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プラティズ レコード  作者: 荒屋敷ハコ
第一章 ~ルーチェ~
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 次の日、ルーチェの演奏をみんなが聴きに来てくれていた。

「今日はたくさん時間あるから、秘密基地に行きたいよ」

 演奏が終わると、ルーチェは声をかけた。

 昨日、病院に行って友だちができたことを話すと、母親は喜んでいた。友達と遊んできてもいいと、母は言ってくれたのだ。

 だが、遠巻きにこちらを見るだけで、誰も返事する人がいなかった。

「どうしたの?」

 ルーチェが訊くと、

「あのな、父ちゃんと母ちゃんに話したら、遊ぶなって言われたんだ」

 リーダーの少年が、言いづらそうに口を開いた。

 ルーチェは体の中を冷たいものが、すっと通り抜けていくのを感じた。

「そう、なんだ」

 それだけ言うのが精一杯だった。

「ねぇ、『ノマド』って、なぁに?」

 一番小さな男の子が、訊いてきた。

「駄目よ、言っちゃ」

 その子の姉が怒ったように言った。

「俺もさ、一緒に遊びたかったんだけどさ。内緒にしてても見られちゃったら、怒られるからさ。ごめんね」

 リーダーの少年は寂しそうに言った。

「分かったよ、ありがとう」

 ルーチェも寂しかったけど、笑顔を見せた。

「じゃあね。みんな、行くぜ」

 少年はそう言うと、駆け出した。

「待ってよ」

 他の子達も口々に言いながら、少年を追いかけて行ってしまった。

 ルーチェはそれをずっと見送っていた。

「ふん、親が怖くて遊べねぇなんてな」

 すぐ後ろでそんな声が聞こえてきたので、ルーチェははっとして振り返った。

 見ると、やせた少年が1人、立っていた。

「君はみんなと一緒に行かないの?」

 ルーチェが訊くと、

「別に。興味ねえし」

 少年は腕で鼻の汗をぬぐった。

「じゃあ、僕と遊んでくれるの?」

「暇だから、別にいいよ」

「ねぇ、名前なんていうの?僕はルーチェっていうんだ」

 ちょっと変わっている子だけど、友だちになってくれるのはとても嬉しかった。

「オレ?オレはリーオ」

 リーオはポケットに手を突っ込んだ。

「何して遊ぼうか?」

「知らねえな……魚でも、釣るか。つったことあるか?」

 リーオの問いかけに、ルーチェは首を振った。

「そうか。まぁ、簡単だからな。来て」

 リーオはそう言うと、歩き出した。

 ルーチェもリーオの後についた。

 2人はマーロの街中を歩き、丘を越えて、やがて小さな入江にたどり着いた。

「ちょっと待ってな」

 リーオはそう言うと、辺りを警戒しながら1軒の小さな家の中へと入っていった。

 なんだろう、と疑問に思いながらルーチェは辺りを見回した。

 そこはとても静かな入江だった。青緑色の小さな波が、黒い岩をチャプチャプと洗い、ヤシの木などの南国の植物たちが海風に揺れていた。日差しは相変わらず差しこむように強かったが、ルーチェはあまり気にならなかった。

「はい、これ」

 リーオはそう言うと、釣竿とすくいあみを渡してくれた。

「これで、釣るの?」

「まず、その前に餌を取るんだ」

 リーオは器用に岩場を越えて、大きな潮だまりの所まで歩いて行った。

「待って」

 慌てて、ルーチェはリーオの後を追った。

 ルーチェがようやくたどり着いた時、リーオはすくいあみを潮だまりの中に入れて、何かを採っていた。リーオがすくい上げたあみの中には、小指の先ほどの大きさのエビや、魚が何匹か入っていた。

「これを魚の餌にするの?」

「そうだよ。岩の影とかにたくさんいるんだ」

 あみの中の魚を缶の中に入れながら、リーオは答えた。

 ルーチェは見よう見まねで、すくいあみで岩陰にいる小魚をすくってみた。

 最初の頃こそは、あみを岩場に引っ掛けたり、うまく採れなかったが、やがて面白いように入ってくるようになった。

「そろそろ、餌もたまってきたから、釣り始めるよ」

 リーオが言った。

 それから2人は大きな岩の陰まで歩くと、釣りの準備を始めた。

 釣り針に採ってきたばかりの餌を付けて、釣り糸を遠くへなげる。リーオがやっていることを真似して、ルーチェもやってみた。餌はなかなか釣り針に引っ掛けられなかったし、リーオのように遠くへは投げられなかった。それでもなんとかやり終えると、ルーチェは岩の上に座った。

「なぁ、プラティ族はいつもどんなところへ行ってるのか?」

 リーオが尋ねた。

「いろんなところだよ。サピドゥルだったり、ウティだったり。たまにだけど、バーゼとか、へチールなんかにも行くよ」

「へぇ。そういうところから比べたら、ここってどうなんだ?」

「暑いところだね。他はもっと寒いよ。リーベなんか冬は寒すぎて動物の毛皮なんか着るんだ」

「想像するだけで、暑そうなんだけどな」

 リーオはそう言うと、腕で鼻の汗をぬぐった。

「毛皮を着ないと、寒くて死んじゃうんだ」

「……しんじられないな」

 リーオは苦笑した。

 その瞬間、ルーチェの釣竿に引っ張られるような重さを感じた。

「何か、食いついたよ」

 ルーチェは負けじと引っ張りかえす。

「ただ引っ張るだけじゃ、糸が切れちゃうよ」

 リーオは自分の釣竿を置くと、ルーチェの手伝いに回った。

 引いたり、引かせたりして、魚の体力を消耗させながらだんだんこっちへ引き寄せていく。

「引き上げて、いいよ」

 リーオの言葉を合図に、ルーチェは魚を引き上げた。

 すかさずリーオが魚をあみで受け取る。

「釣れた」

 ルーチェの顔に自然と笑いがこみ上げてきた。

 それは、ルーチェの手のひら2つ分ほどの大きさの、青い魚だった。

「これは、焼くとおいしいんだ」

 リーオは言いながら魚から針を抜くと、缶の中へ入れた。

「釣りって、楽しいんだね」

「まあな」

 リーオは釣り針に小魚をつけてくれた。

 その日は結局、ルーチェが2匹、リーオが3匹の魚を釣ることができた。

「持ち帰るか?」

 リーオは訊いた。

「ううん、持ち帰っても調理できないし」

 本当は持ち帰って自慢したいけど、焼く場所とかなかったので断った。

「また明日も、やりたいな」

 ルーチェが言うと、

「またここに来るといいよ。待ってるよ」

 リーオはそう言ってにっこり笑った。



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