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廊下に1人の男が佇んでいた。
見逃してしまうくらいに、男は空気に溶け込んでいた。
「君、だれ?」
男が自分のことをじっと見つめていたので、ルーチェは思わず声をかけてしまった。
「君はそこの部屋に入院している女の、子どもだろ?」
男は顎で部屋を指し示した。
白いシャツに黒いズボンといった、どこでもありそうな服装をしていた。大人っぽく見えるが、意外にも若いのかもしれない。それでも、ものすごく落ち着いて見えた。
「名前は?」
「ルーチェ」
男に訊かれて疑いながらも、ルーチェは素直に答えた。
「光か。俺には関係のない言葉だな」
男は苦笑した。
「君は?」
「ミロンドが、まさか依頼してくるとはね。よっぽどのことがあったと思ったよ。まぁ、ミロンドには借りがたくさんあるから、安価で引き受けたがね」
男はそう言うと、ネックレスをルーチェに見せた。
鎖は金で出来ていた。ペンダントトップには貝で作った花びらの中には真珠が一粒付いていた。
こんなものを父が持っていたとは。ルーチェでさえ、知らなかった。
「ミロンドの婆さんの形見だってさ」
男は言うと、ポケットの中にしまった。
「で、僕に何か用なの?」
こちらの質問に、何一つ答えてくれない男の態度に、ルーチェはむっとしていた。
「用事?別に何もないけどな。ミロンドの子どもというのが、気になったわけ」
男は鼻で笑った。
「それだけ?」
「一応、チュニ族とプラティ族は友好的な繋がりがあるからさ、あいさつしたわけ」
ルーチェをなだめるように、男は言った。
「ふうん」
「オレはシムド。また何かあったら、会えるかもな」
シムドはそう言うと、微妙な笑顔を作った。
それから窓を開け、枠に飛び乗るとそのまま外へ飛んだ。
「!!」
ルーチェはびっくりして外を見たが、シムドらしき人はいなかった。
少なくても、人が落ちて怪我している状況は、見当たらなかった。




