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第6話「白い部屋」

 彼はまた夢を見た。今度は見覚えのある場所にいた。

 あの”初めに目覚めた時にいた”真っ白な部屋だ。

 遠くから音が聞こえてくるのに気付いた。

 ドン!ドン!ドン!と壁を叩くような音だ。

 気になって部屋から出た。

 すると音が大きくなった。音は下の階から聞こえてきている。

 彼は下の階に下りて、扉の前に立った。

 あのカプセルが並んでいる部屋の扉だった。

 音はこの扉の向こうから聞こえてきていた。

 嫌な予感がしたが、彼はゆっくりと扉をあけた。

 ドン!ドン!ドン!

 音が大音量になった。彼は手で耳を塞ぐ。そして、それを見た。

 それぞれのカプセルが暴れるように揺れ動いている光景だった。

 この状況がなにを意味するのかを彼は瞬時に理解した。

 ”カプセルの中に入っている者”が内側から暴れているのだ。

 次の瞬間、プシュー!と音を立てカプセルの後ろから煙があがり、フタが前方に跳ね上がった。

 開いたフタから、どす黒い粘土状のものが勢いよく流れ出て、そのドロが彼の顔や体にかかった。


「あああああーーーーー!!!!」


 彼は叫んだ。





 目を覚ますといつもの寮の部屋だった。


「おい大丈夫か?えらいうなされてたみたいやけど?」


 少年がとなりから声をかけてきた。

 彼はまだなにが起こっているのかわからなくて、ぼんやりと天井を見た。


「おーい、大丈夫かー?」


 少年が手のひらを彼の顔の前で振った。男の子も心配そうに彼を見た。


「今、真夜中?」


 ようやく彼が口を開いた。口の中がカラカラだった。


「いや。まだ夕方や」


「そう……。僕、そんなにうなされてた?」


「うん」


「どんな風にうなされてた?」


「ぶっちゃけ、今日は最後は、ああああーー!って叫んでたな」


「………」


「おれ嘘ついてないで。な?」


 少年が男の子に同意を求めた。男の子は無言でうんとうなずく。


「今日は…ってことは、他の日もうなされてるの?」


「せやな。毎日じゃないけど、よくうなされてるな。こないだは、お前を殺す!って寝言まで言うてたで」


「……」


「相当ストレスたまってんのちゃう?誰かむかつく奴おるんか?番長か?警備員か?あー、それとも生徒会長か?」


「そんなんじゃないよ…、自分でもよくわからないんだ」


「ちなみに、どんな夢みてたんや?」


 彼は少し考え込んで、「…あの白い部屋にいた」と言った。


「あの白い部屋…って、あの?」


「そう。僕らが目覚めた場所」


「あー、よくまだそんなの覚えてたな。おれはもう忘れてたわ」


 彼は呆れた目で少年の方を見た。


「で、その白い部屋でなにがあったんや?」


「…なにがっていうか、夢の中で目覚めたら白い部屋に立っていて、なにか変な音が聞こえてくるから下の階に行ってみたら、あのカプセルみたいなのがいっぱい置いてあった部屋。そのカプセルが震えながらドンドンと音を鳴らしていて、中のものが飛び出した」


「あの変な奴らが?」


「違う。血のような泥と、骨が飛び出した」


「げ!!!」


 少年が絶句した。


「そして、叫んだところで目が覚めた」


「なるほど…。まぁ夢の話やしな」


「…本当にそうかな。もう一度、あの白い部屋に戻ってみた方がいいのかもしれない」


「な、なんでそうなるねん!」


「ずっと思っていたけど、あんな白い部屋で目覚めたのはこの学園でも僕らだけみたいじゃない。きっと、あの場所にはなにか、僕らの謎を解くカギがあるような気がする」


「別に、大したものなんてなんもなかったぞ」


 少年は妙に焦っている。


「さっきの夢で思い出したけど、あの白い部屋の窓の外。あれは宇宙だった」


「!!??」


「そうだよ。僕らは宇宙で目覚めたんだよ。そして不時着した…」


「俺らは宇宙人ってことか?」


 彼は首を振る。


「わからない…」


「ここはやっぱり巨人族の星で、俺たちは囚われの身だったんだな」


「わからない…」


「つまり、おれたちは地上の星…」


「…なに、意味不明なことを言ってるんだよ…」


「わからない、わからないばかり言うからじゃないか」


「それだよ。わからないから、もう一度戻ってみるべきだと言ってるんだ」


「……」


「それしかない…」


「…でも、どうやってこの学園から出るんや?先生に言うんか?」


「それは…」


 おそらく、先生は駄目と言うだろうなと彼は思った。


「先生はここは安全やから大丈夫やって言ってたやんか。仮におれたちは囚われの身やとしても、外はもっと危ないのかもしれない。なんか、あの森は…あんまりええ雰囲気やなかった」


「怖いの?」


「こ、怖かないわ!」


 彼はあの森を思いだした。たしかに不気味な場所だった。

 すると突然、寮の扉がドンドンドン!と叩かれ、三人は飛び上がって驚いた。


「あのー、僕なんですけどー」


 モジャモジャの声だった。

 三人は顔を見合わせ、そして彼が扉を開けた。


「あ!皆さん、もしかしてもう寝てました?」


「いや、寝てないよ。どうしたの?」


「寝てたやんけ」


 少年が小さい声で言った。


「今、ちょっと小耳に挟んだことがあって、皆さんにも早く伝えようと思ったんです。なんか、今度この学園で”学園祭”が開かれるそうなんです!」


 モジャモジャが嬉しそうな顔をして言った。


「学園祭!?」


「そうです!なんか、この学園にとって大切な日があるそうで、催し物をするみたいなんです」


「おお!なんかおもしろそうやな!」


 少年が食いついた。


「で、いつや?その学園祭は?」


「まだ詳しいことはわからないんですが…」


「学園祭…」


 彼がつぶやく。


「興味ないですか?」


「なんか、こいつ最近辛気臭いねん」


 少年が彼を指さした。


「いや、そういうわけじゃないんだけどね。…モジャモジャ情報をありがとう」


「いえいえ。でもずっと勉強やトレーニングばっかりだったからなんだか楽しみですよね」


「おう!盛り上がってきたな!」


 少年とモジャモジャは盛り上がっている。

 ふと彼は、もしかしたら学園祭の最中なら、どさくさに紛れて外に出れるのではないかと思った。



 翌日、先生から学園祭についての説明があった。

 この学園をかつて作り、そして関わってきたすべての人々。それらの人のことを思い、集い合い、祈る日だという。


「どこが学園祭やねん」


 少年が悪態ついてつまらなそうにした。彼には、少年がどのような学園祭をイメージしていたのかわからなかったが、たしかにそれは学園祭と呼ぶべきものなのか、彼にも判断しかねた。催しは夜に行われるという。


「夜は神聖な時間帯です。いつもは皆さんには門限通りに寮で休んでもらっていますが、この一年に一度の特別な日だけは、夜通し宴をひらき楽しみましょう。もちろん前後の日は、授業とトレーニングはお休みします」


 先生がそう言うと、生徒の間から歓声があがった。

 学園祭が行われるのは夜…。

 ますます彼は、その間なら学園を抜け出せるのではないかと考えた。

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