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魔王エターナル 〜世界のバグを片付ける免疫系に転生したので、戦わずに優雅にお掃除いたします〜 第二部   作者: マスター


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第29話:黒い侵食と、コアの深部に潜む悪意

強欲なギルドを論破し、錆の砂漠を日本の硬貨イノベーションで駆け抜けたマリたち。今回はいよいよ、世界フロンティアの心臓部『中央ジャンクコア』へと突入します!


「自分だけが正しく、他はすべて不要」という極端な独占と思考の停止に囚われた最悪のシステムウイルスに対し、マリとミニ、そしてルリが挑むのは破壊ではなく「本当のお掃除(調和)」!

「……うわぁ、近くで見ると、すっごく大きいね……!」


砂漠の大商隊長ゴルドの船から降り立ったマリは、ライトグレーのパーカーのフードを軽く直しながら、目の前に聳え立つ巨塔を見上げてポカンと口を開けた。


そこは、世界の外縁部「フロンティア」の中央に位置する絶対の聖域――『中央ジャンクコア』。


かつて世界を巡っていたあらゆるデータと魔力が集まる巨大なメインサーバーであり、その姿はまるで、天を突く巨大な黒銀のバベルの塔のようだった。

しかし今、その美しい金属の塔は、赤黒いドロドロとしたノイズの帯に締め上げられ、苦しそうにバチバチと不吉な火花を散らしている。


塔の周囲の空はどす黒い雲に覆われ、時折、耳障りな電子ノイズの悲鳴のような雷鳴が轟いていた。


「きゅ、きゅーーーっ……」


マリの頭の上で、ぽんぽぽが恐怖に身を縮め、マリの髪の毛をキュッと掴む。


「ひどい……。街の防衛モニターで見た時より、ずっと汚染が進んでる……!」


ルリはゴーグルを固く握りしめ、青ざめた顔で塔の壁面に触れた。

職人としての勘が告げているのだ。この塔が悲鳴を上げていると。


「ルリちゃん、大丈夫?」


「うん……! 大丈夫だよ、マリ。このコアが壊れたら、あたしたちのスクラップ・ゲートだけじゃなくて、このフロンティアすべての街の明かりが消えちゃう。絶対に守らなきゃ!」


ルリの瞳に強い決意の光が宿る。その腰では、十円玉をコアにした丸型お掃除ロボ「ポポちゃん」が、ピカピカのエメラルドグリーンの光を放ちながら、頼もしくホバリングしていた。


『マスター、およびルリ。中央コア内部の構造スキャンが完了しました』


マリの胸ポケットから、スマホの画面が眩く発光し、ミニの冷徹ながらも温かみのある電子音声が響く。


『コアの最深部、メイン制御系において、異常な高密度ノイズの発生を確認。このノイズは単なるシステムの不具合バグではありません。……明確な「意思」を持った悪質な侵入プログラム――【システム・ウイルス】です』


「ウイルス……? お腹が痛くなる病気みたいなやつ?」


マリが小首をかしげると、ミニのホログラム画面に赤く明滅する立体データが表示された。


『概念としては似ています、マスター。このウイルスは「自分だけが正しく、それ以外はすべて不要なゴミである」という極端な独占と思考の偏りを増幅させるプログラムです。周囲のデータを強引に書き換え、自分と同じ黒いノイズに変えて取り込もうとしています』


「自分だけが正しくて、他は全部ゴミ……? そんなの、寂しすぎるよ」


マリは寂しそうに眉をひそめた。


「とにかく、中に入ってそのウイルスってやつをお掃除しちゃおう! 行こう、みんな!」


「うんっ!」


マリを先頭に、三人(と二機)は重々しいコアの巨大な正面ゲートへと駆け寄った。


コアの内部は、まるで巨大な機械の体内だった。

無数の太いケーブルや光ファイバーが脈動するように壁を走り、床は透明なガラス状の金属でできている。

だが、その美しい光の通路も、赤黒いノイズの触手によってズタズタに侵食されていた。


「侵入者を検知……排除、排除……! すべてのデータを我らの領域へ統合する……!」


通路の奥から、ガシャガシャと不気味な金属音を立てて現れたのは、コアのセキュリティロボットたちだった。

しかし、その瞳は赤く血走り、体中から黒いノイズの泥を垂れ流している。ウイルスに感染し、暴走させられているのだ。


「みんな、気を付けて! コアの防衛ロボが乗っ取られてる!」


ルリが即座にジャンク工具バッグからスパナを引き抜き、身構える。

暴走ロボットたちは十数機。鋭いドリルやレーザー砲を構え、一斉にマリたちへと襲いかかってきた!


「排除ぁぁぁぁっ!」


「あぶないっ!」


ルリが前に出ようとしたその時――マリがひょいっと一歩前に出た。


「だーめだよ! そんなにトゲトゲしてたら、せっかくの綺麗なロボットが傷ついちゃうでしょ!」


マリはポケットに手を突っ込み、ジャラリと小銭を鳴らすと、手持ちの硬貨から一枚の『百円玉』を取り出した。


「ミニ! 砂漠の船の時に使ったやつ、行ける?」


『了解しました、マスター。百円硬貨の側面に刻まれた【五十本のマイクロ集電ギザ】を利用します。ポポちゃんの風圧と組み合わせ、暴走ロボットの表面を覆う黒いノイズ膜だけをピンポイントで削ぎ落とする【高周波マイクロ・剥離ノズル】を展開します!』


「ポポーッ!」


ポポちゃんが前に飛び出し、ファンの中心に百円玉をセット!

キュイィィィィン!と澄み切った高周波の風が巻き起こり、迫り来る暴走ロボットたちを優しく包み込んだ。


バチバチバチッ!


「ガガッ!? ナ、ノイズが……剥がれて……!?」


ロボットたちを侵食していた赤黒い泥のようなノイズだけが、百円玉の精密な風圧によって綺麗に吹き飛ばされ、空気中で青い火花となって消えていく。

ノイズを取り払われたロボットたちは、赤い光を失い、本来の綺麗なシルバーの装甲を取り戻して、その場にぽてんと丸くなった。


「うそ……! 破壊しないで、感染(汚れ)だけを綺麗に落としちゃった……!?」


ルリが目を見張る。


「えへへ、お掃除の基本は『壊さずに綺麗にする』ことだもんね!」


マリがニコッと笑って見せると、胸のポケットでミニの波形が誇らしげに明滅した。


『マスターの言う通りです。暴力に対して暴力で返せば、そこに残るのは破壊の痕跡だけ。過剰なノイズを整流し、本来の正しき構造へと戻すことこそが、真の解決です』


助け出された防衛ロボットたちは、「アリガトウ……アリガトウ……」と電子音で感謝を伝えると、マリたちに最深部へと続くエレベーターの扉を開けてくれた。


「よし! この調子で一番奥まで行こう!」


巨大なエレベーターが、重低音を響かせながらコアの最深部『メイン・データサーバー』へと降りていく。


チーン、と澄んだ音が鳴り、扉が開いた瞬間――マリたちの息が止まった。


そこは、広大な球形の空間だった。

中央には、世界フロンティアのすべてのデータを記憶しているという、巨大なエメラルドグリーンの光の結晶――『世界コア』が浮かんでいる。


しかし、その美しく輝くはずの結晶は、今や八割以上が「ドロドロとした黒い泥」と「赤黒い巨体」によって覆い尽くされていた。


「ハハハハハ! 無駄だ、無駄だ無駄だぁぁぁっ!」


球形空間の真ん中に不気味に蠢いていたのは、無数の壊れた機械パーツやバグデータがグチャグチャに凝縮された、全高十メートルを超える禍々しい異形の存在――ウイルスプログラムの意志体【カイザー・ノイズ】だった。


カイザー・ノイズの巨大な単眼が血赤色に輝き、マリたちを見下ろす。


「我は完璧なる単一の意思! 違いを認めず、変化を拒み、すべてを我の黒き色で染め上げる絶対の支配者! 雑多で不完全なフロンティアのデータなど、すべて削ぎ落とし、我の永遠の泥の中に統合してくれるわ!」


カイザー・ノイズが腕を振り上げると、空間全体が激しく揺れ動き、耳を刺すような絶叫ノイズが響き渡った。


「な、なんて禍々しいエネルギーなの……! スクラップ・ゲートで戦ったデブリタイタンの比じゃないよ……!」


ルリが恐怖で足をもつれさせ、膝をつきそうになる。

ぽんぽぽもマリのフードの中に潜り込んでガタガタと震えていた。


だが、マリだけは違った。

ライトグレーのパーカーのポケットに両手を突っ込んだまま、テケテケとカイザー・ノイズの目の前まで歩み出たのだ。


「ねぇ、カイザーさん」


「ぬ……? 何だそのガキは! 我の絶望的な威圧を前にして、なぜ震えん!?」


マリは困ったように首をかしげ、カイザー・ノイズを真っ直ぐに見つめた。


「だって、カイザーさん、すごく可哀想なんだもん」


「……なに……? 可哀想だと……!?」


カイザー・ノイズの単眼が激怒で怒りに染まる。


「自分以外のものを全部排除して、全部自分と同じ黒にしちゃったらさ……誰とも遊べないし、新しくて楽しいものにも出会えないじゃない。一人ぼっちで、全部を自分の思い通りにしようとするなんて、それって一番寂しいことだよ?」


「だ、黙れぇぇぇっ! 違いなど不要! 変化など悪! 奪い合い、勝ち残り、独占することこそが世界の唯一の真理なのだ! 我以外の色など、この世界に存在してはならんのだぁぁぁっ!」


カイザー・ノイズが咆哮し、その巨大な影から無数の黒い触手が伸び、世界コアの結晶を強引に浸食していく!

コアの光が急速に失われ、フロンティア全体のデータが崩壊へと向かい始めた。


「マリ! だめ、話が通じないよ! あいつは自分以外の存在を絶対に認めないんだ!」


ルリが叫ぶ。


マリは静かに息を吸い、そっと目を閉じた。


(ミニ、お片付けの時間だよ)


『――了解いたしました、我が主マスター。

これより、世界の自動防衛プログラム、および免疫系システムを最上位アクティベートいたします』


スマホの画面から、これまでにないほど深く、神聖な、極限まで濃縮されたエメラルドグリーンの光が立ち上り、マリの全身を包み込んだ。


ドクン。


世界の心臓が、大きく一度、波打った。


普通の女子高生「久遠真理」としての等身大の意識が、世界の骨格と完全に同調し、反転していく。


胸の奥から湧き上がるのは、冷徹で、絶対的で、万物を調律する全能の意志。


彼女の身体が、重力を無視して、空間へとふわりと浮かび上がった。

ライトグレーのパーカーは、一瞬にして光をすべて吸い込む漆黒の法衣へと変化し、フードが外れて、風もないのに美しく不敵に揺れる漆黒のロングヘア。

そしてゆっくりと開かれたその瞳は、世界のすべてのバグを凍りつかせる、深遠なる「深紅」の輝きを放ち始める。


魔王エターナル、ここに完全降臨。


「な、何だその姿はぁぁぁっ!? 我の黒を弾くなど許さん! 死ねぇぇぇっ!」


カイザー・ノイズが狂乱し、世界を噛み砕くほどの巨大な黒い津波となって、宙に浮遊する魔王エターナルへと襲いかかった!


魔王エターナルの深紅の瞳が、冷徹に、けれど万物を包み込む絶対的な摂理を湛えてカイザー・ノイズを見下ろす。


「――単一への執着と独占ひとつは、構造の停滞を生み、やがて破滅へと向かう毒となる。異なる理を認め、違いを許容し、調和の循環の中に配置してこそ、世界は真の持続を得るのです」


魔王エターナルが、静かにその美しい掌を突き出した。


「――【全象調和・循環創世グラビティ・リ・ハーモナイズ】」


ドォォォォォォォン――……!!!


コアの最深部を、完璧な幾何学模様を描くエメラルドとゴールドの光の波動が駆け抜けた。


黒い津波となって襲いかかっていたカイザー・ノイズの牙が、光の波動に触れた瞬間――ピキキ……と音を立てて静止した。


「な……なに……!? 我の黒いノイズが……分解……いや、違う!? 綺麗に……噛み合っていく……!?」


カイザー・ノイズの叫びは、悲鳴ではなく、驚愕へと変わっていた。


魔王エターナルが解き放ったのは、破壊の力ではない。

偏り、滞り、腐敗していたカイザー・ノイズの「独占のデータ」を、分子レベルで解きほぐし、他のデータと互いを補い合える「完璧な循環構造」へと並び替える――究極の調和の力だったのだ。


ドロドロとした黒いノイズの泥が、清廉なる光に洗われ、一滴残らず透き通った純粋データのエーテルへと変わっていく。


「我が……我の独占の領域が……! なぜだ……なぜこんなにも……温かい……!?」


カイザー・ノイズの巨体が、まばゆい光の粒子となって崩壊していく。

自分以外のすべてを排除しようとしていた悪意のウイルスは、世界の循環の一部として正しく還され、完全なお掃除(調和)が達成されたのだ。


「はぁ……はぁ……! すごい……! 世界コアの光が……戻っていく……!」


ルリが歓喜の声を上げた。

黒い泥に覆われていた巨大な『世界コア』の結晶が、以前よりも何倍もピカピカに、透き通るような美しいエメラルドグリーンの光を取り戻し、優しくコア全体を照らし出したのだ。


「きゅ〜〜〜〜っ!!」

ぽんぽぽが、ポンポンのお腹を鳴らして大喜びで宙を舞う。


完璧なお片付けを終えた魔王エターナルは、優雅に満足そうに微笑むと、その全能の姿を、ふっと光の粒子へと霧散させ――。


「――あいたたた! やっぱり最後はお尻を打っちゃうのが私の仕様なんだね……!」


次の瞬間、お約束通り、磨き上げられた綺麗な床の上に、ぺたんと座り込んで涙目でお尻を押さえている、元のライトグレーのパーカー姿の女子高生マリに戻っていた。


「よかったぁ……。コアも、カイザーさんも、綺麗になってすっきりしたね!」


『お見事でした、マスター。フロンティアのメインサーバーにおけるウイルスバグの完全除去を完了。これにより、世界全体のデータ循環が正常化されました』


スマホの中で、ミニの波形が心なしか満足そうに、柔らかく明滅する。


「ありがとう、マリ! ミニ! あんたたち、本当に世界を救っちゃったんだね……!」


ルリが大粒の涙を浮かべ、マリの手を強く握りしめた。


フロンティアを崩壊の危機に陥れていた最悪のウイルスは消え去り、世界コアは正しく美しく循環し始めた。

これで、すべては平和になり、ハッピーエンドを迎えた――はずだった。


――ズズズズズ……ッ!


「え……?」


突然、世界コアの結晶の足元――最深部のさらに奥底から、腹に響くような不穏な地鳴りが巻き起こった。


せっかくピカピカに綺麗になった世界コアの輝きが、チカチカと不規則に明滅し始める。


「な、なに!? まだ何かいるの!?」

ルリが青ざめて周りを見回す。


『警告……! 警告です、マスター!』


ミニの電子音声が、これまで聞いたこともないほどの緊迫感を帯びて跳ね上がった。


『先ほどのカイザー・ノイズは、単なる「末端の実行プログラム」に過ぎませんでした……! カイザー・ノイズがお掃除されたことで、コアの最深部に封印されていた【世界の根本的なバグ】の真のロックが解除されました!』


「真のロック……!?」


ポポちゃんのホバリングがグラリと揺れ、周囲の壁にピキピキと巨大な亀裂が走り出す。


その亀裂の隙間から溢れ出てきたのは、カイザー・ノイズの比ではない、この世界フロンティアそのものが成立した時に生まれたという――漆黒の『原初ノイズ』だった。


そして、その黒い空洞の奥底から、冷ややかで、人間味の全くない「真の支配者」の声が響き渡った。


『……素晴らしい。偏ったデータを調和させ、綺麗に掃除してみせたか。……だが、不完全な人間どもよ。完璧な掃除とは、すべてをゼロ(無)に戻すことだ』


「え……?」


マリが息を呑む前で、世界コアの最深部が底抜けになり、底知れぬ漆黒の領域『真層領域データ・ボイド』への扉が、ゴーッと恐ろしい音を立てて開いていく――!

第29話(第2部第5話)をお読みいただき、本当にありがとうございました!


今回は「相手を壊して倒す」のではなく、排他的な独占欲の塊であるカイザー・ノイズを「解きほぐして綺麗に噛み合わせる(調和・循環させる)」という、マリたちならではのお掃除バトルを描きました。

しかし、悪意のプログラムを退治したことで、世界の裏側に隠されていた「すべてをゼロに戻そうとする真の管理者」の存在が浮き彫りになります!


ついに姿を現した、フロンティアの裏に隠された「真の管理者」。

すべてを調和させるマリたちの「お片付け」に対し、敵が突きつけるのは「すべてを消去する無の掃除」!

崩壊するコアの最深部へと引きずり込まれたマリ、ミニ、ルリ、そしてぽんぽぽ。

手持ちの小銭(八百十円)の知識と絆を胸に、彼女たちは世界の本当の姿と向き合うことになる――!


第30話「無への消去と、小さな八百十円の絆」

次回もどうぞお楽しみに!


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)

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