区間発表! 新潟県強化記録会
テスト明けの最初の日曜日、駅伝部は十日町市営競技場に来ていた。二ノ丸高校から車で1時間くらいかかる場所なのだが新潟県陸協主催の強化記録会があるのでやってきていた。先々週の新潟ロングディスタンスほどではないが大規模な記録会だ。
今回は決して記録を狙いに来たわけではない。3000mに全員が出場するのだが全員10分を切れればいいかくらいの気持ちだった。本当の目的は県駅伝で走る「区間決め」にあった。あくまで練習の一環なのだ。
新潟ロングディスタンスで自己ベストが出そろった。タイムもチーム内の順位もだいたい分かった。でもそれだけではメンバーは決められない。新潟ロングディスタンスの記録がまぐれのこともあるし、それにタイムだけじゃ区間は決められないんだ。
スタート10分前、俺はスタンドにいた。女子3000mの競技が始まるのはもう少し後なのだが今日はずっとここにいる。何故かと言えば「スタンド監視係」に任命されたからだ。今年はもうなる機会がないだろうと安心して競技審判の免許獲得のための勉強をしていたのだが、そのモチベーションを削ぐのようにこの係に任命された。やっぱり例の花方との涼風争奪戦のせいで県新人の役員が出来なかったのが大きいのだろう。今もまだ謹慎処分が続く花方への怒りは増していく一方だ。
とはいえ今日は変態カメラ野郎は一切出て来ない。安心して適度にサボりながら過ごすことに成功していた。さっき来て隣に座った朝陽も「こんなラクな仕事で幸せよね私なんて急患の選手を病院まで運ぶように手配してうんたらかんたら……」と小言を食らってしまった。
とにかくこんな仕事とは今日で当分おさらばだろう。ちょっと寂しい気もするが悪くはなかったとは思うな。
そんな一種の哀愁を感じながらトラックを眺めていた。バックストレートの外側に敷かれている芝生上に女子選手が現れ始めた。今回は2組しかなくタイムの良い駅伝部はみんな2組目に入ることが出来た。昨日の練習後のミーティングで「みんなでキロ3分20秒のペース走でもいいぞ」と冗談めかして言ってみたが今日は本当にそうなるかもしれないな。
俺はプログラムを開き選手の名前を確認する。今回は「2強」の岸部高校は暁月高校は参加せず、強豪といえば4番手の村松東高校くらいだ。2組目の選手でも特に速そうな選手はいない。規模だけ大きいんだな、今回の大会は。トップは10分を切るくらいだと予想した。
スタートまでまだ時間があるのでゆるりと「午後ティー」でも飲もうとした俺だが、シャツの袖を朝陽に引っ張られていることにふと気づく。
「どうしたんだよ。『ママおもちゃ買って』みたいな真似しやがって」
朝陽は呆れた様子で溜息をつく。
「あなたにはこういう仕草を可愛いと思う思考回路はないの……」
し、失敬な! お前がやるからそうなんだよ! と、心の中でブーイングをした自分がいた。
彼女は急に真面目な顔になると前を指さした。そこはスタンドの最前部、手すりの部分だ。
「あの人、めちゃくちゃ怪しくない……?」
そこにいたのはニット帽にサングラス、そして防塵マスクを身に着けたスーツ姿の男だった。見るからに怪しい。
「なんかヤバそうだな。防塵マスクの意味が分からない」
よほど空気に神経質な人なのかな。だけどそんな楽観視は、男がバッグからカメラを取り出した瞬間に変わった。それは一眼レフだった。
「あれはサテラの最新機種『SPOR-T』じゃないか。高度な防水機能を搭載したスポーツモデルで、1秒間に最大36枚の連写が可能な機種だ。肌色の彩度を高めることによってより美しい画を可能にしたプロ仕様。今は北米でしか先行販売されておらず国内で入手するのは困難と聞いたが……」
朝陽はゾッとした顔で俺を見る。
「いくらなんでも詳しすぎない!? カメラなんて趣味だったっけ???」
「いや、スタンド監視係をするようになってからカメラのことも勉強するようになったんだ」
そんな俺の弁解にも興味を示すことなく朝陽はその男の監視を続ける。
「見て! ジャージを脱いでユニフォーム姿になろうとしている選手を撮影してるみたい。しかも女子じゃない、あれ、」
ほら、と朝陽は指さしてくる。なんかコイツも一生懸命になってないか?
その後も男の怪しい行動を監視していると、気づいたら女子3000mの1組目がスタートしていた。トラックを走る女子選手を撮影する瞬間をとらえようとするのだが……男のカメラのレンズはトラックではなく、ひたすらバックストレートに向いている。
これは今までの盗撮犯とは違うパターンだ。今までは「数を撮る」者ばかりでひたすらトラックを走る選手を追いかけていたのだがこの男は違う。まるで特定の誰かの写真を収めているみたいだ。
俺と朝陽がその男の動向を注目していると3000mは2組目になった。場内に聞き覚えのある声でアナウンスが流れる。
『それでは、女子3000m2組目、スタートですの』
村松東高校の赤寺先生のアナウンスだった。なんで口調がへんなこの人をアナウンスにしたのかは大きな疑問だったが、俺と朝陽はスタートの号砲と同時にストップウォッチを押そうと構える。このとき盗撮犯疑惑を掛けられている男からは目を放していた。
―――――バンッ
閃光と共に号砲の音が聞こえる。それを見てストップウォッチを押す。よし、今回はいい感じに押せたかもしれない。あとは選手の様子を見ながら盗撮容疑者の監視を――――
と思った矢先、俺の目の前には信じられない光景があった。
なんと、さっきの怪しすぎる盗撮容疑者がカメラの連写をしていた。それも一瞬だけではない。十数秒に渡って連写をし続けていた。
「……な、なんていうキャパなんだ。あのカメラのメモリーは大丈夫なのか……」
隣に座っていた朝陽も唖然とした様子だった。
「あそこまで連写し続ける人は見たことない。いったい何が目的なの……」
二人して、ただただ言葉を失うばかりだった。
『先頭は1周目の通過ですの』
赤寺先生のアナウンスが場内に響く。茫然としていた俺たちだったがふと我に返ってトラックを見る。
1周目の通過は78秒だった。10分を切るのが今日の目標なら十分余裕のあるペースだ。
集団の先頭はやはり二ノ丸高校のエメラルドグリーンのユニフォームで覆いつくされていた。そのトップを走るのは身長からして京子だろうか。次に走り方からして稲穂、涼風、信乃、漣というところだろうか。涼風をポケットするように走っているあたり、どうせ走るなら彼女に10分を切らせようということなのだろう。ま、今日は記録を狙うわけでもないのでそれでもいいかな。
でも最後の1周くらいは競り合わせることにしよう。駅伝とはいえ最後の数百メートルのスパートの差で勝負が決まることは多くある。その時になったらスタンドから叫ぶことにしよう。
後続は村松東高以外は離れ始めている。先頭は8人くらいの集団だがそれほどペースは速くないはずだ。今年、新潟の高校女子は特定の高校に速い選手が集中する傾向があるな。
先頭集団はその後も8人で独走状態。他校との差は広がるばかりだ。先頭は1000mを3分16秒で通過したが依然として京子が引っ張る展開だ。
京子もちゃんと走れるようになってきたな。今日の朝も「せせせせせ先生とととととトイレはどどどどどこですかかかか」と壊れたスピーカーのような声を発していた京子だったけど、漣とかと話せる余裕も出てきた。新潟ロングディスタンスでの好走以来、自信をつけているようだ。こんな積極的なレースができるだなんて春には思いもしなかった。
そう思うと本当に嬉しかった。受験勉強を押して練習に励む京子の努力がようやく花開きはじめたのだ。ちょっと遅咲きだったかもしれないけど満開まで一直線だな。
感慨に浸っていたが、その間も例の盗撮容疑者は依然として連射を続けている。いったい今日だけで何ギガバイト使う気だよ。もういっそ動画の方がいいんじゃないか?
一応レースが終わってから声をかけてみるつもりだ。でもさっきからこの人、先頭集団ばかりを写真に収めている。もしかしたら駅伝部の誰かの知り合い……なんてことだけはやめてくれよ。
先頭集団は1500mを4分55秒で通過するとそのままのペースで進み、残り1000m近くに達しようとしていた。俺は選手たちに声を掛けようとメガホンを片手に手すりの位置まで階段を下る。
そのとき盗撮容疑者のことをチラ見する。顔を覗かせる肌からは滝のような汗が流れておりニット帽も半分が汗でぬれていた。見てるだけでも暑くなりそうだ。防塵マスクの中にも汗がたまっているんじゃないのか。
彼もこちらをチラ見する。そして顔をトラックへと戻すが……数秒後にはまたチラ見をする。彼はかれこれ4度ほどそれを繰り返した。お、俺の顔に何か付いているのかな!? 不安に駆られた俺はスマホの鏡アプリを使って自分の顔を見てみたが特に変わったところはなかった。いつもと変わらない人相の悪い顔があるだけだった。この容疑者、こうやって俺を錯乱させるつもりなのか!? こいつはかなりのやり手かもしれない。
先頭集団がホームストレートにやってきた。彼女たちの呼吸は荒らそうだが喘ぐほどではなかった。まだまだいけそうだ。一番辛そうにしてるのは涼風だがそれでも顎を引いたいい走りをしている。伸びのあるフォームは健在だ。
俺は新調したメガホンで彼女達に声をかける。
「二ノ丸高校のみんな! このままのペースでいいけどラスト1周だけは競走してみよう! 今日来た意味はそこにある!!」
彼女達は俺の方を見て頷いてくれた。歓声が大きくて聞こえないか心配だったけど聞こえて一安心だ。
残り2周に差し掛かってもまだ選手は8人の集団だった。村松東高の3人もキツそうだけど必死に食らいついている。さすが赤寺先生、いい指導をしてるな。
村松東高には秋の県新人で4位に入った上野選手がいる。あとの2人は3年生の駅伝要員だろうか。新潟ロングディスタンスで走ったもう2選手は今日は出ていないようだが、二ノ丸高校の強敵であることは間違いない。しっかりとマークしとかないとだな。
先頭の京子は残り600mに差し掛かると一度後ろを振り向いた。そして口を開いて何かを言うような仕草を見せた。それは集団の後方を走る涼風に向かってだろうか。
あとの選手もそれに続いてか涼風に声を掛けたり、背中を叩いたりする。ひたすら走る村松東高の選手とは空気が違った。彼女達には確実に余裕があった。
残り1周を目前にして選手たちはホームストレートへとやってくる。俺はもう一度大きく叫ぶ。思いっきりやれ、と。
ついにラスト1周を告げる鐘が鳴った。駅伝部にとってはここからが本番だ。どんなスパート合戦を繰り広げてくれるのか…… 思わず期待で身体が震えた。
最初に前に出たのは漣だった。ずっと後ろにいた彼女だったが鐘の音を聞いた瞬間に前にでた。ピッチは急加速し、ストライドも段違いに広い。それに続くのは稲穂、京子となっている。
一気に置いて行かれた涼風と信乃もペースが上がっているのはわかった。でも先頭3人が速すぎて付いていけないのだ。村松東高の選手3人と混戦になりながらひた走る。
漣の加速は止まらない。さすが800mの県新人チャンピョンと呼ぶべきだ。彼女の残り400mの前半は36秒にまで上がっていた。これでは稲穂も京子も太刀打ちできない。2人は必死に足を動かすがそれは所詮「長距離選手」のダッシュに過ぎない。中距離選手のダッシュとは二段階ほどにも違って見えた。
漣はそのままペースを落とすことなくホームストレートまでやってきた。ときおり後ろを気にする仕草を見せるもののペースは全く落ちていない。そしてそのままゴールラインを、胸を大きく突き出してゴールした。
タイムは9分50秒51。ラスト1周だけペースアップをした割には上出来だ。漣はゆっくりとスピードを落としながらジョギングをしている。
その後ろを京子と稲穂が混戦になりながら駆け抜けてくる。体格差のある2人はほぼ並んでホームストレートを駆け抜け、そのままゴールイン。最後はほんのわずかだが京子が先着しただろうか。タイムは2人とも9分54秒ほどだ。
そしてトラックの後方に目を移す―――――と、そこにいたのはピンク色の村松東高のユニフォーム3人とエメラルドグリーンのユニフォームの2人が大混戦になりながら走っていた。5人で抜きつ抜かれつの展開。電光掲示板は間もなく10分になろうとしていた。
『5…… 4…… 3…… はたして間に合うのですの!?』
珍しく赤寺先生も興奮している様子だ。教え子だけあるからなおさらそうなのかもしれないが、これは誰でも息を呑んでしまう展開だ。
「間に合ええええ!!」
思わず叫んでしまった。
電光掲示板の桁が一つ増えようかとしていたその時、選手たちはみな一斉にフィニッシュをした。
『5人の選手が一斉にフィニッシュしましたの。タイムは…… 手元の時計ですと、10分を切ったみたいですの!! 9分59秒ですの!!』
ヨッシャ、という赤寺先生の声は聞かなかったことにして、俺は涼風と信乃へと目を向けた。
彼女達はハイタッチをした。感極まってピョンピョン飛び跳ねる涼風。それを見た俺は羞恥心にかられたが、まぁいい。今日くらいは大目に見よう。
涼風のもとには駅伝部のメンバーが集まり、彼女の健闘をたたえていた。1人だけの10分台が9分台に到達した。このことは駅伝部にとって非常に意味があるんじゃないだろうか。「平均」ではばく「全員」。
思わず安堵して息が漏れる。まったく、いいチームじゃないか。教員になる前は女子高生に対してあまりいい印象を持っていなかったけど今は違う。最高じゃないか。
俺は手すりから離れ、そして次のステージへと向かった。そう、盗撮被疑者への聞き込みを―――――――
と思い隣を向くが、そこにすでに容疑者の姿はなかった。あるのは飲み終わったコーヒーの缶だけだった。跡形もなく、その彼は消えていた。
「な、なんだったんだろう……」
またも彼の行動には唖然としてしまった。もう彼は「ミスター連写」と呼ぶべきだろう。次会ったら今回のことも聞き取りをしておかないとだな……。
レースが終わってから1時間後、選手のクーリングダウンも終わったのでミーティングをすることになった。控え場所となっている駐車場裏の公園に選手を集合させる。
さっさと終わらせて帰りたかったのだがそんなことお構いなしに涼風は食らいついてくる。
「センセー!! 10分切ったよ!! マジ嬉しー!!!」
んなこと見てりゃ分かるよ、と言いたくもなったが今くらいは大目に見てやるか。
「すごいな! ようやく本気出したなー、コイツぅー」
そう言って涼風の頭を撫でてやった。
「あははははー もっともっと」
いったい彼女の精神年齢はいくつなんだろうと鳥肌が立ちそうになった。
そんな様子に耐えきれなくなったのか、漣が鋭く低い声で言い放つ。
「センセー、そんなのに構ってないでミーティング始めようよ。早く自分の区間を知りたいんだけど」
腕組みをした彼女はご立腹の様子だった。悪い悪い、と言いながらなんで俺が謝らなくちゃいけないんだろうと苦い顔をしてしまったが、そんな思いはかき消した。
「それじゃ、今日のレースの振り返りだ。今日は――――」
俺は今日の良かったところ、悪かったところ、次に向けての課題点などなどを話していくがメンバーの顔は落ち着いていない。稲穂は貧乏ゆすりが止まらない様子で、区間発表が今か今かと待っている。
そんな様子を見て俺は話を早めに切り上げると区間発表へと移った。
「それじゃみんなお待ちかね、区間の発表をしよう」
そう言った瞬間に彼女たちの顔は急に強張る。
「じゃあまず1区だ。1区は――――――――漣だ」
漣の目を見て言った。
「……ふぇ?」
彼女は信じられないと言わんばかりの口の開け方をしている。目も丸くしており、まるで考えもしなかった区間になったかのような顔だ。
「どうした? そんなに予想外だったか!?」
「……あたし……1区……なんで……6キロ……?」
未だに放心状態の様子を見て、おそらく自分が3キロ区間にでもなるのかと思っていたようだな。
「お、落ち着けよ! ちゃんと理由があるんだから…… 漣は確かに専門は800mだけど、走りのセンスはチームで1番だと思っている。でもそれは並走する人がいるからこそ。今日みたいな集団走ならいいんだけど、新潟ロングディスタンスみたいに独走だと本来の力を出せないと思ったんだ。県駅伝では1区は横越や今泉と並走してラストで引き離し、トップでタスキをつないでくれるって思ってる」
一通り話しても漣は未だに魂が戻っていない。漣の抜け殻があるだけだった。もう放っておこう。
「それじゃあ2区だ。2区は――――――稲穂だ」
待ってましたと言わんばかりに稲穂は飛び上がる。
「わかりましたあああああ!!! がんばりまああああす!!!」
あ、この様子じゃちょっとは予想してたのかな。心の準備ができているのはありがたい。
「稲穂も力がある選手だ。中学の頃から第一線で走っていただけあって走りも安定している。漣からもらった襷を、順位をキープもしくは上げて、3区に渡してくれるだろう」
稲穂は大きく頷いた。頼んだぞ。2区の流れはレース全体の流れを決める。たとえ漣が悪い位置で襷を渡してもまだ立て直すことができる位置だ。
「じゃあ3区だ。3区は――――――涼風だ」
涼風は自分の区間を聞くとさっきと同じくらいのテンションで飛び跳ねた。
「やったやったぁー!! 3区3区サンクスー!!」
……このつまらないギャグには触れないでおこう。
「涼風は4区と迷ったんだが3区にした。中間点くらいだから前後の差もそれほど大きくない、けっこう走りやすい位置だと思う。スピード感ある走りを期待してるぞ」
任せといてイェーイ、と彼女は再びジャンプをした。今日だけだぞ今日だけ。明日からは普通の生活を送ってもらうからな。
「次に4区だが――――――信乃だ」
それを聞いた瞬間、信乃は小さくガッツポーズをした。なぜ喜んだ。
「信乃は自主トレを重ねてきただけあって1人で走れる選手だ。4区あたりはもしかしたらずっと1人で走ることになるかもしれないけど、時計と感覚を頼りに走ってくれ」
信乃は小さくうなずいた。今のところ一番普通な反応なので妙に安心感を覚えてしまった。
「そして最終5区、アンカーだが――――京子、藩内京子だ」
京子を見たが彼女は体育座りのままずっと俯いている。ある意味予想できた反応だけど……俺は話を続けた。
「京子は一番ペース管理が上手い。5区は独走になる可能性が高いけど、ちゃんとペースを守ってくれると思っている。スパート合戦になる可能性は低いから体が小さくても大丈夫だ、な?」
念押しを最後にしてみたが反応はなかった。念願だった駅伝の区間を聞けたはずだけあってその反応には少し戸惑った。
「とにかくこの区間配置で行こうと思う。正直、よその高校ならだれが1区を走ってもおかしくない、それだけの練習をしてきた自信はある。でもこれからは各区間の特色に合わせた練習が増えていくから、心してくれ」
ミーティングを〆ると帰り支度を始めた。漣はようやく動けるようになったが未だに何かブツブツ言っている。明日になれば治っているだろう。
それよりも京子の方が心配だった。ずっと体育座りで俯いたままなのだ。涼風と稲穂のコンビでようやく立ち上がらせたけどそれでもまだ俯いたままだった。
それがというかそれだけなのだが、俺にはとても気掛かりなことだった。




