1-12
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次の日、ルーチェの演奏をみんなが聴きに来てくれていた。
「今日はたくさん時間あるから、秘密基地に行きたいよ」
演奏が終わると、ルーチェは声をかけた。
昨日、病院に行って友だちができたことを話すと、母親は喜んでいた。友達と遊んできてもいいと、母は言ってくれたのだ。
だが、遠巻きにこちらを見るだけで、誰も返事する人がいなかった。
「どうしたの?」
ルーチェが訊くと、
「あのな、父ちゃんと母ちゃんに話したら、遊ぶなって言われたんだ」
リーダーの少年が、言いづらそうに口を開いた。
ルーチェは体の中を冷たいものが、すっと通り抜けていくのを感じた。
「そう、なんだ」
それだけ言うのが精一杯だった。
「ねぇ、『ノマド』って、なぁに?」
一番小さな男の子が、訊いてきた。
「駄目よ、言っちゃ」
その子の姉が怒ったように言った。
「俺もさ、一緒に遊びたかったんだけどさ。内緒にしてても見られちゃったら、怒られるからさ。ごめんね」
リーダーの少年は寂しそうに言った。
「分かったよ、ありがとう」
ルーチェも寂しかったけど、笑顔を見せた。
「じゃあね。みんな、行くぜ」
少年はそう言うと、駆け出した。
「待ってよ」
他の子達も口々に言いながら、少年を追いかけて行ってしまった。
ルーチェはそれをずっと見送っていた。
「ふん、親が怖くて遊べねぇなんてな」
すぐ後ろでそんな声が聞こえてきたので、ルーチェははっとして振り返った。
見ると、やせた少年が1人、立っていた。
「君はみんなと一緒に行かないの?」
ルーチェが訊くと、
「別に。興味ねえし」
少年は腕で鼻の汗をぬぐった。
「じゃあ、僕と遊んでくれるの?」
「暇だから、別にいいよ」
「ねぇ、名前なんていうの?僕はルーチェっていうんだ」
ちょっと変わっている子だけど、友だちになってくれるのはとても嬉しかった。
「オレ?オレはリーオ」
リーオはポケットに手を突っ込んだ。
「何して遊ぼうか?」
「知らねえな……魚でも、釣るか。つったことあるか?」
リーオの問いかけに、ルーチェは首を振った。
「そうか。まぁ、簡単だからな。来て」
リーオはそう言うと、歩き出した。
ルーチェもリーオの後についた。
2人はマーロの街中を歩き、丘を越えて、やがて小さな入江にたどり着いた。
「ちょっと待ってな」
リーオはそう言うと、辺りを警戒しながら1軒の小さな家の中へと入っていった。
なんだろう、と疑問に思いながらルーチェは辺りを見回した。
そこはとても静かな入江だった。青緑色の小さな波が、黒い岩をチャプチャプと洗い、ヤシの木などの南国の植物たちが海風に揺れていた。日差しは相変わらず差しこむように強かったが、ルーチェはあまり気にならなかった。
「はい、これ」
リーオはそう言うと、釣竿とすくいあみを渡してくれた。
「これで、釣るの?」
「まず、その前に餌を取るんだ」
リーオは器用に岩場を越えて、大きな潮だまりの所まで歩いて行った。
「待って」
慌てて、ルーチェはリーオの後を追った。
ルーチェがようやくたどり着いた時、リーオはすくいあみを潮だまりの中に入れて、何かを採っていた。リーオがすくい上げたあみの中には、小指の先ほどの大きさのエビや、魚が何匹か入っていた。
「これを魚の餌にするの?」
「そうだよ。岩の影とかにたくさんいるんだ」
あみの中の魚を缶の中に入れながら、リーオは答えた。
ルーチェは見よう見まねで、すくいあみで岩陰にいる小魚をすくってみた。
最初の頃こそは、あみを岩場に引っ掛けたり、うまく採れなかったが、やがて面白いように入ってくるようになった。
「そろそろ、餌もたまってきたから、釣り始めるよ」
リーオが言った。
それから2人は大きな岩の陰まで歩くと、釣りの準備を始めた。
釣り針に採ってきたばかりの餌を付けて、釣り糸を遠くへなげる。リーオがやっていることを真似して、ルーチェもやってみた。餌はなかなか釣り針に引っ掛けられなかったし、リーオのように遠くへは投げられなかった。それでもなんとかやり終えると、ルーチェは岩の上に座った。
「なぁ、プラティ族はいつもどんなところへ行ってるのか?」
リーオが尋ねた。
「いろんなところだよ。サピドゥルだったり、ウティだったり。たまにだけど、バーゼとか、へチールなんかにも行くよ」
「へぇ。そういうところから比べたら、ここってどうなんだ?」
「暑いところだね。他はもっと寒いよ。リーベなんか冬は寒すぎて動物の毛皮なんか着るんだ」
「想像するだけで、暑そうなんだけどな」
リーオはそう言うと、腕で鼻の汗をぬぐった。
「毛皮を着ないと、寒くて死んじゃうんだ」
「……しんじられないな」
リーオは苦笑した。
その瞬間、ルーチェの釣竿に引っ張られるような重さを感じた。
「何か、食いついたよ」
ルーチェは負けじと引っ張りかえす。
「ただ引っ張るだけじゃ、糸が切れちゃうよ」
リーオは自分の釣竿を置くと、ルーチェの手伝いに回った。
引いたり、引かせたりして、魚の体力を消耗させながらだんだんこっちへ引き寄せていく。
「引き上げて、いいよ」
リーオの言葉を合図に、ルーチェは魚を引き上げた。
すかさずリーオが魚をあみで受け取る。
「釣れた」
ルーチェの顔に自然と笑いがこみ上げてきた。
それは、ルーチェの手のひら2つ分ほどの大きさの、青い魚だった。
「これは、焼くとおいしいんだ」
リーオは言いながら魚から針を抜くと、缶の中へ入れた。
「釣りって、楽しいんだね」
「まあな」
リーオは釣り針に小魚をつけてくれた。
その日は結局、ルーチェが2匹、リーオが3匹の魚を釣ることができた。
「持ち帰るか?」
リーオは訊いた。
「ううん、持ち帰っても調理できないし」
本当は持ち帰って自慢したいけど、焼く場所とかなかったので断った。
「また明日も、やりたいな」
ルーチェが言うと、
「またここに来るといいよ。待ってるよ」
リーオはそう言ってにっこり笑った。




