第7話「計画」
彼は迷った挙句、あの白い部屋があった場所に行こうとしていることをモジャモジャに打ち明けた。
学園祭の合間に抜け出すというのが彼の”計画”だったが、そのためには助けが必要だったし、ここで初めて話を交わしたモジャモジャには話しておきたかった。
「まさか皆さんが、そんな不思議なところから来ていたとは思いませんでした。僕は…なんの変哲もないところだったような気がします。謎の白い部屋にカプセル。絶対なにかありそうですよね!僕も協力しますよ!なにかわかったら教えてください」
彼は「ありがとう」と本心で言った。
「ほんまに行く気かいな。しかし、なんか作戦でもあるんか?」
少年がやる気なさげに訊いてきた。
「作戦は…。ないけど」
「ないんかい!もし外に勝手に出たことがバレたら、殺されるかもしれんぞ」
「大袈裟な。さすがにそれはないでしょ…」
「なんでそんなにのんきやねん。あの大男に見つかって捕まったら…、たぶん、あいつらは一度は殺っとる顔や」
「………」
彼はまさか少年からのんきと言われるとは思っていなかったが、たしかに無謀なことをしようとしていることは否定できなかった。しかし、いくらなんでも殺されるっていうのは言い過ぎだろう。
「学園祭が、当日どんな催しがあるのかハッキリとわからないけど、先生らも参加するんだろう?学園祭は夜に行うって言ってたから、暗いところをどさくさに紛れてこっそりと抜け出す計画だよ」
「それ、計画って言うんか」
少年が頭を抱えた。
その時だった。ふと背後に気配を感じ、彼は振り返った。
「あっ…」
そこには警備員が立っていた。
真っ先に思ったのは、”話をどこまで聞かれた”のだろうかということだった。
先生にチクられたらもう終わりだ。あの白い部屋には行けないし、少年が言うようにもしかしたら殺されるのかもしれない。
「あの…、なにか用ですか?」
彼は恐る恐る尋ねた。警備員は眉間にしわをよせて彼を見るだけで動かない。
「あのー…」
彼が再度伺うと、
「…話は全部聞かせてもらった。われもその話に乗ろう。手伝うぞ」
「えっ?」
全員が警備員の方を見た。
「われは視力と聴力は良いのだ。おぬしらの話は全部聞いた。われも手伝う。駄目か?」
「え、まぁ…、もちろん手伝ってくれると助かるけど」
彼はとまどいながら、皆を見た。
「おい、ほんまにこのおっさん大丈夫なのかよ」
少年が彼に耳打ちする。
「しっ!聞こえるよ」
「あっ」
と少年が口を押えた。
「われはおっさんではない。われは…」
「あっ、ありがとうございます!協力してもらえるととても助かります!」
彼がそう言って手を差し伸べた。
警備員は少し考えるようにしたが、手を出し握手をした。
「おぬしたちの話、とても興味深い。われは初めておぬしたちを見た時から、どこか他の生徒とは違うと思っていた。なんと言っていいのかわからないが、おぬしたちはこの地の者ではないような…」
「え!?」
驚きの声をあげたのは彼だった。
「すまん。言い方が悪かった。おぬしらは、どこか…垢抜けているというか、そんな気がしたのだ」
「そうですか…、記憶があって僕たちのことを知っているのかと思いました」
「われにも記憶はない。自分のことすらわからない。われには、大切な役目があったはずなのだが…どうしても思い出せない。しかし、おぬしらの姿を見た時、なにか記憶が呼びさまされそうな気がしたのだ」
「僕たちを見て?」
「そうだ。おぬしたちが何者かとわかれば、われの謎も解けるかもしれん」
「なるほど…。でも僕たちにはまだちゃんとした計画もなくて」
「うむ。たしかに簡単ではないであろう。おぬしらは知らないかもしれないが、真夜中でもあの学園の入口あたりには大男が立っている」
「マジかよ」
少年が顔をしかめた。
「われは一度、どうしても寝れない夜があって、巡回している小人の目を盗んで一度、あの入口のところに行ってみたことがある」
「割と無茶なことするんやな」
少年が嬉しそうな顔をした。
「その時も、あの二人はいつもと同じようにあの場所に立っていた」
「あいつらは寝やへんのか?」
「われの知る限りでは…。ただ、二人とも入口には立っていたが、昼と少し様子は違ったような気もする。目は開いていたが、もしかしたら、そのまま寝ていたかもしれない」
「化けものやないか!」
少年が身震いした。
「夜になると少し活動が鈍るのかもしれない。もちろん、これはわれの推測に過ぎんが…」
「あ!そうだ!」
モジャモジャがいきなり大きな声で叫んだので、全員ビクッとした。
「なんやねんおまえ、ビックリさせるなよ」
少年が胸をなでおろした。
「すみません。急にひらめいたんです!あのベルを鳴らしてみるというのはどうでしょう?」
「あのベル?」
彼が首をかしげた。
「そうです。あのいつも授業が始まる時に鳴るベルです。あれは小人が鳴らしているらしいんですが、あれを学園祭の最中にならせば、みんな注目してその隙に…」
「たしかに、あのベルが夜中になったらみんなビックリするやろうな…」
少年が腕を組んだ。
そして一同黙り込む。モジャモジャはもじもじしながら様子を伺った。
「いいだろう。われがベルを鳴らそう」
警備員が言った。
「あのベルには先生たちも従っておられる。もし、夜中になれば驚かれるであろう。もちろん、なにも起こらないかも知れないが…」
「やらんよりマシかというレベルか」
少年が手を顎に添えて考えるそぶりをした。
「僕も手伝いますよ!ベルが鳴ったら騒いでみます。先生らの注意をひきつけて、隙が出来たら…」
モジャモジャが手を上げた。
「そんなことしたら、おまえがどうなるかわからんで」
「大丈夫ですって、僕はみんなに賭けます。ぜひ、その白い部屋のところまで行って謎を解いてください」
「ありがとう」
彼はまた本心で言った。
「しゃあないな。もうこうなったら行くしかないやんけ」
少年がちょっとめんどくさそうに言うと、モジャモジャが笑ったので、少年もまんざらではなさそうににやけた。
その後、どのタイミングでベルをならすのかとか、彼らがどこに待機しとくのなど細かいことを相談した。
最後はみんなで円陣を組んで手を合わせ誓いあった。これは五人だけの秘密だった。
唯一、校庭の隅で本を読んでいた生徒会長が、彼らの様子を見て、なんだろう?と首をかしげた。しかし、すぐに目線を戻し本を読むのを再開した。




