それでも選ぶ未来
光が、視界を覆った。
次の瞬間。
私は、別の場所に立っていた。
「……ここは」
風が吹く。
冷たい。
乾いた空気。
見渡す限りの、灰色。
瓦礫。
崩れた建物。
焼け焦げた大地。
──滅びた世界。
「これが」
背後から、ジョルジュの声。
「あなたの選択の結果です」
振り返る。
彼は、いつも通りの表情で立っていた。
感情のない、観測者の目。
「……嘘」
思わず呟く。
「これは、極端な例です」
淡々と続ける。
「ですが、確率的には最も近い未来」
否定できない。
この男は、嘘をつかない。
だからこそ。
残酷だ。
「……みんなは」
声が震える。
嫌な予感しかしない。
「確認しますか?」
ジョルジュが問う。
答えは、決まっている。
でも。
聞かなきゃいけない。
「……見せて」
その瞬間。
空間が歪む。
視界が切り替わる。
最初に見えたのは。
玉座の間。
静まり返った空気。
その中心に。
クリストフが立っていた。
だが。
「……違う」
何かが違う。
表情がない。
完全に。
感情が消えている。
「国家の維持を最優先とする」
機械のような声。
「不要な要素は排除する」
その視線が、向けられる。
民衆へ。
部下へ。
すべてへ。
「……これが」
「あなたを失った結果です」
ジョルジュが言う。
「彼は感情を切り捨て、完全な合理へと至った」
その結末は。
正しい王。
だが──
人ではない。
次の瞬間。
炎。
燃え盛る街。
その中心で。
「……はは」
アルベルトが笑っていた。
狂ったように。
「全部壊れちまえ」
剣を振るう。
何もかもを焼き尽くす。
「意味なんてねえ」
その瞳は、空虚だった。
「どうせ、もういないんだ」
誰も。
何も。
残っていない。
「彼は目的を喪失しました」
ジョルジュの声。
「結果、破壊衝動のみが残った」
さらに。
暗い部屋。
膝をつく影。
「……守れなかった」
ノエル。
その声は、壊れていた。
「また、失った」
何度も。
何度も。
繰り返すように。
「意味が、ない」
剣を握る手が、震えている。
もう立ち上がれない。
戦えない。
「彼は役割を失いました」
ジョルジュが言う。
「存在意義の崩壊です」
そして。
静かな場所。
何もない空間。
ただ、一つ。
剣だけが残っている。
「……ベルナール」
名前を呼ぶ。
返事はない。
「彼は既に、この未来に至る前に消失しています」
当然のように言う。
胸が、締め付けられる。
最後に。
本の山。
その中心で。
ジョルジュが、座っている。
ただ、記録を続けている。
「……あなたは」
「はい」
彼は顔を上げる。
「私は観測を継続します」
それだけ。
世界が滅びても。
彼は、続ける。
それが役割だから。
視界が戻る。
元の空間。
崩壊し続ける世界の中枢。
「……どうですか」
ジョルジュが問う。
「これが、あなたの選択の帰結です」
声が出ない。
胸が、苦しい。
こんなの。
見せられて。
それでも──
「……それでも」
顔を上げる。
震える足で、立つ。
「私は」
ジョルジュを見る。
「選ぶ」
彼の目が、わずかに細くなる。
「非合理です」
「いい」
はっきりと言う。
「だって」
拳を握る。
「それ、全部」
息を吸う。
「私がいない未来でしょ」
沈黙。
ほんの一瞬。
「……はい」
「なら」
一歩、踏み出す。
「違う」
強く言い切る。
「私がいるなら、変わる」
胸の奥が、熱くなる。
あの力。
選ぶ力。
「クリストフは、あんな風にならない」
断言する。
「アルベルトも、壊れない」
「ノエルも、諦めない」
一人ずつ。
名前を刻む。
「ベルナールも」
息が詰まる。
それでも。
「無駄になんてしない」
強く言う。
涙が滲む。
でも。
止まらない。
「私は」
前を向く。
「みんなと、生きる未来を選ぶ」
沈黙。
長い、長い沈黙。
そして。
「……理解不能です」
ジョルジュが、静かに言った。
だが。
その声は、わずかに──
揺れていた。
「ですが」
一歩、下がる。
「興味深い」
初めて。
ほんの少しだけ。
感情に近いものが滲む。
「その選択が、どこまで現実を書き換えるのか」
手を下ろす。
数式が消える。
「観測を継続します」
それは、敵対の解除。
完全ではないが。
少なくとも──
止めには来ない。
「……ありがとう」
小さく言う。
彼は何も答えない。
ただ、見ている。
そのとき。
『異常値上昇』
目が、大きく揺れる。
『構造維持不能』
世界が、悲鳴を上げる。
崩壊が、加速する。
「……来る」
ダニエルが低く言う。
「最終段階だ」
空間が裂ける。
すべてが、中心へと収束していく。
「……終わらせる」
呟く。
ここで。
全部。
「行くぞ」
クリストフが並ぶ。
「暴れるぞ」
アルベルトが笑う。
ノエルが、静かに剣を構える。
ダニエルが、目を細める。
そして。
私は。
前へ出る。
もう、迷わない。
「──全部、変える」
その言葉と共に。
世界の中心へ、踏み込んだ。
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