第三十三キュン 水着になっただけで発電量おかしくない?
七月初旬、期末テストも終わったその日の夕方。
「いよいよ夏本番って感じね。夏休みにみんなで海に行く可能性もあるから、水着をいくつか用意してみたわ」
帰宅した理央が、紙袋をテーブルに置きながら、どこか楽しそうに告げた。
「なんで白峯が用意してるんだよ」
「比較検証よ」
「何を比較するんだ」
「発電効率と、着用アイテムの相関よ。制服、私服、そして水着。服装や心理的な開放感の違いが、感情反応にどう影響するか、データとして押さえておきたいの」
「そんな理由で水着買ってくるやつ、初めて見た」
「効率的でしょう」
理央は満足げに、紙袋の中身をテーブルに広げ始めた。
紙袋からは、思っていたよりずっと可愛らしいデザインの水着が、次々と出てきた。
小花柄のワンピースタイプ、藍色に朝顔をあしらった和風柄のビキニ、南国風の葉っぱ模様が鮮やかなトロピカル柄のセパレート。
「白峯、これ、趣味で選んでないか」
「機能性と統計的多様性を考慮した結果よ」
「絶対、趣味も入ってるだろ」
テーブルに並んだ水着を見て、真っ先に食いついたのは水瀬だった。
「え、これ、どれでも選んでいいの?」
「もちろんよ」
「じゃあ、私はこの朝顔柄がいいかも」
水瀬が、藍色の和風ビキニを手に取って、鏡の前に合わせてみせる。
「わ、可愛いですね、それ」
すずが目を輝かせながら覗き込んできた。
「すずちゃんは、どれがいいと思う?」
「私は、その、ワンピースタイプの方が」
すずは少し照れながら、小花柄のワンピース水着を指差した。
「私はこのトロピカル柄、気になるな」
奏がのんびりとした調子で、鮮やかな葉っぱ模様のセパレートを手に取る。
「夏っぽくて、いいんじゃないですか」
「亮太郎くんも、そう思う?」
「え、俺に聞くんですか」
「せっかくだから、実際に着てみて。寺坂くんにも感想を聞くわ」
理央が横から口を挟んだ。
「なんで俺の感想が必要なんだよ」
「男子の意見も、統計データとしては貴重よ」
理央が真顔でそう言うと、水瀬が慌てて口を挟んだ。
「ちょっと、それ変じゃない?」
「変じゃないわ。むしろ、客観的な評価軸として重要よ」
「客観的とか言いながら、絶対面白がってるだけでしょ」
「否定はしないわ」
理央の開き直った返答に、リビングが軽く笑いに包まれた。
結局、押し切られる形で、四人は順番に着替えて、リビングで簡単なお披露目会をすることになった。
「じゃあ、まずは私からいくね」
最初に着替えて出てきたのは奏だった。
トロピカル柄のセパレートに身を包んだ奏は、いつものゆったりした雰囲気そのままに、軽く一回転してみせる。
「どう? 似合ってる?」
「似合ってますけど、そこで回らないでください」
「減点?」
「危ないって意味です」
軽口を叩き合いながらも、俺は素直に感想を口にした。
「先輩、夏っぽくていいと思います」
「ありがとう」
次に着替えてきたのは、すずだった。小花柄のワンピース水着に、両腕で身体を軽く隠すようにしながら、おずおずと出てくる。
「わ、私は、その、あんまり見ないでください」
「べつに変じゃないだろ、普通に似合ってる」
「あ……ありがとう、ございます」
すずは、耳まで赤くなりながら、小さく頷いた。
その後に続いたのは水瀬だった。藍色の和風ビキニに合わせて、少し照れくさそうな表情を浮かべている。
「な、なに、その反応」
「何も言ってないだろ」
「言ってなくても、なんか顔に出てるし」
「出てないと思うけど」
軽く言い合いになりながらも、俺は正直な感想を口にすることにした。
「その柄、水瀬に似合ってると思う」
「……そういうの、さらっと言わないでよ」
水瀬はそう言いながら、少し視線を逸らした。
最後に理央が、自分で選んだシンプルな紺色の水着姿で現れた。
「白峯、その水着、地味じゃないか」
「機能性重視よ。派手な柄は、研究の妨げになるから」
「水着着てる時点で研究の妨げになってる気がするけど」
「関係ないわ」
四人が並んだリビングは、いつもより明るく、賑やかな空気に包まれていた。
窓から差し込む夕方の光が、水着の色とりどりの柄を、やわらかく照らしている。
「それぞれ、よく似合ってると思う。無理に一つに絞らなくても、気分で使い分ければいいんじゃないか」
俺が何気なくそう言うと、リビングが一瞬、静かになった。
その瞬間だった。
――ぱちん。
寮全体の照明が、一斉にふっと明るく揺れた。
「……あれ」
俺は思わず天井を見上げた。
「今の、発電?」
水瀬も同じように照明を見上げている。
理央がすかさずタブレットを確認した。
「少しだけ発電量が上がってるわね」
「誰の?」
奏が興味深そうに尋ねる。
理央は画面を見たまま、少し間を置いた。
「少なくとも、私と有馬先輩と小松さんの表示には、大きな変化はないわ」
「じゃあ――」
俺は反射的に水瀬を見た。
「な、なによ」
水瀬が少しだけ身構える。以前なら、ここでモニターを確認していた。
何キュンだったのか。本当に水瀬が反応したのか。
けれど今、その数字は見えない。
「……いや、なんでもない」
「何それ」
「見えないようにしたんだろ。なら、無理に確かめることでもないかなって」
水瀬が一瞬、きょとんとした。
それから、少しだけ視線を逸らす。
「……そういうことでいいの」
照明は何事もなかったように、元の明るさへ戻っていた。
誰が、どんな気持ちで発電したのか。数字では、もう分からない。
でも、それでいいのかもしれない。
その一連のやり取りの横で、すずだけが、まだ落ち着かない様子で身体を小さくしていた。
「わ、私、やっぱりこういうの、ちょっと恥ずかしくて。みんなに見られるの、やっぱり慣れなくて」
「じゃあ、そろそろ着替えるか。俺も、さすがに目のやり場に困る」
「今さら?」
水瀬が突っ込む。
「今さらでも困るものは困る」
俺がそう言うと、それぞれが着替えのために自室へと戻っていった。
「で、今日の検証はどうだったんだ、白峯」
片付けをしながら尋ねると、理央はしばらく考え込んだ。
「今日のデータを踏まえて、後日、総合的に判断するわ」
「何を判断するんだよ」
「海に行く時の最適な組み合わせよ」
「まだ研究続ける気か」




