第28話:錆の砂漠と、電磁の風を突っ切る船
強欲な借金取りハイドを「十円玉のマスター規格」とミニの超精密演算で完全論破し、街の不当な利権をお掃除したマリたち。
しかし、安らぎも束の間、スクラップ・ゲートの防衛砲塔が捉えたのは、フロンティア全体を支える巨大なメインサーバー「中央ジャンクコア」からのSOS信号でした。
今回は、中央ジャンクコアへと向かう道中に広がる広大な「錆の砂漠」を舞台に、磁気嵐とバグモンスターに襲われる行商人たちとの出会い、そして日本の硬貨とジャンク技術を組み合わせた「持続可能な砂上航行イノベーション」をたっぷりと肉付けしてお届けいたします!
「……うう、ルリちゃん。砂漠って、こんなに口の中がジャリジャリするものなのかな……?」
マリはライトグレーのパーカーのフードを深く被り、目だけを出した怪しいスタイルで、ゲホゲホと小さく咳き込んだ。
スクラップ・ゲートの街を後にしたマリ、ルリ、ぽんぽぽの三人と、スマホの中のミニ。
彼女たちが目指すのは、フロンティアの遥か中心に位置し、この未開の世界全体のデータと魔力を管理しているという巨大メインサーバー「中央ジャンクコア」だ。
しかし、その道中に立ちはだかっていたのは、一面に広がるセピアゴールドの荒野――ではなく、赤茶けた金属の粉末と、微細な歯車がまるで砂のように果てしなく続く「錆の砂漠」だった。
一歩足を踏み出すたびに、ズボッと足首まで赤い錆の砂に沈み込む。
しかも、時折り吹き抜ける熱風には、目に見えない強烈な「帯電ノイズ」が含まれており、肌に触れるたびにパチパチと小さな静電気が弾けて痛いほどだった。
「きゅ、きゅーーーっ……」
マリの頭の上で、ぽんぽぽが砂に吹き飛ばされないよう、必死にマリの髪の毛にしがみつきながら小さくなっている。
「ごめんね、マリ。フロンティアの真ん中に行くには、この錆の砂漠を突っ切るしかないの」
ルリは顔に特製の防砂ゴーグルとバンダナを巻き、背中の巨大なジャンク工具バッグをよいしょと担ぎ直した。
その隣では、十円玉を心臓として組み込まれ、見事に蘇った丸型お掃除ロボ「ポポちゃん」が、砂に足を取られることもなく、地上数センチのところをスイスイと快適にホバリングしている。
「いいなぁ、ポポちゃんは足が浮いてて……。私も浮く靴とか欲しいよ……」
『ふむ。マスター、弱音を吐くのはまだ早いですよ。私のスキャンによると、この砂漠の平均気温は上昇傾向にあり、さらに上空のデータ密度(空気抵抗)は通常の三倍です。徒歩での踏破予想時間は【七十二時間】と試算されます』
胸のポケットからスマートフォンが小さく震え、ミニの涼しげな電子音声が響く。
「な、七十二時間!? 三日もこのジャリジャリの中を歩くの!? 手持ちの八百十円じゃ、砂漠の途中でジュース一本買えやしないのに!?」
『ご安心ください、マスター。八百十円の価値を最大限に活用する機会は、案外早く訪れそうです。……前方に、高密度の金属反応と、複数の生体反応。そして……激しいシステム不具合の発生を検知しました』
「えっ? バグ!?」
マリとルリが顔を見合わせ、砂丘の頂さまへと駆け上がった。
ゴーグルのレンズを調整したルリが、砂丘の向こう側を見下ろして息を呑む。
「あれって……フロンティアを巡回してる『大砂漠の行商船団』じゃない!? 大変、何かに襲われて動けなくなってる!」
砂丘の底、すり鉢状になった錆の砂地で、三隻の巨大な木と鉄のパッチワーク船――「砂上航行船」が立ち往生していた。
船の周囲には、赤黒いノイズの火花をバチバチと散らす、体長三メートルを超える巨大なムカデのような機械生命体――【データ・リーチ(電磁蛭)】が十数匹も群がり、船の金属甲板に吸い付いて、動力をガリガリと食い荒らしていたのだ。
「ひぃぃぃっ!? 誰か、誰か助けてくれぇ!」
「船の魔導動力が『帯電ノイズ』でショートした! このままじゃ、船底を食い破られて全員砂漠の露と消えちまうぞ!」
船の上では、商人たちの悲鳴と、用心棒たちの怒号が飛び交っていた。用心棒たちが魔導銃やスパナで攻撃しようとするが、砂漠の強烈な帯電ノイズのせいで武器から火花が散り、まともに機能していない。
「大変! ルリちゃん、助けなきゃ!」
「うん! でも、あの電磁蛭はスクラップの帯電ノイズを食べて巨大化するバグモンスターだよ! 安易に近寄ったら、あたしたちの機械も一瞬で壊されちゃう!」
ルリが焦りを見せる中、マリの胸のポケットでミニの画面が眩いエメラルドグリーンに発光した。
『マスター、分析が完了しました。あの「データ・リーチ」は、錆の砂漠に溜まった不完全な電荷(静電気ゴミ)を吸い上げて肥大化した、典型的な【処理未完了データ】です。物理的な打撃は伝導率の高さから無効化されますが、特定の「均一な周波数」を与えることで、一瞬で電荷を中和・分解できます』
「均一な周波数? ミニ、それって……!」
『ええ。マスターの手元にある「五十円玉」を使用します』
マリはポケットに手を突っ込み、取り出した小銭の中から、真ん中にポッカリと綺麗な丸い穴が開いた「五十円硬貨」をつまみ上げた。
「五十円玉……! これにも何か秘密があるの?」
『五十円硬貨は、白銅(銅七五%、ニッケル二五%)という、地球の極めて高度な精密鍛造技術によって作られた合金です。そして何より、中央に開いた「穴(穴あき硬貨)」という構造は、特定の風圧を通すことで、完璧な一定周期の【超音波共鳴(ヘルムホルツ共鳴)】を発生させる音響規格体なのです』
「穴が開いてるから、綺麗な音が鳴るってこと!?」
『その通りです。ポポちゃんの送風ファンにこの五十円玉をセットし、帯電ノイズを逆位相の音波で打ち消す【超音波アース・ソニック】を発射します』
「すごい! やってみよう、ルリちゃん!」
「うんっ! ポポちゃん、ファン出力最大! マリ、コインをセットして!」
「ポポーッ!」
ポポちゃんが甲高い声を上げ、頭部の強力な吸引・排気ファンを高速回転させ始めた。マリはそのファンの中心部にある空気孔へ、五十円玉をカチッと押し込む。
キィィィィィィン――……!!!
五十円玉の穴を吹き抜ける熱風が、まるでフルートの最高音のような、この世のものとは思えないほど澄み切った「美しく均一な共鳴音」を砂漠に響かせた。
そのエメラルドグリーンの音波が波紋となって広がり、商人たちの船に群がっていた「データ・リーチ」たちに直撃した瞬間――。
バチバチバチッ! ドカーン!
「ギイャァァァァッ!?」
電磁蛭たちの体内に溜まっていた不吉な赤黒い帯電ノイズが、五十円玉の完璧な共鳴音に触れた瞬間、一瞬で過剰電圧を起こして中和され、綺麗な青い火花となってはじけ飛んだ。
動力を吸い尽くそうとしていた巨大な機械ムカデたちは、まるで電池が切れたおもちゃのようにガラガラと崩れ落ち、ただの動かない金属パーツへと還元されていったのだ。
「え……? 怪物たちが、音だけで全滅した……!?」
「何だ!? 一体何が起きたんだ!?」
呆然とする商人たちと用心棒たちの前に、マリ、ルリ、そしてぽんぽぽが、颯爽と砂丘を駆け下りてやってきた。
「みんな、大丈夫!? 怪我はない!?」
マリが声をかけると、一番豪華な錦の服を着た、肥満体の商人――砂漠の大商隊長「ゴルド」が、目を丸くして駆け寄ってきた。
「あ、あなた方は一体……!? ギルドの特級技師でも手も足も出なかった電磁蛭を、一瞬で退治してしまうなんて……!」
「あはは、私はただのお掃除が大好きな女の子だよ! こっちはお友達のルリちゃんと、お掃除ロボのポポちゃん!」
「きゅーーーっ!」
ぽんぽぽが、得意気に胸を叩く。
「助かりました、本当にありがとうございます!……ですが、はぁ、助かったとはいえ、我々の航海はここまでです……」
ゴルド商隊長は、ガックリと肩を落として巨大な砂上船を見上げた。
「船の魔導エンジンが帯電ノイズで焼き切れ、メインのスクリュー(砂推進器)に錆の砂が詰まって完全に固着してしまいました。この砂漠の真ん中で船が動かないとなれば、干からびるのを待つしかありません……」
見れば、三隻の砂上船のスクリューは、赤錆びた砂と焦げ付いた魔力タールでギトギトに固まり、ピクリとも動かなくなっていた。
「ううん、諦めるのはまだ早いよ!」
ルリがゴーグルをくいっと上げ、職人の顔になった。
「エンジンが焼き切れたなら、砂漠の帯電ノイズを逆に『動力』に変換すればいいんだよ! パパのノートに、昔そんなアイディアが書いてあった!」
「帯電ノイズを動力に!? そんな無茶な! 静電気は機器を狂わせるゴミ(ノイズ)であって、エネルギーには変換できませんよ!」
ゴルドが信じられないといった様子で手を振る。
『いいえ、可能です』
マリの胸ポケットから、ミニのクリアな音声が響き渡った。
『先ほどポポちゃんで証明した通り、この砂漠の静電気ノイズは「整流」されていないだけの、極めて純度の高い不飽和エネルギーです。マスター、先ほどの「五十円玉」に加えて、ポケットの中の「百円玉」を四枚、ご提示ください』
「えっ? 百円玉? 今度は百円玉を使うの?」
マリがポケットから日本の百円硬貨を四枚取り出す。
『百円硬貨は、白銅(銅七五%、ニッケル二五%)で構成され、側面には精密な【五十本のギザ(ギザ十・ギザ百規格)】が刻まれています。この微細なギザギザは、砂漠の静電気を規則正しく集電する「マイクロ集電タービン」として最高峰の構造を持っています』
「百円玉の横のギザギザが、電気を集める風車になるってこと!?」
『その通りです。ルリのジャンク技術で、固着したスクリューの軸に百円硬貨を四方向からセットし、五十円玉の共鳴フィルターを組み合わせることで、砂漠のノイズを『永久的な砂上推進力』へと変換する【超磁気還流エンジン】を構築します』
「すごすぎるよ、ミニ! ルリちゃん、やろう!」
「うんっ! あたしに任せて!」
ルリは工具バッグから手際よくハンダごてとスパナを取り出すと、固着した船のスクリューへと飛び乗った。
ミニがホログラムで投影する超精密な回路図に従い、錆びついたギアの隙間に、マリから受け取った百円玉を四枚、放射状に組み込んでいく。さらに、その中心軸へ五十円玉の共鳴コアを接続!
「配線完了! ポポちゃん、始動パルスを入れて!」
「ポポーッ!」
ポポちゃんが十円玉のコアから綺麗なエメラルドグリーンの光を注ぎ込むと、スクリュー全体がキィィィン……!と心地よい高音を鳴らし始めた。
すると、どうだろう。
砂漠を吹き抜けていた鬱陶しい熱風と帯電ノイズが、吸い寄せられるように船底の百円玉のギザギザ(集電タービン)へと収束し、エメラルドグリーンの清らかなエネルギーへと変換されていく!
ガガガガ……ガコン!
固着していた巨大な金属スクリューが、一気の逆回転を始めたかと思うと、まるで生き物のように滑らかに、高速で回転し始めたのだ!
「な……なにぃぃぃぁぁぁっ!?」
ゴルド商隊長と商人たちが、目玉が飛び出さんばかりに驚愕した。
「動いた……!? 焼き切れたはずのエンジンが動いたぞ! それどころか、砂漠の嵐を吸い込んで、前より何倍も速く回転している!?」
「あはは! 大成功だね、ルリちゃん!」
マリが親指を立てて笑う。
日本の百円玉のギザギザと、五十円玉の穴あき共鳴構造。地球の誇る高度な工業規格が、捨てられたガラクタと砂漠のバグノイズを、完全な「持続可能なクリーンエネルギー」へとイノベーションしてみせたのだ!
「す、素晴らしすぎる……! 厄介者だった砂漠の帯電ノイズが、まさか船を動かす無限の燃料になるなんて……! これなら、中央ジャンクコアまでの航海どころか、フロンティア中の流通が劇的に変わってしまう!」
ゴルド商隊長は興奮のあまり震えながら、マリの手を握りしめた。
「久遠様! ぜひ、我が商隊のフラッグシップ(旗艦)に乗っていってください! 中央ジャンクコアの麓まで、最優先で最高速でお送りいたします! もちろん、お礼として商隊の全食料と、最高の客室をご提供いたしますぞ!」
「えっ、本当!? ご飯食べていいの!?」
マリの目が一瞬で輝いた。
「きゅーーーっ!」
ぽんぽぽもお腹を鳴らして大喜びだ。
こうして、マリの手持ちの小銭(五十円玉一枚、百円玉四枚)によって生み出された「超磁気還流船」は、錆の砂漠の赤い砂煙を豪快に巻き上げながら、中央ジャンクコアを目指して爆走を開始した。
船の上で、温かい肉スープとふかふかのパンをお腹いっぱい食べたマリは、大満足で満面の笑みを浮かべていた。
「う〜ん、お腹いっぱい! やっぱりお掃除の後のご飯は最高だね!」
『マスター、今回のイノベーションにより、手持ちの「四百五十円分」の価値が、商隊の食料供給および高速移動手段(推定価値・数十万ジャンク)へと変換されました。極めて効率的な資産運用です』
スマホの中で、ミニの波形が満足そうに明滅する。
「えへへ、八百十円でも、知恵と工夫があればなんだってできちゃうね!」
ルリもスープを飲みながら、甲板から流れていく錆の砂漠の景色を眺めて微笑んだ。
「マリとミニと一緒にいると、今までゴミだと思って諦めてたものが、全部宝物に見えてくるよ。……パパに見せてあげたかったな」
「ううん、ルリちゃん。ルリちゃんの腕があったからできたんだよ! ルリちゃんは最高のジャンク職人さんだよ!」
「マリ……えへへ、ありがとう!」
二人が絆を深め合う中、砂上船は猛スピードで砂漠を突き進んでいく。
だが、その進行方向の地平線――中央ジャンクコアが聳え立つ中心領域の空は、漆黒の雷雲と、赤黒い巨大なノイズの壁によって、重重しく閉ざされようとしていた。
『警告です、マスター。中央ジャンクコアの周辺領域に到達しました。……状況は予想以上に深刻です』
ミニのナビゲーション音声から、冗談めかした雰囲気が消え、引き締まった緊張感が走る。
『コアを管理するメインサーバーが、外部からの不正アクセス(最悪のウイルスバグ)によって乗っ取られ、世界外縁部全体のデータ崩壊が始まろうとしています』
「メインサーバーが乗っ取られた……!?」
マリはスープの皿を置き、遠くに見える漆黒のノイズの塔を見つめた。
手持ちの八百十円と、仲間たちの知恵。
フロンティアの命運を賭けた「中央ジャンクコア」での大掃除が、いよいよ迫ろうとしていた――。
第28話(第2部第4話)をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は、日本の「五十円玉(穴あき超音波共鳴)」と「百円玉(ギザギザマイクロ集電タービン)」という、お馴染みの身近な硬貨の工業規格特性を駆使し、砂漠の害虫バグ退治と壊れた船のクリーンエネルギー化を鮮やかに解決するカタルシスを描きました。
小難しい知識を使わず、「小銭のギザギザと穴が、砂漠のノイズを無限の燃料に変える!」という、なろう読者が直感的に最高にワクワクできるエンタメ展開として肉付けしております。
次回・第29話からは、いよいよフロンティアの心臓部「中央ジャンクコア」へ突入!
世界の外縁部を崩壊させようとする最悪のシステムウイルスとの、マリとミニ、そして仲間たちの真のお片付けバトルが幕を開けます!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




