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「では、今日は2人でお仕事されるのですね」
ホール奥の小部屋でマダムは言った。
マダムは小柄で細身だが、落ち着きと存在感は充分に感じることができた。何と言ってもこの店のトップだ。そのくらいの技量がなければ、やっていけないのだろう。
「いいですか。お客様を怒らせるようなことは、絶対にしてはいけません。お客様が喜ぶことを常に考えるのです。お客様の行動を先読みし、お客様が要望を口にする前にそれを叶えるようにしてくださいね」
あたしがあまり関係ないことを考えている間に、マダムは注意事項や心構えなどを、次から次へと話していった。
意外にもリュシェーナは、それを真剣に聴いていた。いつもならば分からない、とか面倒臭いと言っては、人に丸投げするというのに。
「2人とも初めてということなので、先輩を1人つけます。先輩の行動をお手本にしてみてください。色々言いましたけど、大丈夫ですよ。心配しないで笑顔で楽しんできてちょうだいね」
そう言って、マダムはにっこりと笑った。
「は、はいっ」
思わず返事してしまった。
そんなにかたくならなくていいのよ。と、マダムは笑って言った。
それからマダムに連れられて、小部屋を出てホールに入った。
なんか、今更になって緊張してきた。軽い気持ちでここまで来ちゃったけど、本当は間違っていたのかもしれない。
あたしって、いつもそう。その場の勢いで何でもばんばん決められる。でも、いざやりましょうという時になって、後悔と不安に押しつぶされちゃう。
そんなあたしの気持ちをよそに、リュシェーナは平気な顔をしていた。
「楽しみだね、セレンちゃん」
何をすればいいのか分かっているのかね?この娘。
ただ宴会に来たわけじゃないんだよ。
もうここまで来たら後に引くことは出来ない。女は度胸。笑顔と知恵と若さで乗り切ってみせるわと、自分に言い聞かせた。
「ルルちゃーん、新人さんよ。2人。3番テーブルで一緒についてあげてね」
マダムは丁度通りかかった女の人をつかまえて言った。
「はい、分かりました」
ルルと呼ばれた女の人はマダムに向かって頭を下げた。
「あ、あの、あたしセレンって言います。こっちはリュシェーナです。よろしくお願いします」
あたしはお世話になる先輩に向かって思い切り頭を下げた。
「あたしはルル。まぁ、せいぜい頑張ることね」
ルルさんは世にも珍しい生き物を見るような目で、あたしたちを見ていた。
アップにした髪、長いまつげ、はちきれんばかりの大きな胸。スリットからちらりと見える長い足。縷々さんは女のあたしから見ても、とてもセクシーだ。
「じゃあ、ついてきて」
ルルさんはそう言うと、さっさと歩き出した。
なんか調子狂うな。もう少し愛想良ければいいのに。ちょっと思ったが、今だけは先輩なんだし我慢しなくてはと、あたしはルルさんの後を追った。




