのソファーに座っていると、すぐに客が来た。
身なりの良い小太りのおっさんと若い男が3人。若い男は3人とも初めて来るのだろうか。あちこちをきょろきょろ眺めたりして落ち着かない。
「ルジェさん、お久しぶり~。お待ちしていましたぁ」
ルルはさっきの人と別人かと思ってしまうくらいのハイテンションで、おっさんに抱きついた。
「おおげさだね~。たかが1週間かそこらじゃないか」
ルジェさんはルルさんに抱きつかれて、にやけていた。
「そうでしたかぁ?ルジェさんにお会いできない日は、時間がすぎるのが長いんですよぉ」
ルルさんはそう言いながら、ルジェさんに座るように促した。
「そうか?それは嬉しいねぇ」
「そうそう、今日は新人さんが来ているんですよ~」
ルルさんはあたし達に目配せした。
「こっちがリュシェーナちゃんで、こっちがセレンちゃん」
「よろしくお願いしま~す」
あたしは出来る限りの笑顔で、あいさつした。
「若くて、ピッチピチだね」
ルジェさんは目を細めて笑った。
ルジェさんの指にはめてある、青くて大きな宝石が店の照明に反射してきらめいた。
「ルジェさんて、何されている方なんですかぁ?」
臆することなく、リュシェーナが訊いた。
「俺か?俺はウティで絵画や彫刻などの美術品を売っているんだ。若手の売れそうな画家を見つけて、絵を買い取って、売るという仕事だよ」
ルジェさんは、身振り手振りを交えて教えてくれた。
「この3人は期待できそうな若い人たちだよ。ウティからサピドゥルまで旅行させて、それが刺激になればいいけどね」
ルジェさんに紹介されて、3人はそれぞれに頭を下げた。
「こういうところって、初めて?」
ルルさんが尋ねると、
「は、はい」
「そうです」
「そうっす」
3人は小声で返事した。
「楽しくやりましょうよぉ。緊張をほぐすには、お酒が一番。ルジェさん、お酒はいつものボトルでいい?」
「いいよ。あと、氷と水もつけてね。と、おつまみはとりあえず3品くらい頼むよ」
「はぁ~い、分かりました」
ルルはそう言うと、近くにいたウエイターに注文した。
「期待できるって、皆さん、どのくらいすごいんですか?」
あたしは訊いてみた。
「あはははは。まだ美術学校を出て間もないくらいだからねぇ。あえて言えばさ、この3人は卒展で光るものがあるって、俺が思ったくらいだよ」
「それでも、大当たりすれば、すっごい画家になるかもですよね」
リュシェーナが目を輝かせた。
「大当たりすれば俺だって稼げるさ。まぁ、期待に答えられるよう頑張ってくれよ」
ルジェさんはそう言うと、隣にいる男の背中をばんばんと叩いた。
「はっ、はい。頑張ります」
叩かれた男は、恐縮そうに頭をペコペコと下げた。
ウエイターがやってきて、お酒の入ったボトルと、氷と水、料理3品を持ってきた。あたしは適当に水割りを作って、若い男たちの前に置いていった。
やがて場は盛り上がっていった。あたしも色々とお喋りをしたが、なんとなくどこかで楽しめない自分がいた。その場にうまく入り込めないというのだろうか?どうしても冷めた目でしか見ることができなかった。
逆にリュシェーナは合っていたらしい。笑ったり、結構大げさな反応をしたりと、楽しそうだった。
「お酒、飲んでます?」
3人の男のうち、1人だけどうしても盛り上がれない人がいたので、あたしは声をかけた。
「オレ、酒に弱くてさ」
その男は窮屈そうな笑みを浮かべた。
「そうなんだ。あたしもお酒って飲んだことないからわからないけど、あまり無理して飲むもんじゃないでしょ」
あたしの言葉に男はうなずくと、
「それに、1人で描いていたから、女の人とまともに話したことないし。ルジェさんが連れてってくれるって言うから、来たけど。はは、あまり合わないな」
男は長い身長を無理矢理曲げて、縮こまってしまった。
「あわないって思っているから、あわないんじゃないの?」
そう言う自分も、ついさっきまで合わないって思っていたくせに。
何だか自分に向かって説教している気分になった。
「こんな所まで来て、シケた顔しながらうつむいているなんて、もったいないよ」
「楽しまないと、か?」
男は顔を上げてあたしを見ると、苦笑した。
「そうよ。どんな絵描いているの?」
「人物画だよ。何か、仕事している人とか、スポーツしている人とか」
男はソファーに座り直した。
「肖像画とかも、描くの?」
「いや、肖像画は描かない。動きがないとつまらないんだ。動いている人の表情とか、筋肉の動きだとか、身体のラインだとか、そういうのを描くのが好きなんだ」
好きなものなら、話せるんだこの人。
あたしはちょっと感心した。
「だから、広場とか、スポーツの大会とかに行ってスケッチしているんだ」
「あたし、踊りを踊っているんだけど、そういうのも描けるの?」
「もちろんだよ。踊りなんて一番描きたい題材だよ。踊ってもらえるんですか?」
そう言われたら、仕方ない。
あたしの踊りたい欲求も高まっていることだし。あたしは立ち上がると、踊れそうな場所を探した。近くによさそうなところを探すと、少しだけ踊った。もちろん、音楽はないから好きな曲を頭に浮かべながらだけどね。
「すごいね、よく動かせるな」
気がつくと、あたしのテーブルの人が全員、拍手をしてくれた。
「セレンちゃんは、踊りが上手なんだよ」
まるで他人事のように、リュシェーナが言う。
「もっと、踊ってくれよ」
ルジェさんが、アンコールした。
あたしは得意げにそれに応え、踊り続けた。




