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雲ひとつない青空の中、ルーチェはアーディンを弾いていた。
アーディンに合わせて踊っているのは、サーシャだ。この間のような人だかりは出来ていなかったが、客の入りはまずまずだった。
色っぽい大人の女性、サーシャと、まだまだ子どものルーチェ。そのデコボココンビが珍しいのだろう?不思議そうな目で見ている客が多かった。
「ねぇ、ルーチェ。私と一緒に一緒に稼ごうよ。そんで、そのあとこっちに来ればいいでしょ?」
サーシャがそう言い出したのは昨日のことだった。
サーシャの意見に、誰もが集中した。
「これ以上ルーチェちゃんを1人にさせておくのはかわいそうよ。かといって、ずっとここにいても飽きちゃうでしょ。だったら、私の踊りに付き合ってくれたほうが、楽しいんじゃないのかなってさ」
サーシャが首を曲げて、みんなを見回した。
「サーシャ、襲うなよ……」
ミロンドがポツリといった。
「ひっどーい、ミロンド。いくら私が飢えてるからって、ルーチェちゃんまで手を出したりしないわよ」
サーシャが頬をふくらませた。
ベッドの上で、アイリーがくすくす笑った。
「本当は気にかかる存在じゃないの?でも、ミロンドが怖くて実行できないとか?」
「言うよね、ルネちゃんも。そんなことないから大丈夫よ、ルーチェちゃん」
サーシャがルーチェの顔をのぞき込んだ。
「う、うん……」
ルーチェは小さくうなずいた。
「もしかして、私を疑ってる?」
「……そうじゃなくてさ。僕、上手に弾けるかな?間違ったりしいて、サーシャさんに迷惑かけたりしないかな?」
まだ、一人前ではない。
それ、今までずっと母の後を追いかけてきただけだから、1人でできるか心配でたまらなかった。
「大丈夫よ、ルーチェ」
アイリーはルーチェをまっすぐ見て言った。
「本当に?」
ルーチェは母を見返した。
「自信持って。ルーチェは上手に弾けているじゃない。1人でも、大丈夫よ」
アイリーはそう言って、やわらかな笑顔を見せた。
「それにさ、ルーチェちゃんが間違っても、私がフォローするから大丈夫よ」
サーシャは自分の胸を叩いた。
「うん、やってみるよ。やってみなきゃ、分からないよね。サーシャさん、明日からよろしくお願いします」
ルーチェはそう言うと、サーシャに向かってペコリとお辞儀した。
「もぉぉぉぉぉ。ルーチェったら、可愛いんだから。明日から、よろしくねぇぇぇ!」
サーシャはそう言うと、ルーチェをぎゅっと抱きしめた。
結局、ほとんどミスをすることなく、ルーチェは弾き終えた。
「すごいよ、ルーチェちゃん、完璧よ。ずっと練習してたんだね」
サーシャはびっくりして言った。
「ちょっと緊張しちゃった」
ルーチェは安心した笑みを浮かばせながら、手のひらの汗を服でぬぐい、自分の手を見た。
指には弦の跡がまだくっきりと残っていた。
「また母さんと演奏できるかな?」
ルーチェは独り言のように言った。
「ルーチェ」
サーシャは思わずルーチェを抱きしめた。
「きっとアイリーだって、ルーチェと弾きたがっているよ。大丈夫よ。さて、今日はどのくらい稼げたかな?」
サーシャはルーチェの頭をポンポンとたたくと、おひねりを回収した。
ルーチェはそんなサーシャの様子を見ていたが、自分を見つめる視線に気づいた。
視線の方を向くと、ルーチェと同じくらいの歳の子が数人、こちらを見つめていた。ルーチェが首を傾げると、みんなはひそひそと話したり、笑い合ったりしていた。
「どうしたの?ルーチェちゃん?」
サーシャが訊いてきたので目線で指し示した。
「どうするの?行ってくる?」
「いいの?」
ルーチェは顔を上げた。
「もちろん。病院までの道は分かるね?」
「知ってるよ」
この辺りはフェルセとも散歩で来たことがあったので、よく分かっていた。
「じゃあ、先に病院へ行ってるから、後から来てね」
「分かった。待っててね」
ルーチェが答えると、サーシャはニコッと笑って、行ってしまった。
サーシャの姿が見えなくなると、ルーチェが足を運ぶこともなく、みんながやって来た。
「ねぇ、その楽器弾きながら、旅してるんだろ?」
一番体の大きな、リーダー格の少年が口を開いた。
「うん」
ルーチェはうなずいた。
「今まで、どこに行ったの?」
「サピドゥルとか、ウティとか、リーベとか」
「すごいね」
「リーベって寒いんだろ?雪ってどんなの?」
「白くて、とても冷たくて、空から降ってくるんだ」
周りを囲まれてしまった。
「甘いの?」
「甘くないよ。味なんかないよ。氷みたいなもんだよ」
「ねぇ、その楽器弾いてみていい?」
1人の女の子がアーディンを指さした。
「少しだけなら」
ルーチェはアーディンをベルトから外すと、その子に渡した。
「意外に軽いんだね」
少女はアーディンの弦を弾いた。
「へぇぇ~」
「ねぇ、ちょっと貸してよ」
隣の子が奪う。
「あ、僕にもさわらせろよ!」
またたく間に、アーディンの取り合いとなった。
「あ、そんなに引っ張ると、壊れちゃうよ」
ルーチェが取り戻そうとしたが、無理そうだった。
「おい、おまえらそんなに乱暴に扱ったら、壊れちゃうだろ。壊れたらべんしょーだ」
リーダー格の少年が叫んだ。
それを合図に、みんなの動きがピタリと止まる。
「ごめんなさい」
アーディンを持っていた少年が、ルーチェに返した。
「ありがとう」
ルーチェは受け取ると、ベルトに取り付けた。
「なんか聞かせてよ」
気の強そうな女の子が、ルーチェを見て言った。
「聞きたい?」
念のためルーチェが訊いてみると、みんながそれぞれにうなずいていた。
ちょっと緊張するんだよね。ルーチェは苦笑すると、思い切り明るそうな曲を弾いた。
曲が終わると、みんなは口々に、すごいねと褒めてくれたから、ルーチェは少し照れた。
「これから、秘密基地に行くんだけど、行く?」
リーダーの少年が誘ってくれた。
秘密基地に行ってみたい。ルーチェはすごく興味があったけど、病院で待っている母のことが気になって仕方がなかった。それに、サーシャとも約束してしまった。
「行きたいんだけど、待っている人がいるから」
後ろ髪を引かれながら、ルーチェは断った。
「そうか、残念だな。また今度行こうぜ」
少年はにっこりと笑ってくれた。
「ありがとう」
そう言ってルーチェはみんなと別れると、母の待つ病院へと向かった。




