転生チート万歳と思っていた頃が私にもありました
そして一か月後。
世界よ、私は帰ってきた!
あ、死んだかと思った?生きてるよー。死亡フラグはへし折るものです。キリッ。
まあねー、あの時は人生オワタとか思ったけど、死の森対策本部には母様とリニャンという聖女様が二人そろって待ち構えていたのだ。死の淵にいたって、余裕です。
でも一時は本当に危なかったらしくって、起きた時に二人にしこたま怒られた。あれはまいった。
泣くのは卑怯だよねー。邪龍に勝てても、女の涙には勝てないっす。
「待つしかできない私の気持ちがわかってるの!?」
うん、分ってる。それに我慢できなくて飛び出したのが私だもんね。二人とも、私よりよっぽど強いよ。
兄様も無事だった。
何気に竜を2匹同時に相手にして倒したらしくって、英雄伝説にまた一つエピソードが増えてた。
そして大した怪我もなかった。
「はっはっは、最近いい相手も見つからなかったからちょうど良かった」
……うん、これって、やっぱりリニャンと兄様をくっつけるルートの方が、もっと楽に勝てたのでは。
口に出したら周りが無理やりくっつけそうだから言わないけどさ!
じっと半眼でみていたら、「そういや、最後の最後でへまやったんだってなー。ばーか」と鼻で笑われた。
いらっとしたが、またお得意の頭がしがしをしながら、「あんま、無茶すんな」と言われたら返す言葉もない。
うう。やっぱりもっと鍛錬が必要か。
えっちらほっちら、家へと戻る。
久しぶりの我が家だーっと思う間もなく、妹に全力タックルされた。
天才であっても実戦経験はない妹は、うちの家族の断固としたブロックによって戦場まではでてこなかったのだ。どちらかというと攻撃魔法よりも生活の知恵魔法の方で有名だったしな。
「ごめんなさい、セレナお姉さま。私がとろいばっかりに」
わーわー泣きながらそんなことをのたまうので何のことが聞いてみたら、どうやら3年前に勇者誕生するかもと聞いてから、何があってもいいように珍しく攻撃魔法の開発にいそしんでいたらしい。だが間に合わなかったと。
この天才が3年もかかるものってナニ、と聞いてみると、なんか、それ、もしかして、魔力を科学に置き換えて考えると、核の原理じゃない……?人類平和のためにその実験を止めるよう神速で諭した。
まだこの世界には早いと思うんだ、おねえちゃんは!
そして後の始末は父様にお世話になった。
疲れ切って、やるべきこと達成して、うはー疲れたーと、ぼんやりしている私たちに、周りの要求は次から次へとやってくる。
邪龍のデータとか、戦闘方法とか、そんなのはまだいい。分かるよ。大事だよね、確かに。
でもさ、パレードとかさ、パーティーとかさ、果ては難癖にちかいやり取りで自国へ引っ張りこもうとする周りの国々とかさ!!ちょー、めんどいんですけど!!!
私とアレン以外の仲間が庶民、それも元奴隷やら亜人やら生涯孤独やらで一見付け込み易そうなことも周りを増長させる一因だった。
コイツラ浄化シテヤロウカ。
それを颯爽と片付けてくれたのが父様だった。
「やれやれ、我が家に喧嘩を売ろうとは……身の程知らずな」
浮かぶ真っ黒い笑み。そこに痺れるぅ、憧れるぅ!敵じゃくて本当にヨカッタヨ!!
仮にも大国の宰相様である。敏腕というか、悪辣というか、ドSというか、えげつねえのである。
喜々として周りを叩き潰していく様子ときたら、最後らへんはうちの国の王様さえも引いていた。
あと、幼少時に口にしていた学校つくろうぜ作戦!!も実は継続してくれていたらしく、近々その第一号ができる予定なのだとか。ナニソレすこい。
一応、発案者として寄付をしないわけにはいかないだろうと、冒険者でかせいだお金とか超一流装備(売ったら一財産★)を差し出したら、これまたイイ笑顔で押収された。
学校をつくるにあたって一部貴族からの反対がすごいらしく、面倒なのが多くってなあ、と言いながら切れ味のいい両手剣をみつめる父親。
……あの、父さま?装備を渡したのはそういう意味じゃないからね?
そうそう、パーティーメンバーは、うん。皆、ちゃんと生きてるよ。
生きてるけど、やっぱりただじゃすまなかったみたいで、大なり小なり、後遺症が残っている。
ユウとランは、最後に私が落下する速度をなんとか和らげようと魔力を振り絞ったせいで、魔力回路が一部焼き切れた。
魔力量は休めば回復するだろうけど、それを出力する道がガッタガタだから、放出威力が下がることになる。
一度奴隷に落とされた二人が、今度こそどんな力にも屈しないようにって魔術を頑張っていたのを知っているので、二人の状態を知った時にはどうしようかと思った。
どうしようかって思って、何も思い浮かばなくて、土下座した。ジャンピング土下座なんて目じゃない。土下座大会で優勝を狙える完璧な土下座だ。
頭を地面にめり込ませる私に、二人はやめてよねーと笑った。
「これからは力押しじゃなくて頭を使う時代だよね」
「最少の威力で、最高の結果を生み出す技術を磨くなんて、腕がなるわー」
それでも気になるなら、第二夫人の座を認めて頂戴という二人に号泣した。
だが、断る。
スイは、一番ぼろぼろになっていた。
アレン以外の唯一接近戦担当で、アレンよりもリーチが短いナイフだから、誰よりもあの邪龍の近くにいなければならなかった。
私が知っているだけで2回は腕がちぎれそうになっていた。
そして、1回目は大丈夫だったけど、2回目はだめだった。
なくなってはない。
が、そのしなやかに動いていた左腕はいまや元の機能の半分以下の機能しかない。
拳を完全に握りこめないし、腕も肩より下までしかあがらない。
右腕は大丈夫だけど、それでも素早さと器用さが何よりのシーフにとっては命取りだ。
もう、最前線のシーフとしては働けないだろう。様子を確認して黙り込む私をスイは鼻で笑った。
「元々、シーフなんて長くは続かないわよ。他の職業よりも嫌われやすいし。それよりも、これまでのコネと今回の功績で、誰よりも確実で偉大な情報屋になれるわ」
みてなさい、数年のうちに王都の裏に君臨してやるんだから。と胸を張るスイはかっこよくて、思わず惚れるかとおもった。
アイリス。
彼女の武器は弓だ。
どんなに遠くて小さな的にでも、彼女ならあてられる。素晴らしい腕と、鋭い鷹の目ある限り。
その、目が、右目が、つぶれた。
美しい瞳。新緑色をした、キラキラと輝く瞳が、もう二度と光を映さないのだと知った時、とんでもない罪悪感に包まれた。
黒い眼帯にそっと触れる。それはどんな時でも美人なアイリスに似合っていたけれど、痛々しすぎる。
エルフにとってたくみに弓を扱うことは、部族で最も尊敬されることだと聞いた。
弓をもち、獲物を狩るようになったとき、はじめて一人前と認められるのだと。
今のアイリスは?大丈夫だろうか。エルフ内で軽んじてみられたりしないだろうか。
最初に出会った時、愚かな人間に殺されそうになっていたように、エルフにも傷つけられたりしないだろうか。
アイリスがやんわりと笑って、私の耳に触れる。それは、最大級の親愛を示す行為。
「標的を射るには、片目で充分。視点を定めるにはむしろその方が都合がいいのよ。距離感は、これからなれるわ。……できないと、思っている?」
首をふる。
もちろん。
もちろん、アイリスにならできるとも。
そしてアレン。
肉体的な傷は一番少ない。
少なくとも、今後一生背負いそうな後遺症は何一つとしてなかった。
今は動きづらい腕も、引きずる足も、もうしばらくすれば問題なく動けるようになるだろうという。
彼が背負うのは、「勇者」という名だけだ。
これからどこに行っても、何をしても、アレンはまず第一に「勇者」という名に縛り付けられるだろう。
うかつに人を嫌いになることも、好きになることもできない。
王宮内のドロドロなんて目じゃない。だって、その名は世界に轟いているのだ。世界中の人間が、彼を、無邪気に、執拗に、監視するだろう。
それが彼の運命なのだろうか。それとも私のせいなのだろうか。
少なくとも、私が愛さなければ、彼は勇者にはならずにすんだのだから。
彼を目の前にしてまともに眼も合わせられない私を、アレンは無理やり抱き寄せ、幸せそうな笑い声を立てた。
「これで君は僕だけのものだね。誰にでも胸を張って言おうか。君に心も身も愛された幸せな男が、この僕だって」
今更逃がすつもりはないからね、というアレンは正気を失っているのではないか思うほど怖くて、心臓が飛び出すかと思うほどかっこよかった。
ああ、ああ。みんな、笑う。笑って、私を許してくれる。
ありがとう。だいすき。
え、私?そうね。大したことはなかった。
アレンと同じく、肉体的な傷はやがて治るらしい。
うん、ただ、ちょっと。
神術がさっぱり使えなくなったくらいかな。
もちろんランディオスの声も聞こえないし、姿も見えない。
母様がここにいるのよって教えてくれたときも全然わかんなかったから、ちょっと絶望的かもしれない。なんでだろうね。邪龍を倒すときには確かに力を貸してくれたのになー。
なーんて、実はすこし心当たりがある。
あれだ。その、最後に倒した時に私はめいいっぱい邪龍の血を浴びたじゃないか。
その時に、すんごいうれしくて笑って、口を多く開けたときに、すこし血を飲んじゃった気がするんだよね。
ドン引きされそうでなかなか言えないけどさ。
つまり外からも内からも穢れすぎちゃったんだ。
特に元の光が強いものほどよく汚れるからね。
聖女組あたりには、ばれてるんじゃないかなー。何も言われていないけど、そういうのはたぶん分ると思うんだ。
神殿にこもって、たぶん10年もすれば、元通りになるかもしれない。でも20年かもしれないし、50年かもしれない。
は、そんなのまっぴらだ。
それにつき合わすのもどうかなーと思って、軽い感じでアレンに打ち明けた。
細かく震える手を隠したまま。
「あのさー、もしかしたら、私、このままじゃちょっとまずいかも」
どういうこと、と問い詰めるアレンに仮にも聖女候補が穢れちゃったら、最悪始末ものだよねと事の次第を話す。
「……それで、僕が君を離すとでも?」
最近ちょくちょくあらわれるヤンデレ状態のアレンにきつく抱きしめられた。
いいい痛いですアレン様。
「それに、君の家族を敵に回せる人間は、そうそういないと思うけど」
斜め上あたりをみて思考する。なるほど、改めて考えても最強かもしれない。
うちにはカリスマ人間ばっかりだ。ついでに、私にも冒険者ギルドのコネがあるしな。
「みーんな、誰一人、君を守ることに、一切の手を抜かないさ」
くそー、優しく囁かれたって騙されるもんかー。さっきまでヤンデレだったくせにー。ばーか。ばーか。
泣いてちゃうじゃないか。
泣きながら笑って。
ああ、この世界に生まれてきて、ありがたいなーと思った。
私は、たしかに転生して、前世の記憶をもって生まれてきた。チートだと思った。この世の春だ。
だってそうでしょう。強くてニューゲームとか、願ってもない特典だ。
美しい容姿も、高貴な身分も、前世からすると比べるまでもない。
でも、それだけじゃ何もできなかった。
私のあやふやな知識をしっかり裏付けして世間に出してくれる妹と。
この世界で生きていくのに何よりも役に立つ神様への橋渡しをしてくれる母様と。
普通の令嬢ではもちようのない好奇心を物理行使で受け止めてくれる兄様と。
何があろうと最終的にすべてまかせて大丈夫だと安心できる父様と。
そしてなにより。
こんな不完全な女を、認めて、信じて、愛してくれた、仲間とアレンがいたから。
だから、私は、ここまでこれたんだ。
すげー、幸運。うは、もしかしてLUK値もMAXだったのかもしれない。今まで気づかなかったなんて勿体なすwww
……うん、でも今気づけてよかった。
転生チートな私が万歳なんかじゃない。
すんげー人たちに囲まれた私、万歳だ!!!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
やる気がでたらそのうち番外編か続編とか書くかもしれません、たぶん。