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プラティズ レコード  作者: 荒屋敷ハコ
第一章 ~ルーチェ~
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 雲ひとつない青空の中、ルーチェはアーディンを弾いていた。

 アーディンに合わせて踊っているのは、サーシャだ。この間のような人だかりは出来ていなかったが、客の入りはまずまずだった。

 色っぽい大人の女性、サーシャと、まだまだ子どものルーチェ。そのデコボココンビが珍しいのだろう?不思議そうな目で見ている客が多かった。

「ねぇ、ルーチェ。私と一緒に一緒に稼ごうよ。そんで、そのあとこっちに来ればいいでしょ?」

 サーシャがそう言い出したのは昨日のことだった。

 サーシャの意見に、誰もが集中した。

「これ以上ルーチェちゃんを1人にさせておくのはかわいそうよ。かといって、ずっとここにいても飽きちゃうでしょ。だったら、私の踊りに付き合ってくれたほうが、楽しいんじゃないのかなってさ」

 サーシャが首を曲げて、みんなを見回した。

「サーシャ、襲うなよ……」

 ミロンドがポツリといった。

「ひっどーい、ミロンド。いくら私が飢えてるからって、ルーチェちゃんまで手を出したりしないわよ」

 サーシャが頬をふくらませた。

 ベッドの上で、アイリーがくすくす笑った。

「本当は気にかかる存在じゃないの?でも、ミロンドが怖くて実行できないとか?」

「言うよね、ルネちゃんも。そんなことないから大丈夫よ、ルーチェちゃん」

 サーシャがルーチェの顔をのぞき込んだ。

「う、うん……」

 ルーチェは小さくうなずいた。

「もしかして、私を疑ってる?」

「……そうじゃなくてさ。僕、上手に弾けるかな?間違ったりしいて、サーシャさんに迷惑かけたりしないかな?」

 まだ、一人前ではない。

 それ、今までずっと母の後を追いかけてきただけだから、1人でできるか心配でたまらなかった。

「大丈夫よ、ルーチェ」

 アイリーはルーチェをまっすぐ見て言った。

「本当に?」

 ルーチェは母を見返した。

「自信持って。ルーチェは上手に弾けているじゃない。1人でも、大丈夫よ」

 アイリーはそう言って、やわらかな笑顔を見せた。

「それにさ、ルーチェちゃんが間違っても、私がフォローするから大丈夫よ」

 サーシャは自分の胸を叩いた。

「うん、やってみるよ。やってみなきゃ、分からないよね。サーシャさん、明日からよろしくお願いします」

 ルーチェはそう言うと、サーシャに向かってペコリとお辞儀した。

「もぉぉぉぉぉ。ルーチェったら、可愛いんだから。明日から、よろしくねぇぇぇ!」

 サーシャはそう言うと、ルーチェをぎゅっと抱きしめた。


 結局、ほとんどミスをすることなく、ルーチェは弾き終えた。

「すごいよ、ルーチェちゃん、完璧よ。ずっと練習してたんだね」

 サーシャはびっくりして言った。

「ちょっと緊張しちゃった」

 ルーチェは安心した笑みを浮かばせながら、手のひらの汗を服でぬぐい、自分の手を見た。

 指には弦の跡がまだくっきりと残っていた。

「また母さんと演奏できるかな?」

 ルーチェは独り言のように言った。

「ルーチェ」

 サーシャは思わずルーチェを抱きしめた。

「きっとアイリーだって、ルーチェと弾きたがっているよ。大丈夫よ。さて、今日はどのくらい稼げたかな?」

 サーシャはルーチェの頭をポンポンとたたくと、おひねりを回収した。

 ルーチェはそんなサーシャの様子を見ていたが、自分を見つめる視線に気づいた。

 視線の方を向くと、ルーチェと同じくらいの歳の子が数人、こちらを見つめていた。ルーチェが首を傾げると、みんなはひそひそと話したり、笑い合ったりしていた。

「どうしたの?ルーチェちゃん?」

 サーシャが訊いてきたので目線で指し示した。

「どうするの?行ってくる?」

「いいの?」

 ルーチェは顔を上げた。

「もちろん。病院までの道は分かるね?」

「知ってるよ」

 この辺りはフェルセとも散歩で来たことがあったので、よく分かっていた。

「じゃあ、先に病院へ行ってるから、後から来てね」

「分かった。待っててね」

 ルーチェが答えると、サーシャはニコッと笑って、行ってしまった。

 サーシャの姿が見えなくなると、ルーチェが足を運ぶこともなく、みんながやって来た。

「ねぇ、その楽器弾きながら、旅してるんだろ?」

 一番体の大きな、リーダー格の少年が口を開いた。

「うん」

 ルーチェはうなずいた。

「今まで、どこに行ったの?」

「サピドゥルとか、ウティとか、リーベとか」

「すごいね」

「リーベって寒いんだろ?雪ってどんなの?」

「白くて、とても冷たくて、空から降ってくるんだ」

 周りを囲まれてしまった。

「甘いの?」

「甘くないよ。味なんかないよ。氷みたいなもんだよ」

「ねぇ、その楽器弾いてみていい?」

 1人の女の子がアーディンを指さした。

「少しだけなら」

 ルーチェはアーディンをベルトから外すと、その子に渡した。

「意外に軽いんだね」

 少女はアーディンの弦を弾いた。

「へぇぇ~」

「ねぇ、ちょっと貸してよ」

 隣の子が奪う。

「あ、僕にもさわらせろよ!」

 またたく間に、アーディンの取り合いとなった。

「あ、そんなに引っ張ると、壊れちゃうよ」

 ルーチェが取り戻そうとしたが、無理そうだった。

「おい、おまえらそんなに乱暴に扱ったら、壊れちゃうだろ。壊れたらべんしょーだ」

 リーダー格の少年が叫んだ。

 それを合図に、みんなの動きがピタリと止まる。

「ごめんなさい」

 アーディンを持っていた少年が、ルーチェに返した。

「ありがとう」

 ルーチェは受け取ると、ベルトに取り付けた。

「なんか聞かせてよ」

 気の強そうな女の子が、ルーチェを見て言った。

「聞きたい?」

 念のためルーチェが訊いてみると、みんながそれぞれにうなずいていた。

 ちょっと緊張するんだよね。ルーチェは苦笑すると、思い切り明るそうな曲を弾いた。

 曲が終わると、みんなは口々に、すごいねと褒めてくれたから、ルーチェは少し照れた。

「これから、秘密基地に行くんだけど、行く?」

 リーダーの少年が誘ってくれた。

 秘密基地に行ってみたい。ルーチェはすごく興味があったけど、病院で待っている母のことが気になって仕方がなかった。それに、サーシャとも約束してしまった。

「行きたいんだけど、待っている人がいるから」

 後ろ髪を引かれながら、ルーチェは断った。

「そうか、残念だな。また今度行こうぜ」

 少年はにっこりと笑ってくれた。

「ありがとう」

 そう言ってルーチェはみんなと別れると、母の待つ病院へと向かった。



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