第三十四キュン 文化祭で発電実験を公開します
翌日午後、寮のリビングに緊張した空気が流れていた。
「学園から、文化祭での公開実証の件、正式決定が来たわ」
理央がタブレットの画面をみんなに向ける。
「星見風寮存続の最終審査として、文化祭の研究展示で発電の仕組みを発表することになったの」
「発表って、どこまで公開するんですか?」
すずが不安そうに尋ねる。
「技術的な仕組みの説明と、実際の発電デモンストレーションを求められているわ」
「デモンストレーションって、まさか」
水瀬が嫌な予感がしたように顔をしかめる。
「学園側の要望としては、感情発電の実演を含めた展示を望んでいるようね」
「それ、つまり」
「文化祭の会場で、女子が俺にときめく実験をしろってことか」
俺が確認すると、理央はゆっくりと頷いた。
「そういうことになるわね」
リビングに、重い沈黙が落ちた。
「無理、絶対無理!」
水瀬が真っ先に声を上げる。
「文化祭の会場で、みんなの前で、その、そういうことするなんて」
そう言って唇を噛んだ。
「……私の気持ち、見世物にするってことでしょ」
「私も、それは、ちょっと」
すずも小さく首を振る。
「有馬先輩は、平気そうですか?」
俺が尋ねると、奏は珍しく困ったような表情を浮かべた。
「平気じゃないよ、さすがに。恥ずかしさのレベルが違う」
「そもそも、公開の場でそんな実験、倫理的にどうなの?」
水瀬が理央に詰め寄る。
「私も同意見よ。研究者としても、公開実演には反対の立場」
「じゃあ、なんで学園はそんな要望出してくるんだよ」
「学園としては、分かりやすい成果を求めているんでしょうね。発電の仕組みを説明するだけでは、インパクトに欠けると判断したんだと思うわ」
☆
その日の夕方、秋月先生がリビングに顔を出すと、寮生たちの深刻な表情に気づいたようだった。
「あ、もう聞いたんだね、文化祭の件」
「先生、これ、本気で受け入れるつもりですか」
水瀬が食い下がる。
「正直、私も学園の要望には賛成できないと思ってる」
秋月先生は珍しく、真面目な口調で答えた。
「人の気持ちを、見世物にするようなことはさせたくない」
「でも、それを断ったら、寮の存続審査自体が」
「うん、そこが難しいところなんだよね」
秋月先生は、テーブルに頬杖をついてため息をついた。
「学園の期待に応えないと、寮存続の可能性そのものがなくなる。でも、期待通りにやったら、みんなの尊厳を犠牲にすることになる」
「じゃあ、どうするんですか?」
すずが縋るように尋ねる。
「今すぐ答えは出せないけど、少なくとも、みんなが嫌がることを強制するつもりはないよ」
秋月先生の言葉に、少しだけ場の空気が和らいだ。
「ただ、代替案がないと、学園側は納得しないと思う」
「代替案、ですか」
☆
その夜、寮生全員がリビングに集まり、対策を話し合った。
「発電の仕組みは説明するとして、実演部分をどうするかよね」
理央が議題を整理する。
「実際にときめかせるところを見せずに、発電量だけ見せることってできないんですか」
俺が提案すると、理央は少し考え込んだ。
「技術的には可能よ。ただ、それだと『なぜ発電するのか?』という説得力に欠ける可能性があるわ」
「じゃあ、過去のデータをグラフとかで見せるのは?」
水瀬が案を出す。
「日々の生活の中で、どんな瞬間に発電が起きたか、記録として見せるだけなら」
「悪くないアイデアね。ただ、それも個人の感情の記録を公開することに変わりないわ」
「そこは、匿名化すればいいんじゃないでしょうか」
すずが控えめに提案する。
「すずちゃんの言う通りかもね」
奏が朗らかな表情で頷く。
「じゃあ、方向性としては、実演ではなく、これまでの記録をデータとして提示する形にするってことでいいか」
俺が確認すると、全員が頷いた。
「ただ、それで学園が納得するかどうかは、正直分からないわ」
理央が現実的な懸念を口にする。
「納得させるしかないだろ」
「そうね。でも、そのためには、もっと説得力のある発表内容を考える必要があるわ」
「みんなで頭を抱えていても仕方ないから、それぞれ担当を決めましょう」
理央が提案し、話し合いは具体的な作業分担へと移っていった。
「私は技術的な説明資料を作るわ」
「私、過去のデータをグラフにまとめる係やるよ」
奏がそう言うと、すずも小さく手を挙げた。
「私も、何かお手伝いできることがあれば」
「じゃあ、小松さんは資料のデザイン担当ね」
理央が指示を出す。
「が、頑張ります」
水瀬は、少し考えてから口を開いた。
「私は、発表用の原稿とか、そういうの考える」
「意外と真面目な担当選ぶんだな」
「バカにしてる?」
「してない」
軽口を交わしながらも、それぞれの役割が少しずつ固まっていった。




