表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は高校教師になって駅伝部の顧問をやることになった  作者: 糸魚川孝紀
顧問就任1年目
PR
65/95

教師達の日曜日

 都大路を決めた北信越後の最初の日曜日、俺は弥彦神社に来ていた。

 森に覆われた境内を抜けた先にある新潟県屈指の大きな社。日曜の午前中ということもあり登山客が多いなか一人。

 賽銭箱の前に立つ。

 お辞儀をし、手を叩く。そして心に念じた。

(都大路に出れて、ありがとうございました)

 県駅伝の前にも弥彦神社に来て都大路出場を祈願した建前、やはり感謝の気持ちも伝えに来なければいけないと思っていた。北信越駅伝後になってしまったけどこうして結果報告が出来て嬉しいな。

 そして都大路での好走をお願いすると、もう一礼をするのであった。

 次はおみくじを引きに行くことにした。

 県駅伝のときは「負けるが夢は叶う」と書いてあって本当にその通りになった。だからそれ以来、おみくじにはスピリチュアルパワーじゃないけど不思議なものを感じている。

 まぁたまたまかもしれないが、二ノ丸高校での都大路の結果をこうして占うのも悪くないだろう。自分ではなかなか気づかないことが書いてあることも多いしね。

 俺は巫女さんに100円を渡すと、カランカランと音を立てておみくじを引くのであった。

「15番です、お願いします」

 巫女さんはとても静かに、どうぞと会釈をしながら15番のおみくじを渡す。俺もお辞儀をするとその内容を確認するのであった。

 ひんやりした空気も冷たく感じられる弥彦神社。その一角の日向でおみくじをペラリペラリと見開いた。

「えーっと、『勝負』のところは……『最後まで勝負し続けろ』か」

 なんか、県駅伝のことみたいだな。

 岸部高校に圧倒的な差を付けられながらも最後まで諦めず、3位に滑り込んだ。だから北信越も決められたし都大路にも繋がったんだ。

 この諦めの悪さが二ノ丸高校なんだろう。廃部と言われても、メンバーが足りなくても、不幸と幸運が重なってここまで来れた。

「都大路でも、この姿勢を貫けってことか」

 江戸川記者に言われた「都大路の目標」は「まずは最低でもオール区間自己ベストで20番台、そして二ノ丸ベストで10番台、最高で入賞を目指す」と決めた。全国ランキングでは二ノ丸は18番目の位置にいるから、この目標設定は妥当だと思う。

 目標を3段階にしているのはプレッシャーになりすぎないためだ。まずは間違いなく達成できそうな目標をおくことが心のゆとりになる。一方で最高でここまでいければいいなという目標を定めることで、自分に期待を持てる。しかしあくまで基準とする目標を定めることでチームに一体感が生まれてくる。

 これは大森から教わった目標設定だけど、県駅伝でも北信越でも「最低都大路、最高都大路」というヤウラちゃん的な目標設定だったので生かせることはなかった。今さらこういうのを導入するのも慌ててる感が否めないが、やらないよりはましだろう。

「ともあれ、あとは都大路に向けて頑張るだけだなぁ……」

 11月下旬の今週から体作りを再開して急ピッチで仕上げ、都大路本番に合わせる予定だ。新潟は12月には雪で覆われ始めるので週末は関東に出かけて練習しようかと思っているので、これからもっと忙しくなる。お正月まで週末はないだろう。

 まぁ、今日はせっかくの休みだ。難しいこと考える前に、買うもの買ってリフレッシュもしないとだ。

 よし、と一息ついておみくじを結ぼうとした、その時だった。おみくじの和歌に、何やら不思議な言葉がかかれているのを見つけた。


 いつぞやの

 思ひつもるは

 冬ごもり

 桜まひちる

 都大路(みやこのおおじ)


 おみくじに書いてある和歌は、その運勢や教訓を表したものだ。だいたい天皇とか貴族が書いたものだけどこの和歌は作者が書いてないな。

 この意味は「いつかの思いが募っていく冬真っ最中ですが、京都の大通には桜が咲いていますよ」って意味か。恐らく、恋人に思いを馳せる貴族が詠んだ歌なんだろう。

 でもこの歌はおかしいな。冬の季節を詠んだ歌なのに、なんで桜が舞ってる様子が描かれてるんだろう。季語的におかしい。

 それに……都大路って、古文でも現代でも「みやこおおじ」って読むはずだ。でもこれは「みやこのおおじ」。こんな読み方、あったっけな? 詠んだ人も分からないからいつの時代かも分からないし。

 首をかしげまくりだった。作者も説明も全く書いてないし変なおみくじだな。

 元々古文そこまで好きじゃないから知らないけど、これはちょっと気になるな。元貴族の信乃なら何か知ってそうだから聞いてみようかな。

 和歌に大して興味が湧いてきたところだったが、おみくじを境内の縄に結わえて弥彦神社を後にした。

 弥彦神社から車を走らせること1時間。俺は新潟市のほうに来ていた。

 バイパスを使って30分。着いたのは新潟県最大のショッピングモール「鶴ジャス」だ。

 鶴ジャスは大型ショッピングモールだ。その中にはスーパーや服、雑貨の直営店をはじめ、フィットネスジム、映画館まで何でもありの施設。冬は吹雪であまりどこにもいけない新潟県民にはとても重宝する。

 今日はフードコートに行って昼ごはん食べて、映画館で映画を見て、ショッピングモールで買いもしないものを物色した後に家具を買って帰るつもりだ。

 いつも駅伝部のみんなにつられて体にいいものしか食べてないので、たまにはフードコートの体に悪そうなおいしそうなものを食べたい。映画は「シン・この世界の形の名は」っていうアニメ映画が面白いって聞くし、高校生との話題づくりのためにもチェックしておきたい。そしてたまにはジャージ以外の服もチェックして、そして最後にデスクを買って帰るんだ。ううん、我ながら充実した日曜日だ。ブラック企業時代からは考えもつかないくらいに文化水準が上がっている。

 それに今日は駅伝部のみんなもいない。いつも一緒にいるのはもちろん楽しいんだけど、教師という立場を考えればどうしても緊張感があって疲れる。たまには教師であることを忘れて、思い切り楽しもう!

俺は意気揚々と車を鶴ジャスの駐車場に止める。そして車のキーを人差し指でくるくる回しながら鶴ジャスの中に入っていくのだった。

 が、しかし。店の自動ドアをくぐった瞬間。聞きなれた声が耳に入ってきた。

「あの、だから、これが不良品だったって言ってるじゃないですか!」

 その女性は化粧品コーナーでクレームをつけていた。なんでも、自分が買ったマスカラが壊れていたようだ。

 しかし店員は「いえ、それはお客様が力ずくで壊したようにしか見えないのですが……」と抵抗する。

「なに、そんなに私がガサツで馬鹿力だったいうんですか!? なによ、だったら――――あれ、翔?」

 声の主は朝陽、吉川朝陽であった。彼女は俺の顔を見ると急に顔を赤らめて、クレームをやめて店員に謝るのであった。

 そして店を後にして俺の元に近づく。

「あ、あら翔。こ、こんにちは」

「こんにちは…… なんか見てはいけないものを見てしまったな」

「やめてよね! 化粧したのを翔に見てもらう前に、壊れちゃったから……」

「ん? なんか言った?」

「なんでもない! ところで今日は何しに来たのよ。ひょっとして、デ、デ」

 朝陽は俺がデスクを買うことをわかっているのか。

「ああ、文字通りデから始まるものだよ」

「え、うそ!? いつの間に恋人なんてできたのよ!」

 何を言ってるんだ朝陽は。俺の恋人なんて、朝陽に振られちゃったときから駅伝だけだよ。

「はぁ、今は恋人のことで頭いっぱいだけどな。そのための買い物だよ」

 デスクを買うのは、家出の授業準備を効率化させたいこともあるが、駅伝のためのデータ収集のためもある。我ながら高校教師の目的を逸脱している気しかしないが悪くはないだろう。

「あぁ……もうだめだ私……」

 急に肩をガックリ落とす朝陽。

「なんで朝陽が落ち込むんだよ。デスク買いに来ただけなのに」

「デスク? デから始まるもの…… じゃあつまり、翔にはまだ彼女いないってこと?」

「今さら何回言わせるんだよ…… 恋人作ってる時間なんてないよ」

 もうガックリうなだれた。毎日毎日マジで忙しいのに、恋人とラブラブしてる時間なんてない。まだ結婚なんて考える年齢でもなければ、都大路の前にそんなことしてられない。

 自分の身の上話にちょっと絶望気味の俺だったが、なんか朝陽はうれしそうだ。

「そっか。よかった。教師になっても、昔の翔のままで」

 安堵したようなそんな顔をされた。

「栃岡家断絶の危機なのに安堵されてる!?」

「そーゆーことなの。今日は一人で買い物なんでしょ? せっかくだからご一緒したいな。帰りは乗せてもらえるし」

「まぁ別に構わないよ。本来の目的は最後の倒置法だと思うけど」

 朝陽はニコニコ笑いながら俺の隣に並んだ。まったく、そんなに帰りの電車賃が浮くがうれしいのかよ。

 俺と朝陽は2人で鶴ジャスのなかをぶらぶらすることにした。

 朝陽は時折通り過ぎる服屋に入っては出て、入っては出てを繰り返す。最初は俺も「この服いいんじゃない?」とか「似合ってるよ」と言う余裕があったものの、数店行くにつれてしんどくなってきて外で待ち始めた。ただ朝陽も、俺がそういうデート感あることが慣れてないというか苦手というのがお分かりのようで何も言わずに自分の買い物を楽しむ。正直、ありがたいな。

 だがしかし、待ちくたびれた俺を不憫にでも思ったのだろうか。自分の買い物を済ませると趣味でもない映画に誘うのであった。

「いいけど、映画なんて趣味だったっけ」

「生徒との話題作りのためよ。ホラー映画の『THE ON(ジ・オン)』を見たくって。翔は大丈夫でしょ」

「んまぁ、シンなんちゃらを見たかったけど……いいよ、そっちの方が興業収入多いらしいし」

 ホラー映画を劇場で見るのは初めてだったけど悪くないと思った。たまにはスリリングなものを見ないと、立場的にスリリングな二ノ丸高校ではやっていけなさそうだしな。

 朝陽はちゃちゃっと会計を済ませると、俺達は鶴ジャスの中にある映画館「マイケル」に行くことにした。

 THE ONは公開ギリギリだったけど、たまたま席が両隣で2つ余っていたので迷わず入ることにした。

 シアター内部が暗くなって予告が流されるときに劇場に入り込む。ギリギリセーフ。俺は朝陽とそそくさと移動すると、すみませんすみませんと言いながら客席に入る。

 なんとか間に合った……ほっと一息つくと、ポップコーンを朝陽との間にセットする。

 そういえば、高校のときに1度だけ行った朝陽とのデートもこんな感じだったかな。上映直前にギリギリで駆け込んで座る。そして開始早々キャラメル味のポップコーンをすぐに食べ散らかした俺に、朝陽がちょっと不機嫌になったんだっけ。今思えば、二人とも子どもだな。

 映画はまもなくスタートした。THE ONは部屋の電気が勝手に消えた瞬間に幽霊だか亡霊だかに襲われるパニック系の映画だ。ううん、見てると結構面白いな。日曜ロードショーにはない映画館ならではの迫力がある。

 それがまた、この暗い観客席なのがムードあるんだよな。前後見ても、カップルばっかり。何が楽しくて俺は同僚と観に来てるんだ。

 隣の朝陽は楽しんでいた。ていうか、固唾を飲んで映画を見ている。やれやれ、話題作りとか言って、実は楽しんでいるのは自分じゃないか。お洒落した20代女子がこんな時間の使い方してていいのか?

 朝陽は正直、ルックスだけならとんでもなく美人なのだ。毎月毎週、保健室で男子生徒が告白しているのにいつも振っているという話を噂で聞く。

 そんなに美人が、日曜昼間にホラー映画見て楽しんでるところを同僚教師に見られている。なんか、もったいなくて憂うつになるな。もっとその……遊ぶ男とか、いるだろうに。

 朝陽はやっぱり変な人だな、なんて思いつつ、朝陽の反対サイドに置いたゼロカロリーコーラのカップに手を伸ばて飲もうとする。しかし……

(あれ、中身がない)

 ここに来るまで一口しか飲んでない。もうなったこともあり得ないし、多分隣の人が間違えて飲んだんだろう。

 ……隣の人とは目を合わせない方がいいな。終わって明るくなってから顔くらいは確認しよう。実はめっちゃくちゃ美人かもしれないしね。

 ふぁ……なんか眠くなってきたぞ。そういえば昨日は土曜だったけど朝から部活、今日も弥彦行くために朝早く出たからなぁ。先週は学園祭もあってストレスフルだからとても疲れて感じる。

 朝陽は映画に集中してるし、ちょっと寝ちゃおうか。

 ホラー映画なんて聞かなければただのBGMだ。俺は目の力を抜いて、そっと眠りに落ちるのであった。

 まどろみ始めるときのふわふわした感じ。最高ーーーーーーー

「こら、翔、起きなさいよ」

「ううん……」

 眠り始めたと思った瞬間に朝陽に起こされた。

「あれ?もう終わっちゃったの?」

「あなた開始早々寝てたわよ。まったく、せっかくお金払ってるんだから楽しみなさいよね」

 そんなに寝てたのか俺。こんなことなら家で寝ていても変わらなかったな。

「まぁ気持ちよかったしオーライだよ」

「あっそ……」

「えええええ!?!? 栃岡センセー!?!?」

聞きなれた声がした。声の主は俺の右隣に座っていた、彼女だった。

「え、ひょっとしてーーー」

「う、や、やっぱり栃岡センセー……」

センセー、と呼ぶのは二ノ丸高校の生徒多しと言えども二人だけ。あの双子だけだ。

「さ、漣、なんでこんなところに!?」

「そっちこそ、センセーこそなんでここに!?」

隣にいたのは漣だった。しかも、それだけじゃないようだ。

「ワーオ、コーチデス!」

「と、栃岡先生ではないですか!」

「お、やっほーセンセー」

サクラ、稲穂、それから涼風だった。みんなご一緒に、休日らしいカジュアルな服装をしていた。

「よう、みんな一緒だったか。せっかくの休みに遊びに来てるんだな」

真っ先に反応したのは稲穂だった。

「そうです! 栃岡先生とこんなところでお会いできるなんて……運命、ですね!」

稲穂はロングスカートに花柄のシャツを着て、その上にデニムのジャケットを着ていた。普段の駅伝部の練習着からは考えられないほど歳相応な服装である。ほかの漣、サクラ、涼風がジーンズとかパーカーだったりするあたりおしゃれ指数は稲穂が一番高い様子だ。

「俺もビックリしたよ。ところで今日はみんなでお出掛けか?」

「そうです! せっかくの休みなんで、JKらしいことしたいと思ったんです。京子先輩と信乃先輩はさすがに来れなかったですが」

 さすがに2人とも3年生だ。京子はセンター試験まであと2ヶ月だから国公立志望なら頑張らなくちゃいけない。信乃も急に受験を決めたらしく最近は部活以外は勉強モードだ。

 正直、京子がちゃんと大学にいけるのか不安はあった。そりゃ大学全入時代と呼ばれる今、進学実績のいい二ノ丸高校でも成績上位の京子ならどこかしらの大学には引っ掛かるだろう。でもちゃんと志望通りのところにいけるのか、もしかしたら志望を下げたり、浪人とかしないか……など不安はぬぐえない。

 俺が複雑な心になってしまったのを稲穂は見通したのだろうか。受験の話を続ける。

「京子先輩、夏から志望下げてないみたいですね。でも私大は明英も受けるみたいですよ、あとは平大とかも」

「それって駅伝の強豪ばかりじゃないか」

 明英大、男子は言わずもがな強いが実は女子も名門なのだ。附属高の強化が上手くいって最近は特に強い。平安館大も京都にある女子駅伝の名門中の名門だ。

「やっぱり大学に入ってからも長距離続けたいみたいですね。すごいなぁ、京子先輩は。信乃先輩も帝大志望ですし」

 帝大とは東京帝国大学、名実ともに日本トップの大学だ。信乃、ちょっと前までお嫁に行くとか言ってたのにすごい進路変更だな。教頭もそれだけの進学先なら納得なのだろう。

「うちの駅伝部はどんだけ頭いいんだよ…」

「先輩達だけですよ。私たちは平均か、ちょっと下くらいですし」

 そんなことより、と稲穂は語勢を強める。

「先生方はデートなんですか?」

 稲穂は目をウルウルさせながら、しかしキラキラさせながら聞く。

「そんなわけないだろ、たまたま一緒になっただけだよ」

「そうですよね! アハハ、勘違いか」

 稲穂は妙に声が高くなっていた。声が大きいのは感情が高ぶっている証拠だけど、高いとなにかあるのかな?

 じゃあ、と稲穂は続ける。

「それなら一緒に鶴ジャスのなか回りません? 参考書見たいんですよ」

「稲穂は真面目だな。んまぁ、この4人はみんな参考書が必要そうだしな」

「あはははは……ご名答です」

 稲穂の独断だったが、漣も涼風もサクラも別にいいみたいだった。意外とみんな真面目だな。

 朝陽も「なんだかんだみんなといるのは楽しいのよね」と言いながら付いてくる。うん、俺もなんだかんだ楽しいわ。数が多い方が賑やかだしな。

 日曜で人が多い鶴ジャスのなかを6人で歩く。俺ら以外でこんなに人数多いのなんて家族連れか地元の中学生グループくらいだが。

 歩いているとサクラが嬉しそうに話しかける。

「コーチ! THE ONはとーっても、ファンタスティックでシタ!」

「日本の映画が面白いなんてサクラも分かってるじゃないか」

「イエス! 井戸からオバケ出てくるの、ザンシンデス!」

「そんなことあったの? 俺はすぐコーラなくなっちゃったから、あとはずっと寝てたんだよ。でも何故か一口しか飲んでないのにあんなにすぐなくなったんだろう……」

「えっ」

 その瞬間、朝陽と話していた漣が声をあげた。

 立ち止まる漣。顔色が真っ赤だ。

「どうした? ホラー観て具合でも悪くなったのか?」

「い、いや、な、なんでもない。ほら、あれだよ、コーラがなくなったのはオバケのせいだよ」

「やめてくれ!?」

 怖い怖い怖い。隣の人が飲み間違えただけだよね!?

「なんだよ、怖いな……」

「ソンナことヨリ、テキストブック! 選びマショウ!」

 気づけば書店にたどり着いていた。こういうショッピングモールは会話してると一瞬で目的地まで着く。

 全員でまず参考書売り場に……かと思いきや、稲穂はファッション誌、漣はスポーツ本コーナー、涼風はビジネス書コーナーに。涼風は趣味が意外すぎるぞ。一周回ってネタだろそれ?

 朝陽も教育系のところに引き込まれていっちゃったし、ここはサクラと二人で参考書チェックだな。

 やれやれと思いつつも、目の前で参考書に目を光らせるサクラは微笑ましかった。

「このネクストエイジっていうイングリッシュのブンポウ問題集はどうデスか?」

「サクラはこんなのいらないでしょ……」

「ムムム、このダンディ古典はワカリやすそうデスね」

「お、日本文化も楽しみたいならピッタリだと思うぞ。厚いけど、受験知識だけに留まらない名著だな」

 俺は明英には推薦で入ったが一応勉強はしていた。大学受験に関しては先輩なのでここぞとばかりにアドバイスする。

「コーチのアドバイス、タメになりマス!」

「そりゃどーも。あ、このチート式なんてどうだ? 繰返しやることでチート級に数学が得意になる参考書だ」

 そう言いながらサクラの目の前にある本を取ろうとした、そのときだった。

 背後から電子音のシャッター音が聞こえた。

 ーーーーーカシャリ

 明らかに自分を対象としているのが分かる、そんな気配すら感じた。

 背後に人がいて俺とサクラを撮ったのだ。そうとしか、その時は考えられなかった。

 一体誰がーーーそう思いながら後ろを振りえる。

「よぉ栃岡。休日に生徒とデート、教師の不純異性交遊の決定的瞬間だな」

 冬も始まっているというのにアロハシャツ、輸入品に思われるサングラスをした男。そしてこの、俺を毛嫌いした話し方。

「花方……先生!?」

「久しぶりだな栃岡。この不純異性交遊の写真を教頭に見せりゃあ、お前も都大路に出れなくなっちまうんだよ」

 恨みを持った花方。これにより俺はこのあと、部活の存亡をかけて戦うこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ