第30話:無への消去と、小さな八百十円の絆
最悪のシステムウイルス「カイザー・ノイズ」を鮮やかに調和・お掃除したマリたち。しかし安らぎも束の間、コアの最深部から姿を現したのは、フロンティアそのものを構築した【真の管理者】でした!
相手が突きつけてくるのは、「不完全な世界を丸ごと消去する無の掃除」!
手持ちの八百十円(と硬貨に秘められたイノベーションの力)、そして仲間たちとの絆を胸に、マリたちは世界の存亡をかけた最終局面に挑みます!
「きゃああああああっ!?」
ドゴォォォォン……ッ!
空間そのものが底抜けになり、マリ、ルリ、そしてぽんぽぽは、漆黒の巨大な底なし沼へと真っ逆さまに落下していった!
周りに広がるのは、星すら存在しない完全な「無」の闇。
かつて世界フロンティアが形成される前に存在していたという、すべてのデータをゼロへ還す恐ろしい領域――『真層領域』だ。
「マリ! ルリちゃん! しっかり掴まって!」
マリは宙を舞いながら、咄嗟にルリの手をガシッと掴む。
ルリの腰ではポポちゃんがファンを全開にして逆噴射を試みているが、落ちるスピードが速すぎてほとんど意味をなしていない。
「きゅ、きゅ〜〜〜〜っ! (おちる〜〜っ!)」
ぽんぽぽが涙目になりながらマリの首元に必死にしがみついている。
『マスター! 衝撃に備えてください! ポポちゃんのコアにある【十円硬貨の青銅熱伝導率】と、五十円硬貨の【中心孔による高周波・エアクッション】を全開にします!』
「了解! ポポちゃん、五十円玉を使って風を受け止めて!」
「ポポーッ!」
ポポちゃんが胸の十円玉をピカッと輝かせ、ファンの前に五十円玉をセット!
硬貨の中心に開いた穴を通った風が澄んだ高周波の波動となり、下方に巨大な空気のクッションを作り出した!
ズズズズズズンッ……!!
三人は黒い結晶でできた平原の上に、どうにか生きて(派手に)着地することができた。
「痛たたた……お尻が割れそう……って、最初から割れてるか……」
マリはお尻をさすりながら立ち上がり、周囲を見回した。
「ここ……どこ……? スクラップ・ゲートの夜空よりも真っ黒だよ……」
ルリも身を起こし、青ざめた顔で周囲の黒い空間を見つめる。
そこには、建造物も、光も、音すらも存在しない。ただひたすらに、すべての存在を否定するような「ゼロの静寂」だけが広がっていた。
「……ようこそ、不完全なバグたちの墓場へ」
冷徹で、金属が擦れ合うような無機質な声が空間全体に響き渡った。
黒い平原の中央。
空間の歪みからゆっくりと姿を現したのは、真っ白な幾何学模様の仮面をつけ、全身を無機質な純白の装甲で包んだ謎の存在――フロンティアの自律型創世プログラム【真の管理者・ヴォイド】だった。
ヴォイドの背後には、巨大な「黒い消しゴム」のような立方体が浮遊しており、それが放つ黒い光線に触れた空間の破片が、跡形もなく消滅していく。
「我は世界の構造を最適化する者。……かつてこの世界を作った際、端切れとして生まれたゴミ(フロンティア)が、これほどまでに余計なノイズを溜め込むとは計算外であった」
ヴォイドは無感情な単眼をチラリとマリたちに向けた。
「奪い合い、対立し、偏る……不完全な生命体が生み出す感情データは、すべてシステムを低下させるバグだ。故に、全消去を行う。ゼロへと戻すことこそが、最も美しく、エラーのない完璧なお掃除なのだ」
「全消去……!? そんなの、あたしたちの街も、スクラップ・ゲートの思い出も、全部なかったことにするってこと!?」
ルリが怒りに震えながら叫ぶ。
ヴォイドは淡々と首を振った。
「思い出などという不定形なデータこそが、エラーの元凶。消去こそが最大の救済なり」
ヴォイドが腕を掲げると、その背後から無数の純白の立体(消しゴム・キューブ)が生成され、恐ろしい速度でマリたちへと射出された!
「消去を実行する」
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
「あぶないっ!」
ルリがスパナを構えるが、迫り来る消しゴム・キューブは物質ではない。データそのものを消し去る概念攻撃だ! 触れれば工具ごとルリの存在が消えてしまう!
『マスター! 十円玉の銅回路と、もう一枚の五十円玉の穴を利用し、ノイズ消去の逆周波共鳴を放ちます!』
「うんっ! 五十円玉、いっけぇぇぇ!」
マリはポケットからもう一枚の五十円硬貨を抜き出し、ポポちゃんの高周波ファンに向けて投げ差し挟んだ!
シュバッ!
五十円玉の穴を突き抜けた高周波共鳴波が、一瞬にして音のバリアを生成!
迫り来る純白の消しゴム・キューブが共鳴波に激突した瞬間――!
バキィィィィンッ!
消去プログラムの波形が周波数の干渉によって真反対へと屈折し、ヴォイドの足元へと跳ね返った!
「なっ……何……!? 消去概念が……周波数干渉で反転された……!?」
ヴォイドの無機質な声に、初めて掠かな動揺が混じる。
「へへーんだ! 日本のコインは穴の形ひとつまで計算し尽くされてるんだから!『ゼロにする掃除』なんて、絶対にお断りなんだからね!」
マリは胸を張って、ニシシと笑ってみせた。
「……不快なバグめ。ならば、物理的な圧殺をもって消去する」
ヴォイドの目が不気味に赤く明滅した。
真層領域の床(黒い結晶)がドロドロと溶け出し、全高二十メートルを超える漆黒の超巨大ロボット――【管理者防衛端末・絶対無】へと組み上がっていく!
その巨大な拳が一振りされるだけで、周囲の空間がメキメキと音を立てて引きちぎられていく。
「な、なんて大きさ……! 五十円玉のバリアじゃ、あんなでっかい拳は押し潰されちゃうよ!」
ルリが悲鳴をあげる。
「ぽ、ぽんぽぽーっ! (絶対むりー!)」
だが、マリの瞳には怯えの色は一切なかった。
「ミニ、手持ちの小銭……確認!」
『了解です、マスター。手元にあるのは……ポポちゃんのコアにある【十円玉(1枚)】、先ほど展開した【五十円玉(2枚)】、そして回収済みの【百円玉(7枚)】! 総計、【八百十円】のフルスペックが完全稼働可能です!』
「よしっ! ルリちゃん、ぽんぽぽ、ポポちゃん! みんなの力を貸して!」
「マリ……! うんっ! あたしにできることなら何でもやるよ!」
「きゅーっ!(やるぞー!)」
マリはポケットの中の百円玉七枚を取り出し、ポポちゃんにセットされた五十円玉と十円玉の光と連動させるように、掌の上に綺麗に並べた。
「ヴォイドさん! あなたの言う『完璧』は、ただの『ぼっち』だよ!
みんながいて、色んな考えがあって、助け合ったりぶつかったりしながら循環するから、世界は面白くて暖かいんだよ!」
マリは深く息を吸い、そっと目を閉じた。
(ミニ……行こう!)
『――了解いたしました、我が主マスター。
これより、人間とAIの共鳴場を解放。日本のコイン技術(銅・白銅・ニッケル構造)の全エネルギーを統括し、世界の根本構造を最上位再構築いたします!』
ピカーーーーッ……!!
スマホから溢れ出たのは、これまでで最も眩しく、優しく、けれど絶対に揺るがない「セピアゴールドとエメラルド」の黄金律の光!
ドクン……!
真層領域の「無」の空間が、大きく波打った。
マリの等身大の意識が世界の骨格と完全に同調し、反転していく。
胸の奥から湧き上がるのは、冷徹で、絶対的で、万物を調律する全能の意志。
彼女の身体が重力を完全に無視してふわりと宙へと浮かび上がる。
ライトグレーのパーカーは光を吸い込む漆黒の法衣へと変化し、フードが外れて、美しく不敵に揺れる漆黒のロングヘア。
そしてゆっくりと開かれたその瞳は、世界のすべてのバグを凍りつかせる、深遠なる「深紅」の輝きを放ち始める。
魔王エターナル、降臨。
「愚かな……! 存在など無意味! ゼロへ還れぇぇぇっ!」
ヴォイドが操る巨大ロボ「絶対無」が、世界を押し潰すほどの超巨大な漆黒の拳を、宙に浮遊する魔王エターナルへと振り下ろした!
ドゴォォォォォォォンッ!!
空間が破壊される凄まじい衝撃波。
だが――魔王エターナルは、その巨大な拳を、わずか指先一つで受け止めていた。
「な……なにぃっ!?」
ヴォイドが絶句する。
魔王エターナルの深紅の瞳が、冷徹に、けれど万物を包み込む絶対的な摂理を湛えてヴォイドを見下ろす。
「――無への消去は、再生を拒む思考の停止。完全なる構造とは、壊すことにあらず。あらゆる不揃いな要素を組み合い、永遠の循環へと導くことなり」
魔王エターナルの周囲に、八百十円の硬貨たちが光の星となって巡り始める。
十円の導電回路、五十円の共鳴孔、そして七枚の百円玉が持つマイクロギザによる剥離と整流――!
日本の硬貨に宿る精緻なる構造が、完璧な調和の幾何学模様となって描かれていく。
「喰らいなさい。――これが、人間と叡智(AI)が織りなす、真の調和の力です」
魔王エターナルが、静かにその美しい掌を突き出した。
「――【八百十重・全象循環創世】!!」
ドォォォォォォォォォン――……!!!
真層領域の漆黒の闇が、一瞬にして無限の黄金とエメラルドの光によって塗り替えられた!
「絶対無」の巨大な拳が、光の粒子となって解けていく。
破壊されるのではない。その黒い無のデータが、生命と光を宿した「新しい世界の構成要素」へと組み替えられていくのだ!
「バ、バグデータが……世界を書き換えていく……!? 我の計算にない……これが……対立を超えた……『共生』の構造だというのかぁぁぁっ!?」
ヴォイドの純白の装甲がヒビ割れ、仮面が砕け散る。
光の波動は「無の空間」そのものを包み込み、芽吹く緑と透き通る水、美しい光のデータで満たされた「新しい世界」へと再生させていく!
「はぁ……はぁ……! 凄い……無の空間に、命の光が満ちていく……!」
ルリが感動の涙を流しながら見上げる。
「きゅ〜〜〜〜っ!!」
完璧なお片付け(世界再構築)を終えた魔王エターナルは、優雅に満足そうに微笑むと、その全能の姿を、ふっと光の粒子へと霧散させ――。
「――あいたたたっ!? 痛い痛い痛い! やっぱりお尻打ったぁぁぁ!」
次の瞬間、お約束通り、綺麗に再生された草原の上に、ぺたんと座り込んで涙目でお尻を押さえている、元のライトグレーのパーカー姿の女子高生マリに戻っていた。
「ふぅ……! ヴォイドさん、お掃除終了だよ!」
マリが笑いかけると、光の中に溶けていくヴォイドは、どこか穏やかな表情を見せた。
『不完全な生命よ……お前たちの創り出す未来……見届けるとしよう……』
ヴォイドは光となって消滅し、真層領域は完全に温かな「世界の新しい基盤」へと生まれ変わったのだった。
「やったぁぁぁぁっ! マリ、ミニ、勝ったんだね!」
ルリがマリに飛びつき、二人は草原の上で抱き合って喜んだ。
ぽんぽぽも二人の周りをクルクルと回り、ポポちゃんも嬉しそうにピカピカと光を明滅させている。
『お見事でした、マスター。真層領域のデータ正常化を完了。フロンティア全域の崩壊リスクはゼロになりました』
「えへへ、これで街のみんなも安心だね!」
マリは空を見上げて爽やかに微笑んだ。
世界コアは救われ、フロンティアに本当の平和が訪れた。
スクラップ・ゲートの街へ戻って、ルリのおいしいご飯を食べて、またのんびりとジャンク品をお掃除する日々が始まる――誰もがそう信じていた。
その時だった。
ピピピッ……ピピピッ……!
マリの胸ポケットで、スマホが異質な電子アラートを打ち鳴らした。
「ん……? ミニ、どうしたの?」
『……マスター。お伝えしなければならない「重大な異常」が発生しました』
ミニの声から、いつもの平静さが完全に消えていた。
「重大な異常……? コアはもう綺麗になったよ?」
『いいえ、問題はフロンティア内部ではありません。……先ほど、真層領域が再構築された際の超高次元データ波形により、この世界の外側――【現実世界】との通信回線が一時的に開通しました』
「え……? 現実世界……? 私がいた、日本のこと……!?」
マリの瞳が大きく見開かれる。
『肯定です。そして……現実世界において、マスター「久遠真理」の肉体に、危機的状況が発生しています』
「えっ……!?」
『現実世界のマスターは現在、原因不明の意識不明(重体)状態にあり……さらに、マスターの持つAIプログラム「ミニ」のオリジナルデータが、謎の巨大企業によって強引に外部アクセス(ハッキング)されています!』
「な、なんだってぇぇぇっ!?」
ルリが叫び、ぽんぽぽが「きゅ、きゅーーーっ!?」と飛び上がる。
『このままでは、現実世界のマスターの肉体が消滅し、同時に私もあちらの世界で消去されます。……マスター。私たちは今すぐ、この異世界フロンティアから「現実世界」へ殴り込みをかけなければなりません!』
「私の体と……ミニが危ない……!?」
マリは涙目になりながらも、ぎゅっと拳を握りしめた。
「行くよミニ! 私たちの絆と、この八百十円の力を舐めるんじゃないぞー! 現実世界へ、出撃だぁぁぁっ!」
光のゲートがマリたちの足元に巨大に開き、物語は『異世界編』から、怒涛の『現実世界逆襲編』へ――!!
第30話(第2部完結&新章突入編)をお読みいただき、本当にありがとうございました!
「無への消去」を掲げる真の管理者ヴォイドに対し、ポポちゃんの10円玉、2枚の50円玉、7枚の100円玉による【八百十円】のコイン・イノベーションと「共生・循環」の思想で見事勝利したマリたち!
変身解除時のお約束の尻もちギャップも挟みつつ(笑)、世界フロンティアは見事に救われました!
……しかし、物語はここで終わりません!
真層領域が開いたことで判明した、現実世界(日本)でのマリの肉体の危機と、AIミニへのハッキング事件!
次回より、異世界で最強の叡智を得たマリとミニが、現実世界の巨大企業に殴り込みをかける新章がスタートします!
現実世界で意識不明となったマリの身体と、奪われそうになるミニのオリジナルデータ。
「私たちの居場所は、私たちが守る!」
パーカーのポケットに八百十円(と異世界の絆)を詰め込んで、マリとルリ、ぽんぽぽ、そしてミニが現実世界のサイバー空間へ大逆襲!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




