第12話「古代船」
古代船の修理が始まった。
「この船がどうやって動くのか、そういったところは、本当に僕たちにはお手上げですが、これを海に浮かべ、動かせるように補強をします。ただ、見たこともないような素材がたくさん使われていて…。修理するための部品などは、この部屋のものを使ってもいいんでしょうか?」
ムサシがタケルに尋ねてきた。
「いいんじゃないのかな?」
とタケルは軽く答えた。
すると、いきなり船乗りたちが、部屋の壁をバキバキと剥がし始めたので、タケルが「あっ!」と言った時には遅かった。
マヨも後からその様子を見て、「ぎゃっ!」と言って固まったが、ムサシとタケルが事情を説明すると納得した。
「今は、古代船を動かせるようにするのが先決じゃて…、好きにせい」
古代船の修理が終わるまでの数日間、タケルはチグサから”つるぎの使い方”を学んだ。
とはいえ、チグサもオロチのつるぎのような長い刃は今までに見たことがないという。チグサたちが実戦で使うのも短刀だった。
ただ、ヤタ族には、長い刃を想定した作法や所作も伝わっていたという。
タケルとチグサは適当な木の枝から棒状のつるぎを作り、立ち合いを行い、その動きや姿勢を確認していった。
翌日から、ケンも指導してほしいと頼んできて、結局サルも加わった。
タケルたちの村には、相手を斬るという発想すらなかった。なぜ、人と人が斬り合わないといけないのか。大きな獣にでも襲われるというのならわからないこともないが…。
今まで、馴染みのない動きばっかりだったので、初めのうちは、タケルたちは相当情けない姿をさらした。しかし、タケルとケンは、徐々に様になった。
サルは、「おいらは向いてないっす」と言って、ついにあきらめた。
*
ついにムサシが古代船の修理が終わったとタケルたちに伝えにきた。
タケルたちが洞窟内に向かうと、古代船の前に船乗りたちが並び、どこか誇らしげな顔でこちらを見ていた。
「おぬしたち、よくやった!」
マヨが手をパチパチと叩き褒めた。
「ムサシたちのおかげだ。なにからなにまで」
タケルもムサシを労った。
「いえいえ、僕たちの力が役に立ってよかったです。ここまで来た甲斐があるというもんです。で、タケルさん。出航はいつにします?」
「そうだな。早ければ早い方が良いだろう。明日の朝にでも」
「わかりました。食料などの荷物を積みこんでおきましょう」
ムサシが船乗りたちに指示を飛ばした。
ケンが、「この船はここからどうやって海まで運ぶんだ?」と疑問を口にしたことで、一同が絶句した。
「そういえば、それを忘れていました。この部屋が…どこか海にでもつながっていれば」
ムサシとタケルたちは部屋を見渡したが、巨大な長方形の部屋に、どこも出入り口のような場所はなかった。
「ひょっ。ひょっ。ひょっ。おぬしたち、何今更そんなこと言っておるんじゃ。それはじゃな」
マヨがそう言いながら、壁に手を触れ、なにかを操作した。
突然、部屋にゴゴゴゴゴッ!と轟音が鳴り響き、船の正面の壁が上に上がっていった。
すると水が流れ込み、古代船が置かれた一段低い空間に水が溜まっていく。
「これで大丈夫じゃろ」
マヨは笑い、タケルたちは唖然とするしかなかった。
タケルとケン、サル、チグサは準備と確認のために古代船に乗り込み、チグサが中央の台座にみちびきを置いた。
「どうだ?チグサ、出航できそうか?」
タケルが訊くと、「行けそうだな」とチグサが黒い板を見てうなずいた。
「これで、いよいよイズモだ。…ついにその時がくるんだな」
タケルは感慨深く言った。ケンとサルも、どこか緊張した表情でうなずいている。
思えば、村を出てからこれほど順調に旅が出来てきたのも、チグサたちが言うように、何かにみちびかれているのかもしれない。
「イズモに向けて、出航っす!」
サルが冗談っぽく指をさして大きな声で言った。
すると、船内にガタン!と大きな音が鳴り響き、一瞬左右に揺れた。
「目的地をセットしました。イズモに向けて出発します」
あの女の声が部屋の中に鳴り響いた。
「えっ?なんすか!?」
「チグサ、なにが起こった!?」
タケルは叫んだ。しかし、チグサもわけがわらないといったようで、首をかしげるだけだった。
「あっ、船が動き出したぞ!」
ケンが叫ぶ。
「まさか!?」
タケルは窓際に向かった。
窓の外を見ると、案の定、突然動き出した古代船に驚き、追いかけてくるムサシたちの姿が見えた。
「チグサ!止めれないのか?」
チグサは、台座からみちびきを取り外そうとしていたが、外れないみたいで、チグサは「ダメだ」と首を振った。
船はそのまま洞窟に入った。かすかに流れる影を見ていると、かなりの速度が出ていることがわかった。
窓の外が急に明るくなる。海原が見えた。すでに浜辺が遠くに見えていた。
一気に古代船は海峡を抜けた。
タケルは、マヨやムサシたちに、きちんと別れができなかったことを悔やんだ。
しかし、これでよかったのかもしれないとも思った。
イズモへは、もともと自分たちだけで向かうつもりだった。
目的を果たせば、皆も許してくれるであろう。
彼らのためにもと、タケルは決意を新たにした。




