↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の家賃、君の【胸キュン】で払えますか? ~ときめき発電寮の管理人になりました~  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

第十五キュン ときめき発電寮、初めての家族会議

 五月半ばのある夜、寮の電気使用量が急に跳ね上がった。

「ちょっと、今月の電気代やばいことになってるわよ」

 理央がタブレットを片手に、深刻な顔でリビングに現れた。

「発電量は横ばいなのに、消費量だけ増えてる。誰か何か長時間使ってるでしょ」

「私じゃないよ」

 水瀬が即座に否定する。

「私も心当たりないけど」

 奏も首を振った。

「小松さんは?」

「わ、私も……あ」

 すずが何か思い出したように口を止めた。

「小松、なんかあるのか」

「その……最近、髪が広がりやすくて、ドライヤーの時間、少し長めに使ってるかもしれません」

「少し?」

 理央がすかさずデータを確認する。

「昨日は三十二分。一昨日は二十八分。これは少しの範囲を超えているわ」

「す、すみません……」

 すずが小さくなる。

「べつに責めてるわけじゃないわ。ただ、原因が分かってよかった」

 水瀬が急に立ち上がった。

「じゃあ次は私の番だ。理央、あんたのパソコン、毎晩何時間つけっぱなしなの?」

「研究データの整理に必要な時間よ」

「それ絶対深夜まで漫画読んでる時間も含まれてるでしょ」

「それは資料研究の一環」

「資料研究って便利な言葉ね」

 そのとき、

「まあまあ、みんな落ち着いて」

 秋月先生がタイミングよく顔を出した。月例の発電記録を確認するため、秋月先生も寮にくる日だった。

「今夜は臨時の家族会議、開催しまーす」

「家族って、誰が家族なんですか?」

 俺は即座に突っ込んだ。

「星見風寮のみんなでしょ、もちろん」

 軽い調子で言いながら、秋月先生はホワイトボードを持ち出してきた。理央のものより一回り大きい。

「議題は、電力使用量の見直し。まずは一キュンが何円相当なのか、計算してみましょう」

「そんなくだらないこと真剣にやるんですか」

「くだらなくないよ。研究予算にも関わる話だから。それに、来月には扇風機やエアコンも必要になってくるし、今からしっかり対策しておかないと。みんなの生活にも関わる問題よ」

 結局、その夜は本格的な討論会になった。

 ドライヤーの使用時間、パソコンの充電、テレビの視聴時間。一つ一つの項目について、誰がどれだけ電力を使っているか、家電の使用権を賭けた議論が続いた。

「じゃあ提案なんだけど」

 しばらくして、奏がのんびりと手を挙げた。

「今夜は、みんなで同じ部屋に集まって、電気一つで過ごすっていうのはどう?」

「なんでそんな話に」

「節約になるし、なんとなく楽しそうじゃない?」

 特に反対する理由もなく、結局その提案は採用されることになった。

     ☆

 夜、リビングに全員分の布団や毛布が運び込まれた。

 照明は一つだけ点けたまま、みんなで車座になって座る。

「なんか、修学旅行みたいだね」

 水瀬が少し楽しそうに言った。

「私、こうやってみんなで同じ部屋に泊まるの、初めてです」

 すずが、並べられた布団を見ながら小さく笑う。

「寮に住んでても、意外とこういうことないもんね」

「私は何度かあるけどね」

 奏が懐かしそうに目を細める。

「先輩、前にもやったことあるんですか?」

「一年生の頃からここにいるから。停電した夜とか、台風の日とか」

「星見風寮、昔から色々あるんですね……」

 会話が続く中、秋月先生が持ってきたお菓子を配り始めた。

「はい、これで今夜の食料は終わり。あとは寝るだけね」

「先生もいっしょに泊まるんですか?」

「もちろん。責任者だからね」

 軽い口調とは裏腹に、秋月先生の言葉にはどこか温かみがあった。

 部屋の隅、一つだけ灯る照明の下で、みんなの顔がぼんやり照らされている。

 俺はふと、隣に座っていた水瀬を見た。

「なんか、こういうのも悪くないな」

「うん」

 水瀬が短く頷く。いつもの軽口が減っていて、少し新鮮だった。

「小松、寒くないか?」

「大丈夫です」

 すずが毛布を軽く引き寄せながら答える。

「白峯は、こういう非効率な過ごし方、嫌いなんじゃないのか」

 俺がからかい半分で聞くと、理央は意外にも穏やかな表情を見せた。

「非効率だけど、悪くないデータが取れそうね」

「またデータの話かよ」

「感情面での相互作用が、通常より活発になっているように見えるわ」

 理央が言い終わるより先に、壁のモニターが小さく光った。

 ――ピコン。

『感情エネルギーを検出しました。二・四キュン』

「あ、また鳴った」

 水瀬がモニターを見る。

「今の誰の分?」

 奏が首を傾げた。

「表示、全員分まとめてカウントされてるみたい」

 理央がタブレットを確認しながら言う。

「珍しいわね。個人じゃなくて、複数人が同時に反応してる」

「それって、みんなでいることが原因ってことか」

「可能性としては高いわ」

 誰か一人だけの感情ではなく、この場にいる全員の何かが重なって、一つの数字になっている。

 そう考えると、なんだか不思議な気分になった。

     ☆

 夜が更けて、一人また一人と眠り始める。

 最初にすずが小さな寝息を立て始め、続いて奏が毛布にくるまって静かになった。少し離れたところでは、秋月先生もいつの間にか毛布を肩まで引き上げて眠っている。

「私も、そろそろ限界かも」

 水瀬があくびを噛み殺しながら呟く。

「おやすみ、水瀬」

「……うん。おやすみ」

 いつもならもっと軽口の一つも返してきそうなものだが、今日は素直な返事だけが返ってきた。

 俺は一つだけ灯る照明の下で、しばらく、眠ったみんなの寝顔を眺めていた。

 距離が近くなったことで、何かが確かに変わったような気がした。

 電気代の心配から始まったはずの夜が、いつの間にか、ちょっとした思い出になっていた。

 照明の明かりが、いつもより少しだけ優しく見えた。


         ☆


 翌朝。

 簡単に朝食を済ませたあと、秋月先生が昨夜までの記録を確認していた。

「発電量の波はまだあるけど、前みたいに生活に支障が出るほどじゃなくなってきたね」

 秋月先生が手元の資料をめくる。

「ただ、まだ学園が期待してた数字には届いてないけど」

「期待してた数字?」

「実証実験だから。結果が出なければ、継続について話し合うことになるかもしれないよ」

 さっきまで賑やかだったリビングが、ほんの少しだけ静かになった。

「……それ、結構大事な話じゃないですか」

「今すぐどうこうって話じゃないよ。だから今は、普通に生活してくれればいい」

 そう言われても、「継続について話し合う」という言葉だけは、妙に耳に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。