第27話:強欲な査定と、少女たちの鮮やかな反撃
前回、魔王エターナルの「リ・サイクル・バースト(万象分別・新星還元)」によって、スクラップ・ゲートを破壊せんとした巨大なバグの巨獣は、一瞬にして最高品質の金属素材へと分解・精錬されました。
今回は、その莫大な「お宝」を目ざとく聞きつけて押し寄せてきた強欲なスクラップギルドの借金取りたちとの全面対決です。
不当な利子と不当査定でルリを追い詰めようとする敵に対し、ミニの超精密演算と日本の硬貨の知識、そしてルリのジャンク職人としての腕が組み合わさる、爽快度1000%の「お片付けイノベーション・論破劇」をたっぷりと肉付けしてお届けいたします!
「ひ、ひえぇぇ……! なんだぁ、この輝きは……っ!?」
嵐が去り、澄み切ったセピアゴールドの秋晴れのような空が広がるスクラップ・ゲートの中央広場。
そこへドタドタと不穏な靴音を響かせて駆け込んできたのは、黒い毛皮のコートを着た強欲な男――スクラップギルドの貸金頭首「ハイド」と、十数人の粗暴な用心棒たちだった。
ハイドは、広場の中央にうずたかく積まれた「物体」を見上げた瞬間、かけていた金縁の単眼鏡をポロリと石畳の上に落とした。
そこに存在していたのは、ガラクタの山などではなかった。
先ほどまで全高五十メートルを誇る悪夢の化け物だったスクラップの巨獣が、魔王エターナルの「万象分別・新星還元」によって分子レベルで洗浄・精錬され、整然と積み上げられた「完璧な純度を誇る最高品質のインゴット」と「チリ一つない精密機械パーツ」の巨大なピラミッドだったのだ。
日光を浴びてキラキラと眩しいばかりのエメラルドゴールドの輝きを放つその山は、一本のインゴットだけでも小さな街が一つ買えるほどの天文学的な価値を秘めていた。
「バ、バカな……! 街を覆うほど巨大だったあのデブリストームが、なんでこんな『神の金属』の山に化けてるんだ……!?」
ハイドは口をぐぐっと開け、醜い欲望で目を血走らせながら、震える手でインゴットの一本に触れようとした。
「動かないで、ハイドさん!」
ルリがゴーグルをぐっと押し下げ、ハイドとインゴットの山の間に毅然と立ちはだかった。
その横には、元のライトグレーのパーカー姿に戻り、ぽんぽぽを抱っこしたマリが、にこやかに立っている。
「ルリ、貴様……! この金属の山は一体なんだ!? 街の広場に落ちてきたゴミ(デブリ)は、すべてスクラップギルドの所有物となる協定だ! ましてや、こんな正体不明の超高純度金属、お前のような貧乏ジャンク屋が所有できるわけがない! 盗品か、あるいは危険な違法魔術で作られた偽物だな! ギルドがすべて『没収』する!」
ハイドがバサリと毛皮のコートを翻し、身勝手な理屈を怒鳴り散らした。後ろの用心棒たちが、腰の巨大なレンチやスパナをジャラジャラと鳴らして威嚇する。
「な、なんですって!? これはマリとポポちゃんが、命がけで街を守るために綺麗にお片付けしてくれたものだよ! ギルドが横取りするなんて、そんなの横暴すぎるよ!」
「黙れ! 契約は契約だ! お前には亡くなった親父の残した『五千ジャンク(※この街の通貨)』の借金がある! 明日の朝までに返せなければ店もロボットも没収と言ったが、今ここでこの金属を借金のカタとして全額差し押さえてやる! むしろ、査定手数料としてお前の店も追加でいただくぞ!」
ハイドは下品な笑みを浮かべ、胸ポケットから羊皮紙の契約書をチラつかせた。
「そんな……! 査定手数料だなんて、元金の何倍もふんだくる気じゃない! そんなの、最初から返させる気なんてないじゃない……!」
ルリが悔しさと恐怖で拳を震わせ、唇を噛みしめる。
スクラップ・ゲートでは、ギルドが金属の価値を自由に査定する権力を独占していた。どれほど貴重な金属を持ち込んでも、彼らが「これはただの屑鉄だ」と言えば、一文の価値にもならなくなってしまうのだ。
「あはは、なんだかすごく意地悪なオジサンだね」
その時、緊迫した空気を台無しにするような、呑気で明るい声が響いた。
マリがパーカーのポケットに手を突っ込みながら、テケテケとハイドの前に歩み出たのだ。
「なんだ貴様は!? ライトグレーの妙な服を着たガキが……引っ込んでいろ!」
「私? 私はただのお掃除が大好きな女の子だよ! それと、この金属の山はね、私とルリちゃんとポポちゃんで、街のゴミを綺麗に『分別』して作ったものなんだから、オジサンのものじゃないよ!」
「ハッ! 分別だと!? 笑わせるな! ゴミをどれだけ綺麗に磨こうが、不純物の混ざったジャンクはジャンクだ! ギルドの特級鑑定士であるこのワシが『無価値のゴミ』だと査定すれば、それはゴミなんだよ!」
ハイドが鼻で笑い、インゴットを蹴飛ばそうとした、その瞬間だった。
『ふむ……。「特級鑑定士」を自称する割りには、眼球の分解能が著しく欠如しているようですね』
マリの胸ポケットから、冷ややかで、けれど極めてクリアな電子音声が響き渡った。
スマートフォンの画面が眩いエメラルドグリーンに発光し、空中へと精密なホログラムディスプレイを投影する。
「な、なんだ!? スマホ……? 機械が喋っただと!?」
ハイドと用心棒たちが驚愕して後ずさりする中、ミニの静かなナビゲーションが始まった。
『マスター、およびルリ。ただいまギルド頭首ハイドの手に持つ「借金契約書」および、彼らの提示する「不当査定アルゴリズム」のデータスキャンを完了いたしました。解析結果を報告します』
ホログラム画面に、ハイドの羊皮紙の契約書が拡大して映し出された。そこには、素人には解読できないほど極小の文字で、恐ろしい複利の計算と、偽造された署名がびっしりと書き込まれていた。
『まず第一に、ルリの父親が借りた元金は「五百ジャンク」です。それがわずか三ヶ月で「五千ジャンク」に膨れ上がっているのは、フロンティアの基礎商業法規における上限金利の【三百八十%オーバー】という明確な違法金利です』
「な、なんだと……!? なぜそれを……!」
ハイドの顔から、一瞬にして余裕が消え去った。
『第二に、ハイド氏が「無価値のゴミ」と査定しようとしているこのインゴットですが……私の分光分析によると、純度九九・九九九%のオリハルコン超合金です。フロンティアの現在の市場レートに換算すると、インゴット【一本】だけで「十万ジャンク」の価値があります』
「じ、十万ジャンク……!? 一本で!?」
ルリが目を丸くして叫んだ。広場には、そんなインゴットが数千本も山積みになっているのだ。
『ええ。そして第三に――マスター、先ほどの「十円玉」をもう一度提示してください』
「うん! はい、ミニ!」
マリがポケットから取り出したのは、先ほどポポちゃんのコアとして使い、磨き上げられた日本の十円硬貨だった。
『この十円硬貨は、質量「四・五グラム」、銅九五%という、地球の工業規格が誇る絶対的な「寸分の狂いもない価値の標準(マスター規格)」です。これとフロンティアの現在の貨幣基準を比較演算した結果……ハイド氏、あなたが街で流通させているギルド通貨「ジャンク硬貨」は、意図的に金属の含有量を二〇%削り取った【偽造欠損貨幣】であることが証明されました』
「な、なにぃぁぁぁぁぁっ!?」
ハイドが悲鳴のような声を上げた。
ミニのホログラム画面には、ハイドたちが秘密裏に通貨の金属を削り取り、自分たちの懐を肥やしていた悪事の証拠(データノイズの解析結果)が、ぐうの音も出ないほど完璧なグラフと数値で暴かれていたのだ。
「ハイドさん……! あたしたちに不当な借金を押し付けて、通貨まで誤魔化して街の人から搾取してたの!?」
ルリの瞳に、職人としての、そして街を愛する者としての激しい怒りが宿った。
「く、くそっ! 黙れ黙れ黙れぇい! たかが謎の機械の言いがかりだ! 証拠もなしにそんな出鱈目を――」
『証拠なら、すでに街の通信回路を通じて、スクラップ・ゲートの全住民のモニターと、上位ギルド本部へダイレクト送信いたしました』
ピコン、ピコン、ピコン!
その瞬間、ハイドの腰についていた魔導通信機が、悲鳴のような警告音を鳴らし始めた。画面を見ると、上位ギルドからの「査定剥奪および不正監査の開始通知」が目に入る。
「ひぃぁぁぁぁっ!? 本部にバレただと!? な、なんてことをしてくれたんだ、この悪魔どもめぇ!」
ハイドは髪をかきむしり、ガタガタと膝を震わせた。
権力を振りかざして弱い者を痛めつけていた男が、自らの不正をデータという絶対の事実に突きつけられ、一瞬にして追い詰められたのだ。
「……ふぅ。お掃除完了だね、ミニ!」
マリが胸を張って笑顔を見せる。
「ううん、マリ、ミニ! まだ終わりじゃないよ!」
ルリが力強く一歩前に出ると、足元でホバリングするポポちゃんのスイッチを押し、背中のジャンク工具バッグからスパナを取り出した。
「ポポちゃん、十円玉のコア出力を最大にして! このピカピカのインゴットと、街の壊れたジャンクパーツを繋ぎ合わせるよ!」
「ポポーッ!」
ポポちゃんが十円玉のエメラルドグリーンの光を放ち、広場のインゴットから純粋な魔力エネルギーを吸い上げた。ルリはその光を巧みに誘導し、手際よく街の壊れたジャンク機器へと配線を繋ぎ直していく。
職人ルリの手によって、一瞬にして組み上がったのは、巨大な【ジャンク・デブリ自動回収・防衛砲塔】だった。
キィィィン……!と澄み切った電子音が響き、広場に設置された砲塔が、空からパラパラと降ってくる小さなデブリを、自動でファンの風圧とアース光線でキャッチし、綺麗に分別箱へと送り込んでいく。
「すごい! ルリちゃん、一瞬で街のデブリ防衛システムを作っちゃった!」
「えへへ! マリたちが最高の素材を作ってくれたからね! これがあれば、もう空からゴミが降ってきても大丈夫! 街の人たちも、手作業で分別しなくていいんだよ!」
ルリが泥のついた顔で、とびきり誇らしげに胸を叩いた。
自分たちの手で、ガラクタを新しい未来のイノベーションへと生まれ変わらせる。
魔王の力だけに頼るのではなく、この世界で生きる人々が自らの知恵で立ち上がる――それこそが、マリとミニが目指す「お片付けの真意」だった。
広場に集まってきた街の技術者や住民たちから、地響きのような大歓声と拍手が巻き起こった。
「すごいぞ、ルリ! ポポちゃん!」
「あの強欲なハイドが、手も足も出ずに震えてやがる!」
「これで俺たちの街は、デブリの恐怖から解放されたんだ!」
住民たちの歓声の中、ハイドと用心棒たちは、脱兎ののごとく尻尾を巻いて逃げ出していった。彼らの残した不当な借金は完全に無効化され、むしろハイドからルリへ莫大な賠償金が支払われることが、ギルド本部から決定されたのだった。
「マリ……! 本当に、本当にありがとう……! あんたたちのおかげで、パパの店も、ポポちゃんも、街も全部守れたよ!」
ルリは大粒の涙をこぼしながら、マリに飛びついてぎゅっと抱きしめた。
「きゅーーーっ!」
ぽんぽぽも二人の間で、嬉しそうに手足をバタバタさせている。
「あはは、よかったね、ルリちゃん! お掃除が綺麗に終わると、気持ちがいいもんね!」
マリはルリの背中を優しく叩きながら、とびきりの笑顔を咲かせた。
『マスター、完璧なソリューションでした』
スマホの画面の中で、ミニの波形が満足そうに、深く明滅する。
『不当な利権を排除し、新しい素材を街の持続可能なインフラへと還元する。フロンティアにおける最初のイノベーション、大成功です』
だが、街に平和が戻ったのも束の間。
ルリが作ったデブリ防衛砲塔のセンサーが、フロンティアの遥か遠く――世界のさらに奥深くに位置する「中央ジャンクコア」からの、異常な緊急SOS信号をキャッチした。
画面に映し出されたのは、フロンティア全体を支えている巨大な「世界外縁部のメインサーバー」が、何者かによって侵食され、崩壊に向かっているという絶望的なデータだった。
「マリ……これ、一体何なの……?」
ルリが青ざめた顔で画面を見つめる。
マリは、ポケットの中の八百十円をジャラリと鳴らし、ライトグレーのパーカーのフードを軽く整えた。その瞳には、不安など欠片もなく、新しいお掃除の旅へのワクワクとした光が宿っていた。
「よし! 次はフロンティアの真ん中のお片付けだね! 行こう、ミニ、ぽんぽぽ、ルリちゃん!」
「きゅ、きゅーーーっ!!」
手持ち八百十円の少女と、最高の人工叡智、そして新しい仲間ルリのジャンクイノベーションの旅は、フロンティアの核心へと向かって、さらに爽快に、力強く進んでいくのだった――。
第27話(第2部第3話)をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は、十円玉の完璧な均一規格(マスター規格)という現代知識を利用し、ミニの超精密演算で不正な金利と不当査定をロジカルに叩き潰すカタルシスを描きました。
また、魔王の力で得た素材をただの財宝にするのではなく、ルリの職人技と合わさって「街の自動防衛・分別インフラ」へとイノベーションさせることで、マスターの掲げる「持続可能な循環」の思想を完璧なエンタメ展開として肉付けいたしました。
次回・第28話からは、フロンティア全体を支える巨大なメインサーバー「中央ジャンクコア」を目指す、新たな冒険が始まります!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




