第二話.
辺りはだいぶ薄暗くなってきた。商店街の通り道はその並ぶ店達の明かりによって明るく照らされている。が、少しでも脇道にそれると、明かりも少なく非常に見辛い。
タカは店内と脇道ごとに目を凝らして探して行った。この商店街めざして脇道からやってくる人もおり、その人影が誰か分かるまで待ってしまうこともあった。
そしてミナを見つけたのは結局商店街の一番端っこ。交番から出て来たところであった。
「ミナ?」
「あ、タカ」
タカはミナの顔よりも先に、その右手の先にいる子供に目が行った。
「ミ、ミナ。その子は?」
タカはミナを心配する『どこに行っていたの』という言葉よりもその質問が先に出てしまった。
「う、うん」
ミナはそう答えてちょっとの沈黙を作った。そのちょっと沈黙の間に、空は雨を降らし始めた。
「さっきまであんなにいい天気だったのによー」
タカ達二人、いや三人の脇を走り抜ける男達の会話が耳に入り込んでくる。突然の雨に辺りも慌てている。
タカもハッとする。
「と、とにかくアパートに戻ろう」
「この子も……」
「う、うん。話はあとで」
そうタカは言い、左手でその子の右手をつかむ。ミナは右手でその子の左手をつかむ。そして持ち上げるように、二人はアパートに向かって走り始めた。走っているせいだろうか、雨が強くなっていくように感じられた。
商店街の各店の軒先は買い物客やそれ以外の単なる通りすがりの人をも雨から守っていた。そして、素早い店ではビニール傘の販売も軒先で始めている。
「買うよりこのまま走った方が早いよね」
「そうだね」
タカ達はそのまま二人の間に無邪気に笑う子供をぶら下げて、アパートに走った。
*
「やれやれ……ビックリしたなぁ、天気予報では夕立なんて一言も言ってなかったのに」
タカはそうぼやきながら大き目のタオルで自分の頭を拭いていた。ミナも肩まである髪の毛を丁寧に拭いていた。子供も静かに不器用に自分で頭を拭いていた。髪の毛が長い。服装から見ても、たぶん女の子だ。
「で?」
タカはちょっとわざと不機嫌そうにそう言ってみた。ちょっと威厳を出したかったのだろうか。
「えっと、ね、この子、実は……私の……」
ミナはちょっと恥ずかしそうな感じでゆっくりそう言った。
「ええっ!」
タカは、そのミナの言葉で一気に腰が抜けてしまった。その場にしゃがみこんでしまったのだ。
そして少し間を空けてから意地悪そうに笑いながらミナが言った。
「ヘヘへ。ウソ」
「は?」
「なんか迷子みたいなの」
「は?」
タカは完全にミナに負けた感じだ。
ミナの話によると、例の喫茶店を出たらこの子が寄ってきてそのまんま離れなくなったというのだ。
「ふーん、気にいられたのかな。迷子なの?」
「そうみたい。自分の家、わからないみたいだから」
そうミナが言うと、女の子は、
「わかるもん、あっちだもん」
そう言って窓の外を指した。
「さっきからこうなの」
ミナがちょっと苦笑いしながらそう言った。
「あっちなの!」
女の子はちょっとすねた感じになってきてしまった。泣かれるのは困る、タカはそう思った。タカは精一杯微笑みながらこう聞いた。
「そ、そうだね。ね、じゃあ、お名前教えてよ」
その声にミナはちょっと吹き出しそうになってしまった。それは聞いたことない声であったから。
「……コトナ」
そう女の子はつぶやくように言った。その声が小さかったため、タカは思わず聞きなおしてしまった。
「え?」
「コ! ト! ナ!」
女の子は怒るように大きな声で一語ずつ言ってきた。
「あ、あ、コトナ、コトナちゃんね」
おどおどしながらタカは苦笑いをした。
「あ、タカ、この子の服に書いてある」
ミナのその指の先、靴下に書いてあるのは『琴奈』という文字だった。
「琴奈ちゃんね」
ミナがそう微笑みながらそういうと、
「そうなのです」
ちょっとこましゃくれてそう答えた。琴奈は元気のいい言葉を発するが、不安なのだろうか? 動きはとても大人しい。
しばらくの沈黙後、タカが話を戻すように言い出した。
「で?」
「でって?」
「どうするの、この子?」
「さっき交番、行ってきたのよ」
「したら?」
「迷子だった」
「は? じゃあ、なんでここにいるの?」
「あずかったの」
「は?」
「だって離れないんだもん」
タカは唖然とした。しばらく呆然と琴奈を見ていた。琴奈は大人しく回りをきょろきょろしているだけだった。落ち着かない、と言うよりは見たことない場所に興味深々という感じだ。
「はは。ま、がんばってください」
タカはひややかに笑い言った。
「タカの名前であずかったのよ」
「なにー!」
「ま、手伝って上げるから」
「なにー!」
こうして、三人での生活が始まった。タカとしては嬉しいような、辛いような。そんな中途半端な気持ちだった。




