第2話「到達」
崩れ落ちる校舎から一瞬、爆発するように炎が燃え上がり、火の粉が空へと舞った。
その中から飛び出したものがいた。
その異様な三面六臂のシルエット。
三つの顔と六本の手。彼、少年、男の子。
アシュラの真ん中の両手には、大きなつるぎが握られていた。
刀身には「陰」と「陽」の文字が刻まれている。校舎が崩れ落ちる直前、溶けて消えてしまった先生の足元から現れたつるぎだった。
「そのつるぎを持っていきなさい。さすがにあなたたちとはいえ、丸腰で宇宙獣に挑むのは厳しいでしょう。武運を祈ります…」
どこからともなく、あの先生の声が聞こえて言ったのだ。
アシュラは、今やそのすべてを理解していた。
器としての記憶と、鬼神アシュラとしての記憶。
「でさー」
彼が考え込んでいると、いきなり場違いな少年の声が横から聞こえた。
「なんか、センチメンタルに浸っているところを悪いんやけど、おれらは、今からその宇宙獣とかのと戦っている青年を助けにいくねんよな?イズモって言ったっけ?どうやってそこまで行くんや?」
彼の、正面から見て右側の少年の顔がぶしつけに言った。
彼はじろりと少年の方を見て言う。
「先生は、表に出て見ればわかるって言ってたけど…?」
「あっ、せやったな。いやー、しかし、まさかおれらがこんな存在やったとはな。ビックリやわ。なんか、体に力も湧いてくるっちゅうか」
たしかにそれは彼も感じていた。といっても、彼らは一つの体なのだから当たり前なのだが。これは目覚めたというよりは、生まれ変わったという方が近い。
アシュラは崩れ落ちた門を出て、森の方に向かって歩いた。
彼が、「なに、あれ?」と言って立ち止まる。
月明かりに照らされた芝生の向こうの森から、無数の影が駈けてくるのが見えた。
「やべっ!宇宙獣か!?」
少年が叫んだ。
「いや、違う…」
ドタドタと足音を鳴らしながらやってきたのは、鹿の群れだった。
その中に、ひときわ大きく、白く輝く鹿が一頭いた。
「ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
白鹿が鳴いた。
すると、男の子が、
「イズモまで、連れて行ってくれるんだって」
と言った。
「おまえ、この鹿の言葉わかるんか?」
「うん」
「……」
アシュラが白鹿に跨ると、
「ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
とまた白鹿が鳴いた。
そして、白鹿は勢いよく地を蹴ると、飛び上がるようにして走りだした。
「うわぁ!」
アシュラは振り落とされないように、白鹿の首にしがみついた。
振り返ると、あっという間に、鹿の群れが見えなくなっていた。
白鹿は駈けた。山を越え、谷を抜け、もの凄いスピードで景色が流れた。
やがて深い森を抜け、夜空を舞うと、海岸線に出た。
アシュラは初めて海を見た。月明かりに照らされる水面は、幻想的だった。
「ぴいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
と白鹿が鳴いた。
「もうすぐ到着だって」
と男の子。
海の向こうに、不気味なシルエットの島が見えてきた。
「もしかして、あれがイズモか?」
少年が体を乗り出すようにして見て言った。
「そのようだね」
「でも、どうやって海を渡んねやろ」
と少年が言った矢先、白鹿が地面を蹴って跳躍した。
白鹿は、水面の上を、まるで飛び跳ねるようにぴょんぴょんと進んでいく。
島が近づくと、いよいよ景色は異様さを増し、雨が降り始めた。
稲光と雷鳴が轟き、照らし出された異形の存在をアシュラは見た。
「あれか!宇宙獣は!?」
少年が叫んだ。手と足が何十本もあるような異様なものが地面を這っている。
「気持ち悪っ!」
白鹿は宇宙獣から距離をあけて走り、やがて高台の上で止まった。
アシュラは白鹿から降りると、様子を伺った。
グネグネと首をくねらせながら歩く宇宙獣の向こう側に、人が倒れているのが見えた。きっとあの人が先生の言っていた青年であろう。
アシュラは、前屈姿勢になり、足に力を込めると、地面を蹴って全力疾走した。
音もなくアシュラは駆けると、宇宙獣を追い越し、青年の前に立った。
そして、陰陽のつるぎを構え、正面から物凄い勢いで迫る宇宙獣の顔を受け止めた。
ガキーーーーーン!
耳をつんざく音が鳴り響く。
宇宙獣の、赤い目が、ぎょろりとアシュラを睨んだ。
少年が振り返ると、今にも死にそうな顔をした青年が、こちらを見ていた。
そして、少年はその青年に向けて言った。
「ちょっと待っててや。今からこいつやっつけるから」




