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第2章 セレン
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「ごめん、あたしもう踊らないから」
1曲目を踊り終えた時、あたしは宣言した。
みんなの視線があたしに向けて一気に集中する。ちらほらと集まり始めた観客もあたしに注目していた。
せっかく足を止めてくださっているのに、すみません。あたしは心の中で土下座した。
「いきなりどうしたの?セレンちゃん」
はてなマークをいっぱい抱えた目で、リュシェーナが訊いてきた。
「ルーチェのその陰気臭い曲で、あたしは踊れないわ」
あたしの言葉に、ルーチェは『はぁ?』というような表情を見せた。
「今の曲は楽しく弾いたはずだよ。何ケチつけてるのさ」
「ぜんっぜん、楽しくなかった」
「どこがだよ。僕は一生懸命弾いてる。セレンの感じ方がおかしいんじゃないのか」
何よ、人の感受性を馬鹿にして。
ルーチェこそ、感覚がおかしいのよ。あたしがそう言おうと口を開けた瞬間、
「まぁ、まぁ、おふたりさん。喧嘩するなって。俺にはちゃんと楽しそうに聴こえたよ。なぁ?」
エフェルが間に割って入る。
ララも、レイシアも、エフェルの言葉にうなずいた。
「うわべは楽しそうに聴こえるかもしれないよ。でもね、踊り手は弾き手の音を聞いて、心を感じているの。ちゃんと同調しないとうまくは踊れないわ。だけどルーチェの音は楽しそうって思って合わせようとしても、うまく合わせられないの。音が怯えて逃げちゃって、すごく違和感があって踊れないのよ」
最初は自分の調子が悪いのかと思った。
だから、無理して合わせようとした。でも、もがけばもがくほど、彼の音が遠ざかっていった。もう、限界だ。これ以上踊れない。
「だから、リュシェーナ。ひとりで踊ってね」
あたしは隣にいたリュシェーナの肩をポンと叩いた。
「そんなぁ、私はひとりで踊れる自信がないよ」
リュシェーナはあたしにすがりついてきた。
「大丈夫よ。リュシェーナはあたしよりも踊りがうまいもん。それに、このパーティであたしが抜けたらリュシェーナがずっとひとりになっちゃうのよ」
あたしはリュシェーナの手を強引に振りほどいた。
彼女はいつもあたしに頼りすぎるから、少しは自分で何とかしてほしい。
「駄目よ、無理。ひとりで踊れない。セレンが抜けたら別の踊り手探す」
リュシェーナはその場でうずくまってしまった。
「いいわ。今日はもうおしまいにしましょう」
リュシェーナの姉、ララは一瞬だけあたしをにらみつけた。
はいはい、どうせあたしは悪者ですよ。ララはきっとベッタベタな甘い言葉でなぐさめるんだろうな。そう思いながら、2人を横目で見ていた。
「セレン、おまえは少し我慢しろよ」
後ろからエフェルが小声で言ってきた。
エフェルは困った顔をしている。エフェルって大きな身体している割にはいろいろと細かいことに気づいてくれるんだよね。よく気を遣ってくれるし、みんなが面倒臭がってやらないこともきちんとやってくれる。おまけに顔もいいから、よくもてるんだ。
そう、何気なくエフェルの隣にいるレイシアだって、エフェルに惚れている。
「みゃーん」
エフェルの肩の上で、アーテルが鳴いた。
アーテルはいつもエフェルと一緒にいる猫だ。とても賢い。
「無理よ。そんなの。だって我慢できないもん。自分の仕事に妥協しない、それがプロってもんでしょ」
「それはそうだろうけどさ、セレンが踊らないと、リュシェーナだって踊らないぜ?踊り手がいなかったら、稼げないじゃないか。パーティ組み直すにしても、夏至祭終わっちゃったしな」
エフェルは頭を抱え込んでしまった。
「エフェルには、みんなには、悪いと思っているよ。踊りで稼げないなら、他で稼ぐしかないよね」
あたしはレイシアを、チラリと見た。
「占いとか、薬草とかかしら?薬草は必要な分しか持ってないわよ。占いは、あてにしないでね」
レイシアは苦笑した。
「これから山に入って、総出で薬草を取りに行くとか」
そう提案してみたが、
「あるかもしれないけど、乾燥させたりするから売り物にするまで時間かかるね」
ミスティは首を振った。
「……ルーチェのアーディンに合わせて、ジャグラーでもするか」
エフェルはぶつぶつ言いながら考え込んでしまっている。
エフェルには、本当にすまないと思っている。そもそも元凶を作ってしまったのはあたしだし。こうなったら一肌脱ぐしかないよね。幸いここはサピドゥルの首都、シュロスタであるわけで。
きっと、なんとかなるわよ、たぶん……。
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