君と走る長岡ロード
昼休みの職員室。俺は自分のデスクに腰掛けながら、藩内京子に視線を合わせる。
「本当にこれでいいんだな?」
京子は相変わらず緊張しているようだった、が、力強く答える。
「はい。この区間配置で、勝負します」
俺は京子から渡されたルーズリーフをもう一度見る。
1区 6km 京子
2区 4km 稲穂
3区 3km 信乃
4区 3km サクラ
5区 5km 漣
京子は俺がそれに目を通したことを確認すると、続ける。
「3区4区は本当に迷いました。でも、ペースが取りにくい区間でも走れる信乃ちゃんを3区。そして持ちタイムがいいサクラを4区に使っておきたかったんです」
北信越駅伝の3区は、前半が下り坂で、後半が平坦な道だ。気が動転して前半を飛ばしすぎたら無意味なので、ペース配分が上手い選手のほうがいい。
4区は住宅地を走るコースだが、ここは前後のタイム差を読みながら展開を作る力があるサクラを置くのは納得できる。
でも……走れなかった涼風はどういう気持ちなんだろう。夏から全力で駅伝部の練習をこなし、県駅伝もまずまずのタイムでこなしてきた。彼女の気持ちを心配するのが自然なことだった。
「涼風はどうしてた? さすがに走りたかっただろうに……」
「あ、全然大丈夫でしたよ」
心配ご無用!?
「『ここにきて選手を支える立場にするなんて、みんな見る目があるじゃない!』って言ってましたよ。みんなさすがに笑ってましたけど」
なんだそりゃ。まぁ、彼女なりの優しさなのかもしれないが……
「でも、帰り道に涙ぐんでたように見えました。いつも一緒の漣さんとも帰りませんでしたし、落ち込んでないようには、見えなかったです」
「やっぱりそうか……」
半分は成長した涼風に感心したけど、もう半分は駅伝を走るまで伸ばしてやれなかったことに後悔していた。もう10秒伸ばしてやれれば、もっと違う区間配置になっていただろう。
「と、とにかくあとは調整だけだ。北信越駅伝は来週の土曜日、ジタバタしてもしょうがないけどやることはやらないといけない」
「はい! もう一度みんなにも伝えておきます」
「あ、そういえば他県の結果と俺的の講評をまとめといたから、昼休みのうちにみんなに配っといてくれ」
そう言いながらパソコン脇の本立てからクリアファイルを取り出し、そのまま京子に渡す。
「新潟県高校駅伝の結果は知っての通り、岸部、暁月、そしてうちだ。そこまではいい。富山県の結果は、1位の富山光陵が都大路内定。2位3位に2校が続いたけど、富山光陵とはかなり差があるし4月からの記録の推移を考えれば順当ってとこだ。まぁ気にすることはないよ」
俺がこう言った瞬間、京子は青ざめた。
「と、栃岡先生は見ず知らずの他県の女子高生の1年間のタイムをひたすら検索してたってことですね……」
「人聞き悪いからやめてマジで!」
職員室から一斉に視線が集まったぞ今!? 涼風争奪戦におけるキス騒動もあって、どうも最近俺が女子生徒と話すときに視線が気になる。
「で、でも、それだけ私たちのこと考えてくれてたってことですよね!! さすがです栃岡先生!」
焦った京子はフォローをしたけど……それむしろ火に油を注いでませんか?
「と・に・か・く! 次は石川県だ。1位は星城高校でタイムは1時間11分53秒。ここも2位以降はタイム差が開いているからあんまりきにしなくてよし。福井県も1位は1時間12分台だし……」
「新潟県ってレベル高いんですね」
「面積が広いから人口も多いし、高校も多いからな。そうなるのは自然なことだよ」
だから、と俺は続ける。
「北信越の残り1県、長野がやっかいなんだよな……」
そう言いながらまとめたレジュメに目を落とした。
「1位が豊科東で1時間9分一桁の記録。都大路で入賞を狙える岸部よりも速いタイムなんだが……実はこれ、山のコースで出した記録なんだよな」
「なっ――――」
京子が声を詰まらせた。
「コースはハーフマラソンのコースで100mの高低差がある。2位の大甲大四高も1時間10分台、3位も1時間11分台前半のタイムだ」
「速いとは知ってましたが、そんなコースだとは知りませんでした……」
「長野の2,3番手は要注意だな。彼女らと新潟県勢、富山石川福井のトップでレースが進んでいくだろう」
「じゃあ1区は特に厳しいレースになりませんか? 記録を狙う各校のエースが揃うってことですよね……」
「ご名答だ、京子。県駅伝より厳しいレースになるだろうな」
京子が唾をのみ込む音が聞こえた。
「は、はい……」
「と、栃岡先生っ」
金曜日の練習後、京子が緊張した面持ちで聞いてきた。
「す、少しお時間、よろしいでしょうか? 相談をしたくて」
明日の試走に控えて軽めの練習だった今日は終わりも5時前とかなり早めだった。受験生である京子にとって、彼女は別に問題ないのだろうと思っていたのだろうが、
「いや、時間もったいないだろう。家まで送ってくよ」
「ええぇえ!? 大会の後でもないし、遅いわけでもないのに、そんな」
「俺もちょっと買い物行こうと思ってたし、ついでだよ」
「そんな…… でも、ありがとうございます」
京子は断ることに区切りをつけて、俺に向かって礼をした。
まったりしている時間ももったいないので職員室にもよらずに車に乗り込んだ。
「で」
車に乗って二ノ丸高校グラウンドを出た瞬間に俺は話題を振る。
「相談事って何だ?」
「はい。私、北信越駅伝で、1区を走ることになっているんですが…… 正直、県駅伝のような走りができるとは、私自身、思っていません」
自信のなさそうな声だった。
「何を言ってるんだ。自分の実力に自分が一番ビビってどうするんだ」
「自信がないわけじゃないんです。でも、自分でなんであの走りができたか、自分で説明できないんです」
京子は京子なりに、県駅伝での自分の走りを分析したのだという。練習のタイムや、今までの実戦でのタイム……それら全てを統合して、自分の走りについての考察したそうだ。
「あんなタイムは、どう考えても出せるはずがないってことか」
「はい。17分を切れたとしても、県駅伝5kmの16分28秒なんてタイムは出せるような練習も、試合も、こなせていませんでした」
「でも、長距離ってか陸上、駅伝ってそんなもんじゃないのか? 練習で遅かったとしても本番でピッタリ合わせてくるタイプだっているさ。その逆も然りだけど」
だから陸上競技、駅伝、マラソンは面白いんだ。練習や事前の持ちタイムだけでは分からないものが、本番で大きく順位を決める。
「京子、俺さ『まさかの○○~』とかって見出し、スポーツ紙であるじゃん? あれ嫌いなんだよね」
「え? どういうことですか?」
「ありきたりかもしれないけど、スポーツに絶対なんて言葉はないと思うからだ」
練習でのタイムがそのまま反映されるわけでもないし、不運の事故が起こらない可能性はすべての選手にある。それなのに……「まさか」なんて言葉でその選手に、失望を与えちゃ失礼だ。
「って思うんだ。だからな、京子」
京子は緊張した面持ちで俺を見つめていた。
赤信号で停車した車。夜の田んぼ道は静かだ。
「まぁなんていうか、その、あれだよ。なんとかなるって!! うん!」
「ここまで雰囲気作って適当過ぎません!?」
「あはは…… すまない……」
信号が青に変わったので再び車を進める。
「でもまぁ、そういうことだ京子。自分のパフォーマンスを論理的に分析しようとしても無理がある。だからな、昔の自分からどうしたいかを考えるより、今の自分がどうしたいかを持っておくんだ」
久々にまともなことを言った気がする。うん。
俺がそう言ってから京子は黙りこくっていたようだった。
「とりあえず、明日の試走。そして日曜日のポイント練習をばっちりこなせばみえてくるって、そうすれば―――」
「……ぐぅ」
も、もしかしてと思い運転中ながら助手席のほうをチラ見する。
京子は俺の方に顔を向けてはいたものの、よだれを垂らし、ばっちり寝ていた。
「せっかくいい話したと思ったのになぁ……」
こないだの日曜日に見た、6時半からやってる老舗アニメ『ヤドカリさん』でも似たような心情を見た気がする。駅まで傘を届けに行ってあげたのに、何とか兄さんが既に傘を買っていたっていうオチ。そのときのなんちゃらオの気持ち、無駄に努力しちゃった的な感情だ。無駄にいい話しちゃったよ全く。
それにしても京子の寝顔はすごく安らかだった。
無理はないだろう。普通の高校生が死に物狂いでぶつかっていく受験勉強と、北信越駅伝。その両方で最高の結果を目指しているんだから。
教員をやっていると部活や副担任のクラスだけじゃなく、色んな生徒の様子を垣間見る。それはもちろん3年生もだけど、京子ほど遊びの時間が少ない3年生なんていないんじゃないのかな。朝練と放課後の練習に、土日も絶対に体を動かさなければならない。その隙間の時間が全部勉強で埋め尽くされてる。大体の3年生は友達と遊んだりと息抜きをしているけど、京子にその時間はない。全く。
あぁ、俺、京子が部活終わるまで家まで送ってってあげようかなぁ……
そんなことしたらまた職員会議で半殺しに遭うぞって自分を戒めながら、俺は夜の田んぼ道を進んだ。
翌日。二ノ丸高校に集合した駅伝部員と俺と朝陽は車に分乗し、まずは長岡の俺の実家に向かった。ここで大きな荷物を下ろし、競技場発着で全選手で襷をつないでみようと思ったんだが……
「なんで大きなお荷物がついてくるのかな……」
俺はただでさえ悪い目つきをもっと悪くして、彼女を見ていた。
「ん? 朱、荷物は置いてきたけど?」
「お前がお荷物だと言ってるんだよ!! なんでついてきた!!」
助手席に乗る俺のいとこ、朱に向かって罵声を吹きかける。
「いやいやいや! 長岡市民の朱がいれば、お兄ちゃんはすっごく役立つかなって!」
「俺はお前よりはるかにこの街に住んでいたんだぞ…… っていうか、朱がきたから駅伝部のみんながぎゅうぎゅうづめになってるじゃないか」
親父の大きい車を借りたとはいえ、既に後部座席はほぼ満員。荷物を置く余裕はほぼない。
「殺す」
ん? なんか今、その後部座席から何か恐ろしい声が聞こえた気がするんだけど…… ま、き、気のせいか!!
ハイエースを走らせた俺たちはまず陸上競技場に向かった。北信越駅伝のハーフマラソンコースを全員でつないで1周することが目的なので1区の京子から順番に走る。
本番前にコースを全員で走ることで、レースのイメージが完成する。1人1人の区間が、一度全部のコースを見ることで線になってつながるのだ。これは明英大学式の箱根駅伝調整法でもある。弥彦村での県高校駅伝のときは必要ないだろうと思っていたがもう後がない北信越駅伝だからこそやってみようと思った。
競技場に着いたら早速、1区の京子がユニフォーム姿に着替えて、軽いジョグを始めた。タイムを計るわけでもなく本当にただのイメージ作りが目的なのでそんなに速くは走らないのだが、京子のアップは真剣だ。
そしてすぐ、スタート。ハイエースに『マラソン練習中 お先にどうぞ』のマグネットを貼り付けて時速15kmのゆっくりとした走行だ。ていうか親父、どこでこんなマグネット買ったんだよ。
スタートして1kmちょっとの地点の大手大橋を走る京子をすぐ後ろから追いかけるうちのハイエース。他の車に注意しながら、朱づたいに京子にアドバイスを送る。
「京子せんぱーい! お兄ちゃんが、下りはスピードを上げるところじゃなく、速いリズムを思い出すことを意識しなって!」
朱が小さな口をめいいっぱい開けてそう告げる。聞こえた京子は、アームウォーマーをした右手を上げる。
ハイエースを追い越していく車に注意しながら京子の走りを確認する。足取りは非常に軽い。その一方で、脇が開きすぎないロスのない走りをしている。体中の筋肉を使って、細い脚にかかるダメージを分散させている。
大手大橋を下り切った後、ここからは2区の中継点くらいまでは道幅もせまく交通量も増える。ところどころ先回りして京子を待ち、追いつかれたらまた先回り、という感じで走りを見守ることにした。長岡市図書館の中継点に隣接する、公園の駐車場で俺たちは走ってくる京子を待つことにした。
北信越駅伝の実戦練習ということもあって緊張したメンバーだったが、涼風が口を開く。
「京子先輩、調子よさそうだね」
「イエス、まだまだヨユーでペースを上ゲられル、そンナフォームですね」
駅伝部のみんなは一緒に走ることが多いからか、お互いの走りを分析することは少ない。珍しく、フォームについて考察をしていた。
すると漣が何やら自信満々な面持ちをする。
「まぁ私と京子先輩は、去年からずっと2人で走ってきたからそれくらい分かるけどね」
いやいや、俺が駅伝部に来たとき、あなた全然一緒に練習してなかったよね?
いきなり自信満々になった漣に呆れた信乃はため息を漏らす。
「はぁ…… 自分が一番愛してますよアピールですか……」
「は!?!? べ、別に愛してるとか、そそそそ、そういう意味じゃないんだからね!? 勘違いしないでよ、信乃先輩!」
分かりやすいくらいのツンデレだ。
しかし……実際愛情はわいてくるよな、チームだもん。
漣は人との距離を保つのが本当に下手だ。彼女に暴言を吐かれたことのない部員なんていないんじゃないかと思うくらいにバイオレンスだ。
でもひょっとして、漣はそうやって乱暴に接することで、相手が「自分の信頼に足る人間か」を無意識に確かめているのかもしれない。そう思うと……なんだかとても、愛おしく思えてくる。
「まぁそれくらいにして…… そろそろ京子がくるぞ」
十字路のほうを見ると、二ノ丸高校の緑色のユニフォームに身を包んだ京子が青信号を渡って走ってきた。
「おい、稲穂! 京子が来たから、ウィンブレ脱いでもう準備しよう」
「はい! 先生!」
拡声器ばりの大声を出した稲穂が、校章つきのユニフォームに急いで着替える。
それを見た京子はもう一段階ペースアップした。しかも、とっても笑顔で。軽やかな走りとはじける笑顔のその走る少女は、何かの喜びを十二分に感じているようだった。
「稲穂ちゃん……!」
京子は稲穂に思いっきり襷を差し出しながら、そう言った。
「京子先輩、頑張ります!」
稲穂はもらった襷を左手に挙げると、束ねたセミロングのポニテをなびかせながら走っていった。
「ああああ!! ムカつく!ムカつく!!!」
全区間を走り終わった駅伝部一行は、俺の実家であり温泉旅館「栃岡湯」でお風呂あがりにくつろいでいたのだが……なにやら漣、キレている。
「あ、姉貴…… どうしたんですか? そんなに信乃先輩に京子先輩への愛を指摘されたことが――――」
「それもあるけどそうじゃなくて!! 朱よ、朱! なんで最後に競技場のところだけ走ってくるのよ!!!」
最終5区を試走していた漣が帰りの大手大橋を渡り切り、競技場に入ってきたところ…… いきなり朱が漣の前に現れて「じゃあラスト500mだけ勝負ね、勝った方がお兄ちゃんと――――」とか言って全力で漣に勝負を仕掛けてきた。
「お兄ちゃんと――――」の肝心の部分は聞き取れなかったんだが、とにかく漣はいきなりガチモードになって朱とデットヒート。2人とも俺の時計で500mを1分30秒は軽く切っていたんだけどわずかに朱が先着することとなった。つーか漣、北信越駅伝前にとばしすぎだ。
「姉貴もわざわざ全力で迎撃する必要もなかったんじゃないですか? ほら、もう4.5kmも走った状態でそんなこと言われてるわけですし――――」
「う、うるさいうるさい!! しょうがないじゃない!!」
どんだけ冷静じゃなかったんだよ。
「あはははは…… 漣さん、ちょっと熱くなりすぎちゃったね」
「ううううう…… 京子せんぱーい……」
えぐえぐと泣く漣を膝枕で慰める京子。まるで子供と母親のようだった。
北信越駅伝1週間前のこの大事な時期、何やってるんだと思ってしまったが……これもこれで駅伝部の良さだ。しょうがないっていうか見過ごすか……
そうため息1つついたときに、何やら朱の怪しげな声が聞こえた。
「えへへ…… お兄ちゃん、漣先輩との勝負に勝った朱にご褒美がほしいなぁ……」
「ご褒美って、お前なぁ。北信越駅伝1週間前の大事な時期に、スパート合戦なんてしかけてきやがって怪我でもさせたらどうするつもりだったんだ」
「はふ!? お兄ちゃんご立腹ですか!?」
朱は「まさか!?」と言わんばかりの顔で俺になんとか焦点を合わせる。
「当たり前だろ。そんな軽い気持ちで、都大路に挑んでるわけじゃないんだよ」
何人ものランナーが自分と闘い、ケガのリスクと闘い、その中でごく一部の選手しか出れないシビアな世界。その舞台に挑もうとしている俺たちをかき乱そうとしているなんて、いくら朱とはいえ、それは見過ごせない。
「んまぁ、それに乗っちゃった漣も漣なんだけどさ……」
漣の一瞥すると小さくなってた。漣なりに反省してるのかな。
「北信越駅伝の前、二ノ丸高校は栃岡湯に泊まるけど、今後こういうことがないようにしてくれよ、朱」
俺はズバリ言いはなった。まだ中学生、たまには言うべきことは言ってやらないとダメだ。
ズバリ言われた朱は後ろで手を組んで、目線を右下に向けている。居心地が悪くなったときにする朱のくせだ。
「あ、朱だって、お兄ちゃんにちょっといいとこ見せたいと思っただけだし…… 二ノ丸高校の先輩たちを邪魔したのは悪かったけど、本当に悪気なんてなかったし…… ぐす……」
あ、これは朱の泣くモードだ。
「ぐす…… 朱だって、朱だって…… ぐす、お兄ちゃんにもっと構ってもらいたくって……」
次の瞬間、えーんと朱は泣きだしてしまった。
「オウ、ノー アカリ、泣いてシマイまシタ」
「翔、また女の子泣かせたー」
朝陽、またってなんだまたって!? ……泣かせてないといえばウソなんだけどさ。
そんなに俺、悪いことしてなくね?って思いつつも、ばつが悪くなった俺は朱を慰めにはいる。
朱の頭に、優しくポンポンと手を載せる。
「朱、ちょっと言い過ぎたよゴメン。来週また泊まりにくるけど、今度は朱も二ノ丸高校の一員として、一緒に頑張ろうな」
「お、お兄ちゃん……!」
朱が顔を上げた、そのときだった。
「あああああ!!!! もう朱ばっかり!!! 朱ばっかり!!!!!」
急に漣がキレ始めた。え、ちょ、なんで!?
「センセー、おねーちゃんを怒らせたなー?」
「いやだからなんで!? ねぇ!?」
まったく意味が分からない。なんで怒ってるの?
訳も分からず棒立ちしていると、漣は休憩室の机に右足を乗せて、朱に向かって人差し指を指した。
「宣戦布告だ!! もし二ノ丸高校が都大路に行ったら、私たちが栃岡先生を独り占めできる!! いいわね朱!!」
さっきまで泣きじゃくっていたはずの朱も急に立ち上がる。
「ふっふっふ、いいですよ漣先輩。そのかわり都大路に行けなかったら、今後一切お兄ちゃんには指一本触れないこと。いいですね?」
「やってやろうじゃないのおおおおお!!!!」
……あれ、俺の人生どうなっちゃうのかなー?




